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    2020年、Ibanezの進化 〜EHBシリーズの起こす革命〜

    • Equipments Explanation:Gentaro Yamamoto
    • Photo:Takashi Hoshino

    日本が世界に誇るギター/ベース・ブランド、アイバニーズが、これまでに類を見ないまったく新しいヘッドレス・ベース、“EHB(Ergonomic Headless Bass)”シリーズをリリースした。ベース史を振り返ると、過去にいくつものブランドからヘッドレス・ベースは発売されてきたが、このEHBはこれまでのヘッドレス・ベースの固定概念を覆す、アイバニーズが独自の考え方で生み出した革新的なベースだ。そんなEHBシリーズの実力を元ZAZEN BOYSで現在は多数のアーティストのサポートを手がける、吉田一郎不可触世界とともに検証していきたい。

    アイバニーズEHBシリーズ×吉田一郎不可触世界

    What’s EHB?

    まず最初に、EHBとは一体何なのか、その実態を把握していきたい。
    唯一無二のデザインと独自のサウンドをあわせ持つこの楽器には、どのような想いが込められているのだろうか。

     アイバニーズが満を持して発表したEHBシリーズは、1980〜90年代を知る人には懐かしさを、若い世代には斬新さを訴えかけてくるかもしれない。そのどちらも正しく、また少し足りないというのがEHBシリーズの真髄だろう。

     最大の特徴であるヘッドレスというコンセプトをまず振り返れば、アイバニーズは1986年には、Axstarというシリーズを発表し、当時誕生した新たな方法論にいち早く挑んでいる。

     さらに、EHBシリーズのもうひとつのコンセプトである“人間工学”に基づいたデザインという点では、1992年にスイスの楽器製作家ロルフ・スプラーと共同開発したAffirmaシリーズを皮切りに、1997年のERGODYNEシリーズなどでその方向性を追求。加えて現在では標準ラインナップとして欠かせない多弦モデルも、ローB弦の伝道者としてその道を切り開いてきたアイバニーズらしく、1988年のSR5弦モデルをはじめ、1999年にはBTBでも5弦モデルを展開し、5弦ベースのレギュラー・モデル化を意欲的に努めてきた。

    Axstar

     また、EHBシリーズ全モデルに搭載されているプリアンプVari-mid 3バンドEQは1993年から、各弦独立機構を持ったMONORAILブリッジは1997年から改良を重ね続けてきた。それらの蓄積が結実したのが、このEHBシリーズというわけだ。

     そのうえで“既存デザインあるいはシェイプの単なるヘッドレス化でもありません”と謳うように、多弦の演奏性・ピッチなどの向上を目指したマルチ・スケールの導入(マルチ・スケール自体は、2014年からSRシリーズで34〜35.5インチという設定で採用されている)、ボディのチェンバー加工やピックアップ選定も含めた、パッシヴでも成立するサウンド・デザインなど、現在のニーズを踏まえたうえでのメーカーからの積極的な提案もニュー・モデルたる由縁だ。

     奏法や音色の多様化をスポイルしない、弦選択の自由を担保するヘッド&ブリッジの独自機構なども、前述したプリアンプやブリッジと同様、パーツも自社開発するアイバニーズの強みだろう。懐かしくも新しい、未体験のインスピレーションを持ったシリーズだ。

    SRMS805

    Maker’s Voice

    EHBが生まれた経緯、そのコンセプトについて、星野楽器株式会社の中村真央氏に聞いた。

    最高のヘッドレス・ベース、
    究極のエルゴノミック・ベース
    を作りたい

    中村真央
    (星野楽器株式会社 Ibanez DIVISIONマーチャンダイジング第一部 ベース・プロダクト主任)

    ──EHBの開発にはどれくらいの期間を要したのですか?

     最初に企画が持ち上がったのは2016年10月頃でした。一番時間を費やしたのは、オリジナルのブリッジとヘッド・ピースで、開発に2年を要しました。これまでとはまったく考え方の異なる製品ということもあり、ヘッド・ピースだけで10種類以上を試作しました。

    ──EHBはアイバニーズのベース・ラインナップのなかでどういった位置付けになるのでしょうか?

     もともとは2014年に開始した“Ibanez Bass Workshop“で得たノウハウや知識の集大成的な立ち位置として考えていましたが、開発過程でのスタッフの熱量、そして結果的に高い完成度を実現できたということで、その枠にとどまらない、SRやBTBといった弊社を代表するモデルと肩を並べる位置付けにしようという考えになりました。

    ──特殊なボディ形状は、製品名にもある“Ergonomic(人間工学)”を考慮した結果なのでしょうか?

     確かにトラディショナルなJB/PBタイプのユーザーから見ると珍しい形状のように思われるかもしれませんが、実は部分ごとにBTBやSRの要素を取り入れていたり、あくまで我々にとっては普通のベースという認識です。そのなかでカッタウェイやコンター、チェンバー加工など、エルゴノミックと言われる要素をふんだんに入れています。我々が実現したい形状とプレイアビリティを融合させた結果、こういったスタイルとなりました。

    ──全モデルを、まだまだマイナーと言えるヘッドレス仕様とした狙いとは?

     これまで世界各国のメーカーからさまざまなヘッドレス・ベースが発売されてきましたが、その製品に敬意も表しながらも“我々の考える最高のヘッドレス・ベース、そして究極のエルゴノミック・ベースを作りたい“という考えのもと開発に乗り出しました。ヘッドレス特有の“ヘッド落ちしない、チューニングしやすい”点もエルゴノミックな要素だと考えています。

    ──“マルチ・スケール”も特徴のひとつですが、あえてパラレル・スケールとの2モデル展開とした狙いとは?

     マルチ・スケールもエルゴノミックな要素であると思っていますし、低音弦のテンションを確保するためにも5弦をマルチ・スケールにすることは最優先な考えでした。とはいえ、オーソドックスなプレイを好む方のためにパラレル・スケールもラインナップしました。一般的なマルチ・スケールだと34〜37インチ・スケールが一般的ですが、BTBシリーズで採用している35インチと、先述した“Ibanez Bass Workshop“のBTB845VとBTB846Vで採用している33インチを融合させ、EHBは33〜35インチとしました。

    ──EHBシリーズには1000番台と1500番台があり、それぞれ木材やピックアップなど明確に分けられています。具体的にはどのような差別化を狙いましたか?

     サウンドの差別化という要素が一番大きいですが、1000番台はハムバッキング・ピックアップにローステッド・メイプルの指板、カラーもソリッドということで、よりモダンな見た目、サウンドを追求しました。1500番台はシングルコイル・ピックアップでどちらかというとヴィンテージ・ライクなキャラクターなので、より幅広い人に使ってもらいたいという考えを含んでいます。

    ──驚くべきはこの価格帯です。相当な企業努力があったのでは?

     単刀直入に、より多くのプレイヤーに使っていただきたいということで、めちゃめちゃ頑張りました(笑)。確かに開発に時間を要したことで、多大な開発コストはかかっていますが、“自分たちが満足できて、プレイヤーの皆さんに楽しんでもらうこと”が第一だと考えていますので、限界まで価格を下げています。弊社の強みである“全世界に販売網がある”ということも価格を下げられる要因だと思います。

    ──EHBをどういったベーシストに使ってもらいたいですか?

     仕様やエルゴノミックな要素から、テクニカルなプレイヤーのみに向けたものという印象を持たれるかもしれません。もちろんそういった方には喜んでいただける前提なのですが、ほかにはないまったく新しい生き物として、ぜひともJB/PBタイプをご使用の方々にも手に取っていただきたいです。

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