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日米の気鋭ジャズ・ベーシストが愛する次世代ベース・ブランド ー Collectera & Nishgaki Guitars

対談
西垣祐希(Nishgaki Guitars代表)× 宮地遼

“ルシアーとプレイヤー”として長年にわたる信頼関係を築き、満を辞してCollecteraの始動に踏み切った両者。Collecteraの立ち上げに至った背景のほか、ブランドのコンセプト、そして製品に込められた思いを聞いた。

“ベースとしてこういう道具だと嬉しい”というポイントを頭に叩き込みました。(西垣祐希)

━━おふたりの出会い、そしてCollecteraの発足経緯から教えてもらえますか?

西垣 もとを辿ると、Nishgaki Guitarsでも“TEMPESTA”というベース・モデルを製作していて、これは“チェロとギターの中間のようなベースを作りたい”というイメージから始まったもので、いろいろなベーシストの意見を聞きながら構想したものなんです。でも個人的に、Nishgaki Guitarsではベース然としたベースはあまり求められていないような気もしていて。そのなかで僕自身がベースという楽器を知るにつれ、さらに新しいベースをデザインしたいと思うようになり、そのなかで知り合ったのが宮地だったんです。

宮地 Nishgaki Guitarsのことはギタリストの井上銘君が使っていたこともあって知っていました。そのなかでNishgaki Guitars主催のイベントにサポート・ベーシストとして呼んでもらったことで西垣と知り合いました。そのとき地元の話とかで盛り上がって意気投合したことで、1本ベースを作ってもらうことになったんです。それが僕仕様の青いTEMPESTAです(P97にて紹介)。

━━宮地さんは、西垣さんの楽器に対し、どんな印象を抱いていたんですか?

宮地 的確にすべての弦が鳴るし、プレイアビリティの高い楽器という印象でした。最初から弾きやすすぎて、“ここまでじゃなくてもいいかも”って話をしたくらいです(笑)。

西垣 そんな話もしたね。宮地といろいろな話をするなか、Collecteraのベース・モデル“S1”の原型となるアイディアについて意見交換をするようになりました。結果、Nishgaki Guitarsとは切り離し、チーム・ビルドとしてのブランドを一緒に作ろうという考えのもとで始動したのがCollecteraになります。

━━Collecteraのコンセプトとは? そしてどんな楽器を製作しようと考えていたのですか?

宮地 Collecteraを始動するうえで僕が考えていたことは、プレイヤーが求めているものを具現化すること、そしてできないことを実現化すること。このふたつをコンセプトに掲げました。

西垣 Nishgaki Guitarsではもともとアーチド・トップの箱物ギターを作っていたので、まずは自分の得意分野のモデルを作っていこうと思っていました。実際TEMPESTAもソリッドではなく、チェロやコントラバスのような箱物のベースでしたから。でも宮地と一緒にCollecteraとしてベースを製作しようとなったとき、“これは感覚をちゃんと変えないとダメだな”ということに気がつきまして。

━━その感覚を具体的に言うと?

西垣 例えばギターとベースでは“オイシイ”と言われるローの成分が大きく異なるので、ギターを作る感覚で木材を削ると、ベースでは“望ましくない音”になってしまうこともあるんです。寸法を出せば楽器は作れるけど、それがいい楽器かどうかは違いますよね。だから“ベースとしてこういう道具だと嬉しい”という、いわゆるベーシストのポイントを頭に叩き込みました。

宮地 そこは長い時間をかけて話し合ったよね。西垣の工房へいろいろなベースを持っていって、それぞれの楽器の良いところとか、もっとこうなったらいいとか、そんな意見を共有し合いました。僕が西垣に伝えたことは、“ベースとしての部分を逸脱しすぎない”こと。やっぱりこの考え方がないと楽器としての機能が果たせないので。

西垣 宮地の言う“ベースとしての部分”というのはすごく大事なことで、それがないと演奏性やプレイアビリティを含めたインスピレーションをプレイヤーに与えられなくなってしまう。その感覚を自分で理解し、本当の意味で宮地と意思疎通ができるようになるまでには時間がかかりました。僕は設計図を書かずに感覚で楽器を作るので、こういうイメージを明確に持つことが大切なんです。

トラディショナルなベースをずっと弾いてきた人にこそ弾いてほしいと思います。(宮地遼)

━━Collecteraの第一弾モデル“S1”はショート・スケールのベースですね。

宮地 僕はショート・スケール特有の、弦の緩さから生まれる広がりのある低音感が好きで、この音をもっと追求したいと思っていました。でもその反面、デメリットとしてアタック感がモノ足りないことと、得意なシチュエーション以外に対応できない幅の狭さがある。だからそれを払拭できるような、“弾き手のニュアンスをしっかりと拾えてオールジャンルで使えるショート・スケール”という無理難題を西垣にお願いしました。

西垣 その難題は僕にとってはやりようがあると感じていました。なぜなら僕はもともとベースよりも短いスケールのギターをメインに作っていたので、ショート・スケールのほうが親和性があったから。そしてショート・スケールであれば、ギターとベースの中間にある、歌うような気持ちいい色の帯域を表現できると思いましたね。

宮地 だからそういう面だと西垣の強みを発揮できるスケールでもあったんですよ。

西垣 ギターでもベースでも、単純に弦のテンションが緩いと弾きやすいですし、長く弾いていても疲れないというのは、楽器の道具的な側面としても優れていますよね。

宮地 ただ、僕も西垣もわりと体型が大きいほうなので、ボディも小さいショート・スケールだと楽器を構えたときの座りが悪いという問題もあって……。

西垣 そう。だからフル・サイズのボディでショート・スケールのベースなら、それを解決できるしおもしろいかもなと思ったんです。それでいてロング・スケールのベース弦が張れたら違和感なく構えられるし、弦の選択肢も増える。実現は難しいものになるだろうと思いましたけど、始めたばかりのブランドだし、一番難しそうなことにチャレンジして、時間をかけながら自分たちの個性を提唱したいと思いました。“30.6インチで777ミリ・スケール”で語呂もいいぞと(笑)。

━━楽器製作においては、ルシアーとプレイヤー間で重要視する部分に異なるものも多くあると思います。そこの兼ね合いはどう考えましたか?

西垣 そういう意味でも、僕たちはいわゆるルシアーとプレイヤーという関係ではなく、根本部分から互いにダメ出しを言い合いながら“やり合って”います。だからこそ追い込んだ楽器を作り上げることができたし、それがCollecteraをやる意義だと思っています。

宮地 やっぱり僕がプレイヤーとしてこだわるのは、演奏時のフィーリングの部分。例えばハイ・ポジションのカッタウェイとか、“こういう手の入り方になるから、ネックのこの部分はこれくらいの薄さがいい”とかいろいろ意見が生まれる。でもルシアーからすると、そういう加工をするのは大変なんだって話になる。僕からすれば、“弾きやすくていい音がする楽器を作っているのに、ここを妥協するのは嫌だとか……”って感覚なんですよ(笑)。他社の楽器なら、ちょっと弾きづらくても音が良ければ買っちゃいますけど、自分のブランドとして作っている以上、そういう思いをプレイヤーに持たせたくないんです。

西垣 今の話でいうと、ネックやボディのシェイプを調整することは技術的には可能です。でも楽器全体で見たとき、こういうローの成分が足りなくなるから、あまりそこを攻めないほうがいいという意見が自分にはあった。でも宮地はもっと削りたいという。“じゃあほかの部分を違う形状にしたらこれくらいのローが持たせられるよ?”という風に、いろいろなことを実証しながら、お互いの意見や要望というか……まぁ、ほとんど文句を言い合うようにやっています(笑)。

宮地 でもルシアーとしてこだわりたい部分というのは、僕にとって発見でした。例えばボディ・トップの形状とか角度にもすべて意味があって、それは見た目だけじゃなくそれぞれが音に影響しているってこととか。どうしてもプレイヤーは楽器を道具として見がちですから。

西垣 僕が何より大事にしていることは、プレイヤーに嘘をつかない楽器であること。そしてプレイヤーの表現に僕の楽器の個性を少し上乗せして、音として飛び出してきてほしいんです。見た目がカッコいい楽器には良い音を出してほしいし、見た目が良ければ、もっと長い時間楽器を持ちたくなる。そして愛着が生まれたら明日も弾きたくなる。楽器って10年、20年っていう長い年月で見て触るものだと思うから、その期間ずっといい喜びを与えられるものにしたい。そうやって考えると、製作側としては見た目の美しさを大切にしたいし、僕の目線で良いと思うポイントをたくさん入れておきたいんです。

━━Collecteraをどんなプレイヤーに弾いてもらいたいと思いますか?

宮地 いわゆるトラディショナルなベースをずっと弾いてきた人って、意外とこういうタイプのモデルに手が伸びないと思うんです。でも僕はそういう人たちにこそ弾いてほしいなと思っています。演奏タッチの引き出し方などを含めて、これまでとは違った角度で製作したショート・スケールのベースなので、ベーシストにとって新しい選択肢になると思っています。

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