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日米の気鋭ジャズ・ベーシストが愛する次世代ベース・ブランド ー Collectera & Nishgaki Guitars

若き鬼才ルシアー西垣祐希氏が牽引する、ジャズ・シーン注目の楽器ブランドNishgaki Guitars。そして同社を代表するベーシストであり、類稀なる演奏技術と優れた感性を駆使し、ジャズ・ベースの新たな可能性を切り拓く宮地遼。この両者のタッグによって誕生した新進気鋭の国産ギター/ベース・ブランドが“Collectera”だ。“固定概念の脱却”とも言える、斬新な概念/手法で生み出されるその逸品たちは、近い将来、国産ハイエンド・ブランドの雄としてシーンを席巻するだろう。今回は未だ謎のベールに包まれているCollecteraの実態、そしてラインナップする各モデルの実力を、本誌読者にはまだ馴染みが薄いであろうNishgaki Guitarsの注目モデルとともに検証していく。

Introducing the Collectera with Evan Marien – Ryo Miyachi

Collectera/Nishgaki Guitarsとは?

まずはCollecteraならびにNishgaki Guitarsの概要を解説していく。

日本の伝統技術を踏襲した気鋭ブランド“Nishgaki Guitars”

 Nishgaki Guitarsは弦楽器製作師の西垣祐希が手がけるギター/ベース・ブランドだ。兵庫県三木市に生まれた西垣は大工の祖父を持ち、幼少期より祖父をはじめさまざまな職人の伝統的な木工技術に触れていた。少年時代よりギターを弾くようになり、14歳の頃に楽器製作を開始したという。幼い頃から習っていた大工の技術を生かしたギターを製作しようと考えたそうだ。西垣の少年時代はすでにインターネットも普及しており、ギター製作者のブログなどを参考に楽器製作に必要なパーツを揃えたり、オークションサイトでジャンク品の楽器を購入しては分解し、組み直したりすることで楽器製作のノウハウを独学で学んだ。そのなかで幼少期からの自身の背景を生かし、ヒノキなどの和材に加え、漆や藍染めといった日本の伝統的な染色技法などを用いて、オール・ハンドメイドの楽器製作を志す。Nishgaki Guitarsの始動は2012年、ギタリストの小沼ようすけのために製作したモデル“Cirrus”だった。小沼のためにデザインされた本モデルは、カーブド・トップのセミホロウ・ボディ・タイプ。本器を小沼に渡し、楽器へのアドバイスをもらいながら完成度を高めていったという。

 “独学だと良くも悪くも制限がないのですが、何か正しいのかを教えてもらえることもなくて。そういうなかでいい道具を作るためには、いい道具を知っている人と出会うことが必要で、僕はそれをプレイヤーから学んでいきました”と西垣は語る。精巧な木工加工の技術とプレイヤー目線を取り入れ、優れたプレイアビリティを持ったNishgaki Guitarsのギターは、小沼ようすけや井上銘をはじめとした国内のジャズ・ギタリストのみならず、菰口雄矢やWANDSの柴崎浩など、ロック系プレイヤーの間でも評判を集め、気鋭のギター・ブランドとして注目されている。

生産拠点となる工房からの景色。兵庫県神戸市と言えば美しい港と賑やかな繁華街というイメージが先行するが、同社の楽器は豊かな自然に囲まれた穏やかな環境のなかで生産されている。
基本的に一般顧客への公開はされていない工房内の様子。写真は2階建ての工房内1階の様子で、大型の木工器具のほか、セットアップを行なうデスクが並んでいる。
Collectera“S1シリーズ”のボディ(右)と、木工/フレットの打ち込みが終わったばかりのネック(左)。美しい木目が浮き出た指板のエボニーが印象的だ。

ベーシスト宮地遼との共同ブランド“Collectera”が始動

 プレイヤーとともに楽器を作り上げていくスタイルはそのままCollecteraにも受け継がれている。Collecteraは西垣とプロ・べーシストの宮地遼が共同代表として立ち上げた新楽器ブランド。宮地のプレイヤーとしての視点、そして西垣が持つ日本の伝統技法を取り入れた楽器製作技術をかけ合わせ、これまでにない楽器を製作することをコンセプトとしている。Collecteraは、“Collective(集合体)”と“Era(時代)”という言葉を組み合わせたもので、今という時代に音楽に携わる人たちの集合体を表わす。楽器製作だけでなく、Collecteraの楽器を用いて制作された楽曲リリースやブランド・イベントの開催など、プレイヤーとルシアー視点ならではの複合的な活動も彼らならではの特徴である。

西垣祐希(にしがき・ゆうき)●1992年生まれ、兵庫県三木市出身。幼少期より祖父のもとで木工の技術を学び、2006年より弦楽器の製作を開始する。その後地元の技術者たちから伝統的な手法やさらなる木工技術を学びながら本格的な楽器製作に着手し、2012年にStyle-N Nishgaki Guitars(現Nishgaki Guitars)を設立。現在では若き天才ルシアーとも称えられ、高いクオリティを誇る楽器は、小沼ようすけや菰口雄矢をはじめとした多くのアーティストから支持を集めている。
宮地遼(みやち・りょう)●1994年生まれ、岡山県倉敷市出身。高校生のときにベースを始め、2012年に甲陽音楽学院に入学。2014年にNYへと移り、音楽学校ザ・コレクティヴで多くのトップ・ベーシストに師事。ニア・フェルダー(g)をはじめとした世界的アーティストと共演を果たした。これまでに『November』(2017年)、『now it is』(2021年)という2枚のリーダー作を発表している。2018年からは拠点を東京に移し、ジャズ・シーンを中心に多方面で活動を展開している。

Lineup Model【Collectera】

Collecteraのベース・ラインナップより、独創性が全面に溢れ出た2モデルをピックアップした。

S1-SH

独自の概念を実感できる新時代のホロウ・モデル

Front
Back

【Sepcifications】●ボディ:スプルース(トップ)、マホガニー(バック)●ネック:ハード・メイプル+フレイム・メイプル(3P)●指板:エボニー●スケール:30.6インチ●フレット数:24●ピックアップ:オリジナル・ジグネイチャーSC(スプリット・コイル)×2●プリアンプ:オリジナルESモジュール(18V)●コントロール:ヴォリューム、バランサー、トーン、ハイ、ミッド/ロー(2軸2連)、アクティヴ/パッシヴ切り替えスイッチ、3ウェイ・ミッド・フリケンシー・スイッチ●ペグ:ゴトー製GB707●ブリッジ:オリジナル・シグネイチャー・ブリッジ●テイルピース:オリジナル・モダン・スタイル●カラー:アンティーク・ブラウン●価格:850,000円

 ショート・スケールならではのプレイアビリティ、そして温かみあるサウンドを持ちながらも、レギュラー・スケールの楽器が持つオールラウンドなキャラクターを持たせるという、斬新なコンセプトを持った革新的モデル。ペグやフレットを除いてハード・パーツもオリジナル仕様、木材加工などは西垣をはじめとする少数精鋭のチームビルドにて仕上げている。本器はNishgaki Guitarsが得意とするカーブド・トップでセミホロウ構造の1本。スケールは30.6インチだが、レギュラー・スケールから持ち替えた際にも違和感のないよう、ボディはフル・サイズでブリッジ位置もレギュラー・スケールの楽器と同位置に配置している。またブリッジの駒とテールピース間に距離を持たせ、ロング・スケールの弦を張ることができるのも特徴だ。

ボディは、サウンド・ホールを配したセミホロウ構造。軽量化に貢献するほか、アコースティック楽器のような温かみあるサウンドを出力する。
ゴトー製のペグが2:3のレイアウトで配置されたヘッド・ストックには、大きくオリジナル・ロゴが記されている。
宮地も特にお気に入りだと語るネックのヴォリュート部分。ロー・フレット部での演奏性のほか、ネックの強度向上にも関与する。

◎Comment

【宮地】ショート・スケールならではの弾きやすさと低音のふくよかさが感じられ、それでいてサステインも充分にあります。ホロウ・ボディなので生音もしっかりと鳴りますね。アンプで鳴らすとテンションが緩いのにも関わらず、すごく音が飛んでくるんです。あとローB弦の鳴りがクリアで、まるでフル・サイズのベースのようなキャラクターがあります。この楽器はそれでいてほどよいスペースを感じるサウンドなので、歌うようなフレーズを弾きたくなります。

【西垣】セミホロウ構造はもともと自分の得意分野。空洞で鳴る楽器なので、どうやって鳴らすかをボディの木材や厚みで作っていくほうが僕としては狙った音を出しやすいですね。ショート・スケールの緩いテンション感に加え、楽器の演奏性の部分は、対談でも語ったように宮地とともに改良を重ねながら製作しています。ジョイント部分のボディやネックのカッティングはプレイアビリティとネックの鳴りを考慮してこの形状に設定しました。ネックの角度やヴォリュートなど、細かい部分まで演奏性を重視した設計になっています。

・    ・    ・

S1-CS

新開発のエレクトロニクスで多彩な音作りを実現

Front
Back

【Sepcifications】●ボディ:ケヤキ(トップ)、マホガニー(バック)●ネック:ハード・メイプル+フレイム・メイプル(3P)●指板:エボニー●スケール:30.6インチ●フレット数:24●ピックアップ:オリジナル・ジグネイチャーSC(スプリット・コイル)×2●プリアンプ:オリジナルESモジュール(18V)●コントロール:ヴォリューム、バランサー、トーン、ハイ、ミッド/ロー(2軸2連)、アクティヴ/パッシヴ切り替えスイッチ、3ウェイ・ミッド・フリケンシー・スイッチ●ペグ:ゴトー製GB707●ブリッジ:オリジナル・シグネイチャー・ブリッジ●テイルピース:オリジナル・モダン・スタイル●カラー:ナチュラル●価格:800,000円

 S1-SHのソリッド・ボディ版。本器も同じくショート・スケールのモデルで、美しいカーブド・トップが印象的だ。木材の構成もS1-SHと同じく、一枚の木材から採ったマホガニーをボディ・バックに使用。ソリッド仕様はボディ構造が異なるため、こちらはボディ・トップに国産材であるケヤキが採用されている。S1-SHも同様だが、レギュラー・スケールのベースのような音の張りと明瞭なアタック感を得るために、本シリーズのために開発されたオリジナルのピックアップを搭載している点が特徴だ。加えて3バンドEQを内蔵したプリアンプは、ミドルに3つの周波数帯域を切り替えられるミニ・スイッチを装備。400Hz/800Hz/2kHzから選択できることで、シチュエーションを問わない幅広いサウンドメイクを可能とする。

Collecteraにおける最大の特徴とも言える、新開発されたオリジナルのテイルピース兼用ブリッジ。チェロを彷彿させる固有の甘いトーンを演出する。
コントロールは3バンドEQのほか、ミッドの周波数切り替えといった豊富な機能を有する。
ジョイント部分は4点留めのボルトオン構造。手が入る形に合わせなめらかにシェイピングされており、高音域での演奏性も抜群だ。

◎Comment

【宮地】S1-SHにも同じことが言えますが、楽器を構えたときの右手の感じや身体へのボディの収まり感は、34インチ・スケールのベースとまったく遜色ありません。サウンドはこちらのほうはパーカッシブなニュアンスが強く、エアー感というよりもコンプレッション感がありますね。あとオリジナルのプリアンプでミドルの帯域を調整できるのですが、ピッキング・タッチの“カチッ”ていう部分のアタック感をここでコントロールできるのも使いやすいポイントです。

【西垣】楽器の構造から出てくるサウンドをより自分たちの方向性に合わせていくために、ブリッジやピックアップなど、パーツから自分たちでデザイン/開発しています。ブリッジとテイルピースの角度を緩くしているのですが、これによってローB弦を綺麗に揺らすことができるので、各弦をスムーズにつなげることが可能となります。ピックアップはレイズの阿部(康之)さんとともにスプリットコイル・タイプの専用モデルを開発し、ショート・スケールでありながらも、それを感じさせない明瞭なサウンド感を演出できるモデルです。

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