GEAR
交換パーツの定番!
“リプレイスメント・ピックアップ”のイチオシ3ブランドを紹介
現在発売中のベース・マガジン2023年5月号【SPRING】では、機材企画として『保存版! 最強のメンテ&改造メソッド』を全58ページで展開中。特集内では、メインテナンスと改造の実演のほか、プロ・ベーシストの実情調査、リプレイスメント・パーツ類の選定ポイントの解説などをとおして、エレキ・ベースにおけるメインテナンスの重要性と改造の魅力を総力特集している。
数あるリプレイスメント・パーツ類のなかでも、代表的かつ、サウンドに特に大きな影響を与えるものが“ピックアップ”であり、各ブランドからこだわりに溢れたモデルが多数リリースされているため、どのモデルに交換すべきか悩みを抱えるプレイヤーも多くいるのではないだろうか。
そこで今回は、リプレイスメント・ピックアップ・ブランドを国内より3ブランド紹介! 各社の製品ラインナップを確認していくとともに、代表者へのインタビューをとおしてサウンドの秘密を紐解いていく。
*この記事はベース・マガジン2023年5月号から転載したものです。
国産リプレイスメント・ピックアップ・ブランド3選
・EVERTONE PICKUP
・SAGO NEW MATERIAL GUITARS
・SONIC
①EVERTONE PICKUP
圧倒的な理論が導き出した、理想のエンヴェロープ・カーブ
EVERTONE PICKUPは、サウンド・エンジニアとして多くのトップ・アーティスト手がけるMORGの門垣良則氏を中心に、滋賀県彦根市の楽器店Tied Musicの代表であり、メジャー・バンドのギター・テックを務める藤岡正樹氏、同じく滋賀県のベース・ブランドWood Custom Guitarの上田和希氏、奈良県のギター/ベース工房Euphorealの藤野州豊氏、長野県塩尻市のギター/ベース・ブランドKino Factoryの木下勇氏による5名で創設された、まったく新しい考えを持った新進気鋭のピックアップ・ブランドだ。発端のきっかけとしては、“ヴィンテージ楽器の弱点をクリアしつつ、ヴィンテージのサウンド・フィールを持った現代的な楽器を作る”をコンセプトとした“EVERTONE PROJECT”があり、その一環として、オリジナル楽器に搭載するピックアップを開発するピックアップ・セクションが独立する形として始動した。
ピックアップのシリーズ・ラインとしては、倍音構成を科学的に分解し、人間が心地よいと思う要素、グルーヴを感じる要素を物理法則に則ってデザインしたスタンダード・モデル“NEWTONE”シリーズと、独自基準で選別したアルニコ・マグネットを使用し、現代的かつレジェンド級の名機に感じるような高速なレスポンスと挑戦的なフィーリングを、物理現象として分解・再構築し科学的にデザインしたプロ・モデル“NEWTONE Class S”シリーズがラインナップ。それぞれJBタイプ/PBタイプという製品構成となっている。
まず同社のピックアップは“一定の音色”を目指したモデルではないことをお伝えする。エンジニア目線での徹底したヴィンテージ楽器の分析、理論で導き出された物理学によってピックアップにおける最適なエンヴェロープ・カーブを独自に割り出し、そのデータを基に最適なパーツ類を組み合わせている。これに関し門垣氏は、“ヴィンテージ楽器の各パーツの要素を分析し、楽器の構造として何が起きているのかを物理で解析した”と語っている。
どんな楽器でも理想のエンヴェロープ・カーブを生み出すことにフォーカスしたサウンドは、ライヴのほか、特にレコーディングの現場で効力を発揮。次世代を牽引するエンジニア/ビルダー集団が作り上げた極上のサウンドはすでに多くのトップ・プレイヤーの耳にとまり、着実に支持を獲得している。
イチオシモデル!
EVERTONE PICKUPのベース用ラインナップを紹介!
マグネットは“NEWTONE”がアルニコ5、“Class-S”ではオリジナルを使用。
その他のスペックや各モデルのコンセプトは非公開。
【NEWTONE series】
現場で求められる“ヴィンテージ・サウンド”を確実に出力する普遍的なスタンダード・ライン
【NEWTONE Class-S series】
アルニコ5を基にしたオリジナル・マグネットを使用し、楽器本来の挙動を表現するプロ・シリーズ
メーカー・インタビュー
門垣良則(EVERTONE PROJECT代表)
まず弦の挙動や倍音成分を物理的に見直すことが大切。
━━EVERTONE PROJECTの考えるピックアップの設計思想を教えてもらえますか?
レコーディングの現場だと欲しい音に合わせて適切なレコーディング機器を使うじゃないですか? 僕らがやっていることは楽器本来の音を抽出するためのプロセシングであり、正しい弦の挙動をピックアップで取り出すこと。だから巻き数とかそういう考え方も大切だけど、まず弦の挙動や倍音成分を物理的に見直すことが大切だと考えています。
━━“NEWTONE”と“NEWTONE Class S”の違いとは?
“NEWTONE”はレコーディング・エンジニアが現場で求める普遍的なSTやJBの音を確実に出力します。いわゆる旧来の音であり、周波数やダイナミクスの挙動はヴィンテージを強く意識しています。Class Sのイメージはエキスパンダーを使ったようなサウンドで、ハードウェアとしての限界性能と守備範囲が違います。例えばどんなにピッキングを速くしても、ハードウェアが適してないとその挙動を表現できない。でもClass Sは高校生でも一部のプロにしかできないピッキングのニュアンスの表現が可能です。
━━各社よりプロジェクト・メンバーが参加することのメリットをどう考えますか?
まず楽器の各パーツ類を物理的に研究していくなかで、ブリッジやヘッド側のテンションのかかり方での音の違いなど、ありとあらゆる部分を調べて弦の挙動を徹底的に検証しました。弦の鳴りで起きている部分とピックアップで起きている部分を切り離して考えていったんです。そのなかで上田さんや木下さんのような楽器構造に詳しい人たちの意見を取り入れることができたのは大きかったです。
━━EVERTONEピックアップにおけるベースへの利点をどう考えますか?
5弦ベースだと、弾いてから弦が鳴るまでの速さが5弦と1弦でまるで違う。Class Sはこれを電気的に補正すること、正しい挙動を拾うことを目的にしています。スラップ時、低音域でいいグルーヴを出している人が高音域になった途端ハシりがちになったりする。これは高い音ほどエンヴェロープの立ち上がりが速くなるから。それに対しアタック時のエンヴェロープ・カーブのシェイプをデザインすることで正しい弦の挙動を取り出すことができました。4分音符で刻んでもグルーヴしやすい、アタックが絶対に潰れないサウンドを出力できると思います。
製品に関するお問い合わせは、EVERTONE PROJECT(✉️info@evertone.jp)まで。
◎https://www.evertone.jp/
②SAGO NEW MATERIAL GUITARS
あくなき挑戦の末にたどり着いた唯一無二の個性
兵庫県尼崎市から高品位なオリジナル・ギター/ベースを世に送り出すSago New Material Guitars。国内ブランド初のサーモウッドの採用やラップ塗装など、斬新なアイディアをいくつも生み出してきた同社が製作するピックアップは、同じくオリジナリティに溢れた独自の考えで製作されている。
Sagoがオリジナル・ピックアップの製造を開始したのは10年ほど前から。フルオーダーでの楽器製作をメインに展開するなかで、ピックアップの細かい仕様など、できる限り顧客の要望に答えるために自社生産に踏み切った。製品化までに2年ほどの実験期間を費やし、JBタイプとPBタイプからリリース。今回紹介するモデルでは、オリジナル・ベースClassic Style-Pに標準搭載しているPBタイプの“Raveed”、Classic Style-JやOveに標準採用しているJBタイプの“Pascumillerd”が該当する。
今回紹介するその他のライナップを見ても、ポールピースのスラントを高音〜低音で変化させる“EP5”や、“JMベース”をコンセプトとした“JMBS”など、他社には見られない独自性の高い多種多様なモデルが揃うが、これらは実験という名の企業努力のたわもの。代表の高山氏を筆頭に、従業員から出てきたアイディアをまずは実験し、製品化の可能性があるモデルをプレイヤー目線で発展させる。実験の結果ボツになったモデルも多数あるとのことだが、すべては顧客の選択肢を広げるための努力であり、“選択肢が広ければ広いほどプレイヤーのイマジネーションが湧くでしょ? あくまでもウチはフルオーダー。ひとりでもハマればそれでいいんです” と高山氏は語る。
また田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)をはじめとした、多くのトップ・プレイヤーの愛器としても知られる同社のベース。アーティスト・モデルに搭載しているものと同仕様のオリジナル・ピックアップをリプレイスメント・パーツとして販売しているのも特徴のひとつと言える。
常識にとらわれない独自の発想とあくなき挑戦/実験が生み出したオリジナリティ溢れるピックアップは、多様なプレイヤーの理想を実現させるはず。ひと味違ったサウンドを求めるプレイヤーは、ぜひ一度そのサウンドを体感してみてほしい。
イチオシモデル!
Sagoのリプレイスメント・ピックアップより、オリジナリティ豊かな6モデルを紹介!
マグネットは全モデルにてアルニコ5を使用。
メーカー・インタビュー
高山賢(Sago New Material Guitars代表)
新しい音楽が生まれるかもしれないってロマンを追いかけ続ける。
━━独自性の高いモデルに目を引かれますが、まず王道のJB/PBタイプにおけるこだわりから教えてください。
容姿的には一般的なJB/PBタイプだけど、ヴィンテージに寄せていこうって気持ちはなくて。というか同じ音を狙ってもしょうがないですから。ウチのモデルはどちらかというとモダンなタイプ。最近だったらライン録音とか宅録にも対応する、ノイズを極力少なくしたレンジ感が整ったサウンドをコンセプトにしています。
━━独自性のある斬新なモデルを多数リリースしていくことにはどのような意図が?
もちろんいろいろなモデルを出すことは効率も悪し、儲からない。でもこんなメーカーが一社くらいあってもいいんじゃないかなって。実験して失敗してフルオーダーやって結果儲からない、みたいな(笑)。でも新しい音楽が生まれるかもしれないってロマンを追いかけ続けるメーカーでありたいんです。だから“こんな感じのものができたらいいな”っていうのを実験的に試して、自分たちのなかで満足したものをお客さんに提案しています。お客さんから“こういう感じの音にしたい”って要望をもらったときには、今までの経験則から素材を選んでいます。
━━では最もサウンドの色を分ける部分としてはどういった部分だと考えますか?
最初は巻き方とかも細かく実験していたけど、実験すればするほど“素材”の重要性を感じます。例えばアルニコ5って言っても配合値には個体差があるし、生産ロットで音も変わる。線材でも同じことが言えますよね。だから結局は料理と一緒で素材ありきです。
━━高山さんが考える良いピックアップとはどのようなものですか?
プレイヤーの表現をそのまま表現してくれるピックアップ。ピックアップだけじゃなく、楽器って総じてそういうものですよね。そのなかでピックアップは楽器の音の善し悪しを決めてしまう部分。そういう意味では、ひとりひとりが出したい音を的確に出力できるものが良いピックアップだし、それに対して1分の1を作るのがウチの仕事。だからラインナップを増やしてプレイヤーの選択肢を広げることが大事なんです。
製品に関するお問い合わせは、サゴニューマテリアルギターズ(☎︎06-6439-6377)まで。
◎https://sago-nmg.com/
③SONIC
経験・知識・実績が交差する究極のヴィンテージ・トーン
メンテ&改造ショップ・ガイド企画でも紹介した、SONICブランドを展開するラムトリックカンパニーは、リプレイスメント・ピックアップ・メーカーとしても高品位なモデルを自社生産しており、SONICブランドはもちろん、Sago New Material Guitarsとのコラボ・ブランド“Ximera”のベース/ギターにも同社製のピックアップが標準搭載されている。
同社がピックアップの開発を始めたのは2010年頃。きっかけとしては、以前SONICのギター/ベース用のハイグレード・ピックアップとして、ジョン・サーがワインディングを担当した“Xotic Pickups”を採用していたのだが、生産中止となったことで供給が立たれてしまったこと。これに代わるものとしてまず“ジュピター・シリーズ”が始動。本シリーズのスペックの決定などについては国内でも有数のピックアップ・ビルダー“KARIYA PICKUPS”の刈谷稔氏の協力のもと、ハンド・ワインディングによって製作されており、モデルとしては、JBタイプの“LJB-01”と“LJB-02”、PBタイプの“LPB-01”がラインナップ。JBタイプ2種類の違いとしては、プレイヤーの用途に合わせ、主にパワー感が調整されており、例えば“LJB-02”は“01”と比較しフロント、リアともに400ずつターン数を減らしている。
ジュピター・シリーズの約一年後に始動したのが、他社製の楽器に使う交換用ピックアップ“レジェンド・シリーズ”だ。ヴィンテージ・ピックアップへのリスペクトを込め、代表の竹田氏が1個ずつハンド・ワインディングで製作している。ラインナップとしてはJBタイプの“JB’62”、“JB’66”、PBタイプの“PB’60s”、“PB’70s”の4種で、指標とする年代とコンセプトが極めて明確である。各年代のピックアップの特徴を竹田氏独自の視点で的確に表現しており、パワー感や低音/高音のバランス感、アタック感などを検証したうえで厳選したパーツ類とターン数を導き出している。竹田氏が考える理想の“ヴィンテージ・サウンド”を狙った高品位なシリーズと言える。
いずれも基本的にはいわゆる“ヴィンテージ・スタイル”のモデルではあるが、ポールピースのアレンジや、コイルのターン数、ノイズ対策など、ヴィンテージのスペックにはこだわらず、SONIC製のギター/ベースに内蔵されているサーキットとのバランスを考えた仕様となっている。
イチオシモデル!
2種類のシリーズを備えるSONICのピックアップより、JB/PBモデルを紹介!
マグネットは全モデルにてアルニコ5を使用。
【JUPITER Series】
ポール・ピースのアレンジやコイルのターン数など、SONIC独自の概念で製作されるハイグレード・シリーズ
【LEGEND Series】
長年の経験をもとに代表・竹田豊氏がハンド・ワインディングで製作する“究極の”ヴィンテージ・シリーズ
メーカー・インタビュー
竹田豊(ラムトリックカンパニー代表)
“バーチャル・ヴィンテージ・サウンド”みたいなイメージ。
━━ジュピター・シリーズのコンセプトは?
自社で製作するオリジナル・モデルの楽器に載せることを前提に考えているピックアップです。ただもともとがXoticのピックアップに代わるものだったので、パーツやサイズ、そしてサウンドはXoticに意識的に近づけています。Xoticにもターン数によるバリエーションがあるので、それに合わせてターン数が多い“01”、少ない“02”を用意しています。それとターボJベースサーキットに使用するため、ポールピースとコイルの絶縁をしっかり取っています。
━━“レジェンド・シリーズ”のこだわりとは?
ジュピターよりもヴィンテージに寄り添った形で、自分の考えるヴィンテージ・サウンドを表現しています。60年代後半くらいからはグレー・ボビンになったりとか、そういう見た目でもヴィンテージっぽさを演出していて、“バーチャル・ヴィンテージ・サウンド”みたいなイメージ。つまり“JB’62”をラインナップしているけど、同じ62年のピックアップでも個体差は大きい。だからみなさんが62年のピックアップに持っている良いイメージを狙っています。ワイヤーもプレーン・エナメルとフォームバーを時代ごとに使い分けています。
━━ピックアップ開発における一番大事な部分をどう考えますか?
楽器である以上、本来音が一番大事なわけですが、長年修理の仕事をするなかで、ピックアップが断線して音が出なくなる案件を多く見てきました。原因の多くはハトメ部の接触不良や断線なのですが、断線の場合はほぼ巻き始め側。でも巻始め側はワイヤーを引き出せないので、細いワイヤーを継ぎ足すしかない。状況によっては再起不能になります。巻き始め側が切れる理由は、ハトメ部にコイルを巻く際のテンションがかかった状態になっているからだと考えられます。だからそのトラブルを回避するため、ウチでは巻き始めをハトメに固定せず巻き始め、全体を巻き終わってから余裕を持たせてハトメに巻き付ける手順を取っています。同様にハトメ部での接触不良を防ぐため、ハンダ付けの前にヤスリでワイヤーの被覆を削り取っています。ピックアップは決して安いパーツではないので、トラブルを防ぐモノ作りが大切だと思います。
製品に関するお問い合わせはラムトリックカンパニー(☎︎048-224-7915)まで。
◎https://www.lumtric.com/
【お知らせ】
本記事は、現在発売中のベース・マガジン5月号【SPRING】の内容を転載したものです。同号では、さまざまな角度からエレキ・ベースにおけるメインテナンスの重要性と改造=カスタマイズの魅力を総力特集した“保存版! 最強のメンテ&改造メソッド”を58ページで掲載しています。
また30年以上にわたるキャリアで初めて自身名義のカバー・アルバムをリリースしたAA=の上田剛士さんと、現体制となって20周年の節目を迎え、約5年ぶりのオリジナル・アルバムを発表した凛として時雨の345さんを表紙に迎えた特別対談を掲載! それぞれの新作についての個別インタビューも実施し、ふたりの“最新モード”についても迫っています。
その他、2023年に還暦&ソロ・デビュー20周年を迎えた廣瀬“HEESEY”洋一さんのインタビュー、奏法特集の“弾き倒しエクササイズ33本勝負”など、さまざまな記事を掲載しています。ぜひチェックしてみてください!