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Meris for Bass – Merisで彩るベース・サウンド

  • Equipments Explanation:Makoto Kawabe
  • Photo:Takashi Hoshino/Takashi Yashima
  • Interpretation:Tommy Morley

音楽の進化が著しい昨今において、ベース・サウンドにもより多彩さが求められている。2014年にアメリカで誕生した“Meris(メリス)”は、プレイヤーに新たな可能性とサウンドを提示する最新型のエフェクター・ブランドだ。今回はMerisの持つ特異なサウンド、そして計り知れない未知数の魅力を、いずれも第一線で活躍するふたりのベーシストを迎え検証していきたい。“近未来”を彷彿させる、奥深いMerisサウンドの世界へ足を踏み入れていこう。

Meris × 井上幹(WONK)

Merisとは?

まずはMerisのバック・グラウンドを整理しておこう。唯一無二のサウンド・デザインに革新的な機能を搭載する“Meris”とは一体どういったブランドなのだろうか。

 Merisは2014年に米国カリフォルニアにて誕生した新進気鋭のブランドで、中心メンバーは創業者でエンジニア(長年Line 6でアナログ回路などのハードウェア・デザインを担当)でもあるテリー・バートン、DSPエンジニア(テリーと同じくLine 6にてFM4やToneCoreシリーズなどの開発に従事)のアンジェロ・マゾッコ、マルチ・メディア・デザイナー(Strymon、DRAGONFRAMEなどでブランディングやデザインを担当)のキム・ジンナーの3名だ。彼らの実績を知ればMeris製品のクオリティは疑いようもないが、Merisの真価は彼らのアーティスティックな独創性と発想力にあり、DSPの知識や技術などの確かなエンジニアリングが高次元で融合することで、ほかに類を見ないサウンドと個性を誇る製品が生み出されるのだ。

 現在ラインナップしているペダル型エフェクターは全5機種で、ほかにもレコーディング関連機器の定番API500シリーズに対応するモジュール・タイプのエフェクターもラインナップするなど、従来のエフェクター・ブランドとは一線を画すスタンスだ。Merisの製品はどれもスタンダードかつ高品位なサウンドを活用するだけでも充分な魅力を発揮するが、深く使い込んでMerisの持つポテンシャルと精神性に触れたとき、予想もしない新たなサウンドが飛び出し、プレイヤーを次なるフィールドへと導いてくれる。そんなクリエイティブ精神に満ちたブランドである。

Hedra 500
500シリーズ用3ボイス・ピッチシフター
Ottobit 500
500シリーズ用ビットクラッシャー

Interview with Meris

ブランドのコンセプトや製品について、アメリカに拠点を置くMeris開発チームにインタビューを実施した。

アートとエンジニアリングを一体化させる』

(米)Meris開発チーム
左から、アンジェロ・マゾッコ(DSPエンジニア)、テリー・バートン(ブランド・オーナー)、キム・ジンナー(デザイナー)

──Merisのブランド・コンセプトとは?

テリー 創設当初、ジンナーはアーティストで私はエンジニアであったので“アートとエンジニアリングを一体化させる”という考えを思い描いていました。最初の製品の発売直前にアンジェロが加わり、このアイディアをコンセプトとして製品開発へつなげました。そのなかでもジンナーは常に製品にビジュアル、ムード、アイデンティティを付与することを考えてきました。例えば我々の最初の製品“Ottobit Jr.”は、“どんなオーディオ入力も80年代のテレビゲームのサウンドに作り変える”というコンセプトの元に作られたもので、その次の製品である“Mercury7”は映画『ブレードランナー』の壮大なSFサウンドをどんな楽曲にももたらすことをコンセプトとしました。単なるエフェクトではなく、それ自身が楽器となることを常にゴールと考えています。

──Merisは使用楽器を限定していませんね。開発にあたって、どんな楽器で使用されるかをどの程度まで想定しているのですか?

アンジェロ 私たちはMeris製品が幅広くさまざまな楽器で使用されることを願っています。私が気に入っているEnzoのいくつかの機能は、ヴァイオリニストとサックス・プレイヤーによって作られたものです。また、現在私たちのパートナーでもあるアンドリュー・マクミランに私たちが注目したきっかけは、YouTubeでのEnzoを用いた彼の個性的なパフォーマンスでした。彼は類稀なる使い方でEnzoとエレキ・ベースと組み合わせていたのです。

テリー 開始当初から、使用楽器に制限を課したくないと考えていました。そのためワイド・レンジな信号を搭載し、各周波数へのレスポンスが実現できる回路を設計しました。これはアナログ・シンセサイザーのような高出力も、ギター/ベース・ピックアップのような小さな出力と同様に対応できるようにさせたかったためです。ここまで広いレンジのシグナルを扱えるようにすることはひとつのチャレンジではありましたね。さらにアンジェロは、5弦ベースから30フレットのギターのレンジまでカバーできるような設計も行なってきました。

──Meris製品をベースで使用するにあたり、サウンド面などに工夫はありますか?

アンジェロ 幅広い楽器とさまざまなインプット・レベルでもMerisペダルが使えるようにするため、回路設計に関してテリーは素晴らしい仕事をしてくれたのです。アルゴリズムの設計時、ベースを含むさまざまな楽器でテストをし、すべてのミュージシャンが製品に詰め込まれたものを最大限に引き出せるように意識しました。

テリー インプットにふたつのモードを設けているため、大きなダイナミック・レンジに対し最適化が可能です。通常モードはパッシヴ・ピックアップ、ふたつ目のモードはライン・レベルの信号やシンセサイザーのアウトプットに最適化しています。アクティヴ・ベースで使用する際にクリッピングなどの問題が生じたら、ライン・レベルに切り替えることでヘッド・ルームを稼ぐことができます。

──Enzo、Hedra、Ottobit Jr.の3機種をベーシストが使用する際に注目すべき機能やパラメーターは?

アンジェロ Enzoはエンヴェロープ・フィルターの機能。“Ladder”や“State Variable”というフィルター・モードとエンヴェロープ・フィルターを組み合わせれば、計り知れない可変幅と表現力を実現できます。Hedraはオクターヴとハーモニーの機能に加え、ディレイ・タイムをゼロにしてマイクロ・チューンの使用を試してほしい。これにより一切のモジュレーションが加わらない、ユニークなコーラス・サウンドを体験できます。Ottobit Jr.をベースで使用する際は、シーケンス化されたフィルターにビット・ノブを用いてディストーションを加えることをお薦めします。Ottobit Jr.のウェブサイトでは、“Lo Bit Filter Sweep”というタイトルで素晴らしいデモ演奏を掲載しています。

──近年、ベースでシンセ・サウンドを再現することが流行しており、多くの製品がリリースされています。こういったサウンドを出す際にEnzoを使うアドバンテージとは?

アンジェロ これが“本物のシンセサイザー”であるということです。波形のシェイピングや周波数の調整を行なう代わりにEnzoには美しいフィルターと高品位なサウンド・オシレーターを搭載しています。本物のシンセ・サウンドとともに、複数のサウンド・デザイン要素を組み込んでおり、単独はもちろん、ほかの機材との組み合わせでベース・サウンドを拡張させることができます。これらの要素にはパラレル・ドライのコンプレッサーに加え、汎用性のあるマルチ・モード・フィルターやエンヴェロープによってコントロールされた、リング・モジュレーターやステレオ・モジュレーション・ディレイといったものを含んでいます。

テリー Enzoには本物のシンセサイザーが組み込まれているため、アナログ・シンセサイザーのサウンドが得られます。このサウンドは、ブーツィー・コリンズやゲディ・リーといったプレイヤーを聴いて育ったベーシストには特に魅力的なサウンドでしょう。

──今後、エフェクター・ブランドとしてどのような存在になっていきたいですか?

テリー 我々が当初から掲げてきた、“アートとエンジニアリングを一体化させる”という精神に忠実であり続けたいと思っています。そして今までよりももっとユニークでパワフルな機材を作っていきたいと思います。

──最後に、読者に向けてひと言お願いします。

アンジェロ Merisを使ってミュージシャンが自らの音楽を高める姿を目にすること、それ以上に喜ばしいことはありません。サポートしてくれるミュージシャンたちに謙虚な姿勢で感謝しつつも、私たちの楽器を使って彼らがプレイするサウンドを耳にすると常に鳥肌が立ちます。

テリー 私たちの機材を使って音楽を作るすべてのミュージシャンに感謝しています。ボブ・モーグが作ったシンセサイザーで多くのミュージシャンが新しい音楽を作り、モーグ氏本人がそれを初めて聴いたときに感じたであろう気持ちを、どんな些細なものでもかまわないので経験したいと夢に願っています。

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