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リチャード・ボナが語る“練習”哲学「優れている人は“やるべきこと”を繰り返してきている」【インタビュー後篇】
- Interview : Koji Kano(Bass Magazine)
- Translation : Akira Sakamoto
- Photo : Chika Suzuki
- Special Thanks:Tomotaka Sekiya(TRI4TH)
2026年10月4日(日)から6日(火)にかけて、リチャード・ボナがクインテット編成でブルーノート東京に登場する。今回の来日公演に先駆け、2025年3月に来日した際に敢行したロング・インタビューをお届けしよう。
本インタビューは、“ベーシストの練習”をテーマにした本誌2025年6月号表紙特集「練習しようぜ!」に掲載されたもの。
リチャード・ボナが語るベースの“練習”論
【インタビュー後篇】
記事の前篇はこちらから。

練習するときでも必ずフィールに集中している
⸺あなたは2フィンガーはもちろん、ロータリー奏法やトリプル・プルなど、難易度の高い奏法も取り入れていますが、テクニカルな点で新しい奏法に興味を持った際、どんな練習をするのですか?
僕はあくまでも“音楽”を演奏していて、テクニックで楽器をプレイしていない。ようはみんなに良い気分になってもらうために演奏しているんだ。
僕はニューヨーク大学で音楽を教えているんだけど、ある日ドラム科で2時間の授業があって、学生にまず1時間練習するように言って教室を出た。“1時間後に戻ってくる”と言っておいて、隣の小さな部屋に隠れて音を聴いていたんだ(笑)。
すると若い学生たちはみんな、“ダラララララララ……”って、テクニカルにドラムを叩きまくっていてね。
▲リチャード・ボナ「Bilongo」
⸺なるほど。
1時間後に教室に戻った僕は、彼らに“リズムを叩いている人はひとりもいなかった”と言ったんだ。
ようは音楽というのは、最も発達した社会のようなもので、数学の世界よりも優れている。数学の世界では、10を3で割ると3.3333……と割り切れないけれど、音楽の世界では正確に割り切ることができる。
コードでもメロディでも、たった1音変えただけで違うコードになったり、違うメロディになったりするのがわかる。音楽というのはそれぐらい精度の高い“科学”ってことなんだ。
⸺化学反応が引き起こす偶発的なものだと。
その音楽のなかで、ドラムにはドラムの役割というものがある。KポップでもJポップでも、レゲエ、サルサ、ファンク、ビバップでも、ドラムには“リズムを演奏する”という役割があるんだ。それがドラムの仕事で、楽器にはそれぞれの役割があるってことさ。
あるドラマーがジョニ・ミッチェルやミック・ジャガーで、曲を演奏するときに“ダララララララ……”とやったらどうなる? “別のドラマーを探してくれ”ってなるよね?
⸺ええ、そうなるでしょうね。
そして、人生におけるどんなことでも、優れている人は自分のやるべきことをずっと繰り返してきている。ブラジル代表のサッカー選手だった親友のロナウジーニョも毎日サッカーをやってきた。腕の良い漁師も毎日魚を獲っている。繰り返すことなしに達人になることはできないんだ。
僕が今までに会った、何かに秀でた人はみんな、毎日練習しているよ。マイケル・ブレッカー、ケニー・ギャレット、パット・メセニー……みんなそう。部屋の前を通ると、練習している音が聴こえてくる。僕らはみんなそうしているんだ。

⸺偉大な地位を手に入れたとしても、いつだってそこには練習があると。
そうさ。さっき話したドラムの生徒たちに、“リズムの練習をせずにリズムが叩けるようになるのか?”と尋ねてみたんだ。“ダラララララララ……ってテクニックでリズムが叩けるのか?”ってね。
まあ、ある意味そうかもしれないけれど、音楽にはならない。渡辺貞夫でもモーツァルトでも、曲を演奏しようというときにそんなことをすれば、“誰なんだ、アイツは?”って怒られちゃうだろ?
ただテクニカルに演奏していても意味がなくて、自分で口ずさめるフレーズを演奏することが大切なんだ。このことをレイ・ブラウンに聞いても、きっと同じことを言うはずだよ。カルテットの全員がただテクニックに任せてプレイし続けたらどうなるか、それはただのノイズだよね。だから僕は、練習するときでも必ずフィールに集中しているんだ。
スケール練習なんかはしないよ
⸺では、自宅やホテルで練習するときに行なう、決まったエクササイズのようなものはありますか?
僕は練習するとき、曲を弾いているんだ。加えて僕は歌も歌うから、歌いながらベースを弾いているね。スケール練習なんかはしないよ。おもしろそうなスケールを思い付けば弾くけれど、スケールはわかるから、必要なときに弾くだけ。難しいことに挑戦するのは好きだけれどね。
▲オランダ出身のギタリスト、ギントン(Ginton)とのパフォーマンス。
⸺どんな楽曲を演奏しているのですか?
ベース・ラインと歌のリズムのアクセントがズレている曲があって、それを練習することが多いかな。今はもう慣れたけれど、最初はかなり混乱したね。そういうものを練習するのが好きで、ちょうど今朝もやっていたんだ。僕にとってはそういうものが“テクニック”なのかもしれない。
⸺先ほどあなたがおっしゃったように、あくまでも“音楽”を演奏している、ということですね?
そういうこと。音楽に必要だから練習しているのさ。ややこしいけれど、サウンドは素敵だからね。すなわち、僕は音楽に良いフィールを持ち込むための練習をしているんだ。
⸺練習するときはアンプやヘッドフォンなどを使いますか?
家では僕のモデルのマークベースのコンボ・アンプを使っているよ(Ninja 102 250 Richard Bona Signature)。ヘッドフォンは好きじゃなくってね。ホテルの部屋ではアンプが使えないから、生音で練習しているんだ。
⸺エレクトリック・ベースの練習を生音でやっていると、音が小さいためにリキんで弾くクセが付いてしまう、という意見もあるようですが?
僕はそうは思わない。生音でもアンプを鳴らしても、僕の弾き方は変わらないから。はたまたどんな環境だったとしてもね。
▲リチャード・ボナ「Kess Kiva Paa」
⸺最後に、あなたのようなプレイヤーを目指す、日本の若手ベーシストたちに向け、ひと言いただけますか?
オーケイ、エレクトリック・ベースは新しい楽器だから、できることはまだまだたくさんある。従来の奏法とは違うタッピングみたいなテクニックを取り入れたり、ほかの楽器の要素を取り入れたりすれば、ベースの世界はもっと広がるはずなんだ。だからベースの可能性を信じてひたむきに努力をし、音楽を奏でていってほしいね。
リチャード・ボナ直伝!
3つの練習フレーズを紹介
最後に、オリジナルの練習フレーズを3例紹介してもらった。ボナと同様、“音楽”と“フィール”を感じ取りながらプレイしてみてほしい。
採譜:黒瀬寛幸
Original Exercise Phrase #1
ミュートを駆使したリズミック・フレーズ

このベース・ラインは、ミュートによるスタッカートやデッドノートを練習するのに役立つと思う。スタッカートもデッドノートも、ベースでリズムを弾く際には重要なパーツになっていて、僕もけっこう使っている。だからみんなも、弦をミュートするためのさまざまなテクニックを練習し、いろいろなラインに応用できるようになっておくと良いと思う。ちなみに、僕は歌も歌うから、ベースでこういうバッキングしながら思い付いたフレーズを歌う練習もしているんだ。
Original Exercise Phrase #2
ゴースト・ノートの感覚を養うファンキー・ライン

具体的に何かの曲というわけじゃないけれど、歯切れ良い演奏をするために役立つ練習フレーズさ。こういう単純なパターンを延々と繰り返すことで気持ち良いグルーヴが生まれるんだ。僕は押弦するほうの手を指板から浮かすことで弦をミュートしていて、ピッキングは指の先端を軽やかに使うのがコツだよ。リキんで弾くとグルーヴのしなやかさが失われるし、安定感もなくなるから気を付けてほしい。インタビューでも言ったように、ひとつひとつの音のニュアンスを意識して、フレーズを口ずさみながら弾くのも良い練習になると思う。
Original Exercise Phrase #3
バラフォン風のアルペジオ・パターン

僕はもともとバラフォンやパーカッションをやっていたから、ベースを弾き始めたときにもバラフォンのフレーズを応用していた。ジャコやストラヴィンスキーの音楽は、それに加えられた新しい要素だった。バラフォンは両手に持ったスティックで演奏するけれど、ベースでは2本のスティックの代わりに親指と人差指を主に使う。あと、バラフォンはミュートしたようなサウンドの楽器だから、右の手のひらの縁でサドルの上あたりを押さえてミュートするんだ。
PROFILE
リチャード・ボナ
1967年10月28日、アフリカ・カメルーンのミンタ村生まれ。グリオの祖父とシンガーの母を持ち、4歳でバラフォンを始める。11歳でギターを始め、13歳で大都市ドゥアラのジャズ・クラブでジャコ・パストリアスのアルバムを聴き、ベースに転向する。1989年にヨーロッパ、1995年にニューヨークへと本拠を移し、ジョー・ザヴィヌル(p)やマイク・スターン(g)、ボビー・マクファーリン(vo)などと共演。強力なリズム感とテクニック、美しい声による歌で世界を魅了し続けている。現在までに9枚のソロ・アルバムを発表しているほか、参加アルバムも多数。
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