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  • NOTES

    BASSMAN’S LIBRARY
    in Autumn 2024

    ベーシスト注目の新作を紹介する『BASSMAN’S LIBRARY』。今回は、2024年秋の注目作19作品をディスク・レビューとともにお届けする。

    *ジャケット写真をクリックするとレビューに飛びます。

    『ウチュウノアバレンボー』
    かつしかトリオ

    『Answer to Remember II』
    Answer to Remember

    『Drive My Car』
    ビル・ワイマン

    『LOVEBITES EP II』
    LOVEBITES

    『Iris』
    BUMP OF CHICKEN

    『COSMIC』
    POLYPLUS

    『Echoes and Other Songs』
    マイク・スターン

    『SHINBANGUMI』
    ジンジャー・ルート

    『Epic Narratives』
    BAND-MAID

    『Dance, No One’s Watching』
    エズラ・コレクティブ

    『Sky, River and Friends on the Earth』
    4GENEXYZ

    『Asterism』
    DEZOLVE

    『Back To The Pops』
    GLAY

    『Aooo』
    Aooo

    『Infinity Glitch』
    トニー・グレイ

    『Mighty Vertebrate』
    アンナ・バターズ

    『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』
    9mm Parabellum Bullet

    『虚仮の一念海馬に託す』
    ずっと真夜中でいいのに。

    『Liquid Yellow Portraits』
    Shingo Suzuki


    『ウチュウノアバレンボー』
    かつしかトリオ

    健在という以上のパフォーマンス
    が堪能できる1枚

     昨年“デビュー作”『M.R.I_ミライ』を発表した、かつしかトリオの2作目。日本発のフュージョンを代表するカシオペアの元メンバー3人によるプロジェクトということもあり、親しみやすいメロディに洗練されたハーモニー、テクニカルでありながら心地良いリズム、ワクワクするようなユニゾン・プレイといった持ち味は健在だ。それに加えてカシオペアの活動休止以降、3人がそれぞれに積み重ねた経験を盛り込み、“往年を懐かしむ”といったうしろ向きのコンセプトではなく、現在も進化し続けていることを証明する作品となっている。
     1作目に比べてオーケストレーションをより充実させる一方、テクニックでは人後に落ちないベースとドラムスを半ばソロイストのように扱い、音楽的なインパクトの増大が図られている印象だ。とりわけ、アルバム・タイトルどおりのスピードとエネルギーで一気に押し切る①から⑤までの前半の流れは圧倒的だ。打って変わって後半はジャジィな⑥やエレクトロニカ風の⑧、クラシカルな⑨など、楽曲スタイルのバリエーションで聴かせる展開で、全体として飽きずに最後まで聴けるのはプロデュースの勝利だろう。櫻井の6弦やフレットレスはバッキングもソロもクリアに聴こえるので、アルバムのカバー(特にフォント)が刺さる世代以外のベース・ファンにとっても、いろいろな楽しみ方ができるはずだ。(坂本信)

    ◎作品情報
    『ウチュウノアバレンボー』
    かつしかトリオ
    ヤマハミュージックコミュニケーションズ
    YCCS-10119 発売中 ¥3,300 全10曲

    参加ミュージシャン
    【櫻井哲夫(b)】
    神保彰(d)、向谷実(k)

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    『Answer to Remember II』
    Answer to Remember

    稀代のドラマー石若駿と
    盟友マーティ・ホロベックの阿吽の呼吸

     ドラマーの石若駿が、自身のバンドで約5年ぶりの新作をリリース。前作と比べてよりバンド感を意識した本作は、メロディはよりキャッチーに、それでいてハーモニーやリズムはよりエクスペリメンタルに進化した、まさにバンドの“深化”を示した作品に。ベーシストを務めるのは石若の盟友、マーティ・ホロベックで、年間100本以上のライヴをともにするリズム体の阿吽の呼吸の具合は、まさに類を見ないほどの精度へと高まっている。楽曲によってリズム・パターンやグルーヴは異なれど、マーティの紡ぐベース・ラインはあくまでオーセンティックでベーシック。奇をてらったような展開やアクセントに惑わされずに、どっしりとアンサンブルを支えている。それは例えるならグリーン・デイのマイク・ダーントのように、プレイ内容としてはあくまで基本を押さえたプレイながら、バンドのグルーヴとアンサンブルをコントロールし、バンドを次の展開へとリードし続ける。突出はしないがまさしく屋台骨としてのベース・プレイを堪能できる一枚。(花木洸)

    ◎作品情報
    『Answer to Remember II』
    Answer to Remember
    ユニバーサル
    UCCJ-9250
    発売中 ¥3,520 全14曲

    参加ミュージシャン
    【マーティ・ホロベック(b)】
    石若駿(d)、佐瀬悠輔(tp)、MELRAW(a.sax, g)、中島朱葉(a.sax)、馬場智章(t.sax)、若井優也/海堀弘太(p, k)、Taikimen(per)、ほか

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    『Drive My Car』
    ビル・ワイマン

    87歳のレジェンド・ベーシスト
    が放つ“激渋”の新作

     元ローリング・ストーンズのベーシスト、ビル・ワイマンが前作『Back To Basics』(2015年)以来9年ぶり6作目となるソロ・アルバムを発表した。ギターにはテリー・テイラー、ドラムにポール・ビーヴィスという旧知のメンバーを起用し、ビル所有のスタジオで録音されている。そのリラックスした制作環境がアルバムを包む親しみやすい雰囲気にストレートに表われている。ビル自身は、本作のサウンドを振り返って、“J・J・ケイルのレイドバックしたグルーヴに影響を受けた”と語っているが、確かにボブ・ディラン「Thunder on the Mountain」やタジ・マハール「Light Rain」などのカバーから、適度にポップなオリジナルのR&B曲(自作曲は5曲収録)まで、パブでの演奏を聴いているかのようなアットホームさが魅力となっている。ガンも経験している87歳のビルの新作というだけで驚異だが、それを切り離しても、彼の枯れた激渋な声と安定感抜群にリズムを刻むベースの音が、しっとりと胸に染みる味わい深い一枚に仕上がっている。(舩曳将仁)

    ◎作品情報
    『Drive My Car』
    ビル・ワイマン
    BMG/輸入盤
    4050538977639
    発売中 ¥3,300 全12曲

    参加ミュージシャン
    【ビル・ワイマン(b,vo)】
    テリー・テイラー/ロビー・マッキントッシュ/アンディ・フェアウェザー・ロウ(g)、ポール・ビーヴィス(d)、ガイ・フレッチャー(k,g)、ダニー・カミングス(per)、ほか

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    『LOVEBITES EP II』
    LOVEBITES

    famiというピースが
    ガッチリとハマった全5曲

     自身のデビュー作に“Ⅱ”と銘打った最新作EP。ここからもバンドのマイルストーン的な作品であるという意思が伝わるが、今作の全5曲から感じられるのは、メタル・バンドとしてブレない信念と矜持だ。王道HR/HMナンバーの①やメロスピ・テイストの⑤などキャッチーなナンバーは彼女たちの真骨頂でありつつ、モッシュ・ピット必至の骨太スラッシュ・チューンの③、憂いのある叙情的な④、リズム体の強さを感じる②など、各曲でテイストは違えどメタル・バンドとしての中心軸がブレない楽曲がそろった。今号でのインタビューでも語るとおり、famiは“攻め”のベースを披露。攻撃的な歪みの低音で曲を支えつつ、ときにメロウなフレージングを聴かせ、メタル・サウンドに違和感を感じさせることなく得意のスラップを織り交ぜ、楽曲をブラッシュアップさせる。famiというピースがガッチリとハマったことにより、バンドの個性と強度がさらに増したことを感じる一作だ。限定盤Aには1stEPの再録盤が付属、こちらも一聴の価値あり。(辻井恵)

    ◎作品情報
    『LOVEBITES EP II』
    LOVEBITES
    ビクター
    VICL-65981(通常盤)
    発売中 ¥2,500 全5曲

    参加ミュージシャン
    【fami(b)】
    miyako(g,k)、midori (g)、asami(vo)、haruna(d)

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    『Iris』
    BUMP OF CHICKEN

    5年ぶりのアルバムで
    見せたベーシストとしての矜持

     余白を生かしたアンサンブルに重厚感をもたらす、直井由文の低音。彼の特色である複雑なリズムや歌うようなプレイが本作でも全面的に展開されるが、一方で時には4分や8分のシンプルなラインを奏でることで、メロディックなフレーズとの対比が多くの曲の展開に抑揚を付ける。4分で刻む簡素な譜割でも、大きく取ったリズムと音色で存在感を放っている点も聴きどころで、特に⑬の高揚感を煽るサビや②の間奏にその魅力が表われている。また要所でシンセ・ベースを用いて浮遊感を演出した⑩や、効果的に休符を生かした③⑫なども印象深い。対旋律的なベースが歌とぶつからないのは、巧みに音価を操っている面も大きいだろう。さらに、アルバム前半の“静”の部分はベースレスの曲もあり、その潔さに感服する。それはベースが楽曲を躍動させる要であることの証左で、直井は“土台”とも異なる、独自の立ち位置でサウンドを支えている。“弾かない”という選択をできるところに、第一線を走り続けるベーシストの矜持を感じた。(神保未来)

    ◎作品情報
    『Iris』
    BUMP OF CHICKEN
    トイズファクトリー
    TFCC-81101(通常盤)
    発売中 ¥3,300 全13曲

    参加ミュージシャン
    【直井由文(b)】
    藤原基央(vo,g)、増川弘明(g)、升秀夫(d)、ほか

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    『COSMIC』
    POLYPLUS

    勢いとノリを重視した
    セッション肌のベース・プレイ

     JABBERLOOP、fox capture plan、Calmera、Neighbors Complainなどのメンバーからなるインスト・バンド、POLYPLUSの3枚目となるフル・アルバム。サウンドはジャズ、クラブ・ミュージック、ポップスなどさまざまだが、どの楽曲もわかりやすくてキャッチーな仕上がり。ライヴのようなノリの良さをモットーとした勢いと、セッション感に溢れた演奏が聴ける。べーシストはJABBERLOOPでも知られるYUKI(永田雄樹)。熱量高めに疾走するジャズ・ナンバーの②では、うしろに引っぱるようなフレージングに加えてフィルター+歪みで聴かせるソロ・プレイが耳に残る。デトロイト・テクノのアンセムをカバーした③では原曲のシンセ・ベースを生かしながらも、生演奏らしい軽快なフィーリングを加味。セッション感溢れるミディアム・テンポの⑤では、ヒップホップのプッシュするグルーヴを出しつつもフリーキーに攻める。ほかにも持ち味のロック・テイストもあり、プレイヤーとしての懐の深さを感じられる作品だ。(伊藤大輔)

    ◎作品情報
    『COSMIC』
    POLYPLUS
    Playwright/PWT-132
    発売中 ¥3,000 全11曲

    参加ミュージシャン
    【YUKI(b)】
    Gotti(g)、 TSUUJII(sax)、MELTEN(k)

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    『Echoes and Other Songs』
    マイク・スターン

    ボナとマクブライドが参加した
    レーベル移籍第1弾

     コンテンポラリー・ジャズ・ギター界の人気者マイク・スターンが、Heads UpからMack Avenue系列のArtistry Musicへとレーベルを移籍。単独名義としては7年ぶりとなった本作は、大きくふたつのバンド編成によって構成されている。リズム体で見てみると、3曲はマイクにとってはお馴染みのリチャード・ボナとデニス・チェンバース。ボナはソロこそとらないものの冴えたバッキング、それに⑤⑨ではお得意のヴォイスも聴かせている。対する8曲のリズム体はクリスチャン・マクブライドとアントニオ・サンチェスで、20枚は超えるマイクのアルバム群のなかにあって彼らは今回が初参加。加えてマクブライドは⑦⑩⑪でアコベ、①②③⑥⑧ではエレベと弾き分けてもいる。①ではスウィング度満点の4ビート・ラインを繰り出せば、ベースから弾き始める③ではご機嫌なハーフ・シャッフルを下支えし、⑧では短いながらも存在感の溢れるソロを聴かせる。そしてラスト⑩⑪では随所に超絶なフレーズを盛り込んだアコベ・ソロも待ち受けている!(石沢功治)

    ◎作品情報
    『Echoes and Other Songs』
    マイク・スターン
    ARTISTRY/キングインターナショナル
    ART-7087(通常盤)
    発売中 ¥2,690 全11曲

    参加ミュージシャン
    【クリスチャン・マクブライド/リチャード・ボナ(b)】
    マイク・スターン(g)、クリス・ポッター(sax)、アントニオ・サンチェス/デニス・チェンバース(d)、ジム・ビアード(p)、ほか

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    SHINBANGUMI』
    ジンジャー・ルート

    マルチプレイヤー/コンポーザー
    ならではのベース・アプローチ

     南カリフォルニア出身のシンガー・ソングライター、キャメロン・ルーによるプロジェクトが4年ぶりに放つ3作目のフル作。大名曲「Loretta」(EP『City Slicker』収録)以降の自身の音楽的指向を総括し、アルバムというフォーマットで、もしくは全12話という1クール作品として“今のジンジャー・ルートを詰め込みました!”という趣の本作は、最初から最後までとにかくエネルギッシュで息をつく暇もない印象だが、過多なことはなく、むしろ得られるのはジェットコースターを乗り終えたあとのような爽快感と高揚感だ。ゲスト・ヴォーカル以外のすべてのパートを彼自身が演奏している本作。④のベース・ラインが見せる他楽器とのアンサンブルや、⑪のような軽快なムードでありながらドラムやギターと絡み合う細かい16ビートのフレーズは、曲を上から見下ろすことのできるコンポーザーならではのアプローチだと感じる。逆に、グルーヴの役割をベースに全振りさせたような⑦も、アルバムのハイライトに感じられて非常に魅力的。(大塚智之)

    ◎作品情報
    『SHINBANGUMI』
    ジンジャー・ルート
    Ghostly International/BIG NOTHING
    GI443JCD
    発売中 ¥2,750 全13曲

    参加ミュージシャン
    【キャメロン・ルー(vo,b,g,d,k)】

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    『Epic Narratives』
    BAND-MAID

    圧倒的なポテンシャルで魅了する
    約3年半ぶりの新作

     BAND-MAIDならではの激しさと華やかさを併せ持ったハード・チューンを軸にしながらファンクが香る④や乾いたせつなさが心地いい⑥、小鳩ミクがヴォーカルを取っている⑦、心に響くスロー・チューンの⑧、ウォームな⑨、パワフルなダンス・テイストが気持ちを引き上げる⑬など、より表情を広げた意欲作。上質な楽曲に加えてモダンなスピード感やキャッチーなメロディ、場面作りの巧みさ、メンバー全員が織りなす高度なプレイなども注目。優れたプロダクトが奏功して、全14曲を一気に聴かせる好盤に仕上がっている。ベースも充実していて、ソリッドかつ重厚なルート弾きの合間にウネるフレーズを入れ込むプレイを筆頭に、グルーヴィな④⑫、ジャジィなプレイも披露している⑤、しなやかにフレーズを紡ぐ⑩、スラップやオクターヴ・フレーズで楽曲のグルーヴを増幅させる⑬、パーカッシヴ&ファットなベース・ソロが聴ける⑭など、聴きどころ満載。幅広さを見せつつ常にロックを感じさせることや強い存在感を放つ音色なども実に良い。(村上孝之)

    ◎作品情報
    『Epic Narratives』
    BAND-MAID
    ポニーキャニオン/PCCA-06330(通常盤)
    発売中 ¥3,300 全14曲

    参加ミュージシャン
    【MISA(b)】
    小鳩ミク(vo,g)、SAIKI(vo)、KANAMI (g)、AKANE(d)、ほか

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    『Dance, No One’s Watching』
    エズラ・コレクティブ

    ダンス・グルーヴを担う
    TJ・コレオソのベース・プレイ

     その人気は世界規模になりつつあるというイギリスの5人組ジャズ・バンドが、ダンサブルであることをテーマに作り上げた3作目。ヤスミン・レイシー、オリヴィア・ディーンのソウルフルな歌声やM.anifest、ムーンチャイルド・サネリーのラップをフィーチャーしたヴォーカル・ナンバーも挟みつつ、作品全体を貫いているダンス・グルーヴは、世界中をツアーしながらフロアを揺らしてきた成果と言えそうだ。その経験がジャズ・ファンクおよびラテン・ファンク・ナンバーの数々に結実。そのなかでTJ・コレオソの絶妙にハネるベース・プレイは、フェミ・コレオソのドラムとともにダンス・グルーヴを担う一方で、しばしばグルーヴを作るリフという概念を逸脱してみせるところが聴きどころ。ギターレスという編成だけにリード楽器という自覚もあるのだろうか。曲ごとに幅広い音域やソリッドからウォームまでキャラの異なる音色を使い分けながら、口ずさめるリフやフレーズを意識しているようにも思える。⑭のリード・ベース的なプレイは、その最たるものだろう。(山口智男)

    ◎作品情報
    『Dance, No One’s Watching』
    エズラ・コレクティブ
    Partisan Records/BIG NOTHING
    PTKF3049-2J
    発売中 ¥3,080 全15曲

    参加ミュージシャン
    【TJ・コレオソ(b)】
    フェミ・コレオソ(d)、ジョー・アーモン・ジョーンズ(k)、ジェームズ・モリソン(sax)、イフェ・オグンジョビ(tp)

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    『Sky, River and Friends on the Earth』
    4GENEXYZ

    4世代の要素が融合された
    懐かしくも新しいサウンド

     1980年代半ばから2000年までのT-SQUAREを支えたベーシストの須藤満とドラマーの則竹裕之が企画ライヴで共演したことをきっかけに、2022年7月に結成された新プロジェクトによる1stアルバム。それぞれが生まれたのが60年代、70年代、80年代、90年代と4世代“Four Generations”にわたるメンバー構成から“4GENEXYZ”と名付けられた。各パートがそれぞれフィーチャーされたバランスのとれたアレンジで、一体感溢れるサウンドを聴かせている。2フィンガーとスラップで弾き分けた16小節のベース・ソロがフィーチャーされた①や、スラップによるベース・ソロをフィーチャーした⑦など、ベースは存分にその存在感を発揮する。アコースティック楽器の豊かな響きや管楽器の息づかいが感じられる生々しいバンド・サウンドと、どこかノスタルジックなメロディが印象的な本作は、4つの世代が体感してきたジャズ/フュージョンのエッセンスが融合されて、懐かしいながらも新しいサウンドを生み出している。(ガモウユウイチ)

    ◎作品情報
    『Sky, River and Friends on the Earth』
    4GENEXYZ
    エアグルーヴ/YZAG-1122
    発売中 ¥3,000 全10曲

    ◎参加ミュージシャン
    【須藤満(b)】
     則竹裕之(d)、藤井空(tp,flug)、かわ島崇文(t.sax,ewi)、友田ジュン(k)

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    『Asterism』
    DEZOLVE

    超絶技巧の先に見えた
    新境地の低音スタイル

     Jフュージョンの未来を担う4人組による、夜空を彩る星々からインスパイアを得たという7th作。日本トップ・レベルの技巧派集団のアンサンブルには毎度驚愕させられるが、やはり“世代ナンバー1”と表現するに相応しい技術を備えた兼子のベース・プレイは圧巻だ。ただ、兼子のテクニックが全開という様相だった前作と比較すると、今作は“テクニックへの傾倒”よりも、アンサンブル、そして楽曲に溶け込むように低音が構成されているように感じる。兼子の代名詞とも言えるロータリーを駆使した高速スラップが炸裂する③⑥ももちろん必聴だが、音価を巧みに操りながら休符の効いたファンキーなプレイを聴かせる②をはじめ、⑤でのメロディを包み込む空気感たっぷりの低音など、メロディと共存する姿勢が全篇を通して感じられる。フレットレスと思われる⑩冒頭でのソロ、兼子が作曲に参加した④での歌心の効いたソロからは、熟年プレイヤーのような空気を感じた。まだ20代半ばという兼子の、ひと皮剥けた進化を垣間見た作品だった。(加納幸児/ベース・マガジン編集部)

    ◎作品情報
    『Asterism』
    DEZOLVE
    キングレコード/KICJ-874
    発売中 ¥3,300 全12曲

    ◎参加ミュージシャン
    【兼子拓真(b)】
    北川翔也(g)、友田ジュン(k)、山本真央樹(d)

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    『Back To The Pops』
    GLAY

    “ポップス”を自分色に染め上げる30年の重み

     デビュー30周年を迎えたGLAYが放つ、約3年ぶり17枚目となるフル・アルバム。『Back To The Pops』という決意を示すタイトルどおり、本作では彼らが見つめ直した“ポップス”を体現している。その楽曲群のなかで、JIROのベースは実に多彩だ。ベース・リフでグイグイと楽曲を転がす①にはじまり、②では、トリッキーな符割で攻める冒頭のスラップ、そして休符を生かしたリフ、ダブル・ストップなど、めくるめくフレーズが変化していく。さらに③では、バスドラムとシンクロするタイトなプレイからハイ・ポジションまで攻める優雅なプレイなど、1曲のなかでさまざまな表情を見せる。シリアスな展開から王道のポップにつながる⑦においても、常にベース・ラインが楽曲の場面展開を表現している。R&Bやシティ・ポップを自らに取り込み、それを“GLAY節”という形でアウトプットする、彼らの心意気を本作で見ることができる。自分たちのなかにある“ポップス”をここまで自分色に染めるバンドはほかにはいないだろう。(近藤隆久)

    ◎作品情報
    『Back To The Pops』
    GLAY
    ポニーキャニオン/PCCN-00064
    発売中 ¥3,850 全14曲

    ◎参加ミュージシャン
    【JIRO(b)】
    TERU(vo)、TAKURO/HISASHI(g)、TOSHI NAGAI(d)、ほか

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    『Aooo』
    Aooo

    今をときめく気鋭4人による
    実力と遊び心に溢れた1作目

     タイトなドラムに乗ったジョリっとしたギターとゴリっとしたベースの絡み、透明感と浮遊感が交錯していくヴォーカル。耳馴染みは良いがキャッチーとは言いがたい、捻くれポップ感をかき鳴らす爽快なオルタナ・ロック。今をときめく気鋭アーティストたちが集まったスーパー・バンドの1stアルバムだ。緻密かつ綿密に構築されたアンサンブルで4人がせめぎ合う②、すっぽ抜けていくようなカッティング・ギターと蠢くベース・ラインによるコントラストの妙味③、逆に弦同士の絶妙な絡み合いで楽曲を構築していく④など、プレイヤー同士の間合いが楽しい。ハネたギターと対象的にエンヴェローブがかった音色でねっとりまどろむ⑦や、メロディに寄り添いながら波を作っていく⑩など、ベースを追っていくだけでもおもしろい。⑤や⑪などの正攻法バンド・アレンジも秀逸。各々が自己主張しつつもバンドとしてのまとまり方が素晴らしい。4人の個性と頭抜けたセンス、確かなスキルがぶつかりあって生まれた強度の高い楽曲がずらり。(冬将軍)

    ◎作品情報
    『Aooo』
    Aooo
    ソニー/SRCL-13021
    発売中 ¥3,300 全12曲

    ◎参加ミュージシャン
    【やまもとひかる(b)】
    石野理子(vo)、すりぃ(g)、ツミキ(d)

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    『Infinity Glitch』
    トニー・グレイ

    オーケストレーションにも抜群の冴え。
    6弦達人の新作

     2000年代半ばから後半にかけて上原ひろみのグループに在籍し、後進の育成にも精力的な6弦ベースの達人、トニー・グレイが新作を発表した。単独アルバムとしては『Elevation』(2013年)以来10年ぶりとなる5作目だ。前作に参加していたマイク・スターンやローマン・コリンを再び迎え、ほかマーク・ジュリアナ、グレゴア・マレといった逸材を迎えて入魂のサウンドを届ける。作編曲はすべてトニー自身が担当。自ら手がけたオーケストレーションのなかに、いかにベースを位置させて、鳴らし、その響きを生かしていくか、彼は考えに考えて当プロジェクトに取り組んだに違いない。なかでも、バンジョー(!)とベースの絡み→エフェクトもかけた華麗なベース・ソロ→その後いろいろあってアウトロで(おそらく)ベースの多重録音も飛び出す⑥や、雄大な音世界で迫る15分近い組曲調⑦は圧巻。もちろんほかのナンバーでも、あまりにも滑らかなメロディ提示、サポートに回ったときの煽りたてるような弾きっぷりは冴えわたっている。(原田和典)

    ◎作品情報
    『Infinity Glitch』
    トニー・グレイ
    P-VINE/PCD-25432
    発売中 ¥2,750 全9曲

    参加ミュージシャン
    【トニー・グレイ(b,k,vo,prog)】
    マイク・スターン/ジョン・シャノン(g)、マーク・ジュリアナ(d)、ローマン・コリン(p)、グレゴア・マレ(harm)、ミノ・シネル(per)、ナヴィーン・クマール(fl)、ほか

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    『Mighty Vertebrate』
    アンナ・バターズ

    LAの注目ベーシストが見せる
    ドリーミーな心世界

     前作『Actives』(2022)で、世界の耳利きから多くの注目を集めた、オーストラリア出身のベーシスト/コンポーザーの最新作。その前作は、オーソドックスなドラムマシンや、キッチュなシンセ・サウンドも相まって、ベッドルーム・ポップ的なアプローチ。それも、バターズが多くをひとりで演奏したこともあり、内省的で、アンビエント・ジャズの文脈とも交錯したドリーミーな一作であった。それから2年後の『Mighty Vertebrate』だが、ロバート・ワイアットがプリンスになったかのような振り幅だ。前作と同様のマテリアルで、ベッドルーム・ポップ的ではあるが、そのサウンドとビートはより複雑で、よりリッチだ。外に世界が広がったうえで描かれるマインドスケープは、スケールやタッチ、画風に至るまでまったくの別物。今年は、ジョシュ・ジョンソンらとSMLを結成し、アルバムをリリースしたりと、LAシーンのなか存在感を強めるバターズ。ジョンソンやジェフ・パーカーなどが参加した今作は、他者とのつながりが違いを与えている。(hiwatt)

    ◎作品情報
    『Mighty Vertebrate』
    アンナ・バターズ
    rings/RINC125
    発売中 ¥3,080 全11曲

    参加ミュージシャン
    【アンナ・バターズ(b,g,k,fl)】
    ジョシュ・ジョンソン(as)、グレゴリー・ユールマン/ジェフ・パーカー(g)、ベン・ラムズデイン(d,per,g,prog)

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    『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』
    9mm Parabellum Bullet

    洗練しつつも揺るぎない
    ロック・バンドとしての核

     ロック・バンドと洗練や老練。そんな言葉が頭をよぎった結成20周年の節目のアルバムだ。経験を重ねるにつれ表現は広く繊細になり、さまざまな話法も身につく。ジャジィな⑦や雄大な⑩などは、確かに経験の賜物だ。①②のような十八番のスタイルでも、音色やフレーズの組み立ての著しい成長は20年という時が熟成させたものだと思う。ただ、それが落ち着いたとか丸くなったという印象につながらないのが本作の頼もしいところだ。④⑤のような、まさに“カタルシス”でクライマックスな楽曲、和製フォークとペイガン・メタルを融合させたかのような⑨などは、繊細にして攻撃的。古き良き歌謡曲テイストとヘヴィメタルという、デビュー時からの核が微塵もブレていないからこそ、説得力が生まれるわけだ。引き算の美学をうまく吸収した中村のプレイも、そこかしこで存在感を放っており、ファンク風にしろジャズ風にしろ、それをロック・ベースというフィルターを介してしっかり昇華している。ラストの⑪が示す未来に期待が膨らむ作品だ。(山本彦太郎)

    ◎作品情報
    『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』
    9mm Parabellum Bullet
    日本コロムビア/COCP-42383
    発売中 ¥3,350 全11曲

    ◎参加ミュージシャン
    【中村和彦(b)】
    菅原卓郎(vo,g)、滝善充(g)、かみじょうちひろ(d)

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    『虚仮の一念海馬に託す』
    ずっと真夜中でいいのに。

    低音が耳をつかんで離さない
    三者三様の極上アプローチ

     作詞作曲、ヴォーカルを務めるACAねを中心とする“ずっと真夜中でいいのに。”の1年4ヵ月ぶりの新作は、10月から放送のアニメ『ダンダダン』の主題歌②を含む6曲入りのミニ・アルバム。ベースを弾くのは、①④⑤が二家本亮介(有形ランペイジ)、②③が安達貴史、⑥が露崎義邦(パスピエ)。二家本は、2コードのシンプルなギター・リフのなかを引き出し豊かなリード・ベースで浮遊する①、ループ・フレーズを多彩に発展させながら、トラップ的な歌の譜割と呼応する圧巻の3連符フレーズでもベース的見せ場を作る④、BPM150台の軽快なダンス・チューンをスラップも繰り出しながら躍動させる⑤。安達は膨大な情報量が渦巻くアンサンブルのなかで針の穴をとおすような精巧さと力強さを兼ね備えたプレイで存在感を示す②。露崎はスクエアなリズムを刻みながらも音価の絶妙なコントロールやスライドで人間味を付加する⑥と、三者三様のアプローチが各楽曲を豊かに彩る。6曲をとおしてリズム的な聴きどころが途絶えない充実作。(辻本秀太郎/ベース・マガジン編集部)

    ◎作品情報
    『虚仮の一念海馬に託す』
    ずっと真夜中でいいのに。
    ユニバーサル/UPCH-20685
    発売中 ¥2,750 全6曲

    参加ミュージシャン
    【二家本亮介/安達貴史/露崎義邦(b)】
    ACAね(vo)、神谷洵平/河村吉宏/伊吹文裕(d)、菰口雄矢/有賀教平(g)、真砂陽地(tp)、半田信英(tb)、ほか

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    『Liquid Yellow Portraits』
    Shingo Suzuki

    ジャズとヒップホップが
    美しく溶けあう愛のサウンド

     Ovallのベーシストであり、プロデューサー/トラックメーカーとしても活動するShingo Suzukiのソロ・プロジェクト。即興演奏とサンプリングを緻密にエディットした本作は、ヒップホップやジャズ、ネオソウルやオルタナティブR&Bから培ったアイディアを再解釈し、自身のサウンドスケープへと巧妙に、かつ優雅に溶け込ませている。ジャズワルツにドランクビートを合わせたような有機的なグルーヴの①は、客演で迎えた5lackのフローに導かれるかのように、シームレスにウッド・ベースのソロへと展開する。②はソウルフルなトラックにメロディアスなベース・ラインに、突如としてニューヨーク仕込みのKojoeのラップが爆ぜ、⑦ではRuri Matsumuraの繊細なヴォーカルを縫うように、ルーズなタイム感のベース・プレイが心地良いコントラストを生む。あらゆるテクスチャのベース・フレーズがパッチワークされた⑫など、その手つきはどこまでも自由でありながら、ジャンルそのものが持つ“アティチュード”への深い愛情と希望が感じられる作品だ。(フガクラ)

    ◎作品情報
    『Liquid Yellow Portraits』
    Shingo Suzuki
    origami PRODUCTIONS
    OPCA-1062
    10/30 ¥2,750 全12曲

    参加ミュージシャン
    【Shingo Suzuki(b,etc)】
    FUYU/守真人(d)、渡辺翔太(p)、寺久保伶矢 (tp)、Nenashi/Ruri Matsumura (vo)、 KOJOE/5lack (rap)、Ol’ K (poetry reading)

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    *本記事は『ベース・マガジン2024年11月(Autumn)』のコンテンツをWEB用に再構成したものです。

    過去のディスク・レビュー記事はこちらから