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    【Live Report】 スティング – 2023年3月11日(土)/有明アリーナ

    • Report:Kazunori Harada
    • Photo:Kazumichi Kokei

    BASSIST:スティング
    ●2023年3月11日(日) ●有明アリーナ

    生まれ変わった定番と近作がバランスされた
    スティングの“今”が詰め込まれたステージ

     約3年半ぶりとなるスティングの日本公演“MY SONGS JAPAN TOUR 2023”の東京初日が、3月11日に有明アリーナで行なわれた。前回の来日ツアー同様、代表曲をアップデートしたアルバム『My Songs』(2019年)を携えてのステージになるだろうと予想はできたが、彼は2021年にニュー・アルバム『The Bridge』も発表している。アーティストとは、常に現在の創作を届けたいと願うもの。結果として、大定番と近作の両方がバランスされた、実に美味な音楽の特別料理をいただくことができた。

     オープニング・アクトを務めたのは、スティングの息子であるジョー・サムナー。2000年代初頭にフィクション・プレインのベーシストとして頭角を現わした気鋭も、いつしか40代半ばを迎えた。流暢な日本語MCも交えながら、“ここにいる超満員のオーディエンスをすべて俺のファンにする”的、気合のこもったギター弾き語りを披露する。バイデン米大統領のキャンペーンでも使われたという代表曲「Hope」を始めとするナンバーは、アメリカン・ルーツ・ミュージックへの敬愛を感じさせる楽想で、近々発表されるというソロ・アルバムを一層楽しみにさせた。

     場内が一気に暖まったあと、いよいよスティングのステージが始まる。名旋律や名歌詞が怒涛のように迫ってくるとわかってはいても、いざそれをナマで体験すると威力に圧倒されるしかない。歳月を超えて輝く楽曲の強度に触れ、それを自作自演するスティングの鮮度あふれる歌声と親指弾きによる暖かなベース・サウンドに耳を惹かれ、タイトなバンド・アンサンブルに唸らされ、ブラッシュアップされた編曲に進取の気性を感じ……夢中になって耳と目と感性を総動員しているうち、時間の概念が吹っ飛ぶ。

     共演メンバーは、もはや彼の右腕といっていいドミニク・ミラー(g)を筆頭に、ケヴォン・ウェブスター(k)、ザック・ジョーンズ(d)、ジーン・ノーブル(cho)、メリッサ・ムジク(cho)、シェイン・セイガー(harmonica)という選ばれし面々。舞台前方にヴォーカル用のマイク・スタンドが置かれていないのが不思議だったのだが、演奏が始まり、舞台下手からスティングがトレードマークのオリジナル・プレシジョン・ベース(ボディ塗装の剥がれ具合から、長年メインで使用している1957年製とは異なるベースだと思われる)を抱えて颯爽と登場して「Message in a Bottle」を歌い出した途端、ああなるほどと納得させられた。スタンド・マイクではなく、ヘッドセット・マイクを使用しているのだ(左耳にイヤモニをつけていた。後日いろいろなライヴ動画で再確認したところ、2022年からこのマイクに切り替えたようだ)。このマイクの使い方にも感心させられた。鋭くも暖かい独特の声使いはもちろん、息づかいまでが伝わってきそうなほど鮮明で、なのにサ行は鋭すぎることなく、鼻息のノイズも感じられない。スティングはプルを時折り差し込むメリハリのあるベース・ラインを聴かせながら舞台の左右を歩き、観客を沸かせるとともに音楽に没入させてゆく。彼は確かに、この1曲でアリーナの空気を掌中に収めてしまった。

     「Englishman in New York」が始まると、客席からさらに大きな歓声が沸き起こる。スティングはメロディを実に気持ちよさそうに、粋なフェイクも混ぜて歌っているが、私の耳にはヴォーカルと同じ比率でベース・ラインが飛び込んでくる。というのも、こうしたレゲエ調を織り交ぜた曲で彼のベース・ラインが醸し出すゆったりとしたノリ、深い音色が大好物だからだ。ときに音価を思いっきり伸ばすことでアンサンブルの空間に変化をもたらすアプローチからも、並外れたセンスを感じさせられる。“ジャズ・ベース奏者レイ・ブラウンの教則本で練習している”、“ライヴ前にはジャコ・パストリアスの「Teen Town」を弾いて指慣らしをする”など、いろんな談話を目にしたことがあるけれど、「Englishman in New York」や「Walking On The Moon」に横溢する、あのフィールはまさに神秘だ。

     「King of Pain」ではAメロ部分をブリッジ寄りのポジションで弾き、“There’s a little black sun”で始まる箇所からはピッキング位置をネックの最高フレット付近に移動して柔らかなトーンで演奏。ライヴを通して、曲のなかで親指弾きと2フィンガーを使い分けていた楽曲も多く、「Every Little Thing She Does is Magic」「Rushing Water」などではサビで2フィンガーに切り替えることで楽曲に華やかさが添えられた。「Heavy Cloud No Rain」のベース・リフで聴ける、親指弾きとスラップ奏法の中間のような独特の“いなたい”プルが効いた演奏や、“歌いながらこれが弾けるのか”と感心させられた「Seven Days」でのドラムと息の合った5拍子のフレーズ、「So Lonely」で聴かせた親指下向きのサムピングで弦を暴れさせるパワフルなプレイも印象に残った。最新オリジナル・アルバム『The Bridge』からは「If It’s Love」「Loving You」「Rushing Water」が連続で取り上げられ、さらに2021年にNetflixアニメ『Arcane(アーケイン)』に提供した「What Could Have Been」も同アニメの映像をバックに届けたが、改めて“名メロディ・メイカーはますます健在”と申し上げておきたい。

     アンコールでは「Roxanne」で巧みなリズム・チェンジと途中のレゲエ・ゾーンでの細かく刻むベースさばきで観衆を魅了。最終曲「Fragile」のみギターを手にしたものの、それまで繰り広げてきた20曲を通じて、スティングは一本のプレシジョン・ベースを弾きに弾いた。音響の良さもあいまって、ヴォーカルとベース双方の魅力を堪能できた極上の夜。一刻も早い再来日を楽しみにしたい。

    ■2023年3月11日(土)@有明アリーナ
    セットリスト
    Intro Jam
    01.Message in a Bottle
    02.Englishman in New York
    03.Every Little Thing She Does Is Magic
    04.If It’s Love
    05.Loving You
    06.Rushing Water
    07.If I Ever Lose My Faith in You
    08.Fields of Gold
    09.Brand New Day
    10.Shape of My Heart
    11.Heavy Cloud No Rain
    12.Seven Days
    13.Mad About You
    13.What Could Have Been
    14.Wrapped Around Your Finger
    15.Walking on the Moon
    16.So Lonely
    17.Desert Rose
    18.King of Pain
    19.Every Breath You Take
    20.Roxanne
    21.Fragile

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