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    INTERVIEW – 長谷川プリティ敬祐[go!go!vanillas]

    • Interview:Miku Jimbo

    純真無垢な姿勢で追い求めるグッドな低音

    ロックンロールを軸に多様なジャンルを混ぜ込んだ音楽性で日々進化を続けるバンド、go!go!vanillas。音楽的実験を追求しながらポップ性も深化させていく絶妙なバランス感覚は、3月に発表された新作『PANDORA』でもまた次のステージに到達し、ジャンルの枠にとらわれないサウンド・アプローチが痛快だ。2018年に交通事故に遭い、2019年に復活を果たしたベーシストのプリティは、回復するまでの過程で自身のプレイを見つめ直したという。楽曲に合わせて柔軟に形を変えるベース・アプローチは、より純粋な視点を持って演奏されたことがこのインタビューを通して伝わるだろう。アルバム制作の裏側について、プリティが語ってくれた。

    リズムが先行すれば、
    動きながら弾くのが気持ちよくなる。

    ――2020年は新型コロナウイルスの影響で、多くのアーティストが活動を制限されました。一方でgo!go!vanillas(以下、バニラズ)は、6月にリモート・セッション集『ドントストップザミュージック』を配信リリースし、同月の“STARTING OVER – Live at 東京タワー”をはじめ配信ライヴを積極的に行なうなど、音楽を止めずに動き続けていた印象があります。

     止めたくない一心でしたね。常に新しいものを、今のバニラズというものを提示したいっていうのと、この状況を逆手に取りたいって気持ちもありました。

    ――特にベースって、配信ライヴでの音作りが難しいように思います。

     いやー、ムズイですね(笑)。僕が思うのは、生の音と配信の音ってそのままイコールにはならないというか、配信は配信として作る感覚ですね。そこは分けて考えています。音を2個作ってるわけではないんですけど、マイクとラインのバランスだったり、そういうのも含めて考える感じですね。

    ――ライヴ会場ではベース・サウンドを体で感じるのに対して、配信ライヴはイヤフォンや手元のスピーカーで音を聴きます。その違いに対してアプローチするということでしょうか?

     それもそうだし、僕自身ライヴを観てて思ったのは、配信ってどうしてもベースの音がラインっぽくなってしまってテンションが上がらないんですよね。だから、自分がやるときもそこの感覚は大事にしたいなとは思っています。配信の音に関しては、僕が直接作っているわけではないんですけど、やっぱり聴いててテンションが上がる“ライヴ感”は欲しいなって思います。だから、アンプ・シミュレーターを導入しようか考えたこともあります。

    左からプリティ、ジェットセイヤ(d)、柳沢進太郎(g)、牧達弥(vo,g)
    『PANDORA』
    ビクター
    VICL-65477

    ――2020年11月23日には、有観客+配信という形で、日本武道館ライヴも成功させて、その模様を収めた映像作品『1st LIVE FILM -AMAZING BUDOKAN 2020-』も6月30日に発売されます。初の日本武道館ライヴを終えて、プレイヤーとしての現在の心境は?

     自分のプレイに関して“まだ伸びるな”って思う箇所もあったので、あの武道館から学ぶもの、得るものがあったのは嬉しいですね。それはプレイもそうだし、アクションもそうだし。

    「No.999」(Live at 日本武道館 2020.11.23)

    ――伸びる部分とは?

     右手のアタックの強さとかピッチもそうだし、アクションに関しては、動き先行な部分がまだあるなと思って。リズムが先行すれば動いてももっと気持ち良くなれるし、観てる側としても気持ちいいなって思いましたね。動きがあってそこにリズムが、というのではなくて、リズムがあってそこに動きがついてくる。余談なんですけど、スピッツの田村(明浩)さんがそれだなと思って。ちゃんとリズムがあって、そのうえで体がノッているので、ライヴを観ててめちゃめちゃ気持ち良かったんですよ。音を聴かないで観たとしても、リズムが感じられるなって思いましたね。

    ――なるほど。

     動きが先行しちゃうと、たとえそれがカッコいいと映ったとしても、“気持ちいい”には直結しないというか。ライヴに関しては、今後そういうのをもっと追求していかないとなって感じです。最近は家で座って弾くことが多いから(笑)。

    ――2021年3月24日にはメジャー5thアルバム『PANDORA』が発売されました。本作はやはり、プリティさんの復帰後、初のアルバムというのも大きなポイントです。事故の影響を一切感じさせないプレイに驚いたのですが、ここまで回復するには想像できないほどの努力があったと思います。

     復帰するまでは、真船勝博さん(FLOWER FLOWERのmafumafu)に習いながら練習したんですけど、最初は右手がボルトで固定されていたので、思うように振れなかったんですよね。そこで真船さんに“今は変な癖をつけるべきじゃないから、できる範囲で”と言われました。そのなかでいいアタック感や指の角度だったり、そういうのを習って。だから、ベースをまたイチから……いや、ゼロからの感覚で練習していました。新しいことを覚えながらでしたね。

    ――過去に誰かに習うことはありましたか?

     初めてですね。昔は人に習うことがちょっとカッコ悪いというか、自分ひとりでやっているのがカッコいいって思ってた人間なんですよ。でも、そういうものじゃないなって気付いて。

    ――楽譜は読めないけどものすごくベースがうまい、天才肌みたいなことがカッコよく思えたりしますよね。

     近いものがありますね(笑)。昔は“超人であれ”って思ってたので。たとえば、走ったり鍛えたりとか、そういうのを出さないけど“なんでこの人、こんなに強いんだ?”って思わせちゃうのがカッコいいって感じてました。でも、習ったほうが得るものもめちゃめちゃ多いし、プレイヤーとして生まれ変わった感覚ですね。今までいかに自分が何も考えずに弾いてたのかっていうのを思い知らされましたね。

    ――真船勝博さんに習うなかで、印象深かったことは?

     右手がまだ完全に動かないなかで、以前弾けてた速いフレーズが弾けないっていうのはあったんですよね。そのときに真船さんに言ってもらったのが、“いい意味での簡略化”です。サボるとか、弾けないから諦めるとか、そういう意味ではなく、曲に対してちゃんといいところを見つけて簡略化していく、という話は考えさせられましたね。

    ――これまで演奏してきた曲も“簡略化”したのでしょうか?

     そうですね。“これ、本当に必要か?”というのは簡略化しましたし、(柳沢)進太郎(g)や(ジェット)セイヤ(d)と一緒にスタジオに入ったときに、“ここはオモテ1個抜いてみたらどう?”と言われたり、そういうのは話しました。なんなら、今まで一番回数をこなしてきた「エマ」ですら変わってきてますね。

    ――人気曲のフレーズまでも再構築しているのですね。プレイに対する考え方も変わりましたか?

     完全に変わりましたね。だから今後もライヴを重ねていくうえで、どんどんベース・ラインが変わっていくんじゃないかなって。

    ――それもまた、ライヴの醍醐味ですよね。

     そうですね。僕も楽しいし、(お客さんにも)楽しんでもらえると思うし、そのときの自分のモードで変わってくる箇所もあると思う。弾きたいからって理由でガンガン弾く箇所も出てくると思います。

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