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櫻井哲夫×沖仁が語るフラメンコとフュージョンの交差点⸺“パコ・デ・ルシア的編成”で挑むEBISU JAM 2026
- Interview : Akira Sakamoto
ベーシストの櫻井哲夫とフラメンコ・ギタリストの沖仁が、10月9日(金)、東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで開催される“EBISU JAM 2026”で共演する。赤木りえ(fl)、Kan(per)を迎えた今回のステージは、パコ・デ・ルシアのセクステットを着想源に、両者のオリジナル曲や縁の深い楽曲を披露するもの。フュージョンとフラメンコ、それぞれのフィールドで培ってきた音楽性は、この編成でどのように響き合うのか。公演を控えたふたりに、企画の発端から選曲やアンサンブルの構想、さらに櫻井の使用予定機材まで話を聞いた。

“パコ・デ・ルシアみたいなバンドにしませんか?”という提案をいただいたんですよ(櫻井)
⸺EBISU JAM 2026で櫻井さんと沖さんが組むことになったいきさつを教えていただけますか。
櫻井:5月にEBISU Bloomin’ Jazz Garden 2026のイベントにかつしかトリオで出演したときに、主催者の方から“10月のEBISU JAMにジャコ・パストリアス・トリビュート・セッションのバンドで出演してもらえませんか?”という相談を受けたんです。ただ、トリビュート・セッションはジャコの命日の9月21日にライブをやるので、日が近いから難しいですねということになりました。ほかに櫻井哲夫バンドもやっているんですが、こちらは10月10日に横濱JAZZ PROMENADEに出演することが決まっていて、これもまた日が近すぎるということで(笑)、それでは1から何か考えましょうということになったんです。
⸺なるほど。
櫻井:それで、沖仁さんが良ければ一緒にやってみたいと主催者の方に提案したら、“それは楽しみですね”と言っていただき、沖さんに興味を持っていただけるか打診していただいたら、お忙しいスケジュールのなかご快諾いただけたというわけです。

(撮影:堀清香)
Profile
さくらい・てつお⚫︎ ベースという楽器を使って自己実現を追求。独特の温かさや激しさを持つオリジナル曲と、スラップ・ベース奏法、6弦フレットレス・ベースなどを使ったベース・プレイで生涯現役を目指す。1979年、CASIOPEAのオリジナルメンバーとしてレコード・デビュー。ソロ活動として、デニス・チェンバース、グレッグ・ハウとのGENTLE HEARTS プロジェクトや、イヴァン・リンス、ジャヴァン、フィロ・マシャード他との BRASIL CONNECTION などをプロデュースし、国内外で活動。現在のリーダー活動は、ソロ・ライブ、櫻井哲夫バンド、 Jacoトリビュート・ライブ。後進の育成として、昭和音楽大学で客員教授、Warwick Bass Camp にも参加。近年の活動として、2021年、80年代のカシオペアメンバー、向谷実、神保彰とともに「かつしかトリオ」結成活躍中。
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⸺今回はパコ・デ・ルシアのセクステットを着想源に、ギター、ベース、フルート、パーカッションという編成になっていますが、沖さんに打診する段階ですでにこの構想はあったんですか?
櫻井:実を言うと、最初は沖さんとデュオができれば良いと思っていました。でも、会場の恵比寿ザ・ガーデン・ホールはキャパが700人ぐらいなので、やはりバンドのほうが良いかなと迷ってもいたんです。そうしたら、主催者の上司の方から、“パコ・デ・ルシアみたいなバンドにしませんか?”という提案をいただいたんですよ。
その方がパコの日本公演に立ち会っていらしたみたいで、その印象がすごく良かったそうで、“今回もバンド形式にしませんか?”とパコのライヴ動画まで送ってくれました。僕もそれを観て“すごいな”と思って、今回の企画でこれが実現できたら最高だということで、沖さんに相談したら、“それはワクワクしますね”と言っていただけました。
それで、沖さんのギターと僕のベースが核になるという部分はそのままに、フルートの赤木りえさんとパーカッションのKan君にも参加してもらうことにしました。Kan君は以前に沖さんと共演したことがあるということでしたし、赤木さんとは僕がカシオペアやJIMSAKUの活動をしていた頃にセッションをしたことがあって、エネルギッシュなソロを取る方だというのがわかっていたので、これはおもしろくなりそうだなと思いましたね。

⸺沖さんにとっては、パコ・デ・ルシアみたいなバンドをやるというのはド直球の企画だと思いますが、櫻井さんから相談を受けたときには、どのような感想を持ちましたか。
沖:そうですね、僕の側からするとパコのセクステットは金字塔というか、ひとつの完成された世界というイメージがすごくあって、いまだにフラメンコのギタリストはみんな、“その世界観からどうやって抜け出そうか”ともがいているという印象があるぐらい、影響力が強いんです。僕自身も、パコのセクステットはオーチャード・ホールで観たのかな? その一度しかないんですけれど、そのときにもあまりにも圧倒されすぎたのか、気持ち悪くなっちゃって(笑)。本当にフラフラになっちゃって、渋谷駅まで歩く途中の茂みに座り込んで、しばらく動けなかったんですよね。

Profile
おき・じん⚫︎ 幼少より多様な楽器に親しみ、クラシックギター、アコースティックギター、エレキギターを体系的に習得。その後フラメンコギターに転身、スペインにて研鑽を積む。1997年日本フラメンコ協会新人公演にて奨励賞を受賞。2006年にメジャーデビュー。2009年スペインのムルシアニーニョリカルド国際コンクールにて準優勝。翌年同コンクールにて国際部門日本人初の優勝を果たす。コンサート活動ではソロ演奏に加え、国内外のトップアーティスト、オーケストラ、バレエ、長唄、能、フィギアスケートなど多彩なジャンルと共演。教則本や執筆活動など後進の育成に尽力するとともに、EXILEをはじめとするアーティストや映画への楽曲提供・プロデュースを手がけ、作曲家としても活動の幅を広げている。ジャンルの枠を越え、フラメンコギターの新たな可能性と独自の表現を追求し続けている。
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櫻井:へぇ、そうだったんですね。
沖:で、僕のスタンスとしては、いかにパコとは違うことをやるか、みたいなところは昔からありますね。
⸺ある種のタブーというか、触れてはいけないところみたいな感覚なんでしょうか。
沖:あそこまでやられちゃうと、うしろを追いかけても厳しいというか。やっぱり“自分ならではの道を、目指すしかないんじゃないか”ということは、わりと若いうちから意識していましたね。まわりの人たちがパコを神様扱いしていたし、スペインでも、フラメンコの人たちは街によって系統が違うし、流派がたくさんあるなかで、誰もが口をそろえて絶賛するのってパコしかいないような気がするんですよね。
それぐらいすごいから、違う路線をっていう気持ちもあったんですが、結局は間接的に影響を受けざるを得ないっていうところはありました。で、今回は形としてはパコというのがあったとしても、自然と違うものにはなるだろうということで、あまり意識はせずにやろうと思っています。
⸺パコのセクステットと言えば、“フラメンコ・ベース”という言い方が正しいのかどうかわかりませんが、セクステットで長年ベース・パートを担っていたカルロス・ベナベンテは、ある種の基準を確立したと思うんですよね。
沖:まさにそうですね。
⸺そういうことについて、櫻井さんはどのように感じていますか。
櫻井:僕はパコのセクステットのライヴを生で観たことはなくて、YouTubeの動画でしか観ていないんですよ。だから、僕にとってはこれまでに触れてこなかった分野なので、恐いもの知らずというか(笑)、挑戦のつもりでやってみたいなという感じです。それに、僕がやるとそんなにパコっぽくはならないと思うんですよね。僕自身、ベースを50年も演奏しているので、そんなに本格的にパコを追求しているアンサンブルにはならなくても、自分の音楽性を盛り込んで、良い形に仕上げたいと思っています。
⸺これまでにも、特にパコのセクステットを研究したことはなかったのでしょうか。
櫻井:ないんですよね。右手のピチカートがなんであんなに速いのだろうと追求したことはありますが、今回演奏する曲もカヴァーの曲以外は沖さんと僕のオリジナルだし、パコを追い求めたイベントというわけでもないので、沖さんの曲に対して自分の音楽性がちゃんと成立すれば良いと思っています。パコのセクステットというコンセプトを提示されて、すごくカッコ良いので“これは挑戦したいな!”という解釈で臨んでいますが、そこはあまりこだわり過ぎずに、自分が最高に楽しめるアンサンブルにしたいというスタンスでいます。
亀田誠治さんから“ひとつだけお願いがある”と言って提示されたアイディアが、沖さんをゲストに迎えて「Just The Two Of Us」をやる、というものだったんです(櫻井)
⸺事前にいただいたセットリストによれば、パコとアル・ディメオラがデュオで録音した「地中海の舞踏」が唯一のパコ絡みの曲ということになりますね。
沖:そうですね。
櫻井:これ、ディメオラのソロ・アルバムに入ってましたよね?
沖:パコの「Rio Ancho」という曲とディメオラの「地中海の舞踏(原題:Mediterranean Sundance)」をドッキングさせたものです。
櫻井:そうだったんですね。
▲アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシア&ジョン・マクラフリンによる「地中海の舞踏」「Rio Ancho」
⸺ネタバレになってしまう部分もあるので、具体的な曲についてはあまり詳しく触れないようにしますが、セットリストのカヴァー曲のなかでは「Just The Two Of Us」が異彩を放っている感じですね。
櫻井:これはやはり、パコ・デ・ルシアありきではなく、沖さんとのデュオありきで決めた曲なんです。僕が自分のアルバム『Nothin’ but the Bass』(2015年)を亀田誠治さんにプロデュースしてもらったとき、亀田さんから“ひとつだけお願いがある”と言って提示されたアイディアが、沖さんをゲストに迎えてこの曲をやる、というものだったんです。
沖:それは知らなかったです(笑)。
櫻井:そうなんですよ。亀田さんが、僕と沖さんのコラボでこの曲を聴きたかったという。沖さんとの出会いの本当の始まりなので、この曲は外せないんです。
▲櫻井哲夫、沖仁「Just The Two Of Us」
⸺なるほど。そういうことなら外すわけにはいきませんね。で、沖さんのオリジナルはどれもフラメンコを基調にしたもののようですが。
沖:ええ、1曲はあまりフラメンコっぽくありませんが、それ以外はフラメンコの形式にしっかりはまる感じですね。
⸺櫻井さんの曲はカシオペア時代からJIMSAKU、ソロ作品まで幅広いですが、どういった基準で選んだのでしょうか。
櫻井:今回は沖さんからいただいた候補曲を僕のほうで選ばせてもらったんですが、フラメンコの要素は沖さんの曲で十分に盛り込まれていると思っています。一方の僕の曲はとてもメロディアスで、野呂(一生)さんや渡辺香津美さんとのデュオでやっていたので、沖さんともデュオでの存在感が出せるだろうし、沖さんにいつもとは違うタイプの音楽をやってもらうコーナーみたいな感じで、僕自身も楽しみにしているんですよ。まだリハーサルをやっていないので何とも言えませんが、沖さんに“この曲は新鮮だなあ”とか言ってもらえると嬉しいなと思っています(笑)。
⸺アレンジはもう出来上がっているんですか?
櫻井:できているものと、いないものと、沖さんの曲も譜面と音はもらっていますが、沖さんの曲は僕がベースで弾いたことがないので、やってみないとわからないんですよ。あとはリハーサルのときにみんなで良い形にしましょうということで、今はお客さんに喜んでもらえて、参加してくれるミュージシャンのそれぞれが生きるように曲順を考えたという段階です。いちばん未知数なのは、最後のほうでやる僕の曲なんですよ(笑)。この編成でどうなるかというのは、やってみないとわからないので。
ただ、基本的には、沖さんのフラメンコ・ギターのバッキングが生きる形というか、フュージョン・ギタリストとは違うままでやってもらって、フルートにメロディを取ってもらえれば、このメンバーでやるイベントのハイライトになるんじゃないかなと思っています。
⸺特に「Wonderland In The Sky」は6/8拍子の曲ですから、フラメンコとの相性は良さそうですね。
櫻井:まさに!ですよね〜!? そう思ったんですよ(笑)。沖さんがグァーッとグルーヴしてくれて。あとね、Kan君が良いんですよ。Kan君と沖さんがグルーヴしてくれたら……けっこう大変な曲なんですけれど、新しいアレンジになるんじゃないかと、すごくワクワクしています。
▲櫻井哲夫「Wonderland In The Sky」
櫻井さんのベースはよく歌っているなぁと感じるときがあるし、曲にも歌心があるなぁと感じています(沖)
⸺沖さんは、櫻井さんの曲を渡されてどういう印象でしたか?
沖:やはり難しそうだな、という印象でしたね(笑)。正直、カッコ良いなあと思いながら、野呂さんのギターも入っていて、“え、こんなの僕にはできないんだけど”みたいな(笑)。でもまぁ、そこがスタートだとすると、これを自分なりに弾きこなすにはどうしたら良いだろうとか、こうやったら沖仁らしくなるかなとか、いろいろと模索しながら練習していて、今はちょっと光が見えてきたかなという段階ですね。
櫻井:まだ音を出していないから楽しみですね(笑)。
沖:そうですね。でも、素晴らしい内容になる予感で胸がいっぱいです。僕はもともとロックとかフォークとか、コード進行が比較的単純な音楽から入っているので、分数コードがたくさん出てくる曲なんかは“すごいなぁ……”という感じもあるんですけれど(笑)。まぁ、いろいろ勉強しながら取り組んでいます。
櫻井:ややこしくてすみません(笑)。

⸺櫻井さんの曲は、メロディはキャッチーだけれどコード進行はかなり凝ってますもんね。
櫻井:気合いを入れてコード進行を考えた曲もありますから、ちょっと大変かもしれませんね。
⸺フラメンコ・ギターのコードも、パコの世代あたりからけっこう凝ったものになっていますよね。
沖:そうですね。今の人たちもかなり複雑なコード進行の曲を演奏しますが、僕らは指の形でコードを作っていて、コード・ネームが先にあるというのは全然やってきていないんですよ。だから僕も、櫻井さんと出会って「Just The Two Of Us」とか、“これをどうやってやればいいんだろう?”というところからスタートしていたので(笑)。
櫻井:そうだったんですか。
沖:そうなんですよ。なんか、いっぱい転調しているみたいな感じだけど、“こういうときにはどうすれば良いのかな?”とか(笑)。で、僕も渡辺香津美さんとデュオをやらせていただくなかで勉強した部分もありますが、香津美さんもわかってらっしゃるから、フラメンコでアプローチしやすい感じにいつもリードしてくださっていたんですよ。なので、今回はフュージョンの真髄を見た、みたいな感じです(笑)。
⸺そういうお話を聞くと、観客としてはますます楽しみになりますね。あと、櫻井さんにはもうひとつ、今回使用予定の楽器についても教えていただけますか。
櫻井:今のイメージでは、「Just The Two Of Us」はもともと、4弦のジャズ・ベースのスピード感が欲しかったので、今回もフレッテッドのフェンダー・ジャズ・ベースを使うつもりです。沖さんのフラメンコも、スピード感を緩めないようにやはりジャズ・ベースを使うでしょうね。で、僕の曲では2年前にかつしかトリオのためにヤマハに作ってもらった、ミディアム・スケールの6弦TRBを使う予定です。TRBなんですが、パッシヴも良い音で使えるようになっているんですよ。
⸺エフェクターについてはいかがですか?
櫻井:今ちょうど機材を見直しているところで、とりあえずSARTOとDarkglassのAnagramも仕入れたので、今のところは生音のクオリティを安定させるためにこの2台を基本にして、Line 6のHX Stompで空間系のエフェクトを足すようにしようかなと考えています。
⸺これまでお話をうかがっただけでも、かなり楽しみな感じがしてきました。最後に、このイベントを楽しみにしている方々へのメッセージをお願いできますか。
櫻井:沖さんとがっつりコラボさせていただく、こういう企画は今回が初めてで、赤木りえさんとKan君も今回のコンセプトにぴったしのメンバーなので、みなさんにもぜひ、ご来場いただいて体験していただきたいと思っています。
沖:EBISU JAMは4日間のイベントですが、ほかの出演者はみんな歌の方で、インストは僕らだけなんですよね。なので、インストでありながらも歌心を聴かせられれば良いなあと思っています。その点、櫻井さんのベースはよく歌っているなぁと感じるときがあるし、曲にも歌心があるなぁと感じているので、皆さんには気軽に観に来ていただけると嬉しいです。
公演概要
YEBISU GARDEN PLACE 32nd ANNIVERSARY WEEK SPECIAL PRESENTATION!
EBISU JAM 2026「櫻井哲夫 with 沖仁 featuring 赤木りえ, Kan × EBISU JAM」
2026年10月9日(金)恵比寿ザ・ガーデンホール
開場17:45 / 開演18:30
出演者:櫻井哲夫(Ba) / 沖仁(Gt) / 赤木りえ(Fl) / Kan (Per)
チケット:指定席 ¥8,800(税込)
■チケット一般発売中!
WEB受付
e+(イープラス) https://eplus.jp/ebisujam2026/
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/ebisujam2026/
ローソンチケット https://l-tike.com/ebisujam/
【EBISU JAM 2026】
オフィシャルサイト https://ebisujam.com/2026/

