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ロジャー・サドウスキーが語る、ブランド創始者/ビルダーとしての確固たる信念
- Interview:Kei Tsujii(Bass Magazine)
- Interpretation:Akira Sakamoto
楽器を1万本以上作ってきた経験からも、指板材がサウンドに最も大きく影響するのは間違いない。
━━サドウスキーのベースは、アッシュのボディにはメイプル指板、アルダーのボディにはモラド指板という組み合わせがメインになっているようですが、これはどういった理由によるものですか?
ベースと言えば60年代や70年代のジャズ・ベースを連想する人が多いわけですよね。材の違いでサウンドも違ってくるわけですが、たとえばマーカス・ミラーのようなサウンドが欲しければアッシュ・ボディとメイプル指板を選びますし、私の大好きな60年代前半のLシリアルのジャズ・ベースのようなサウンドが欲しければアルダー・ボディとローズウッド指板を組み合わせて、より甘くて暖かみのあるサウンドを狙います。私自身はこれらとはまた違った組み合わせで作ることもありますが、一般的には70年代のフェンダーと60年代のフェンダーというのがわかりやすいと思います。
━━指板について聞きたいのですが、サドウスキーではハイ・ポジションの部分をわずかに斜めに削っているそうですが、これはなぜですか?
ネックのハイ・ポジション側の先端がボディに当たる部分に弦のテンションがかかると、ネックが指板の表面側に反ろうとするので、あらかじめ指板のハイ・ポジションを斜めに削って、テンションがかかった状態でちょうど平らになるようにしてあります。
━━リペアマンとしてのあなた自身の経験も楽器の設計に反映されているわけですね。
リペアの仕事も40年やっていますからね(笑)。
━━またサドウスキーのオリジナル・プリアンプですが、アクティヴでありながら“Vintage Tone”というパッシヴのコントロールが追加されていたり、トレブルとベースのEQがブーストのみだったりと特徴的に感じます。なぜこうした仕様にしたのでしょうか?
“Vintage Tone”が付いているのはMetroLineで、MetroExpressには付いていませんが、アップグレードで“VintageTone”を追加することはできます。ベースにアクティヴ・システムを採用したのは1979年の終り頃から80年の始め頃にかけての時期で、最初に採用したのはサンフランシスコで数人のスタッフが設立した“Stars Guitars”というメーカーのもので、これがトレブルとベースがブーストのみのタイプでした。
しかし、このメーカーはやがて倒産してしまったので、その後はバルトリーニのTCTを使うようになって、これもまたトレブルとベースがブーストのみでしたね。そして、1990年にペダル型のプリアンプを作ろうと思ったときには、回路を自社で開発する必要があったので、アレックス・アギュラーに設計を依頼しました。
彼はのちにアギュラー・アンプリフィケーション社を設立しますが……それはともかく、私が使ってきたプリアンプの回路はトランジスターを使ったもので、ほかの多くのプリアンプはオペアンプを使ったものでした。 トランジスターの回路は真空管のような温かみのあるサウンドですが、イコライザーはカットができずに、ブーストのみになります。オペアンプの回路はカットもブーストもできます。ただ、私は“何かをカットしたい”というプレイヤーを聞いたことがありません。みんな何かを“加える”方向でサウンド作りをしていますし、私のプリアンプは長年にわたって、録音エンジニアからもPAエンジニアからも大好評で、ミキサーにつなぐだけで何もいじらなくて済むと言われてきました。
とはいえ、ブーストだけのプリアンプでは、トレブルは絞り切ってもフラットになるだけで、それよりも暖かみのあるサウンド作りはできません。それで、プリアンプに“Vintage Tone”コントロール(VTC)を追加したわけです。VTCはフェンダー・ベースのトーン・コントロールと同様のパッシヴ式で、高音域を抑えて暖かみのあるサウンドにできますが、私のプリアンプと組み合わせることで、VTCで高音域をカットしたときにアクティヴのトレブルを少しブーストしてサウンドの明瞭度を確保するといった、より多彩な使い方もできるようになっています。VTC付きのプリアンプ・アッセンブリーは別売で用意しているので、それを使えばMetroExpressでもVTCが使えるようになります。
イベントの途中には、イベント参加者からロジャー・サドウスキー氏に聞いてみたいことを尋ねてみることができる時間が設けられており、そこで尋ねられた質問にも彼は真摯に答えてくれた。
【参加者からの質問(1人目)】
━━私はプリンスの大ファンですが、あなたはプリンスのために映画『パープル・レイン』の最後のシーンで使われたギターや、プリンスの「America」などの曲で使われていたテレキャスター・モデルなどを作っていますよね?プリンス関連で何かおもしろいエピソードがあれば、教えていただけますか?
『パープル・レイン』の最後のシーンで使われたのはギター型の小道具で、最初はヘッドから液体を噴射する仕掛けを組み込みつつ、実際に弾けるものを作って欲しいと依頼されたのですが、結局は小道具として2本作りました。「America」で使っていたギターは現在オークションにかけられていて、落札価格は40万ドルぐらいになるのではないかと言われているようです。
プリンスとのエピソードということでは、ミネアポリスにあるプリンスのスタジオまで行って本人と会ったことがあります。ただ、プリンスが何か言うときにはまず彼が自分のボディガードに話して、ボディガードが私のところまで来てそれを伝えに来るというやり方でした。ずいぶん失礼な奴だと思いましたし、あまり良い気分ではありませんでした(笑)。私は顧客のアーティストたちと友だちにまでならなくても、少なくとも彼らの要望は直接話して聞かせてもらいたいと思っていますから、その意味ではあまり楽しい思い出とは言えませんね(苦笑)。
【参加者からの質問(2人目)】
━━『ベース・マガジン』の記事で、“ボディ材よりも指板材のほうが楽器のサウンドへの影響が大きい”というあなたの発言を読んだことがありますが、その考え方は今も変わりありませんか?
それは間違いなく私自身の経験から来たものです。私は指板材のメイプルとエボニーとローズウッドのサウンド違いのほうが、ボディ材のアルダーとアッシュとオクメのサウンドの違いよりもはっきりと聴き取ることができます。指板材はメイプルが最もブライトかつタイトなサウンドで、マーカス・ミラーのようにスラップでファンクをやるのに向いています。ローズウッドはより甘くて暖かみのあるサウンドで、ウィル・リーは昔からずっと好んでいますね。エボニーは最もアタックが速く、弦の基本波がしっかり出てパンチのあるサウンドが特徴で、ブライトさの点ではメイプルとローズウッドの中間ぐらいです。
あと、ローステッド・メイプルは通常のメイプルよりもわずかに温かみのあるサウンドになります。このように、私は指板材がサウンドに最も大きく影響するのは間違いないと考えています。ネット上では、材の違いは関係ないという人もいますが、メイプル指板のミュージックマンとローズウッド指板のアイバニーズを比べていたりすることもあります。しかし私は、同じデザインの楽器を1万本ほども作ってきた経験から言っているので、疑いようはありませんね。
━━では最後になりますが、サドウスキー・ブランドとして今後目指していることを教えていただけますか。
新製品としては、ちょうど今日(11月3日)SNSで公表したのですが、現在6弦ベースのプロトタイプを製作中で、来年1月のNAMMショウで公開できればと思っています。とはいえ、フェンダー社やギブソン社のような大メーカーとは違って、私の会社では新しいモデルを毎年発売するつもりはありません。新しいデザインはいくらでも考えられますし、アーティスト・モデルなどの可能性もありますが、今のところ私たちが作っているアーティスト・モデルはウィル・リー・モデルとヴァーダイン・ホワイト・モデルの2種類だけで、これ以上数を増やす意味はあまりないと思っています。
ワーウィック工場製のものは2021年から毎年、スペシャル・エディションとして通常とは異なる木材やデザインのモデルを限定生産しています。それはMetroLineで100本、MasterBuiltで50本といった具合で1本ずつ私の直筆のサインが入った証明書が付いていますが、あくまでも通常のモデルの範囲内でやっていますよ。
ロジャー・サドウスキー●1949年5月31日、米国ニューヨーク州ブロンクス生まれ。大学生の頃よりギターを始め、1972年からアコースティック・ギター製作に関わる。1974年からは楽器店でリペアを担当し、エレクトリックのギターやベースはもちろん、ヴァイオリンやアップライト・ベースの修理を学び、楽器に対する見識を深めた。1979年にはNYに自身の工房を設立。1980年には、若き日のマーカス・ミラーと出会い、彼の1977年製ジャズ・ベースにカスタマイズを施すことで、その名を広めた。その後は自らのブランドでオリジナルの楽器の製作を手掛け、現在ではウィル・リーやニール・ジェイソンやエアロスミスのトム・ハミルトン、アース・ウインド&ファイアーのヴァーダイン・ホワイト、タル・ウィルケンフェルドなど、ジャンルを超えた実力派たちがサドウスキーのベースを愛用している。◎オフィシャルHP
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