プランのご案内
  • SPECIAL

    UP

    【Special Talk Session】トニー・レヴィン × 関根史織

    • Translation:Tommy Morley
    • Photo:Takashi Yashima

    奥深き弦楽器“チャップマン・スティック”の魅力

    1969年にアメリカのジャズ・ミュージシャン、エメット・チャップマンによって発明された“チャップマン・スティック”は、両手タッピング奏法に基づいてデザインされた、ギターとベースをルーツとする弦楽器だ。ベース・ライン/リード・メロディ/コード/リズムなどを同時に組み合わせ可能で、自由度の高い奏法、そして多様性に優れた唯一無二のサウンドは世界中で多くの愛好者を生んでいる。今回、キング・クリムゾンのトニー・レヴィンが率いるチャップマン・スティックとドラムによるロック・バンド、スティック・メンの来日にあたり、トニー・レヴィンの大ファンでもあり、チャップマン・スティックを用いたソロ・プロジェクト、sticoとしても活動するBase Ball Bearの関根史織が、インタビュアーとしてトニーと邂逅。関根の“トニー・レヴィン愛”とともに奥深いチャップマン・スティックの世界をベーシスト目線で検証する。

    “どうしてわたしは80年代のキング・クリムゾンを聴いてこなかったんだ!”
    と後悔しました。
    ━━関根史織

    関根:初めてチャップマン・スティックを知ったときのことを教えてください。

    トニー:あれは1976年のことで、“ベース用の弦も張ってある、タッピングでプレイする楽器がある”という噂を聞いたんだ。その後ロサンゼルスに行ったとき、スティック・エンタープライズにアポイントを取って実際にプレイさせてもらった。そこで気に入って購入したのがきっかけだったね。

    関根:そうなんですね。わたしはトニーさんのスティックの演奏をYouTubeで観たときに衝撃を受けて、それから自分でもチャップマン・スティックを始めたんですよ。なので今日お会いできて本当に嬉しいです。

    トニー:ありがとう、僕も嬉しいよ。スティック・メンではスティックだけをプレイしているけど、キング・クリムゾンではべースもプレイしている。だからベースしかプレイしていないバンドもあるし、ベースとスティックの両方をプレイするバンドもあるんだ。

    関根:わたしはずっと70年代のキング・クリムゾンを聴いていて、私が30歳になるくらいのときに初めてトニーさんが参加された80年代のキング・クリムゾンを聴いたんです。そのとき初めてチャップマン・スティックという楽器を知って、“どうしてわたしは80年代のキング・クリムゾンを聴いてこなかったんだ!”と後悔しました。

    トニー:ハハハッ。

    関根:トニーさんのスティックの演奏を観ると興奮して眠れなくなりました。それでいつかわたしがスティックを弾いたらおもしろいんじゃないかと思って始めてみたんですけど、思っていたよりみんな反応してくれませんでした。

    トニー:ハハハ、そういうところはあるかもね。スティックはいろいろと特殊な楽器だから。

    関根:そうですよね。わたしがトニーさんから受けた衝撃を日本の自分より若い人たちにも同じように与えられるのでは、と思ったのですけど、そううまくは行きませんでしたね。でも自分はチャップマン・スティックをステージで弾いて、こうやってトニーさんに会えることができたので、やってきてよかったなと思っています。ちなみにキング・クリムゾンのライヴはこれまでに2回観させてもらっています。

    トニー:そうなんだ。東京で?

    関根:はい。昨年12月と数年前に観に行きました。あとメンバーが浅草を観光している映像が収録された日本でのライヴDVDも持っているんですけど、それはわたしの宝物です。

    トニー:あれか! かなり昔の作品だよね。とても光栄だよ。君は僕のことをよく知ってくれているようだね。

    関根:はい、本当に好きなんです。日本の作品だと、南佳孝さんのレコーディングにも参加されていますよね?

    トニー:うん、本当によく知ってくれているね。

    関根:そういったトニーさんがレコーディングに参加された作品はいろいろと聴かせてもらっています。そのなかでスティック・メンを聴いて、わたしもチャップマン・スティックとドラムのふたりでプレイするユニット、sticoを作ったんです。

    トニー:ワォ、ナイスだね。どんな音楽なのか聴いてみたいよ。

    関根:もしよろしければCDをお渡しするので聴いていただきたいです!(CDを渡す)

    トニー:どうもありがとう。これからも良いリリースを続けていけることを祈っているよ。

    関根:ありがとうございます。わたしは本来、Base Ball Bearというロック・バンドでエレキ・ベースを弾いていまして、そのサイド・プロジェクトとしてスティックを演奏しているんです。

    トニー:そうなんだ。僕といろいろと似ているね。君はどんなベースをプレイするんだい?

    関根:フェンダーのプレシジョン・ベースですね。

    トニー:僕も初めて手にしたベースはプレシジョン・ベースだったよ。ナイスなサウンドだよね。

    関根:ベースとスティックでは使用感が大きく異なると思うのですが、トニーさんが初めてチャップマン・スティックを触ったとき、どのような印象を持ちましたか?

    トニー:一般的なベースと違って、すごくパーカッシブな楽器だと感じたね。低いポジションでも速くプレイすることができるけど、これがベースだとドロっとしたサウンドになってしまうからね。あと弦が5度の関係になるようにチューニングされているから、音程差の大きなジャンプが簡単にできてしまうのも嬉しい特徴だよね。

    関根:確かにそうですね。プレイしてみて難しさは感じませんでしたか?

    トニー:もちろん最初は難しかったさ。だから長い時間をかけて習得していったし、それなりにプレイできるようになるまで、かなり時間を要したよ。最初はピーター・ガブリエルのツアーで簡単な曲を1曲プレイしただけだったけど、その翌年からもっと多くの曲をプレイするようになったんだ。

    Tony’ Stick

    トニーのスティックはベース弦とメロディ弦が6本ずつの12弦タイプ。スケールは36インチで弦間ピッチは約7.62mm。“僕は基本的にベース側をメインにプレイしているんだけど、スティック・メンではトップ弦もたくさん使っているんだ”。12弦のレギュラー・チューニングは最も低い7弦がC、そこから5度ずつ上がり8弦がG、9弦がD、10弦がA、11弦がE、12弦がBで、これら低音弦側は左手で演奏する。右手で奏でる高音弦側は、6弦がC♯、そこから4度ずつ上がり、5 弦がF♯、4 弦がB、3 弦がE、2弦がA、1弦がD となる。

    Sekine’s Stick

    関根のスティックはベース弦とメロディ弦が5本ずつの10 弦タイプ。スケールは36インチで、弦間ピッチは約8.13mm。ナットと1フレットの間に起毛素材のノイズ避けが装着されているが、近年のモデルではマジックテープ状のものになっている。チューニングはレギュラーの状態で使用しており、低音弦側は6弦がC、そこから5度ずつ上がり7弦がG、8 弦がD、9弦がA、10弦がE 。高音弦側は5弦がF♯、そこから4度ずつ上がり、4弦がB、3弦がE、2弦がA、1弦がDとなる。

    ▼ 続きは次ページへ ▼