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<祝!デビュー30周年&映画大ヒット>柏原譲 フィッシュマンズ時代のアーカイヴ・インタビューを特別公開
- Photo:(C)2021 THE FISHMANS MOVIE
柏原譲『空中キャンプ』リリース時「ザ・直伝!」(1996年3月号)
5thアルバム『空中キャンプ』 リリース時には、当時の人気連載企画であったベース奏法講座「ザ・直伝!」に登場し、自身のプレイ・フォームの解説などをしてくれた。ここでは、同作から始まる“世田谷三部作”を生み出したプライベート・スタジオでの制作環境についてや、ベース先行型のリズム構築、録音とミックスに対する哲学など、アルバムに関するコメントを抜粋してお送りしよう。
コンセプトとしては“ひとり聴きの音楽”を作ろうってのが最初にあって
プライヴェート・スタジオ“HAWAI STUDIO”で、新作『空中キャンプ』を録音したフィッシュマンズ。今作ではデジタルを駆使したレゲエ・サウンドが印象的だが、それを支える柏原のベースも見逃せない。
楽器用のプリアンプは使わないようにしました。
昨年の7月末に自分たちのレコーディング・スタジオ“HAWAI STUDIO”を作り始めたんです。で、ちょっとずつ機材が入ってきた時点で、レコーディングに取りかかったんですよ。今回はココで録るというのが主旨だったというか(笑)。
スピーカーはあまり使わなかったですね。その代わりにパルマーという、スピーカー・シミュレーターを使いました。いろいろ音が変えられて、しかもスピーカーで録るよりも完璧に録れるんです。これを使うのは今回で2回目。もう手放せないですね。聴いて間違いなくいい音で録れているという実感が持てるし、よりリアルというか。昔のブルーノートとかのレコードって、ベースとドラムがいい音で録れてますよね。実際に聴こえる音とは違ってるんだけども、よりリアルに“いい音”で録れてる。それと同じ感覚がパルマーでも得られるんですよ。あと楽器用のプリアンプは使わないようにしました。ゲートとかリミッターも使ってません。どっちかと言うとレコーディング卓のヘッド・アンプを使うようにしましたね。まあ実際録れた音はベースの音に間違いはないし、ベースらしい良い音に聴こえる。録り方としてはらしくないんですが、バーチャルでそう鳴らしているというか……それで結果を得られるようにしたんですよ。
いちミュージシャンとして、かなり満足度の高いアルバムに仕上がったと思っています。コンセプトとしては“ひとり聴きの音楽”を作ろうってのが最初にあって、パーティでみんなでワイワイじゃなく、サシで聴こうって。
バンドというのは最終的には今聴いてる音の素材のようなもの。
ベース・ラインを作るときは、まずメロディ・ラインと歌詞の世界を考え、それと同時にドラム・パターンも一緒に作っていきます。ドラム・パターンもある意味、重要なベース・ラインですからね。ドラム・パターンも基本的なものは僕が考えてます。わりとベース先行型かもしれないですね(笑)。でもまあもちろんドラムから始まることもありますけど。
録りまでの具体的な作業ですが、僕がプリプロを済ませたあとにデータだけをレコーディング・ルームに持って行って、そこで打ち込みのドラムで試したりしてるんですよ。そのデータにどんどんメンバーが手を加えていくんですが、そうするとみるみる感じが変わっていくんです。そういうのをすごくこのバンドでは大事にしてます。自分だけの世界、イメージで完結してしまうとつまらないでしょ。まあ便利な機材が出てきたおかげですよ。
バンドというのは最終的には今聴いてる音の素材のようなものなんです。その素材が詰まったものをエンジニアに渡して音場を作ってもらう……それが一番重要なんですよ。僕らが素材出しをしてた気分(イメージ)とは関係なしに、まったく違った世界ができてしまう。ちょっと変わった録り方かもしれないけど、聴く時点ではどれも同じですからね。CDやテープをかけて聴くだけのことで、流れてきたフレーズや曲を好きになってもらうかが大事だと思うんです。いくら大変な練習を積んだフレーズでも、結果的には単純に好きかどうかですからね。だからどういう弾き方をしようが、いい音楽だったらいいかなあって(笑)。
ちなみに僕は練習しないほうです。ベースという楽器はすごく好きなんですが、何かほかの楽器と組合わせないと、単体では考えてないんですよ。ベースってもっと力ワザっぽいもんですよね。台風だとか、どうしようもない波のようなものというか……。風圧みたいなものが出せる楽器だと思ってます。
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