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Interview – 亜沙[和楽器バンド]

  • Interview:Kengo Nakamura

自分がやってきたことに
意味があったんだなって思えたんです。

━━そのほか、今作で亜沙さんの印象に残っている曲は?

 個人的には、「いーあるふぁんくらぶ」と「天ノ弱」は、それこそ、みきとP(「いーあるふぁんくらぶ」の作者)さんと164(「天ノ弱」の作者)さんと一緒にコラボ・バンドをやったりしたこともあるし、ずっと昔から知っている曲だから、単純に懐かしいなと。そういう曲を和楽器バンドでやれるっていうのは、なんか不思議な感覚もありましたね。あとは、かいりきベアさんの「ベノム」とかDECO*27さんの「キメラ」とか。やっぱり「キメラ」みたいな重たい感じは好きだし、弾いていて楽しかったですね。

━━「ベノム」はAメロのアプローチを毎回変えていますね。1Aはルートを点で打つような感じで、2Aはスラップ、3Aはヴォーカルにカブせるような動くリフになっています。

 2回目のスラップのところは本当は1回目と同じにしようと思ったんですけど、それだと、ちょっとつまらないかなと思って。ただ、自分では決めきれなかったので町屋さん判断に委ねようと思って、2パターンを送ったんです。そうしたらスラップのほうになっていたから、町屋さん的にもこっちのほうがいいと思ったんでしょうね。

━━Aメロって、楽曲に変化をつけるという意味で、ベーシストの腕の見せどころと捉えている人も多い気がするんですよ。アレンジ的に楽器が減ったりもして、ベースが聴こえやすくなるというのもありますし。

 そうかもしれないですね。Aメロで動く人って多いですよね。俺も、町屋さんのデモや原曲を聴いて、“これはベースに行ってほしいんだな、動いてほしいんだな”っていう場合を嗅ぎ取ったりはしますし。ただ自分としては、本当はルートでガツガツとしばくように行きたいタイプなんですよね(笑)。いろいろバリエーションをつけるよりも、いかにガリガリさせられるかっていうほうが本当は好きなんです。

『ボカロ三昧2』全曲クロスフェード

━━バラードの「紅一葉」は、Aメロの音価をギリギリまで長く表現しているのが巧みだなと思いました。この音の長さの違いで、けっこう印象が変わってしまうと思うので。

 確かにそうですね。俺も昔、和楽器バンド以前ですけど、“コードの変わり目のところで隙間ができる”って先輩に怒られていたんですよ。“隙間ができて一瞬音が途切れている。そうじゃないんだ。ちゃんと弾け”って。波形のデータで見ても確かに隙間が空いていたし、“ノリ”みたいな部分でも、ベースがどこで音を切るのか切らないのかって、すごく大切ですよね。そこはちゃんと意識するようにしていますね。

━━そうやってたっぷり音価を取ったあとで、3拍子に展開するBメロでは躍動感を出している切り替えも見事です。

 まぁ、俺もけっこうベースを弾いて長いので(笑)。そういうノリみたいなものは、なんとなく体に染み込んだんじゃないですかね。あまり意識していたわけじゃなく、普段どおりの3拍子を弾いたつもりなんですけど、そうやっておっしゃっていただけるっていうことは、ベースを始めた10代の頃から比べると、ノリとかそういう部分もうまくなったんじゃないですかね(笑)。

━━音価の話で言うと、「ド屑」は全体的には細かい休符も含んだ音価が、曲の最後に向かってどんどん加速していくように音価の長いフレーズに移行していきますね。

 タイミングとかテヌートの感じ、そのメリハリはもちろん意識していますね。じゃないとあのノリは出ないから。特に「ド屑」は休符も多いから、休符はしっかりと音を切ったうえで、最後のところはガツガツとピック弾きのテヌート感をちゃんと出そうと。指弾きのテヌート感とピック弾きのテヌート感って違うものだと思うんですけど、俺はピック弾きの感じが好きだし、最後にその部分で自分っぽい感じは出せたと思います。

━━さて、今後の展望は?

 正直に言うと、あんまりベーシストとしてどうなりたいとか、そういうことは考えていないんです。もしかすると、文字にしてしまうと変な感じに捉えられてしまうかもしれないけど、ずっと長くやっていると、音楽に対するモチベーションが10代のときのようなものを保つのが難しくて。もちろんベースという楽器は好きですけど、やっぱり趣味でやっているときと“仕事”になったときって、向き合い方が全然変わるというか。自分としては、何かすごいことを成し遂げたとか、誰かの役に立ったというような実感がないまま10年くらいやってきて、正直、“もういいかな”って思うこともあったんですね。時代も違うから当然なんですけど、例えばL’Arc〜en〜Cielさんとか、自分が憧れていた世代の人たちのような世の中への出て行き方や売れ方というのがあって、でも自分はそうなれないんだというのに気づいたりもして。でも最近、ありがたいことに、それこそボカロのシーンだと、“「吉原ラメント」を聴いてボカロPを始めました”とか“和楽器バンドを聴いて、ベース・スタイルに影響を受けました”って、自分よりも若い人たちから言ってもらえることもあって、それで初めて、自分がやってきたことに意味があったんだなって思えたんです。自分のベース・プレイも、こういう取材でいろいろ感想を言っていただけることで、ちょっとは進化できたのかなって思える。今はベーシストにもいろんなタイプの人がいて、上手な人なんてたくさんいらっしゃいますけど、自分としては、もう、うまいとかヘタっていうのはあまり気にしていなくて、唯一無二の存在になりたいし、魅力的なミュージシャンでいたいなと思っています。

◎Profile
あさ●L’Arc〜en〜Cielやジャンヌダルクから影響を受けて音楽の道を志す。インディーズにてベーシストとしてさまざまなバンドに参加する傍らボカロPとしても活動し、「吉原ラメント」(2012年)などのヒット曲を発表する。2014年に、詩吟、和楽器と洋楽器を融合させたハイブリッド・ロック・バンド、和楽器バンドのベーシストとしてデビュー。2016年に初の日本武道館公演を、2019年にはさいたまスーパーアリーナでの2デイズ公演を成功させたほか、北米単独ツアーを敢行するなど国外での活動も行なう。2022年8月17日に、自身2作目のボカロ・カバー・アルバム『ボカロ三昧2』をリリースし、現在は11月まで続く全国ツアーを開催中。亜沙はソロ・アーティストとしても活動し、これまでに5作のフル・アルバムと1作のベスト・アルバムをリリース。最新のソロ・アルバムは2021年3月にドロップした『令和イデオロギー』。

◎Information
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