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    INTERVIEW – 沖井礼二[TWEEDEES]

    • Interview:Koji Kano

    たぶん僕にとってのエレキ・ベースの音って
    勝手に歪んじゃっている音なんだろうなって思います。

    ――「Sinfonia! Sinfonia!!! TWEEDEES ver. 」では全篇でランニング・フレーズを展開していますが、これはアコースティック・ベースのような音色ですね。

     この曲はどこかブラジリアンなリズムなので、ジャズが得意な元カラスは真っ白のタイヘイくんというドラマーに、ブラジリアンなイメージのドラムを叩いてもらいました。ベースはコントラバスの音色なんですけど、実はコレ打ち込みなんですよ。自分で弾いてもよかったんですけど、運搬する手段がなく(笑)。打ち込んだベースの音色を初期段階で聴いてみて、しっかり機能していたのでそのまま採用することにしました。

    ――ベースをワザと引っ込ませたミックスになっているからか、打ち込みだとは思いませんでした(笑)。

     コントラバスってヴァイオリンとかヴィオラと同じチームになるので、特出させるというよりはアンサンブルのなかでの一員として存在していてほしい。ただ僕もベーシストなのでベースが大きく聴こえてほしいとは思いつつ(笑)、適正なバランス感を意識しました。

    ――先ほど“今作にはルート弾きの曲が多い”との話もありましたが、「meta meta love」は今作では特にシンプルなライン展開ですね。

     この曲、実はシンベなんですよ。最初はスティングレイの5弦でトライしてみたんですけど、8ビートの良い感じが出せなかった。この曲は『ユーレイデコ』というアニメとのコラボレーションで、アニメのプロデューサーから“1982年のYMOの感じで作ってください”というオーダーがあったんです。その時期のYMO曲で僕がイメージしたサウンドはシンベだったので、エレキ・ベースを手で弾いた8ビートの感じではなく、シンセ・ベースでリズムを刻んでいくという判断をしました。

    ――なるほど。でもいい意味で“シンベ感”があまりない音色ですよね。

     シンベの音をLogicのベース・アンプのシミュレーターに通しているからだと思います。シンベであってもべース・アンプを通った“生感のある音”にしたかったんです。結局は頭のなかに鳴っているベースの音をどう再現するかの作業になりますけど、そのときに頭のなかで鳴っていた音がモノラルで若干の歪みがある、エレキ・ベースに近いシンベだったということですね。

    ――今作は沖井さんの代名詞でもある“歪み”を存分に楽しめる一枚でもあると思うのですが、“上質なポップスに歪みを入れ込む”という自身の姿勢を改めてどう考えますか?

     まず僕のルーツである1960年〜70年代のベースって全部歪んでいるんですよ。以前もベース・マガジンで話させてもらいましたけど、その影響もあって、僕は最初からある程度歪みめでサウンドを作っちゃうんです。歪ませることでサステインも長くなるし、全体の動きもなめらかになる。僕が欲しい歪みってそういう部分で、アグレッシブでフィードバックが出るくらいの歪みももちろん好きなんだけど、そういう“ジー”とか“ガー”ってニュアンスよりも“ブー”の要素が好きなわけで、それを出したくて歪ませているんです。だから目立たせたいというより、全体をなめらかにするために歪ませる、オケなかに入ったときにキレイに響かせるイメージです。

    ――1960年〜70年代当時のサウンドって、意図的に歪ませたというより“アンプで歪んでしまった”というイメージです。

     そうですね。ベースの音作りの方法論としても1960〜70年代の考え方が好きだからっていう感じかな。80年代以降に見られる“DI直”みたいな音はどうも僕には馴染まなかった。何ていうか照れ臭くなって弾けなくなっちゃうって感じ(笑)。たぶん僕にとってのエレキ・ベースの音って、勝手に歪んじゃっている音なんだろうなって思います。

    ――今作の録音にはミュージックマン・スティングレイのほか、2本のリッケンバッカーを使用したそうですが、リッケンバッカーの使い分けについて教えてもらえますか?

     2本のリッケンバッカーには、特有の締まったローとサステインは共通してあるんですけど、もともとの楽器としての個性が全然違っているんです。青いボディの“4003”のほうが弦の暴れが強くて、ネックのシェイプも太い。だからガバッと握って弦を押さえつけてピック弾きする際は青いボディのモデルのほうが肉体的にもイメージしやすいんです。赤いボディの“4003S”は、より繊細なプレイに向いていてリア・ピックアップをセイモア・ダンカンのハムバッカーに載せ替えているんです。それも相まってタイトさも出るし、サステインとローを生かしたヌルヌルした質感を出したいときとか、指弾きに適していると思います。だから同じリッケンでもわりと明確に使い分けていますよ。

    ――最後に、今後におけるTWEEDEESの展望をどう考えているか教えてください。

     まず今作を作るにあたって、コロナ禍のショックにとても大きな影響を受けたので、この“事件”をしっかり咀嚼して消化したうえで、次はこんな事件に左右されない胆力を持ったポップス・アルバムを作らないとなと思います。今回のアルバムを語る際、どうしてもコロナの話をしないといけないのが自分としては残念で、逆に言えばコロナのおかげでできたアルバムとも言えるわけですけど、次の作品を作る際にはコロナの話をしなくていいような状態になっていればいいなと思います。もしまたそういった困難な事態に直面したとしても、当たり前のものとして俯瞰できるような、より力を持ったポップス作品を作りたいですね。

    Okii’s GEAR

    “ローとサステイン重視でヌルヌル弾きたいときや、スラップの際に使います”と語る、沖井を象徴する不動のメイン器、1993年製のリッケンバッカー4003S。今作では「Victoria」「二気筒の相棒」の録音で使用された。
    サブ器として用いられる2000年製のリッケンバッカー4003。「ファズる心」「GIRLS MIGHTY」のほか、半音下げにて「Day Dream」で使用された。“ピック弾きでアタックと弦の暴れ感が欲しいときに使うことが多いです”。
    「Béret Beast」の録音で用いられた2004年製のアーニーボール・ミュージックマン・スティングレイ5。本ベースの用途について、“主に打ち込みや4つ打ちのとき、ロー・ミッドを効かせてヌルヌル弾きたいときに使っています”と語る。

    沖井が今作の録音で使用したエフェクター群。上段右から、ボス製TU-2(チューナー)、テック21製SANSAMP Classic(プリアンプ)。下段が右から、Malekko Heavy Industry製B:ASSMASTER(ファズ)、ボス製DS-1(ディストーション)。これらの用途について沖井は、“SANSAMP Classicは僕のなかではアンプ的な立ち位置。でもアンプを通す時点で楽器は歪むものなので、その分量の調節みたいな部分で重宝しています。いわゆる歪みベースみたいな音が欲しいときはB:ASSMASTERとかDS-1を踏みますね”と語る。

    【お知らせ】
    2023年1月19日発売のベース・マガジン2023年2月号にも沖井のインタビューを掲載予定! 

    “作編曲家”という一面にもフォーカスした、Bass Magazine Webとは違った内容でお届けします

    ◎Profile
    おきい・れいじ●1969年5月18日、広島県広島市生まれの作曲家、音楽プロデューサー、アレンジャー、ベーシスト。1997年に土岐麻子、矢野博康とCymbalsを結成。1999年にメジャー・デビュー。以降同グループのプロデューサーとして、ほとんどの楽曲の作詞、作曲、アレンジ、アート・ディレクションを手がける。2004年1月にCymbals解散。同年12月にソロ活動を開始。2006年4月にはソロ・ユニットFROG名義での初作品を発表した。また、フリーランスの作曲家としても多数のCM、ゲーム、アニメーション、テレビ番組の制作に関わり、活動を広げている。2015年1月、清浦夏実(vo)とのユニットTWEEDEESを結成し、12月3日に4thアルバム『World Record』を発表した。その他、新井仁らとのバンドSCOTT GOES FORでも活動している。

    ◎Information
    TWEEDEES Official HP Twitter  YouTube
    沖井礼二 Twitter