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INTERVIEW – 巽 啓伍[never young beach]
- Interview:Shutaro Tsujimoto
- Photo:Yosuke Torii
僕はきっと普通に勇磨のファンなんですよ。
━━前作『STORY』では、デモもDAWを使いながらかなり構築的に作っていたと思うのですが、今作はセッションで作ったような曲が多かったのですか?
最初は僕と健ちゃんが勇磨の家に行ってデモを作ってたんですけど、途中からはリハスタでサポート・メンバーと合わせながら作る流れになってました。サポートの方々に支えられましたね。
━━サポートの3人に関しては、“目指すサウンドが先にあって、それを実現できるメンバーを集めた”という順番だったのか、 “この人たちが入ったからこういうサウンドになった”のか、どちらの面が強いでしょう?
後者寄りだと思いますけど、勇磨がバンドで目指す志向も最近どんどん明確になってきていて。30代を迎えて、自分のなかで“こういうバンドがいい”っていう像が見えてると思うんですよ。“誰かに評価されたい”というのもありますが、それが最初に来るわけではなく“音楽としてこれを目指したい”みたいものがよりハッキリしてきている感じがします。
━━あえて言葉にすると、それはどんなバンド像ですか?
例えばスタッフ(Stuff)みたいな、汗くさくて土くさくて、でもみんなめっちゃ楽しそうにやってるバンドですかね。“スマート”というわけではないけど、ゴードン・エドワーズ(b)やコーネル・デュプリー(g)、スティーヴ・ガッド(d)はじめ、プレイヤーがみんな凄腕じゃないですか? ああいうバンドを目指して、“もっと音楽自体を楽しみたい”、って思っている気がしましたね。そういう意味では岡田くんや下中はアメリカン・ルーツ的なものやスタンダード・ナンバーをコピーしてきたような人なので、いろんなものへの対応力が高いんですけど、僕はこのあたりをすっ飛ばして来たので、今はそういう基礎的なところばっかり最近練習してますね。
━━今回は「らりらりらん」「Hey Hey My My」など、シンプルなロックンロール進行で、セッション的な作りの楽曲も多いですよね。
そうですね。だから最近は今まで聴いていたもののルーツをより探るようになったかもしれません。例えばザ・バンドは前から好きだったけど、そのまわりにいる人、そこに至るまでにどんな作品があったかって知らないよな? というのを掘ってみて、そこから気に入った曲を練習したり。聴いていた音楽でいうと、あとは勇磨が自分の好きな曲を集めた個人的なSpotifyのプレイリストがあるんですけど、それもよく聴いていました。“曲を作る人が今どういうモードか”っていうのは、明確にわかっていたほうが対応できるよなって。
━━“安部さんの歌に寄り添う”ことは、やっぱり一番大事にしていることですか?
ハミ出したいんですけどね。でも僕はきっと普通に勇磨のファンなんですよ。彼のソロの曲を聴いても、本当に素敵な曲を書くなと思いますし。“彼にいいねって言われてぇな”と思ってやってるところはありますよ、なかなか褒めてくれないので(笑)。本人は“ベースのことはよくわからないんだ”って言ってるんですけどね。だったら僕が彼のモードを汲み取りながら、いろんなアプローチを導入していくしかないっていうのは今作ではけっこう考えていました。
━━少し踏み込んだお話ですが、2年前に阿南さんの脱退の話が出たときも、巽さんとしてはネバヤンを動かしていくことに迷いはなかったですか?
そうですね。もちろん僕らのなかでも、聴いてくださっている方にとってもセンシティブなニュースではあったと思います。コロナ禍でライヴも止まっていたし、そのとき勇磨はソロを作っていたし、そっちに集中したいような感じもあったんです。でも最終的には“ゆっくりでも動くのがいいんじゃない?“みたいな話になったし、僕としてはバンドの動きを止めるという選択肢はなかったです。もちろん、何事もいつ終わるかなんて本当にわからないですし、バンドは自分の気持ちだけではできないことですけど、そういうものが少しでも長く続いたらいいなと。生きていくうえで何を大事にするのかは人によってそれぞれなので、寄り添うことはできますが、その人になることはできません。その人が出した答えを応援したいと思っています。
━━ネバヤンも、もうすぐ結成10年ですよね。
来年で10年ですね。驚きですよ。人生で10年続けたことなんてほかに何もないですからね。でも最近は、勇磨にはソロがあるし健ちゃんもDYGLで叩いているし、みんなそれぞれの活動もやっているので、僕も何か作らなきゃとは思ってるんです。それで自分でも曲作りをやってみてるんですけど、音楽を作るのって本当に難しいんだなと改めて思っているところです(笑)。勇磨はよくあそこまで思い描けてるなと。しかも、きちんと評価も得ているというのは本当になかなかできないことです。音楽家としての才能はもちろんですが、大衆の目に触れて“それが認知される”という一線を越えることができる人には、総合力の高さがあるんだと思います。僕は彼の近くで、同じ時を過ごして音楽を作れていることが嬉しいですね。
━━曲作りにチャレンジすることで、ベース・プレイに与える影響もありそうですね。
そうですね。そもそも、最初は“どうしたらジェマーソンみたいに弾けるだろう”と思って、簡単なコードとメロディを作って、そこにベース・ラインを当てていたのが最初でしたし。そのなかで、そういうジェマーソン的なメロディアスなベース・ラインを考える作業って“コーラスをつけるのに近いのかな”というのは思いましたね。3度のハモリなのか5度のハモリなのか、コーラスみたいな感覚で選択していくというか。それを今作で生かせているかはわからないですけど、そういう気づきはありましたよ。