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SPECIAL TALK SESSION – かわいしのぶ × 柴田聡子[柴田聡子inFIRE]
- Interview:Shutaro Tsujimoto
- Photo:Takashi Yashima
“変わりたいな”、“変わるべきかな”
という思いがあったんです。
━━柴田聡子
――そのあとに出た4曲入りのEP『スロー・イン』(2020年)は、打って変わってアレンジが削ぎ落とされ、弾き語りに近いようなシンプルな編成での作品になりました。今回『ぼちぼち銀河』で再びバンド編成に戻ったのは、柴田さんとしては自然な流れだったんですか?
柴田 『がんばれ!メロディー』をバンドでがっつり作ったあとだったので、一度立ち返ってみようという気持ちだったんです。それと、“アレンジを自分でやってみるのは大事なのでは?”という気持ちが芽生えたのもあって、やれないながらも頑張って作ったのがあのEPでした。そこから次のアルバムに向かうときに、コロナ禍で準備期間が2年くらいあったこともあって、その間にまた自分の聴く音楽のテイストとかも変わっちゃって。それで今回はそれを反映したようなバンド・アンサンブルを作りたかったし、“変わりたいな”、“変わるべきかな”という思いがあったんです。バンドの選択肢としては、inFIREが常に私のなかにはあったので、すごく自然に頼んでしまいました。
――最初の先行シングルが「雑感」でしたが、作った時期的にもこの曲が一番早かったんですか?
柴田 作った時期としては「ジャケット」と「旅行」が一番早かったです。この2曲は、2019年の“晩秋”というホール公演で少しやっていて。この2曲は『がんばれ!メロディー』の延長のような作り方だったかもしれません。そのあと「雑感」を2020年の6月くらいに作って、そこから段々とほかの曲ができていった感じですね。「MSG」も実はけっこう前からあって何回かライヴでやってるんけど、構成が今とは全然違っていましたね。
――柴田さんは新しい曲を持っていくとき、弾き語りでメンバーに共有するんですか?
かわい 基本弾き語りだったんですけど、バタヤンは「雑感」あたりからデモを打ち込んで持ってきてくれるようになったんですよ。
――『スロー・イン』やコロナ禍を経て、柴田さんのデモの作りの方法にも変化があったと。先ほどは、音楽の趣向がここ2年の間で変わったという話もありました。
かわい はい。でも、まぁ私なんぞが偉そうに言いますけど、バタヤンは新しい物事の吸収も早いし、もともと音楽全般に対して興味を持つ範囲がものすごく広いんです。
柴田 やった……。
かわい それでいて、バタヤンからは“知らなきゃ”とか“勉強しなきゃ”っていう義務のような空気をあまり感じたことがなくて。最初に会って、(松田)聖子ちゃんのカバーを一緒にやったときも、私は“聖子ちゃん好き同士、イェイ!”みたいな感じだったけど、考えてみたら私たち年齢も15くらい違うし、世代も違うんですよ。でも、バタヤンからは“本当に好き”な感じがすごく伝わってくるんです。そうだよね?(笑)
柴田 めっちゃ好きです。
かわい それで今回のアルバムに関して言うと、しばらく会わない間にバタヤンの興味の範囲がものすごいスピードで広がったと思っていて。久々に会うと、私の知らない進化したバタヤンがいたんです。だから、前作ではバンドで音を出せば“ポン”とできたものが、今回は“バタヤンはどうしたいのかな?”とか、“ベースはどうしたらいいのかな?”とか、考える場面は増えましたね。うまく言えなくてすみません(笑)。
柴田:いや、めっちゃ伝わってます。
――今回は「雑感」をはじめ、ネオソウルの雰囲気を纏った「夕日」や、現代的なポスト・プロダクションが施された「ぼちぼち銀河」など、まさに“新しい”柴田聡子を感じる曲が盛りだくさんだと感じました。柴田さんは過去にTLCのTシャツでステージに立っていたり、R&Bやソウルからの影響もたくさん受けてきたと思うのですが、そういう要素もすごく前に出てきたアルバムだなと。
柴田 すごく嬉しいです。ちなみに「夕日」のアレンジのときは、スライ(&ザ・ファミリー・ストーン)の話とかしてましたよね? 曲名を忘れちゃった…。
かわい 「Family Affair」かな?
柴田 そうだ。“スライの暗い曲いいね”、みたいな話になって。でも私、あそこからスライをちゃんと聴き始めたんですよ。
かわい あ、そうなのか。
柴田 スライといえばブチアゲ系のイメージがあったんですけど、暗い曲のグルーヴが本当に最高というか。すごくいい出会いだったなと思ってます。
――アレンジのときには、そうやって具体的な曲名を挙げながらイメージを共有することが多いんですか?
柴田 いやー、ちょっとそのコミュニケーションが足りてなかったと私は思っていて。前作はそれでも大丈夫だったんですけど、今回は“こういう曲にしたい”っていうのを丁寧に言葉で伝えた場面がもっとあってもよかったのかなって。
かわい でも実際それって難しいよね。作曲者が持ってきたイメージが腑に落ちる場合もあるし、逆にそれが変な縛りになってしまうこともあるので。
柴田 そうですよね。
かわい でも、今回はすごく勉強になったんですよ。前作はメロディとコードをもらって“ぽんぽんぽん”って作っていく感じだったけど、今回は打ち込みのデモがあって。で、そこに私の知らない世界があると、“そこに寄せていかなきゃ”という思いになる一方で、バタヤン的には多分私たちに“デモの世界を広げてほしい”という気持ちもあったと思うんです。
柴田 うん、そうですね。
かわい なので、“曲のイメージに自分も混ざりつつ、それを新しい形で広げていく”みたいな取り組みはすごく勉強になりました。いろいろ知るきっかけになったし、自分としてもまだまだできることがあるなって。
――なるほど。具体的には、特にどの曲でそういう経験をしましたか?
かわい 打ち込みが入ってる「雑感」もそうだけど、やっぱり「ぼちぼち銀河」ですかね。でもこの曲はちょっと特殊で、ベース・ラインをバタヤンが打ち込んできてくれたんですよ。それが、私だったら絶対に思いつかないタイプのもので、すごくよかったんです。最初はわりとそれをコピーする形で弾きつつ、レコーディングではそこに人間味というか“しのぶ味”を入れて弾いています(笑)。
――ベース・ラインは冒頭からコード進行のルートを追うのではなく、ワン・ノートで弾いているようなフレーズですよね。
かわい これはね、最初打ち込んでくれたものはもっと複雑なリズムだったんですよ。
柴田 (間違ってたんです……。)
かわい それを、ごまかして弾きやすいようにしました(笑)。
柴田 そうなんです、私は正しくソフトを使えない人間なんで(笑)。音符とかもわかんないなかで打ち込んでるので、聴く人が聴いちゃうと“これ8分か16分、どっち?”みたいになっちゃうんですよ……。
かわい そんなの考えて弾いてないよ(笑)。
柴田 でも、この曲は自分自身もそうだったし、みんな“どうしよっか〜”って悩みながらやってましたよね。メンバーのみなさんのことを尊敬し過ぎているがゆえに、“色も出してもらいたいし、こういう風に演奏してもらいたいし”っていう押し引きがわからなかったところがあって。この曲は完成するまではけっこう不安でした。
――でも結果、ポスト・プロダクションの処理も含めて新境地というか、素晴らしい仕上がりになっていると思いますよ。
かわい 作ったときは、私もけっこう考えた分少し不安が残ったけど、時間が少し経ってからアルバムで通して聴いたら“すごくいいな”って思ったよ。この曲は“パンとできたぜ、イェイ”みたいな感じじゃないところもすごくいいと思う。
柴田 新しい地平には行けたのかな、と。
かわい あと以前の作品からそうなんだけれど、あんまり触れられていない気がするのが、バタヤンが考えるコーラス・ワークは本当にすごいんですよ。
――私もそう思います。すごく複雑ですし、言葉の入れ方とかリズムも独創的ですよね。
柴田 嬉しい〜。
かわい あれは全部、考えるのも録音もバタヤンがやってるんで、私そこをもっと言っていきたい(笑)。コーラス作るだけで仕事できると思うよ。
柴田 いやー本当にありがたい。めちゃめちゃ嬉しい話です。『愛の休日』くらいから、“コーラス最高だな”ってハマっちゃったんですよね。
かわい そういう感じだよね。バタヤンが“楽しい”とか“おもしろい”って思ったときの、作ってくるものの濃さとか豊かさみたいな。だから今回も、「ぼちぼち銀河」のこういう世界にどこかハマったところがあって、こういう曲が来たんだろうなって。でもライヴでコーラスのラミ子ちゃんが再現するのが大変だよね(笑)。私はベースを弾いてるのをいいことに、見てみぬふり……。
柴田 はっはっは。確かに。ラミ子が一番やばい状態かも。
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