PLAYER
俺がスラップをやるなら、
ひとつの音色として使いたくて。
━━先ほど名前が出た「Neon Beauty」は、4つ打ちのドラムに対してベースのフレーズが躍動的なリズムを生んでいきますが、言い方は変ですけど、“ベースらしいベース”という感じですよね?
本当にそうで。これは“ベース”が弾けたなって感じがしています。音色的にも、7年ぶりくらいに(ダークグラスエレクトロニクスMicrotubes)B7Kをオフにしたんですよ(笑)。ヒトリエではレコーディングでもライヴでもずっと、あの青いランプがオンになっていて、それこそさっき出た「Flashback, Francesca」ですらB7Kは踏みっぱなしなんです。だから、ランプが消えているってだけで自分としてはおもしろかったですね(笑)。
━━フレーズ自体は“ワン”のアタマでドーンとルートを鳴らして、音符を細かくしつつウラを強調したファンクっぽいフレーズですよね。しかも、ファンクでもスタイリッシュな端正さがあるというか。
ウワモノとか曲のメロディはメロウなんですけど、やっていること自体はファンクになるのかな。イメージとしては、モロにスチュアート・ゼンダーだったんです。アタックが消えすぎるのが、個人的にはそんなに刺さらない感じがしていたので、リズムはパキパキしているんだけどアタックの少しブリッとした感じだけは出せたらいいなと思いながら。
━━エンディング部分は、派手にフレーズを動かすのではなく、フレーズの音域をオクターヴ上げることでもう一段ギアを上げる感じにしていますね?
確かに、あそこは無茶苦茶フレーズを動かしたくなるんですけど、ループ・ミュージックの流れでずっときているので、“ループ感があるハイポジ・フレーズ”みたいなものを当てたいなと思ったんです。ライヴだと発展してもいいのかなとは思うんですけど、音源だとループ感のあるまとめ方がしたくて。あのフレーズはめちゃくちゃ難しかったです。
━━かなりポジション移動が激しいですよね。素速く的確なポジション移動が求められる?
いや、そんなに無理に速い移動をしなくても、オンのタイミングでその場所に行けていればいいし、スライドが途切れなければアリだと思っていて。この曲が本当にそうだったかは覚えていないですけど、例えば、跳ぶ前のローポジの音って薬指で押さえていることが多いんですね。それで薬指でポジションを上がっていくと、スライドをした先のハイポジのフレットを人差指か中指で押さえるとしたら、目標のフレットよりも奥までスライドが行けますよね。そうすると音が途切れにくいのかなって。これを人差指からすべって行っちゃうと絶対に途切れるので。
━━それは演奏上のテクニックとしてかなりポイントですね! もう1曲、ベースらしいバッキングというと「strawberry」ですよね。タイトに休符を入れて、わかりやすくパターン化された“バッキング”のラインになっています。
これも、最後のほうで歌メロとユニゾンする部分以外は、シノダが打ち込んだフレーズをそのまま弾いています。曲のあの場所ぐらいまでずっとベース・ライン的にタメてから歌メロ的なアプローチをすると、絶対にオイシイことはわかっているので(笑)。あと、これはリッケンバッカーを使ったんですけど、個人的にはそこの音作りで主張しようと思って。ちょっとグランジっぽい曲だなと思って、あの独特な歪み方でちょっと休符があるフレーズを弾くのはハマったかなと。
━━Aメロとサビは似たような流れのフレーズですが、Aメロではあえてグリスを入れず、逆にサビはグリスの感じも入れて意図的にニュアンスを変えているのかなと思いました。
そういうイメージはありましたね。Aメロは淡々とこじんまりとさせて、サビ感をそういうちょっとしたウネりで出したいなって。シノダが打ち込んできたシンベの淡々としたものをどういうニュアンスで弾くかっていうのは自分次第なので、そのグリスを入れる入れないとか、どう歌うかっていうのは自分の表現としてやっています。
━━リッケンバッカーといえば、「風、花」はMVでリッケンバッカーを使っていましたね?
あれは、MVの色合い的にあのベースを使いたかったからで、実際のレコーディングはL’s TRUSTのPBタイプでやっています。
━━そうなんですね。この曲はリズミカルさとメロディアスさのバランスがすごく考えられているようなフレーズだなと思いますが、演奏は基本的にスラップなんですよね? スラップっぽくないフレーズというか、2フィンガーでも弾けるものをあえてサムピングで弾いていて、すごくおもしろいフレーズ感だなと思います。
そう捉えてもらえるのは嬉しいですね。俺はスラップをしようって普段思わないんです。スラップって、今まさに、“スラップっぽいフレーズ”っておっしゃいましたけど、フレーズ先行になることが多いじゃないですか。俺がスラップをやるなら、どちらかというと、ひとつの音色として使いたくて。指弾きのフレーズなんだけど、サムのちょっと柔らかい破裂音みたいな音色で弾きたいなと。もっとバキッとスラップらしく弾くこともできたんですけど、曲がポップだし、そこまで行きすぎない感じというか、あんまりイナタくなりすぎてもなっていう、そこの塩梅で弾いています。
━━ウラ打ちハイハットも合わさって、粒立ちのいい“ウラの感覚”みたいなものもよく出ています。
そう思います。やっぱり、指弾きのアタックよりは強いというか、粒立ちがパリッとは出ていますよね。あとは、1拍目の8分音符に聴こえるようなところも、実はサム・アップの16分で弾いていたりして。それがはっきりと判別できなくてもいいけど、そっちのほうが結果的にグルーヴとしていい気がするっていうところは、考えてやっています。
━━音色で言うと、3拍子の「電影回帰」はフレットレスですか?
フレットレスです。シンセがものすごくバキバキしていて、ドラムも手数がすごいので、個人的にはフレットレスで弾くイメージはあったんですけど、もっとシンセのリズムに合わせていくアプローチかなと思っていたんです。でもスタジオに行ったら、作曲者のゆーまおに、“メロディを弾いてほしい”って言われて。多分彼のなかで、もともとイメージしていた柔らかい歌メロと、シノダがアレンジしたバキバキのエレクトロなサウンドが、微妙に接着していない部分があったんじゃないかな。ベースのメロディアスな動きとか生感でつなげたいということなのか、ベースが動けば“ヒトリエっぽくなる”からなのかはわからないけど、その場で考えたフレーズを弾いています。
━━2番では4ビート・フレーズからちょっとトリッキーなアクセントに変化させていく部分がありますが、この唐突感があるけど納得感のある展開は、“ヒトリエっぽい”のかなと思います。
自分としては自然な発想なんですよね。曲として“向かっていく”セクションというか、だんだん盛り上がっていくときに、ある種のビルドアップの一環でだんだん符割を細かくしていくアプローチってありますけど、あそこで、ただ16分になるのも違うじゃないですか。それに、ちょっと3連感があるようなフレーズが急に入ってくると、ギュッと緊張感が生まれるような感じもするし、そういうことがやりたかったのかな……っていうくらい、自然に思いついたところですね。