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INTERVIEW-イガラシ[ヒトリエ]

  • Interview:Kengo Nakamura
  • Photo:Taichi Nishimaki

多面的に拡張を続ける“らしさ”の在り方

2021年2月にリリースした新体制での初アルバム『REAMP』に続くニュー・アルバム『PHARMACY』をリリースしたヒトリエ。“3ピース・バンド”として、それ以前の“らしさ”も含みながら、新たな側面が次々と飛び出してくるその作品からは、“今”の3人の関係性やバンドに対する向き合い方が非常に充実したものだということが伝わってくる。縦横無尽な“リード・ベース”が持ち味であるベーシストのイガラシも、プレイ面・音色面の両方で新鮮さを感じさせ、より多面的にベーシストとしての魅力を高めている。“ヒトリエの枠が広がって、リラックスした状態で制作できた”と語る彼に、本作でのベース・プレイについて聞いた。

ほんの少しの変化だけど、
それだけでめちゃくちゃ変わっちゃう。

━━前作『REAMP』は、“3ピース・バンド”としてのヒトリエのデビュー作でもありましたし、それまでの制作方法との違いに対する試行錯誤もあったそうですが、新作『PHARMACY』の制作過程はどうでしたか?

 『REAMP』を作ったあとに3人で作った曲をやるツアーがあったりして、“慣れた”というのもあるし、今年になって配信した「ステレオジュブナイル」やアニメ・タイアップの「風、花」という、ゆーまお(d)が作曲したポップな曲が世のなかに出たりして、“ヒトリエ”の枠が広がっている状態でアルバムの制作に入った感じがしていて。“もっといろいろやれるのかな”みたいな、リラックスした状態で制作できた気がします。

━━そのリラックスした感じはアルバムにも出ていると思います。メイン・ソングライターが変わるなかでの“ヒトリエらしさ”を、3人でうまく解釈できているのかなと。

 そうですね。今回もおもにシノダ(vo、g)が曲を書いているんですけど、『REAMP』を作っているときには、彼がそういう重圧というか、3人で初めて世に出すものとしてどんなものが正解なのかとか、今までの形を踏まえてどうかっていうところで、かなり自分を追い込んじゃっていた部分があって。でも今回は、彼自身がリラックスして曲を書こうっていうモードになれたみたいなんです。そうやって出てくるものに対してのベースのアプローチも自然に変わっていくと思うので、それでちょっと力が抜けている感じなのかな。

━━前作、前作のツアー、そして本作を経ることで、今のヒトリエとして、よりスタイルが見えてきたという感じでしょうか?

 ただ、意外とレコーディングの序盤は、ベース的にはちょっと悩んでいたっていうか。アレンジ的にもミックス的にも、wowaka(vo、g)はベースでニュアンスをつけるのが好きだった人だと思うんですよ。ミックスの塩梅とか、アレンジ的にどこにニュアンスを感じているのかはコンポーザーによると思うし。そうなったときに、アレンジ的には、「ステレオジュブナイル」も作曲者のゆーまおからは“ベース・ラインを動かしてほしい”とか“メロディアスにやってほしい”とは言われるんだけど、ミックスの段階になると、そこまでベースを出さない部分が出てくるんです。そうなったら、このくらいのヴォリューム感というか、ある意味ちょっと引っ込んでいる感じだったら、“ここはフレーズを当てないほうがよかったな”とか思うこともあったんですね。そこはちょっと、どう対処していけばいいんだろうって壁にぶつかったところでもあって。アルバムの曲では「ステレオジュブナイル」から録り始めているから、そこからどういう在り方をしたらいいのかを考えながらのレコーディングでしたね。最後のほうは全然ハッピーな感じでやれましたけど。

━━ちょっとピリついた部分があったと。

 自分のなかでピリついてましたね(笑)。

左からゆーまお(d)、シノダ(vo,g)、イガラシ。
『PHARMACY』
ソニー/AICL-4253~4(初回盤/CD+Blu-ray)
AICL-4255(通常盤/CDのみ)

━━でもそれは、どのバンドでも、どのレコーディングでもあることですからね。今作でイガラシさんはバラードの「Quit.」を作曲していて、これは本当に名曲だと思います。どのようなイメージで?

 バラードを、ただ悲しい響きで終わらせたくなくて。キレイで優しさがあるようなバラードを作りたいなと思ったんです。

━━デモはどのくらいの完成度でメンバーに聴かせるんですか?

 この曲に関してはデモでけっこうしっかり作っていたので、あんまり変わっていないですね。シノダのほうがDTMの技術は優れているので、俺がもともとデモで入れていた音色をブラッシュアップしてくれたり、“この部分はディレイで飛ばしたほうがいい”とか、ビートに変化をつけるアイディアを出してくれています。あと、冒頭のピアノはシノダが付けてくれました。

━━ベースは狙いがはっきりしていて、Aメロはロング・トーンのルート、Bメロで動きを出して、サビはルート8分と、全体的にはどっしりとボトムを押さえる感じですね。

 自分で曲のデモを作るときって、ベースは最後にバ〜ッと弾いちゃうんです。その最初に当てたベースがこういう感じだったから、もうそのままいっちゃってますね。自分で作っている曲だと、“何かを入れたいな”ってところに自分の裁量でウワモノを足せちゃうじゃないですか。それで、そっちから埋めていっちゃうと、ベースが動いてオイシイところっていうのは、直感的に、あのBメロのところだったのかなと。

━━そのBメロも、1回目よりは2回目のほうの動きが大きくなっていて、曲のストーリーのようなものを感じます。

 そうですね。歌メロもAメロが1番と2番で違ったりするので、それを経た感じは出せるといいかなと。

━━また、Aメロはルートのロング・トーンですが、2Aはキックとシンクロしたリズムに変わっていて、非常にシンプルですが、これだけでも変化が際立ってきますね。

 そう、だから難しいですよね、ああいうのって。ほんの少しの変化だけど、それだけでめちゃくちゃ変わっちゃうから、タイミングとかにはけっこうシビアになっちゃいますよね。こういうシンプルな曲は、何かに苦戦するというわけではないんだけど、すごく神経は使います。

━━ボトムを支えるという意味では、「Flashback, Francesca」はエッジィさよりもシンベのような太さを出した音色になっていますね。

 これはそういうものをイメージして、5弦ベース(SCHWERTのJBモデル)を指板の上ぐらいでピッキングして弾いているんです。この曲を録る数日前に、フィッシュマンズの柏原譲さんのインタビューをたまたま読んでいて。俺はずっと勝手な先入観で、柏原さんってプレベを使っていると思っていたんです。オールドなベース使っているんだと思ったら、アクティヴのフォデラじゃないですか。それをすごくネック寄りで弾いているっていうのを読んで。それで、“フェンダーだとハイポジのフレットが足りないけど、どうやっているんだろう?”みたいな疑問も解消していったんですね。そういう弾き方で、ああいう感じのノリを出していたんだっていうのが頭に入っていたから、それをやりたくなってしまって、この曲ですぐやってみたと(笑)。「Neon Beauty」もそうなんですけど、シノダのループ感のある曲のベースは、わりと彼のイメージをそのまま尊重したいなと思っていたから、どっちかというとノリはそういうものに徹して、音色を自分が新鮮に感じられるようなもので楽しもうかなと思ったんです。

━━フレーズとしては、シンコペのリズムで波のような動きを出しながらボトムを押さえる感じになっていて、これをループ感を持たせつつ淡々と弾くのは難しいのかなと。

 まさに。ラインが泳いでいるように聴こえるところも、それがちゃんとリズムに噛んでいないと、全然さまにならないから、これもシビアでしたね。緩く聴こえるとは思うんですけど。

━━こういうサラッとやっていそうなところほど、実は神経を使っていたりしますよね?

 そうなんです。まぁ、俺だけじゃなくて、みんなそうなのかもしれないけど(笑)。ワ~って派手に弾いているところよりは、やっぱりこういう部分のほうがシビアになっちゃいますよね。

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