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INTERVIEW – HHMM(日向秀和×松下マサナオ)
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- Interview:Koji Kano
最強のインプロヴィゼーションを生み出す
リズム・コンビの脳内メカニズム
ストレイテナーやNothing’s Carved In Stoneといった、ロック・シーンで活躍する稀代のベース・ヒーロー、ひなっちこと日向秀和。Yasei CollectiveやGentle Forest Jazz Bandをはじめ、多くのインスト/ジャズ・シーンでその腕を振るう米国上がりの敏腕ドラマー、松下マサナオ。この両者によるセッション ・デュオが“HHMM”だ。この異色とも言えるコラボレーションは今年で結成5周年を迎え、そのセッションはよりスリリングに、研ぎ澄まされた極上のグルーヴへと進化を続けている。そんな彼らが5月25日、初となる8曲入りの音源作品『5』をリリースした。そこには単なる“即興”の枠にとらわない、彼ら独自のアンサンブル、そして特異な世界観が凝縮されている。今作の制作の裏側のほか、HHMMにおけるセッションの極意をたっぷりと語ってもらった。
初めて合わせたとき、“これだー!”みたいな感じはあったもん。
━━日向秀和
――ひなっちさんがHHMMとしてBMに登場するのは意外にも今回が初になります。ユニットのバイオグラフィから聞いていきたいのですが、HHMMはいつ、どんなきっかけで結成されたのでしょうか?
日向:出会いはBARの酒場、そこで殴り合いの喧嘩をして……。
松下:違う違う(笑)。
日向:マサナオと一緒だとHHMMのノリになっちゃうなぁ(笑)。えーと、最初はオニィ(大喜多崇規/Nothing’s Carved In Stoneのドラマー)からの紹介だったよね。
松下:そう。FULLARMORが新代田FEVERでライヴしたときに、ひなっちに挨拶させてもらったのが最初の出会いだったね。
日向:とにかくやべぇドラマーがいるってオニィが言っててさ。まわりのドラマー連中のなかでもマサナオは噂になってたんですよ。6年くらい前かな。
松下:ひなっちは最初怖い人だって聞いていたけど、実際に話してみるとめちゃくちゃポップな人で拍子抜けだったのを覚えています。それでひなっちがセッションに誘ってくれて、町田で合わせることになったんです。当時はジャズ・シーンだけじゃなくて、もっとオープンな感じのフリー・ジャム的な感覚で、長く楽しくできる場所を探していたので、タイミング的にもドンピシャだったんですよね。
日向:最初は“BASEMENT SESSION”っていう名義で、セッション・グループをやっていました。
松下:それでふたりでも何かやろうってことで、町田ノイズっていうハコを拠点に、この体制のセッション活動が始まったんです。
――HHMMは“No Mountain No Life”をモットーに活動してるということで、お互い山を愛する者同士、波長も合ったということですか?
日向:そうだね。俺の紹介でマサナオも一緒に山に登るようになったんです。
松下:もともと昔登っていたんですけど、ひなっちはそれを思い出させてくれたんです。てか正直、プライベートでもこれだけ一緒に過ごしている人はひなっちだけ。何にもないのに焼肉行ったりしますから。
日向:単純に仲がいいんですよ。
松下:ライヴで地方に行っても、いい山があったらライヴ前でも登っちゃう、みたいな。
日向:たまに“気持ち悪い”って言われるよね(笑)。ふたりでいてそんなに話すことあるの?みたいな。
松下:普通ツアーに行くと昼間はメンバーと別行動だと思うんですけど、こないだ京都に行ったときは一緒に山に登って、次の日はアンティーク・ショップに行って、ラーメン食って、とかしていましたからね。
――ひなっちさんはストレイテナーやNothing’s Carved In Stoneといったロック・シーン、松下さんはYasei CollectiveやGentle Forest Jazz Bandといったインスト/ジャズ・シーンでおもに活動しているわけですが、ユニットを組む以前はお互いどのようなプレイヤーという印象を持っていましたか?
日向:単純に“ジャズ・プレイヤー”って認識なんだけど、ヤセイの音源を聴いていてもドラムからすごくロックを感じるので、共感できる部分があると思っていました。ジャズを凌駕しようとしている意欲が音源からも伝わってきましたね。
松下:ひなっちはそのとおり、ロックをやってるってイメージだったけど、実際ひなっちのルーツにはジャズがあって、そこをちゃんとディグりたいっていう思いをプレイから感じていました。俺自身、ロック畑のプレイヤーともっと絡みたいって思いをずっと持っていて、そのタイミングで一緒にやることになったので、すごくいいきっかけだったんですよ。
日向:だからそういう意味でもお互いドンピシャだったんですよね。初めて合わせたとき“これだー!”みたいな感じはあったもん。
――違うシーンで活動してきた者同士だからこそ生まれる、アンサンブルやグルーヴ感があるのかもしれないですね。
日向:うん。だからオール・ジャンル網羅できるんですよ。それがもう快感でしかなくて。
松下:あと、ひなっちはやたらポジティブ。俺はそれにすごく助けられています。
日向:たまにマサナオはダークサイドに堕ちてるときがあるもんね。
松下:それはあなたもだろ(笑)。まぁいろいろあってプレイに入り込めないときもあるんですけど、そういうときもひなっちには、“全然よくね?”みたいな余裕があるんです。ひなっちはキャリアが長いから、いい意味でどこか現場感があって、ひとつひとつのライヴをこなすっていうシンプルな考え方で。それがすごくリラックスさせてくれるんです。あと休日を大事にすることとかね。一緒にやり始めてめちゃくちゃ休むようになりましたから。
日向:それ超大事だから。マサナオは詰め込むクセがあるからね。山とか行くと完全にリセットできるし、セッションの音源とかを聴いてみると、山の息分がめちゃくちゃ感じられるんですよ。
松下:そのとき投げ合う音のチョイスが、山の景色とかカラーからインスパイアされてるんだろうね。
――HHMMは“完全即興”を謳っていますが、以前ひなっちさんは“打ち合わせは一切なし、その日の気分でプレイが変わる”と言っていましたよね。
日向:もうね、音が出た瞬間にその日のイメージが理解できるんですよ。
松下:インプロ/即興って言われているけど、即興な部分って実はゼロで、お互いが何をやるかは俺らのなかにルールとしてあるんです。よく“どうやって合わせてるの?”とか聞かれますけど。
日向:何かの本によるとそれってテレパシーらしいよ(笑)。
松下:日向さんがヤバイ方向に行っちゃった(笑)。即興のイメージってみんな何となく持ってると思うんですけど、俺らの場合はそういうことじゃないんですよ。
日向:一般的な即興のセッションって、いわゆるアフロ・ビート的な、アフリカンな方向性のもので、リズムに共感してみんなで“ワー”ってトランス状態になるイメージだと思うんです。でも俺らはやりたいのはそこじゃないってこと。
松下:例えて言うと、街の壁の薄いスタジオで、隣の部屋から聴こえてくる音が気になって最後には合わせちゃう、みたいなイメージ。でもそのなかでも、これだけは絶対やらないでおこう、みたいな暗黙の了解も明確にあるんです。
日向:例えば俺だったらスラップはしないとかね。
松下:いわゆるリスナーが喜びそうなノリは全部排除して、違うノリを出したいんですよ。俺も4ビートは絶対叩かないし。
日向:俺が4つで弾いてるのにマサナオは9つで解釈してるときあるもんね。“おーい”みたいな(笑)。
――(笑)。ちなみにセッション前にはどういう会話をしているんですか?
日向:寸前まで全然違う話してる。このあとどこ飲みに行くか、とか。
松下:車とか服の話とかね。
日向:でもこの前わかったのが、会場の雰囲気でセッションの内容もすごく変わるんだよ。
松下:そう! 実はそれが一番デカいかもね。会場の鳴りで気持ちが持っていかれるんだよね。
日向:わかりやすく言うと“ジャンル”が変わる。それに応じてスケールの位置も変わってくるし。
松下:ジャジィになったりロック寄りになったりね。それは一緒にやるゲスト・ミュージシャンによっても変わってくる。フォーマットが明確にあるわけじゃないから、例えば俺がベーシストに対して“こう行きたい”っていうサインを出していても、ほとんどの人はキャッチできないと思うんですよ。でもひなっちはキャッチしてくれるし、こういうところは叩き上げられてきた部分なのかもしれない。
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