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INTERVIEW – 上野恒星 [Yogee New Waves]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto
  • Photo:Tetsuya Yamakawa(Live)、Kodai Kobayashi(Profile)

アジアン・インディに橋を架ける
温故知新なグルーヴの躍動

前作『BLUEHARLEM』のリリース後のツアーでは、台北、北京、上海、クアラルンプールなどを含むアジアの4ヵ国8都市を駆け巡ったYogee New Waves。しかしながら、その直後に世界を覆うこととなった感染症の脅威は、アジアのインディ・シーンでこれからより大きく羽ばたこうとしていた彼らの挑戦にも待ったをかけることとなった。そんななかで届けられた今回の4thアルバム『WINDORGAN』。悶々とした時代のムードを颯爽とはね飛ばす「SISSOU」から始まる14の物語を、彼らはいかにして作り上げたのか。今作でコラボレーションを果たした落日飛車(Sunset Rollercoaster)のKuoとの交流や、音作りへのこだわり、また初めて導入したウッド・ベースの話題については10月19日発売のベース・マガジン2021年11月号に譲って、ここでは“大きく変わろうとしている時代”に上野恒星が何を考えながら過ごし、ベースとどのように向き合ったのかを中心に話を聞いた。

10月19日発売のベース・マガジン2021年11月号にも上野恒星のインタビューを掲載!『WINDORGAN』のベース・プレイについて、BM webとは別内容でお送りします。

ひとつひとつに時代性みたいなものが宿っている。

━━2019年秋から冬にかけて4ヵ国8都市を巡ったアジア・ツアーのあとから制作が始まったという今作ですが、作るうえでのコンセプトはありましたか?

 アジア・ツアーを回って、いろいろなカルチャーがバックグラウンドにある日本語のわからないお客さんをたくさん目の前にしたので、そういう人たちにも幅広くアクセスできるものを作りたいと思っていました。今回、多くの曲のベーシック録りを去年1〜2月のコロナがまだ頭に入っていないときに進めたのですが、そこから少し時間を置いてコロナ禍以降に録った「SISSOU」、「Toromi days feat.Kuo (落日飛車Sunset Rollercoaster)」、「JUST」とかは、普段生活しているなかで感じる世の中の雰囲気とか、大きく変わろうとしている時代のことを感じ取って作った楽曲になったと思います。

━━上野さん個人として、またベーシストとしては、『WINDORGAN』をどういう作品だと捉えていますか?

 今回のアルバムを作っているときは、やっぱり“時代が変わろうとしている”というところは大きくて。コロナがなかったとしても東京にオリンピックが来ることは決まっていたわけで、世の中がダイナミズムをもって動いているなかで、それが今作のソングライティングの多様さや、リリックの内容も開いていってることにつながっている気がしていました。だから自分もそれに合わせて、新しいベース・プレイとかアイディアをはめ込んでいって、曲の世界観につなげていこうと。自分はソングライターではないですけど、やはりこの時代に生活していて、“このリズムが心地良い”とか、“こういうサウンドが気持ち良い”とか感じるものがあるんです。そのひとつひとつに時代性みたいなものが宿っているというか、ポップ・ミュージックってそういうものなのかなと思いますね。

━━確かに今作は楽曲のバラエティが過去作以上に豊かで、新しいものを自由に取り込んでいく姿勢が伝わってきました。

 今回のアルバムには、僕的なニューウェイヴみたいなものも感じているんです。自分はザ・クラッシュのポール・シムノンが好きなんですけど、『London Calling』というアルバムが出た1979年という時代の雰囲気もこんな感じだったのかな、とか想像していて。あれも、いろんな音楽スタイルが入った作品じゃないですか? あの頃のイギリスというと、少し前にはそれこそクラッシュの1枚目とかセックス・ピストルズやダムドのようなパンクがあった一方で、ニューウェイヴが始まってディス・ヒートやエルヴィス・コステロみたいな人たちも出てきて。そのあと80年代に入るともっといろんなバンドが出てきてニューウェイヴが花開いていくみたいな、世の中の動きにダイナミズムがありましたよね。そこまで意識していたわけじゃないけど、今作にも少しつながるというか、変化する時代のなかで作られた『WINDORGAN』は、結果的に今までとはかなり違った作品になったんじゃないかなと思います。制作に費やしてた時間が長いこともあって、振り返るのが難しいアルバムではあるんですけど。

WINDORGAN
ビクター/VICL-65563
左から竹村郁哉(g)、上野恒星、角舘健悟(vo,g)、粕谷哲司(d)

━━新しい要素としては、特に「Night Sliders」はシンコペーションのリズムが効いたシティ・ポップのダンサブルな要素を感じさせる1曲で、バンドの新機軸を見たように感じました。この曲はどのようにして生まれましたか?

 この曲は竹村(郁哉/g)がリフ持ってきたことから始まりましたね。そこから角舘(健悟/vo,g)とふたりでデモをある程度作ったあと、僕と粕谷(哲司/d)が入って全体のアレンジを仕上げていきました。ベースのリフも実は竹村がほとんど作ってくれていたので、僕はスラップで弾き直す作業をしていった感じです。曲に彼らしさが出ていますし、角舘以外のメンバーがネタを持ってくるという作り方をしたのは初めてだったので、新鮮でおもしろい経験でしたね。レコーディングでは、リズムがサラッと流れていってしまわないよう、粘らせて弾くみたいなことを意識しながら弾きました。

━━いつもと異なる制作プロセスで進んだことが、新鮮なサウンドにつながっているのかもしれませんね。普段は、どういう順番で曲作りが進むことが多いのでしょう?

 曲によるんですけど、角舘の弾き語りに肉付けしていく場合もあれば、彼がデモで持ってきたアレンジをそのままやるときもあるという感じですね。

━━前作のインタビューの際に、前々作の『WAVES』とレコーディング時の録音の順番が変わったという話をしていたのですが、今回はどうでしたか?

 『WAVES』のときは、ベースとドラムをまず録音するという感じだったんですけど、前作『BLUEHARLEM』では“録れる楽器はできるだけ一緒に録ろう”というスタンスでした。今回も、前作と同じ柏井(日向)さんというエンジニアが録ってくれたので、彼の意向もあって基本的には“せえの”で録っています。

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