PLAYER

UP

INTERVIEW – ヒロミ・ヒロヒロ[tricot]

  • Interview:Koji Kano

このメンバーなら何をやってもおもしろくなる。

2020年に結成10周年を迎えたtricotが、前作『真っ黒』から約9ヵ月という短スパンで2ndフル・アルバム『10』をリリースした。コロナ渦での制作となった今作は、変拍子を駆使した彼女たちの唯一無二の世界観をより色濃いものとして体感できる傑作と言える。そのなかで多彩な音色を自在に操りながらも、音像をしっかりと残すベース・プレイでアンサンブルの中核を担っているのが、ベーシストのヒロミ・ヒロヒロだ。いつもとは違う手法で楽曲制作が行なわれたという本作に彼女たちはどのように向き合ったのか。“10”という数字に込められた思いと、ヒロミ・ヒロヒロの10年間のベーシストとしての歩みにも迫っていきたい。

私はおもしろいことをしたくなっちゃうタイプなんだと思います。(笑)

━━今作『10』は、前作『真っ黒』から約9ヵ月という短スパンでのリリースとなりましたが、今作の制作はいつ頃からスタートしたのですか?

 5月くらいに“今年中にもう一枚出したいよね”という話になって、同時に曲作りをスタートさせました。コロナ禍ということもあって、ライヴもなくなって家にいる時間が増えたので、この機会に曲作りに注力してもう一枚を早めにリリースすることになったんです。

━━コロナ禍での曲作りはどのように?

 いつもはメンバーみんなでスタジオに集まって作ることが多いんですが、今作はそれぞれがデータでフレーズを送り合って、それぞれから来たフレーズに自分のフレーズを乗せていく形で作っていきました。20曲ほどラフな形ができあがった段階でメンバーとZOOMで打ち合わせをしつつ、原案ができた段階でみんなで少しずつスタジオに入って仕上げていきました。

━━“フレーズ”とはどういったものを送り合っていたのですか?

 クリックとか簡易的なドラムを打ち込んだものにBPMを書いた簡単なものですね。けっこう斬新な作曲方法だったと思いますよ(笑)。

━━tricotは2020年で結成10周年ということで、『10』には特別な思いも含まれているのでは?

 お察しのとおり、『10』というタイトルはそのまま“10周年”から取ったんです。9曲目の「Laststep」という曲はtricotが始まる前の10年以上前にできた曲で、ずっと発表のタイミングをうかがっていた曲なんですよ。なので、“入れるならこのタイミングしかないのでは?”ということで、アレンジし直して入れるになりました。この曲を入れたことで、改めて10周年を実感しましたね。

左からキダ モティフォ(g,cho)、吉田雄介(d)、中嶋イッキュウ(vo,g)、ヒロミ・ヒロヒロ(b,cho)。
『10』
cutting edge/8902 RECORDS
【CD+Blu-ray】CTCR-96004/B
【CD+DVD】CTCR-96005/B
【CD】CTCR-96006

━━これまでの10年を振り返りつつ、今のtricotをどのように捉えていますか?

 あっという間というか、気がついたら10年経っていたって感じなんですが、振り返ってみるといろいろありましたね。ドラマーがいない3人だけの状態も長かったし、地元の関西から東京に頻繁に車で遠征したりとか、海外に行かせてもらったときは1ヵ月ほぼ毎日ライヴするみたいなこともあって……(笑)。その結果、すごくみんなタフになったと思いますし、逆にタフじゃなかったらできなかったのかも。ただ、全然それらは苦痛ではなくて楽しかったし、今では笑い話にもできる。それはこのメンバーだからこそだと思いますね。

━━なるほど。いちベーシストとしてはいかがですか?

 全然まだまだやな〜って感じはするのですが、自分は自分なりのベーシスト道を歩んでこれたと思っています。バンドを始めた当初に自分が思い描いていたベーシスト像に少しは近づけたのではないでしょうか。

━━今作『10』は前作『真っ黒』と比較して、“tricot色”がよりはっきりと表われた、“オルタナティブでありつつも歌モノ”な印象を受けました。前作との差異は意識しましたか?

 正直リリースが急に決まったのもあって、とりあえず曲をどんどん作っていくなかで、いつもとは作曲手順が違うということで、自然と曲の雰囲気も変わったのもあるのではないでしょうか。いつもならキダ(モティフォ/g)さんのギター・フレーズをもとにみんなでセッションで広げていく流れが多いのですが、今回はメンバーそれぞれからのデモを聴いて、客観的に曲を捉えることができたのも大きかったと思いますね。

━━ヒロミさんのベース・ラインは緻密に音が計算されたような、リフ的なアプローチが印象的です。楽曲を理解してフレーズに落とし込むまでは早いほうですか?

 どちらかと言えば早いほうなのかもしれないですね。私はフレーズを作る際、歌メロを基準に考えることが多いんです。ただ、和音系のフレーズだと手クセもけっこうあるので、『真っ黒』の制作くらいから“手クセすぎるのも離れたほうがいいのかも……”と思うようになって、あえてこれまで使ってこなかったフレーズを考えることもあったんですよ。でも『10』はあまり深く考えずに、自然に出てきたフレーズを一番重要視しました。

━━tricotはベースの音量が大きいイメージがありますが、それはあえて狙っているのですか?

 うーん……メンバーみんな、ベースはデカめが好きというのはあるかもしれないですね。ただ、自分はベーシストなので、ベースを聴いてもらいたいという思いは持っていますよ。でも単にベースを主張したいというわけではなくて、歌の邪魔になるプレイは避けるようにしています。tricotは変拍子が目立ちますが、あくまでも歌モノなので一番は歌を聴いてもらいたい。でも“実はうしろでこんなおもしろいことしてるよ”っていうことも伝わったら嬉しいです。どちらかと言えば、私はおもしろいことをしたくなっちゃうタイプなんだと思います。(笑)

▼ 続きは次ページへ ▼