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INTERVIEW – 林幸治[TRICERATOPS]
- Interview:Koji Kano
- Photo:Michiko Yamamoto
今までの作品のなかでもジャズ・ベース率が一番高いかもしれませんね。
――例えばインストゥルメンタルのタイトル曲「Unite / Divide」は一貫したロー・ポジションでのフレーズが楽曲の中心となっていますが、各所で他楽器の動きを見据えたオブリが入っていたりと、飽きのこないベース・アレンジになっています。
この曲は今作のほかの楽曲のメロディを変形させたアコギ・フレーズが折り重なっていて、映画の冒頭みたいな“これからこういう物語が始まる”っていうイメージを表現した曲なんです。ベースは基本的にロー・ポジションのフレーズでグルーヴを作りつつ、おっしゃってくれたように出るところは出ようって感じですね。ベースのサウンドも歪んでいるんですけど、これは歪みエフェクターではなくて、ニーヴの1073(マイク・プリアンプ)のゲインをグイッと上げて音作りしました。
――確かにアンプライクなナチュラルな歪みに感じました。こういったレコーディング機器を用いて音作りすることにもこだわりがあるのでしょうか?
そうですね。今作は全曲でレコーディング・エンジニアの兼重哲哉くんが所有している、テレフンケンのV76Sっていうマイクプリを使っているんですけど、これはすごく貴重なもので、シュープリームスのレコーディングでも使われていた伝説的名機なんです。
――リズムが変わり、転調する中盤では、より動きを明確にしたフィルや和音を取り入れていますよね。アコギとシンプルなビートのみという構成もあって、ベースで歌っているようなアレンジに感じました。
ギターが単音なので、そのぶんベースでコード感を出したイメージですね。ちなみにこの曲は1964年製のジャズ・ベースで録っています。今までは1961年製のプレシジョン・ベースをメインで使うことが多かったんですが、今作では2曲のみ。「噴水」が2010年製のプレシジョン・ベースで、それ以外は全部ジャズ・ベースで録っています。今までの作品のなかでもジャズ・ベース率が一番高いかもしれませんね。
――その3本はどのように使い分けているんですか?
試してみてって感じですね。基本的には1961年製のプレベが好きなんですけど、今回は試した結果、ジャズベがしっくり来ることが多かったんです。実際に録ってみてメンバーにどのベースがいいかを確認することもあります。2010年製のプレベは音がデカいというか、抜けてくるんですよね。サウンドに特別“深み”はないんですけど、「噴水」には新しい感じのサウンドがほしかったので、それがたまたまハマってくれました。
―― その「噴水」のベース・プレイは正直驚きました。シンプルな8ビートに対して、全篇通して一定したスタッカートで弾き切っていますね。こういった展開は事前に想定していたんですか?
唱がそういうイメージを持ってきてくれたんですよ。彼はどちらかというとスタッカートとかは好きじゃなくて、“レガート気味に弾いてくれ”ってよく言ってくるんですけど、この曲は真逆でしたね。
――なるほど。そもそもべースのアレンジはどのように決まるんですか?
ある程度ギターで弾かれたベース・ラインが入っているデモ音源を唱が用意する場合もありますけど、今作はベース・パートは何も入っていないものも結構ありました。だからギターと歌とコーラスが入ったデモ音源を聴いて、こんな感じかなという判断で少しずつベース・ラインを当てはめていきました。だからこそLogicを導入したことがデカかったんですよね。
――「CLUB ZOO」のイントロ〜Aメロも細かく音価をコントロールしたベース・ラインになっていて、意欲的なアレンジだと感じます。
この曲こそ左手のニュアンスですね。音を切りつつミュートしたようなサウンドを狙いました。
――隙間にスラップのプルや、ハイ・ポジションでのオブリも入れていますが、あえて入れる場所をセーブした計算高いプレイになっていますね。
確かにどこに入れるのかっていう部分は吟味しました。ドラム/歌/ギターとの兼ね合いや楽曲の構成を考慮して、ほしい場所といらない場所っていうのをバンド・サウンド全体で検討して入れていきました。
――管楽器も入るジャジィなセクションでは、ウォーキング・ベースを披露していますね。こういったサウンド感はこれまでのTRICERATOPSにはなかったアプローチかなと。
あんまりやってこなかったアプローチですよね。この部分だけドラムのサウンドとかマイキングもまったく違う形で録音しているんです。ベース自体も変えちゃおうかって話になったんですけど、世界が変わり過ぎちゃう感じもあったので、ベースはそのまま全篇ジャズべで録っています。
――ジャズ的なベース・プレイは今作における林さんの新たな一面ですよね。
僕はそんなにジャズとかできないんですけどね。
――こういったバンドにおける新しいサウンド感も今作のトピックのひとつですよね。
パッと聴いてジャズっぽいってわかりやすい曲ですしね。新しいって思ってくれた人も多いみたいだし、好きだって言ってくれる人もいるので、挑戦してみて良かったです。
――「マトリクスガール」はギターとユニゾンするリフを基本としつつ、サビなどではフレーズを発展させる形でライン展開していますね。
メインのリフはギターをなぞるしかないかなと。
――この曲は今作のなかで最も腰高なベース・ラインになっていて、それも相まって縦ノリのハズむようなグルーヴを感じさせるアレンジに感じました。
この曲は今作で一番最初にレコーディングした曲なので、録音時はそこまで考えていなかったかも(笑)。でも1961年製のプレベで録ったんですけど、レコーディングが進んでいくなかでどんどん“ローがほしい”っていう考え方になっていって、アンプも変えたし、より深いローが出るジャズベを使うようになっていったので、そういう意味でこの曲は中音域に寄っているかもしれないですね。
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