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セッションマンたちの流儀 2020 “Another Edition”①-Toshihiro
- Interview:Koji Kano
- Photo:Hiroto Kawagoe
天邪鬼に“こういう音楽にこういうベース、珍しいやろ”
と実は思っていて(笑)。
━━PassCodeではバンド・マスターも担当されていますが、具体的にどういったことをする立場なのでしょうか?
第一にバンド・メンバーのまとめ役ですね。僕は2016年、PassCodeがメジャーに行くタイミングから参加していて、それ以降のライヴとレコーディングにすべて参加していることもあって僕がバンマスに指名されたのかなと思います。今はバンド・メンバーも完全固定になっているのであまりないですが、最初の頃は各パートに対して注文を出すこともありました。
━━もはやPassCodeというバンドをやっているイメージですね!
そういう表現をされる方もいますね(笑)。ただ自分としては大前提として、アイドル・メンバーがいて、そこで自分はベースを弾かせてもらっているという大きな線を引いているつもりではいますし、その結果“チームPassCode”というひとつの組織ができあがっていると思います。またPassCodeはバンド・メンバーが固定なので、チーム全体で打ち合わせをする機会も多いです。例えばライヴ前だと“ここでベースを持ち替えるから、MCを長めにしてほしい”という相談をこちらからしたり、逆に“このセットリスト、バンド的にどう思う?”という相談を受けたりもします。そうしたなかでコミュニケーションは必須になってくるので、同時にアイドル・メンバーとバンド・メンバーの一体感や絆も育まれていると思います。
━━PassCodeでは楽曲のベース・ラインはどのように作っていくのですか?
最近だとコンポーザーから“ざっくりこんな感じで”というベース・ラインが入った音源が渡されるケースが多いです。そのあとレコーディングで“こんなフレーズどうでしょう?”と僕から提案していったり、逆に向こうからの提案でその場でフレーズができあがることもあります。僕はベース・ラインを口ずさむのが癖なので、普段何気なく口ずさんだフレーズを実際の指板に置き換えるような感覚でフレーズを作っています。
━━「STARRY SKY」「DIVE INTO THE LIGHT」「Seize Approaching BRAND NEW ERA」など、テクニカルなスラップ・フレーズが印象的ですが、こういったラウドな音楽においてテクニカルなスラップは珍しいですね。
もともとハードコアやメタルをそこまで聴いてこなかったこともあって“こんな感じかな“と思ったものを自由に形にしている感覚です。ただ、天邪鬼に“こういう音楽にこういうベース、珍しいやろ”と実は思っていて、“普通このタイミングでこんなことしないよね”というようなプレイをあえてやろうともしています(笑)。レコーディングでは、普通ベースを弾かなくてもいいような場面でもあえてベースを入れてみて“え、そこ弾くんや、でもおもしろいからそれでいこう”と言ってもらえることもあります。自分が一番得意な、100%を出せる部分で勝負させてもらっていて、結果それをおもしろがっていただき尊重していただけているのでそこは感謝しています。
━━PassCodeの楽曲はEDMテイストな同期がガンガン鳴っているのも特徴ですが、こういった場合ベースの音作りにも工夫が必要になるのでしょうか?
EDM+打ち込みビートでベースだけが生という場合もそうですし、ギターのゲインが前面に出ていてローの帯域がベースと近い場合、アンサンブルのなかで“ベースの居場所、ほぼないやん!”となることはありますね。こういうときはPAも含めたチーム全体で解決方法を模索したりするのですが、そのなかで全体のバランスを考えつつベースのEQや音作りを工夫しながら、ベーシストとして出るところは出る、引っ込むところは引っ込むということを意識するようにしています。また、今までほとんどピック弾きをしてこなかったのですが、昨年からピック弾きをするようにしたことで音が抜けてきたという発見はありました。
━━PassCodeでのメイン・ベースを教えてください。
E-ⅡのCR-5 MSがメインで、ケーブル類は“こまほケーブル”で統一しています。CR-5 MSはまったく同じスペックのものを2本用意していて、ファンド・フレットなのでロー弦のテンションが維持できますし、長いサステインにも対応できるので気に入っています。チューニングは一本がレギュラー、もう一本は全弦半音上げにして使っています。
━━半音上げですか!? 珍しいですね。
はい、かなり珍しいと思います。たまにベースを貸したりすると“こんな硬いベース、よく弾けるな”という反応をされます(笑)。自分でもよく弾けるなと思いますが、自分の表現したいベース・ラインを考えるとどうしてもこのチューニングを使うしかなくて……僕は変則チューニングをレギュラーのままやりたいと思っていて、というのも頭のなかで考えたフレーズを実際の指板に置き換える際、ドロップ・チューニングだと、またひとつフレットを計算する手間がかかりますが、半音上がっていればレギュラーの運指のままスライドできるという利点があるわけです。ワーミー・ペダルなどで半音上げる手段も考えましたが、実際に弾いている周波数と、モニターから流れてくる音が違うのが気持ち悪いので、“じゃあそういう楽器にしてしまおう”ということで半音上げにしています。
━━これまでにPassCodeで思い出に残っているライヴやレコーディングはありますか?
やはり昨年のZEPPツアーは特に印象に残っています。数年前まではそんなところでベースを演奏できると思っていなかったので、非現実を楽しんでいる感覚でしたね。レコーディングだと「Same to you」という楽曲は3拍子のままサビに入って、そのあと6連が続くのですが、これを自分らしく2フィンガーでフレージングしてしっかり表現できたことはひとつの自信になりました。
━━最後に今後のベーシストとしての目標を教えてください。
まずいつも考えていることとして、ライヴの際にフロアでつまらなそうにしているお客さんをひとり見つけたら、そのお客さんを一瞬でも笑顔にすること、そして終演後に“今日のライヴおもしろかった”って思ってもらうことを目標にしています。今後に関してはPassCodeに参加したときもそうでしたが“できる、できない”ではなく“自分の力を試したい、挑戦したい”という思いが第一にあるので、今まで触れてこなかったジャンルの音楽にもどんどん挑戦したいと思っています。またベーシストとして、まだまだ自分も見つけられていないようなベース・プレイの楽しさも見つけていきたいですね。ベースを始めた当時に目指していたベース・ヒーローという存在ではないかもしれませんが、案外こっち(サポート・ベーシスト)も楽しいなと思っています。
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