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INTERVIEW – 徳永暁人[doa]

  • Interview:Kengo Nakamura

頭のなかにふたりの自分がいて、
アレンジャーの自分がベーシストの自分に指令している。

━━doaの最新作は、今回はタイトルどおり“CAMP”がテーマだそうですが、音楽的にはどのようなことを考えていましたか?

 doaでは、基本的にはコーラスの効いたアコギ・ロックっていうものをデビューからやっていて、3人の声があってアコギが入っていれば、どんなことになってもdoaになるっていう自信はずっとあるので、今回は逆に遊んでみようかなと思って。ビート感とかテンポ感とかですね。でも特に具体的に“こういう感じ”というのはなく、毎回思いついたときに曲を作っていき、集まったらこういう形になったというところです。『CAMP』というタイトルも最初からついていたわけじゃなくて、「Camp」という曲を作ったことによって、最終的にアルバムのタイトルにしたっていう感じですね。

「Camp」 Music Video

━━「Camp」はアコースティックなレゲエ。ハーモニカ・ソロのあとのAメロのブレイクの部分でゆったりとした大きなスライドを使ってAメロの繰り返しにつなぐのは、ベースならではのアプローチだと思いました。

 そこを語り始めたらまた長いんですけど(笑)。実は僕はグリスっていうのは、ライヴの現場とかでも、なるべくやらないようにしていて。ここぞというときにしかやりたくないんですよ。ベースのグリスって、あんまりやるとうるさいから、ミックスの音量が下がっていくんです。それに、例えばサビ前になると必ずグリスを入れるっていう人もいますよね。でもヴォーカリストからすると、“素敵な歌詞を歌おうとしている瞬間に、毎回毎回ブイーンってなんだよ”っていう気持ちもあって、僕は歌も歌うからそれもわかるんですね(笑)。サビに一番いい言葉を乗せて感情が上がっているときに、“ブイーン”ってやられると“うわっ”ってなる。だからレコーディングのときにもなるべくそういう風にしていて、「Camp」みたいにずっと平坦に弾いてきて、あの瞬間だけグリスをするというのは効果的ですよね。

━━グリスは気持ちいいから入れがちですもんね。

 そうなんですよね。余計です、あれは(笑)。僕も若いときにはグイングインやってましたけどね。1曲のうちに何回やるんだって。当時のバンド・メンバーには謝りたいですね(笑)。

━━「Camp」はシンプルなコードの繰り返しですが、エンディングのところだけニュアンスを変えて弾いていますか?

 「Camp」はコードがほぼ3つしかなくて、ハープ・ソロ以外はずっとGとDとCをくり返している、いわゆるオール・ループって言われるタイプの作曲の方法で作っているんです。洋楽とかはそういう曲も多いんですけど、その場合はだいたいコピー&ペーストするんですよね。ベースも、いいグルーヴが録れたら、4小節なり2小節を繰り返して使ったりする。今回はあえてそれをやらないで、1曲を通して弾いています。だから後半で気持ちが盛り上がってきたらタッチが変わってきたり音の長さが変わってきたり、自然な人間のゆらぎみたいなものを感じて作るようにしていますね。

doa。左から大田紳一郎(vo, g)、吉本大樹(vo)、徳永。

━━「ゆらゆら」は、いわゆるシティ・ポップな曲で、ベースも心地いい流れでコードをつないでいきますね、ソウル・マナーというか。

 これはもう完全に、昔のモータウン・サウンドというか。モータウンはアメリカのどっちかというと東とか中央のほうの音楽ですけど、それを西海岸のミュージシャンがやったらどうなるかなっていうのを、日本人の僕がやったみたいな感じですね。それが、日本で言ったら80年代初頭のシティ・ポップと言われるような音に近いのかもしれないですけど。今年、新型コロナで時間があったので、改めてジェームス・ジェマーソンの映像を観たりして、そこからヒントを得た曲ですね。

━━最後のサビは、動きまくりつつも絶妙にメロディと溶け合う感じです。これは計算してというよりは裏メロ的なものを想像しながら弾くんですか?

 うんうん。フィルイン的なものに関しては考えて弾いているものはなくて、その場の雰囲気で弾いていますね。歌が盛り上がったらベースも一緒に盛り上がるとか、3サビで歌が感情的になってきたなと思ったら、ベースもフレーズを細かく弾いてみようって。昔、僕がベースを始めて一生懸命やっていた頃はいろいろ考えてやっていたんです。“このコードに来たからなんとかスケールだ”とかってね。でも、だんだん“そういうのはいらないな”って思えてきて。変な話、ベースってオクターヴ上にグリスしながら上がるだけでも充分フィルになったりする楽器ですしね。だから感覚重視ですね。

━━「Wait a Minute!」の2Aでは歌メロの隙間にベースでオブリを入れたり、「BLEACH」2サビ後に控えめに絶妙にメロディアスなベース・ソロがあったりします。こういった部分はアレンジャー的にはどういう思考で入れることに?

 これはライヴをイメージしていますね。お客さんがずっとリード・ヴォーカルばかり観ているから、“ちょっとこっちも観てよ”っていうイメージ(笑)。ベースの見せ場を作るというかね。ベースっていう楽器は、いて当たり前なんですけど、なかなか“お、弾いているな”って認識されにくい楽器じゃないですか。特にライヴのときには、お客さんの目線とかも含めて、いろいろ楽しめるように、ドラム・ソロがあったりギターがフレーズを弾いたりっていうことをするんですけど、そのうちのひとつとして、ベースがどこかに入っているといいのかなって。

━━「Vacation」は1拍と3拍にルートと5度を置いていくフレーズが基本ですが、それぞれの音価が絶妙なのと、5度を弾く前のゴーストノートがキモになりますね。それによって全然グルーヴが違ってくるというか。目立たないながらもベースの重要な役割だと思います。

 そこは本当にいろいろ聴いて研究しますよね。同じ1度5度で弾くパターンでもいっぱいあって、ボサノヴァを聴いても、ウッド・ベースのジャズみたいなものを聴いてもそれぞれ違うし、どれが合うんだろうっていうのは常に考えていて。僕は今回、やっぱりイーグルスが好きなんで、イーグルスだったらどうやるかなということを意識しました。実際に弾く際には、2拍目、4拍目になったときにミュートをするかしないか。しないまま頑張れるグルーヴのときもあれば、“ドゥー、ツドゥ、ドゥー、ツ”ってやりたくなる場合があって、そのどれをチョイスするかっていうのは、アレンジャーをやってきたからこその視点も大きいですね。アレンジャーとして、“ギターはこう弾いて”、“ドラムはこう叩いて”っていうなかのひとつとして、“ベースのフレーズのここは切って”っていうことを考えているので。頭のなかにふたりの自分がいて、アレンジャーの自分がベーシストの自分に指令している感じですね。

━━「1日早いクリスマス」は4ビートのラインですが、サステインの感じがウッド・ベース的に感じました。

 これは普通のエレキを弾いているんですけど、ちょっとだけ右手の弾く位置をフロント寄りにしています。あとは、ベースって左手を強く押さえると芯が出る音が鳴って、そこからだんだん押さえる力を弱くしていくとちょっと“ブゥゥ”ってビビってきて、最後には音がなくなりますよね。その、音がなくなる寸前みたいなところで、毎音毎音、指を離して離してって弾くと、ああいうちょっとウッド・ベースみたいな質感になる。もう筋肉の限界ですけどね(笑)。

━━両作を通じての使用機材は?

 ベースは、テューン製の自分のシグネイチャー・モデルのボンバーベースです。ソロ・アルバムは4弦だけで、doaでは5弦モデルも使いました。基本的にはエフェクターも使わないし、シールド1本挿しただけで、“アンプ直”ならぬ“卓直”ですね(笑)。リアンプでアギュラーのアンプを使って混ぜたりもしますけど、ほんのちょっと押しの部分を強くする感じで、基本はラインの音。けっこう難しいですよ。指の力が一回でも抜けると音が凹んでしまったりしてまったくグルーヴにならなくなっちゃうとか、毎回同じ音で出せるようにしないといけないとか。

━━なるほど。では最後に、初のソロ・アルバムと自身のホームでの作品という2作品を完成させた、今の心境は?

 ソロ・アルバムに関しては、過去に僕が書いた曲のリアレンジですけど、まったく新しいものにしてみようっていう気持ちで作りましたし、ベースのアプローチも含めて、2020年の“今”の自分のフィーリングやスキルが盛り込めたと思います。doaのアルバムに関しても同じで。僕は、“今までこうだったから”ということよりも、“これからどうなるか”に興味があるんですよね。今、新型コロナの影響で、エンタメがどうとかライヴがどうとかっていうのはいろいろあるんですけど、そこも含めて、大げさな言い方ですけど、人類の活路のひとつに音楽があると、僕は思っています。そういう意味で、この2作は12月リリースなんですけど、2021年に向けてこのふたつの作品を聴いていただいて、“今を生きている”って感じていただければいいなと。僕が歌詞も書いた「Good Night」っていう曲は……ベースが入ってない曲ですけど(笑)、昨今の生活状況の変化で、忙しかったり大変だったり、不眠症で悩んでらっしゃる方もいっぱいいると思うし、やっぱりちゃんと寝て元気になってほしいし、元気になって明日を過ごしてほしいなっていう思いで作った曲だったりするんですね。ぜひ、この2作を、これから先の生活と一緒に楽しんでもらいたいですね。

◎Profile
とくなが・あきひと●9月22日、神奈川県出身。小学5年生頃からシンセサイザーを使った作曲を開始し、中学でベースを手にする。東京音楽大学作曲学部で本格的に作編曲を学ぶとともにエレクトリック・ベースを鳴瀬喜博に師事。大学在学中からスタジオ・ミュージシャン、作編曲家としての活動を開始し、B’z、ZARD、倉木麻衣を始め多くのアーティストをサポートする。2004年に大田紳一郎、吉本大樹とともにdoaを結成し、全員がメイン・ヴォーカルを取れる強みを生かした歌とハーモニーを武器に人気を集める。2020年12月2日にdoaの12thアルバム『CAMP』と、初のソロ・アルバム『Route 109』を同時リリース。doaとして初の無観客配信ライヴ“doa Streaming Live -CAMP-”を、12月23日(水)、1月10日(日)の2日にわたり開催予定だ。

◎Information
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