PLAYER
ベーシストとして、ソングライターとして、アレンジャーとして。
自身の音楽家としての道を示すバンド&ソロ作。
メンバー3人による美しいヴォーカル・ハーモニーとアコースティック・ギターを生かしたサウンドという、ウエスト・コースト・ロックに影響を受けたオトナが楽しめるロック・サウンドを展開しているdoa。バンドのブレインであるベーシストの徳永暁人は、ソングライター、アレンジャーとしての顔も持ち、これまでB’z、ZARD、倉木麻衣を始めとした多くのアーティストを支えヒット曲を生んできた。このたび、doaは12thアルバムとなる『CAMP』を、そして徳永は自身初のソロ・アルバム『Route 109』を完成させた。コロナ禍にあっても前向きに、精力的に活動を展開する徳永に、本2作について聞いた。
どこまで音を減らせるかと考えたときに、
メロディとベースがあればなんとかなるんじゃないかなと。
━━今回、ソロ・アルバム『Route 109』とdoaの12枚目のアルバム『CAMP』を同時リリースということになりましたが、これはどういう経緯で?
最初から同時に出そうと思って作っていたわけじゃないんですよ。doaの場合は、いつも曲を日常的に作っていて、曲が溜まったら出そうという形なんですね。それでdoaのアルバムの作業が終盤に差しかかった頃に、スタッフから今年は作家活動30周年という年でもあるので、ソロでセルフ・カバーのアルバムを出してみませんか、なんていう話が上がってきて。そこで、まずはdoaのアルバムを完成させて、それが終わってからソロに取りかかりますということで話が進んだんですけど、doaのアルバムができあがったあとにソロをトリオで一気に録ったら、わりと短期間で録れたんですよ。だったら、同じ日にリリースしようかなと。
━━ソロ名義でのアルバムは初めてとなりますが、初の自身名義のアルバムがオリジナル曲ではなく、過去に提供してきた楽曲のセルフ・カバーということには異存はなかったんですか?
そうですね。doaの曲は全部僕が書いていますし、どちらかというと、doaの曲が“自分の作品”という気持ちもあるんですよね。それに、以前ソロ・ツアーをやっていたときにも、わりとセルフ・カバーを中心にやっていたので、ソロに関しては自然な流れでセルフ・カバーをやってみようかなというのはありました。
━━徳永さんは提供曲も膨大ですし、選曲は難しかったのでは?
最終的にはいろんな人の意見を聞いて決めたんですけど、今までソロ・ツアーでカバーした曲もあったし、やっぱり自分で歌ってみたいなと思った曲を選びました。提供曲というのは、僕が作った曲を、それぞれのアーティストさんの色に変えてもらって戻ってくるものなんですけど、逆に、自分のデモテープの良さにはこういうところもあったけどなって思うこともあるんですね。例えば、最初はロックっぽかった曲だったんだけど、R&Bにアレンジしたなとかを思い出したりもして。だったら、それを自分なりに歌ってみようかなと。
━━オリジナル版でも徳永さんが編曲も含めて手がけていることが多いですよね。曲が生まれるときというのは、編曲ありきではなく、まずメロディとコードがあって、それをアーティストの要望に合わせてアレンジしていくんですか?
そうですね。僕の場合はほぼ、メロディとコードが先で、あとからアレンジという感じが多いですね。だから今回のセルフ・カバーでも、まったくアレンジを変えてしまってもメロディとコードさえあれば絶対にあの曲になるっていう、そういう感じでやりました。
━━『Route 109』ではベース、ギター、ドラムの3ピースか、ピアノ、ギター、ドラムの3ピースという編成ですね。
そうなんです。ベース・マガジンの取材なのに、ベースレスの曲があるっていう(笑)。2011年くらいからソロ・ツアーをやっているんですが、近年はトリオで回ることが多かったんです。基本はドラム、ギター、そして僕がベースを弾きながら歌う。ただ3人なので、僕がピアノを弾いちゃうとベースが弾けなくなるんですけど、今回は思い切って、ライヴでやっていたそういういつものスタイルをそのままパッケージして作品にしたいなと思ったんです。それで今回は全篇一発録り。それに、ベースレスの曲のあとにベースが出てきたときに、“やっぱりベースがあるといいね”と思ってもらえたらいいなと。
━━1曲目は倉木麻衣さんに提供した「Feel fine! 」のロック・アレンジで、イントロのリフやエンディングのギター・ソロにバッキング・ギターのダビングもない、3ピースの潔い音像ですね。ベースも小細工なくルート弾きの突進力で弾ききっているのが痛快です。
今作はどこまで音を減らせるかっていう実験みたいなもので、それがおもしろかったですね。ギター・ソロに行っちゃったら、僕しかコードがわかる楽器はいないので、とりあえず一生懸命ルートを弾くかなって(笑)。ただ、今の世の中って、逆にそういう音数の少ない音楽に寄ってきているのかなとも思っています。そもそも、昔の60年代とか70年代にはそういうバンドや音楽って多くて、そこから音が増えていって、今、また戻ってきている。最近のビリー・アイリッシュとかの洋楽アーティストを聴くと、キックとベースと歌だけの曲があったりして、逆にそういうほうがスマホとかで聴いたときに心に響いたりするなっていうのは、僕も感じていました。なるほど、こういう観点からコード楽器やベース楽器のアプローチをしたらおもしろいなって。どこまで音を減らせるかと考えたときに、メロディとベースがあればなんとかなるんじゃないかなと。
━━「明日へ架ける橋」 (倉木麻衣)は、イントロはベースでのメロディ弾きに始まり、ギター・ソロの裏ではコード感をフォローするような最低限のメロディックなフレーズ、その後のDメロ部分はハイポジでのルートのロング・トーンによって展開感を出す、というように、シンプルながらもベースで起伏を出しています。
自分でアレンジしてもそうなんですけど、やっぱりベースって意外と、音が増えちゃうと潜っちゃってどこを弾いているかわからなくなることって多いんですよ。それが、ここまで究極に音を抜くと、“ハイポジに行った”とか“今メジャーの音に行ったからここはメジャーのコードなんだな”とかが本当にわかりやすいじゃないですか。それがおもしろくて。
━━ラストのサビの最後で、一度ハイポジを選択してから低音部に落ち着くのもドラマチックですよね。弾いているのはただのルート音なんですけど。
そうなんですよ。ベースって不思議なもので、12フレットから上を弾くだけで、あんなに景色を変えられる。普段からアレンジもやっているなかで、“シンプル・イズ・ベスト”は感じています。ただその代わり、シンプルにすればするほど音色が良くないとまったくもたないので、音色を良くしようというのは、いつも気をつかっているところですね。