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INTERVIEW − 鈴木研一[人間椅子]

  • Interview:fuyu-showgun
  • Photo:Chika Suzuki

僕が歌うときは常々、
“なんか暗い感じで書いてください”って頼むから(笑)。

━━歌詞についてお聞きしたいのですが、今作に限らず人間椅子の詞の世界ってあると思うんです。英語的なメロディではない、横文字を使わない、日本文学的である、というところが持ち味でもありますが。メロディに対する言葉の置き方がキレイだなと思うんです。無理なはめ込み方を絶対にしないじゃないですか。

 和嶋くんが詞を載せやすいようにメロディを作るんです。言葉数を五・七・五にするとか。洋楽的というか、英語的にパーンと伸ばしから始まるみたいなメロディがあるとするなら、そこに“You”とかを乗せるんだろうけど、日本語だとただの“あー”とかにしかならないから。そういうメロディの作り方はしないようにしていますね。

━━母音子音の置き方と譜割が特徴的ですよね。ギクシャクした言葉、四文字熟語やアクセント位置で英語っぽく聴かせたり、というのもロックの世界ではありますけど、それとはまったく違う手法。ある意味で童謡的とでもいうか。

 メロディの一節が三文字だと作りづらかったりする。三文字って、言葉が相当限られるじゃないですか。助詞を入れると、“ぼくは”とかにしかならないし、中途半端になりますよね。だから一区切りは五文字以上になるようにするんです。これはもう、メロディを作るときからそうしてます。どうしても、サビのキメだとかは三文字にすることもあるけど、それより少なかったらもう、“おい”とかにしかならないから。必ず言葉が乗りやすいようにメロディを作りますね。無理矢理言葉を詰めれば、そのメロディでもいけるんだろうけど、それじゃ僕らっぽくないですよね。それに和嶋くんは単語ひとつとっても、その単語に合ったメロディを選ぶんですよね。例えば、“暗い 暗い 暗闇の~「暗黒王」”って、この“くらい(↑)”という語尾が上がるメロディには“暗い”や“黒い”は合うけど、ほかの言葉だと合わない。逆にこのメロディが“くらい(↓)”という下がるメロディだったら、今度は“暗い”に合わないじゃないですか。その音符と音程に合わせて言葉を選ぶのがすごくうまいんですよ。だからいつも感心するんです、素晴らしいなと。でもそういう素晴らしい詞も、それが乗りやすいメロディがないとうまく乗らないので。歌詞がつけやすいようにメロディを作ってるんですよね。

━━なるほど。そして、難しい言い回しもきちんと聴き取れるのもすごいなと。ヴォーカル・スタイルとして滑舌がいい、というだけではないと思うんです。

 すごく考えてるんだと思います。でも和嶋くんの書く歌詞は、実は僕も歌いながら難しくてよくわかんないときがあったりするんです(笑)。そういうときは必ず聞くんですよね。とくに陰謀論的な話のときはよくわからないことがあって。“実はこれは聖書のなんたらで~”とか説明してくれて、“ああ、そうなんだ”って。

━━ヴォーカル・スタイルはもちろんそうですが、歌詞も和嶋さんと鈴木さんのキャラクターの棲み分けがありますよね。鈴木さんヴォーカルは、本作では「暗黒王」や「宇宙海賊」といった、なんというか悪の親玉のような……。

 あはは。僕が歌うときは常々、“なんか暗い感じで書いてください”って頼むからじゃないですかね(笑)。和嶋くんはその反動じゃないですけど、バランスを見て、そうじゃない、例えば「人間ロボット」みたいな楽しい感じの曲だったり、バランスよくしてるんだと思います。暗い一辺倒だと、救いのないアルバムになっちゃうから(笑)。

━━そういうキャラクター性や世界観もちゃんと海外の人もわかっていますよね。海外のリアクション動画や“弾いてみた”動画もあったり。着実に人気が広がっていますね。

 嬉しいですね。

━━そうそう、つい先日アイドルの取材をしたんですけど、ご両親ともにバンドマンで、“胎教として人間椅子を聴いていた”というアイドルがいてですね……。

 ええっ!? それはかわいそうに……。ちなみになんていう方ですか?

━━NEO JAPONISMというグループの、滝沢ひなのさんという人なんですけど。けっこうヘヴィなロックをやっているグループでして。

 ああ、やっぱそうなりますよね(笑)。

━━アイドルらしからぬヴォーカル・スタイルと独特のグルーヴ感を持っているので、音楽ルーツを聞いてみたら、“お腹にいるときから人間椅子を聴いてました!”って。物心ついた頃にはライヴハウスにいたり、イカ天のビデオを観たりと、ご両親からかなりの英才教育を受けてきたようです。

 それは大変だ(笑)。でもそうか、アイドルだと、今20代とかですよね。もう僕ら、30年やってるしなぁ。昔聴いてくれていた方にそれくらいの娘さんがいてもおかしくないですよね。それにしても……お腹にいるときから人間椅子ですか(笑)。

 もはや鈴木のトレードマークともいうべき、BCリッチのイーグル・ベース。『苦楽』も全曲本器で録音された。1987年製と思われる1本で、ボディとネックはメイプル、ボディ・ストライプにウォルナットが使用されている。指板はローズウッド。ブリッジは重厚なバダス・ベースIを載せる。ピックアップはディマジオ製Pタイプを2基搭載し、両方ともリバース・マウントされているのが特徴だ。なお、BCリッチ特有の6ウェイ・バリトーン・スイッチ、フェイズ・スイッチ、ブースター・スイッチのサーキットは取りはずされ、マスター・ヴォリューム、トーンのみを生かしている。フロント・ピックアップのみを使用している。

【お知らせ】
発売中の2021年8月号にも鈴木研一のインタビューを掲載! 『苦楽』のベース・プレイについて、BM webとは別内容でお送りします。

同号では“リズム体”についての大特集記事のほか、待望の復活作『音楽』をリリースした東京事変・亀田誠治特集もフィーチャー!

◎Profile
すずき・けんいち●1966年3月11日生まれ、青森県出身。高校の同級生である和嶋慎治(vo,g)と組んだバンドが人間椅子へと発展。TV番組“イカ天”で一躍注目を集め、1990年に『人間失格』でデビューする。英国的ハードロックとおどろおどろしい日本文学を融合させた世界観で評価を獲得。2019年には結成30周年を迎え、2020年にはドキュメンタリー映画『映画 人間椅子 バンド生活三十年』を公開した。2021年8月4日に通算22作目となるアルバム『苦楽』をリリースした。

◎Information
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