プランのご案内
  • PLAYER

    UP

    INTERVIEW − 鈴木研一[人間椅子]

    • Interview:fuyu-showgun
    • Photo:Chika Suzuki

    円熟味増す、個性派様式美の作り方

    2019年に結成30周年を迎え、その特異な円熟味がより一層増している人間椅子が、約2年ぶりとなるニュー・アルバム『苦楽』をリリースした。前作『新青年』のリード曲「無情のスキャット」がMVを通して海外から多くの注目を浴びたほか、ドキュメンタリー映画『映画 人間椅子 バンド生活三十年』が公開されるなど、大きなトピックをいくつも経て制作された通算22枚目の今作には、日本が誇る3ピース・ハードロック・バンドが織りなす妙技とその生き様が深く刻み込まれている。鈴木研一の『苦楽』におけるベース・プレイの話は、発売中のベース・マガジン2021年8月号に譲り、ここでは楽曲制作について語ってもらった。

    発売中の2021年8月号にも鈴木研一のインタビューを掲載! 『苦楽』のベース・プレイについて、BM webとは別内容でお送りします。

    最後、明るい展開になるじゃないですか。
    今この閉塞感のある世の中で、こっちのほうががいいんじゃないかって。

    ━━前作『新青年』から約2年ぶりの新作になりますが、制作にあたりアルバムのビジョンはあったのでしょうか?

     前のアルバムは結成30周年ということで、かなり気合いを入れて作ったんですよね。それもあって、とても満足できる仕上がりになったんです。それで、“さぁ、次どうするか”といったときに、前よりも良くない、ショボいアルバムを出すわけにはいかないんで、ハードルは高かったですね。コロナもあって、曲を作る時間はいっぱいあったんですけど、なかなか作曲モードに入ることができない感じもあって。和嶋(慎治/vo, g)くんと“(昨年の)9月から作ろう”と話してはいたんですけど、ふたりとも結局10月からになってしまいました。いつライヴができるのかもわからない空気になっていたんで、“じゃあ、バンドも休んでのんびりやろうかな”という気持ちだったんですね。

    ━━コロナ禍で、制作モードへのスイッチが入るまでに時間がかかったと。

     ええ、大変でしたね。ハードルも高いし。でも、和嶋くんと僕では音楽的な才能が全然違うんで。作り方も全然違っていて。和嶋くんは時間がなければないほど、締め切りが迫れば迫るほど、できるんですよ。だから例えば作曲期間が半年あっても、本腰を入れるのは最後の1週間……さすがにそれは大袈裟か(笑)。最後の1ヵ月くらいとか、それでいい曲ができるんです。自分はそれをやると何もいいものができないので、時間のある限り、ひたすらギターを弾いて。いいリフができるまで寝ないとか、いいリフが生まれるまで飯食わないとか、細かい目標を立てて、たくさん作っていきました。そのなかからいいものを選ぶ、という形でやっていったんです。

    ━━アルバムに向けて、曲作りに励んだわけですね。

     ええ、僕らはアルバムを作るため以外に曲を作ることはまずないので。

    『苦楽』
    徳間ジャパンコミュニケーションズ

    TKCA-74961

    ━━前作のリード曲である「無情のスキャット」がYouTubeをきっかけに海外で大きな評価を得ました。そこから初の海外ツアーも経て、向こうのファンの反応も体感したと思いますが、そういった海外意識みたいなところは考えましたか?

     海外ライヴをやったから、その次に向けて、みたいなものは特にないですね。「無情のスキャット」という曲は、サビの“シャバダバ……”っていうフレーズが外国の人でも歌えるところがウケたひとつだと思うんですけど、そういう“外国の人でも歌えるものを作ろう”というような、あざといことは考えてなかったですね(笑)。いつもどおりやるという感じで。ただ、なんというかな、前のアルバムは30周年だということで、ちょっとノリの良い感じが全面に出たから、次はそういう傾向よりもヘヴィにいこうと、そういう気持ちはありました。でも、これはいつもですけど、こういうアルバムにしようとか、テーマみたいなものをあらかじめ決めるわけじゃないんですよ。和嶋くんと曲を作って持ち寄って、相手がどうしたいのかというのを、曲を聴いてお互いが感じ取るんです。それで、その後の自分の作曲も同じ方向に揃えていくという感じなんですよ。

    ━━それは長年一緒にやってきたからこそ、お互いに疎通できる部分でもありますね。アルバム制作、レコーディングは順調だったんですか?

     最初はいつもどおりだったんですけど、作ってる途中でみんなのプライベートにツラい出来事があって、アルバムの制作時期が2回くらい延びたんですよ。そういうことを乗り越えて作ったアルバムだから、より気合が入っているというか、いつも以上に苦労して作ったという感じはあります。いつもはわりと勢いで作っちゃう感じなんですけど(笑)。

    ━━そういう意味でも、より手応えを感じられる作品に仕上がったわけですね。

     そうですね。あらためて聴くと、“ここはもっとこうすればよかったな”と思うこともあるんですけど。それを言い出したらキリがないですから(笑)。限られた時間のなかで、いい感じに仕上がったと思います。

    ━━幻想的なイントロから重厚感あるリフへと流れるリード曲「杜子春」に始まり、壮絶なアンサンブル・アレンジの「夜明け前」で終わる、という荘厳さが本作を象徴するところだと思います。

     人間椅子はいつも最後の曲がイチオシなんですよ。だから元々「夜明け前」をリード曲にしようとしてたんです。それから「杜子春」にするか迷って。どっちも7分半越えなんですけど。

    ━━「杜子春」に変わった理由はなんだったんです?

     僕はどっちでもアリだと思っていて。マスタリングのときは「夜明け前」にするという話になっていたんですけど、和嶋くんが、家に帰って聴いてみたら“「杜子春」にする”って。この曲の最後、明るい展開になるじゃないですか。だから今この閉塞感のある世の中で、こっちのほうがいいんじゃないかって。そのほうがみんなが元気になるかなぁっていう。

    ━━確かに最後の展開は希望に向かっていくような雰囲気がありますね。そういった唐突で複雑な展開が人間椅子のお家芸であり、大きな魅力になっていますよね。

     とにかく僕も和嶋くんも(ブラック・)サバス・チルドレンなんで、展開しないと気持ち悪いんですよね。スラッシュ(メタル)みたいな曲はあえて展開させませんけど。そうじゃないものは展開がないと手抜きみたいに感じちゃうんですよ。その展開が劇的であればあるほど、調子が変われば変わるほど、カッコよく聴こえるんですよね。

    ━━それでいて、リフひとつにとっても、ヘヴィながらキャッチーというか、すごく印象的なものが多い。

     常々それを考えてやってはきたんですけど、なかなか難しいですよね。ヘヴィでキャッチーで、そこに乗せていくメロディがポップというのがすごく難しくて。和嶋くんはそういうセンスに長けているんですけど、自分はなかなかそういう域までは達しないんですよ。自分なりに考えに考えて、なるようには工夫はしてるんですけど、やはり難しいですね。

    ━━「夜明け前」はライヴ映えしそうな曲ですよね。

     ギター・ソロのバックでドラムとベースが混じる感じとか、今までやってこなかったパターンですね。けっこう重ねたから、あれをライヴでどうやるか、今から楽しみですけどね。

    ━━ライブでやるのが楽しみな曲はほかにもあります?

     いつもじゃないパターンのものは楽しみではあるけど、難しいですね。「世紀末ジンタ」は、自分で思いついたとき、“これカッコいいな”と思ったんだけど、実際やるのは難しかったなぁ。ライヴでやるのも楽しみだけど、そんなにはやらないだろうから。ツアーでこの曲やるのを観れた人はレアかもしれません(笑)。出す前から、こうして取材していただいてる段階で、すでにレア曲(笑)。

    ▼ 続きは次ページへ ▼