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INTERVIEW – 鈴木正人[LITTLE CREATURES]

  • Interview:Kengo Nakamura

絶妙な音価がバンドを操る、極上のグルーヴ

1990年のデビュー以降、ネオアコ、ジャズ、エレクトロ、ワールド・ミュージック、ポスト・ロックなどなど、さまざまな音楽要素を飲み込みながら、まさに孤高の存在としてマイペースな音楽活動を展開してきたLITTLE CREATURES。バンド活動以外にも個々のメンバーが、いろいろなアーティストのサポートやプロデュースも手がけており、ミュージシャンズ・ミュージシャンとも称されている彼らは、このたびデビュー30周年を迎え、5年振りの通算8作目のスタジオ・アルバム『30』をリリースした。ベーシストの鈴木正人は、UA、大貫妙子、秦 基博、BONNIE PINK、DAOKOを始め、Jポップ・シーンにおいて世代やジャンルを問わずに極上の低音を奏でてきた名手中の名手だ。その彼が“ホーム”で奏でたのは、細やかな音価操作がまさにバンド/楽曲を躍動させる、これまた極上のグルーヴ。そのベーシストとしての思考回路について聞いた。

音価を決めるのは左手ですもんね。右手はハジくだけだから。

━━LITTLE CREATURESは2020年11月にデビュー30周年を迎えて、『30』は5年振りの通算8作目のアルバムです。

 クリーチャーズは、誰かがハッパをかけないと何も進まない、かなりマイペースな活動をしているんですけど、30周年ということで、さすがに何かやらないとまずいかなって(笑)。まぁ、そういうときはだいたい、事務所の社長が言い始める感じなんですけどね。2019年頃から“30周年に向けて”っていう感じで動き出したのかな。

━━LITTLE CREATURESはアルバムによってさまざまな音楽表現に取り組んできましたが、本作に対してはどういったマインドだったのですか?

 だいたいいつも、青柳(拓次/vo, g)のアイディアが核になってくるんですけど、青柳がけっこうな曲数を書きためていて、それは実際にアルバムに収録されたものよりは、もうちょっと穏やかな感じのものが多かったんです。でも途中で青柳が、やっぱり違う感じでやりたいって言い出して、また曲を作ってきたんですね。それがわりと今回のアルバムに入っているような、リズムがわりとはっきりしていて、ちょっとファンキーな感じだったんです。そういうデモを聴かせてもらって、なるほど、こういう感じでいくんだなって。

━━今作で鈴木さんは「踊り子」と「左目」を手がけています。「踊り子」は、粒立ちの良い16分音符とヴィブラートがコントラストを生むベース・リフで楽曲を引っ張っていきますね。

 「踊り子」はこのベース・ラインから作り始めました。ただ、僕の場合はだいたい打ち込みで作ることが多いんですよ。それはベース・ラインも含めて。そのほうが、あまり手クセにとらわれない感じになるので、ベースを弾いて作るよりもおもしろいアイディアが出やすいんですよね。

━━「左目」のベースは絶妙に滲みながら漂う感じですね。

 そうですね。この曲は楽曲自体もそういったイメージで、その全体のイメージから作っていきました。アルバムの曲が出そろったくらいのタイミングで作ったんですけど、こういう曲が1曲ぐらいあってもいいかなって。

『30』
CHORDIARY/Pヴァイン

PCD-18880/1
左から鈴木、青柳拓次(vo, g)、栗原務(d, perc)。

━━先ほど、アルバム全体としてリズムについての言及がありましたが、ベースの音価の調整がグルーヴを生むというのが如実に感じられる曲が多いと思います。特に「速報音楽」はスタッカートや8分ウラの音符の長さなど、ベースの音価がノリのキモになっていて、かつ、例えば同じサビのセクションでも、中盤と曲の最後ではベースの音価も変わっていますよね? 中盤がタイトで、曲最後だともっとプッシュ感があるというか。

 「速報音楽」は終盤に向かってガーっと盛り上がって行く曲なので、それはけっこう意識的にやっているかもしれないですね。基本的なベース・ラインは、青柳の曲なら青柳が作ってくるんですよ。それがベーシックにありつつ、レコーディング前にバンドで最初のリハーサルをやるときに、自分なりに試してみるんです。やっぱり生でやると、曲の流れっていうのが自然に出てくるし、その曲の流れに沿って演奏していると、自然に変化する部分も、意図的に盛り上げようと思ってやる部分も出てくる。それを聴いてみて、“あ、これぐらいやってみてもいいかな”とか“これはやりすぎかな”っていうところを判断していく感じです。

━━ちなみに「速報音楽」はスタジオ・ライヴの映像が公開されていて、右手で鍵盤を弾いて、左手のタッピングだけでベースを弾く場面もありました。

 ラッシュみたいなね(笑)。あれはリハのときに冗談でやってみたら、“それいいじゃん”って言われて、そのままやることになったんですよ。だから、ベースに関しては音が合っていればいいっていう感じで(笑)。なかなかコントロールはできないですよね。どうしても鍵盤のほうに頭がいっちゃう。

━━いや、でも左手での音価のコントロールは見事だと思いました。それだけ、音価の感覚が体に入っているのかなと。

 確かに、普段から音価を決めるのは左手ですもんね。右手はハジくだけだから。左手の押さえ方で音の長さをどれくらいにするのかっていうのはいつもやっているから、自然にそうなっているのかもしれないですね。

速報音楽」 (LIVE 2020)
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