PLAYER
自分らしさを出そうと思わずに
編曲家として考えられるのはいいこと。
――「人間みたいね」はスムーズなプレイで、音価の長い/短いの組み合わせでファンキーさを出していますね。
具体的な意識はなかったんですけど、歌ができた時点でリズム体はこういう風にしようっていうイメージがあって。ファンクまではいかないような、俺の好きなグルーヴィな海外の音楽で度々登場するフレーズなんです。例えば、この曲のリファレンスはフレンチ・ポップ・ユニットのフェニックスだったんですけど、彼らに対するリスペクトを持ったバンドとかがよく使うフレーズだったりします。だから、わりとリフっぽい考え方かもしれないですね。歌と合う限りはこのフレーズでいこうと決めてました。
――「悪夢」は唯一のシンベの曲で、トラック全体も打ち込みで完結したアンサンブルになっています。
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』っていうディズニーのアニメ映画があって、なんかそういうハロウィン的な子供の見る怖い夢みたいな曲を作りたいと思ったときに、サウンドのイメージは絶対に打ち込みかなっていうのは考えていました。ヤオヤっぽい質感で、トラップっぽさもあって、それを生っぽくやると雰囲気がまた変わってくると思ったんです。ひんやりした感じが重要でしたね。
――全体的にはノリがうしろにいるように感じましたが、これはグリッド上でのコントロールによるものですか?
僕、グリッド大好き人間なのでドラムに関してはマジでぴったりにしていて、そこからヒューマナイズさせるのはあんまりしたくないんです。シンベに関しては、調節するとしたらアタックやリリースを遅らせるっていうところですかね。音作りの段階でしていることではあるんですけど、もはや無意識的にグルーヴ面のうしろノリ加減を感覚的に調節しているんだと思います。
――「デマゴーグ」は一転してバンド・サウンドで押したバラードチックな曲になっています。
直球ポップスって感じですよね。
――あ、やっぱりそういうイメージでした?
わりとそういう気持ちで考えていました。あざといストリングスも鳴っていますし。
――なるほど(笑)。
1〜5曲目は暗いし嫌なことを淡々と綴っている曲になったので、それに対して救いの手を差し伸べるような曲が作りたいな、と。そういう歌詞のコンセプトだったのでサウンドも優しいポップスで、しかも今まで一度もストリングスを書いたことがなかったし、挑戦してみたっていう感じです。
――ベース・プレイとしては歌を支えるような機能的なプレイで、派手さはないですが堅実なアプローチですね。
プライドを捨てようっていうのは思いました。僕、ベーシストとしての自意識が低いんですけど、そこで自分らしさを出そうと思わずに編曲家として考えられるのはいいことだなと思っていて、その良さが前面に出た曲ですね。でも、めっちゃ不安でした(笑)。だけど、Mattのドラムがあるので安心してデモをスタジオに持っていけました。案の定、16分のハイハットにちょっとした3連のフィールを入れてくれたので、それにベースも少し引っ張られるし、そのおかげでちょっとしたヒネりを直球ポップスに加えられましたね。
――レコーディングで使用したベースは?
「泥中の蓮」はゴリゴリでマッチョな感じが欲しかったので、最近導入したフェンダー・アメリカン・プロフェッショナルのプレベを使ってピックで弾いてます。ほかにも「人間みたいね」と「ハイドアンドシーク」で使いました。ほかの曲は前から使っているバッカスのJBタイプで弾いてます。あとは、最近ジャガー・シェイプのボディだけど中身はJBタイプのベースをオーダーしたんですよ。ハイファイすぎる感じが合わなかったのでアルバムでは使わなかったんですけど、ライヴでは使ってます。
――録音はどのように行なっているんですか?
ラインとアンプのマイキングを録って、曲によってブレンド具合はよりけりって感じです。TRICKFISH製のヘッドとVandercley製のキャビの組み合わせはずっと使っているものですね。あと最近、ACME AUDIOのMotown D.I. WB-3(DI)をサポートしているヨルシカのn-bunaくん(g,composer)から誕生日プレゼントにもらったんです。めちゃくちゃイナたいし野暮ったいのが最高で、今作では「デマゴーグ」「人間みたいね」とかの丸くて主張しないサウンドの曲で使っています。
――編曲家、コンポーザー、シンガー、プレイヤーとさまざまな顔を持つキタニさんはもはやクリエイターであると思いました。ベースについて話を聞いていきましたが、改めて今作におけるベースの役割はどのようなものだったと思いますか?
今まではアレンジの推進力になるものがドラムだったんですよね。ただ、ベースの地位がすごく上がったところがありました。ゴーストをひとつ入れるか入れないかだけでグルーヴがすごく変わるということがすごく勉強になったので、ベースもドラムも同じくらいアレンジの推進力になるものだと思っています。
――最後に、今後の意気込みを聞かせてください。
アルバムはやっぱり人前で演奏するっていう前提で作っているものだから、配信であれ、キャパを減らすであれ、絶対に人前で演奏はしたいし、それを臆せずやっていきたいですね。人前で発表するチャンスがあれば、あらゆる形で露出していきたいっていうのは、意気込みとしてずっと持っています。誰もがアクセスできる範囲で演奏していきたいですね。