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    【BM web版】歪みベーシストという生き方③━━川上シゲ

    • Interview:Koji Kano

    ヴォーカリストの声質はベースの音を作るうえで一番に気にする。
    カルメン・マキみたいなエッジのある声だと歪みベースは特に似合う。

    ━━川上さんのサウンドを語るうえで、Sunnのアンプもはずせない要素ですね。Sunnのサウンドに関して、影響を受けたベーシストはいますか?

     『閉ざされた町』のレコーディングで滞在したロサンゼルスで、キース・ムーン最後のツアーになった、TheWHOの北米ツアーを観る機会があったんだ。その公演でジョン・エントウィッスルのSunnの壁から響き渡る生の音を聴いたんだけど、それはもう衝撃的な音だったよ。彼の生み出す音はまるで“ひとりオーケストラ”のようだったね。ある意味、自分の目指す世界観に近い感じがして、すごく嬉しかったんだ。

    ━━なるほど。では川上さんは当時、Sunnをどのように使用されていたのですか?

     当時のアンプはゲインすらなくて、ヴォリューム、トーン、ベースしかツマミがなかったから、それだけで音を作ってたんだよ(笑)。でもSunnはそれだけでも十分な音作りができた。あとはさっきも言ったけど、弦をハジく力加減とか、グリスのニュアンス。柔らかく弾いてるようじゃ、当時のアンプだと絶対歪まないからね。

    ━━当時は今以上に弾き手のニュアンスが大きな要素だったということですね。

     一番大事なのは“弦を鳴らす”こと。俺自身、やっぱり弦は響かせなきゃいけないっていう意識は常に持ってたし、チョッパー奏法が出てきたときのラリー・グラハムの弦振動なんて、それはもうすごかったよ。ジャコ・パストリアスも当時の新宿厚生年金会館で観たとき、400Wくらいのアンプを使ってて、すごくいい音で倍音もキレイに出ててさ、やっぱりアンプの音量上げて弦を鳴らすことなんだって思ったんだよ。

    ━━アンプの一番美味しい部分をいかに引き出せるかが鍵になると。

     当時はしっかり弾かないとアンプも鳴ってくれなかったからね。特にベーシストはアンプの音だけでどれだけキレイな音を出せるか、そのうえでライン音でちょっとプラスして補正するというのが、大事な考えだと思うよ。そもそもなんでアンプを使うのかをちゃんと理解しないといけないよね。

    ━━では、ピッキングや左手のニュアンスで作る歪みとは?

     実は1975年くらいまでは俺は指弾きで、弦を押さえる左手とか弦をハジく右手の力加減のみで歪みを作ってたんだ。弦高もこれ以上は上げられないってところまで高くしてた。指でもピックでも、本来の弦の鳴りを出すためには弦高はある程度高くしないとダメ。俺みたいなチョーキングやグリスをやるベーシストは特にね。あと曲によっても弾くニュアンスは変わってくる。例えば荒い曲とか激しい曲は“爆発したい”っていう思いが出てくるから、自然にアタックが強くなっちゃう。そのときに弦高が低いと、フレットに当たってベンベンした薄い音になるから、弦の音がちゃんと表現できる弦高にして、思いっきり弾いても弦がバウンドするようなセッティングにしてあげる必要もあるね。

    ━━なるほど。弦高も歪みにおける大きな要素ということですね。

     あとは俺の場合はグリスだね。グリスも小さく動かすんじゃなくて、“グオン”って感じで思いきってハイ・フレットまで動かすことで、エッジが効いたスリリングな音になる。そういう意味でもSunnのアンプはそのニュアンスが一番的確に表現できるんだ。最近はアンプを音作りのメインで使う人が少なくなってるから寂しいよ(笑)。

    ━━細かい弾き手のニュアンスとプレイ・スタイルにアンプが加わることで、あの強力なサウンドが生み出せると。

     俺はフレージングとかベースの荒っぽい鳴りが生み出す歪みが一番カッコいいと思うんだ。エフェクターを使えばもちろん歪むけど、それは本来の歪みじゃないと思ってる。だから75年にブラスマスターを最初に使ったときも、歪ませるために使ったというよりは、ひとつの違う楽器としてメロディを鳴らすために使ったんだ。そういう意味でも歪みって奥が深すぎて、どこまで掘り下げればいいかわからないね(笑)。

    ━━川上さんはプレシジョン・ベースをメインとしてずっと使用していますが、それもこだわりなのでは?

     そうだね。ツマミはふたつだけのほうが操作しやすいし、音的にもプレベのほうが好きだからずっとプレベを使ってるよ。やっぱりプレベにSunnのアンプって組み合わせじゃないとあの音は出せないと思ってる。

    ━━川上さんはあくまでも“歌モノ”の音楽をやってきたと思いますが、歌と共存させるベースの歪みというものは、確立されたものがあるのでしょうか?

     うーん……いろいろあるけど、結局はその曲と歌い手の声質によるかな。ヴォーカリストがあまりにクリアでキレイな声質だと、バックでベースを歪ませてもあまり似合わないからね。カルメン・マキみたいな、ちょっとしゃがれたエッジのある声だと歪みベースは特に似合うし馴染むんだよ。例えばニルヴァーナでも、カート・コバーンみたいな声だとやっぱりオルタナティブなバンド・サウンドがマッチするしね。

    ━━なるほど、ヴォーカリストの個性に合わせてベースの音色も変えると。

     だからヴォーカリストの声質はベースの音を作るうえで一番に気にするし、ヴォーカルによって音作りを変えてるんだ。でも逆に、井上陽水のレコーディングをしたとき、“ロックっぽいベースが欲しいからシゲやってくれ”って言われたこともあったり、ヴォーカル側から指名してもらうこともあるよ。

    ━━川上さんは1970年代からさまざまなバンドでベースを鳴らしてきたわけですが、サウンドにも年代ごとに変化があるのでしょうか?

     そもそも、なんでピック弾きベーシストになったかっていうと、それは80年代に答えがあるんだ。その当時、ニューウェイヴみたいな硬い音の音楽がどんどん増えていって、タイム感も特殊なリズムのものが多かったから、指で弾くとどうしてもタイム・ラグが出てしまう。でもピックだったら、弦に当たる範囲が指より浅いから、タイム感がキレイにコントロールできると思ってピックに切り替えたんだ。自分の体的にもピック弾きのほうが合ってたしね。80年代はリズムがタイトで打ち込みを入れた音楽をやってたから、ロックなニュアンスに寄せたところはあるね。90年代にタイフーン・ナタリをやったときは考え方にそこまで変化はなかったけど、感覚として少し70年代の音作りに戻した感じはあるかな。

    1983年に発売されたNOIZ『NOIZ』
    2019年末にはタワーレコード限定でリマスター版が発売された。
    左から、人見元基(vo)、春日博文(g)、川上シゲ(b)、火乃玉男(d)
    カルメン・マキ&OZ「崩壊の前日」 (カルメン・マキ45周年記念VOL.1 〜ONE NIGHT STAND〜 《ROCK SIDE》より)

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