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INTERVIEW – ネイト・メンデル[フー・ファイターズ]
- Interpretation:Tommy Morley
結成25周年を超えて、なお、前へ。
アメリカン・ロックの代表バンドとしてハズレなしの傑作アルバムを連発し、2020年で結成25周年を迎えたフー・ファイターズが、10枚目となるオリジナル・アルバム『メディスン・アット・ミッドナイト』を発表した。創始者であるデイヴ・グロール(vo,g)とともに、不動のベーシストとしてバンドを支えてきたネイト・メンデルはこの記念すべきアルバムについて、“何か新しいことをしてみたかった”と語る。果たして、まさしく彼ららしいギター・ロックはもちろん、これまでのバンド・イメージを覆す1980年代風ダンス・チューンを始めとした挑戦的で刺激的な楽曲が収められた本作は、新鮮さと貫禄の入り混じった新たな傑作といえる仕上がり。ネイトに本作について話を聞いた。
音の長さっていうのは楽器をプレイするうえで
かなり重要なポイントなんだ。
━━新作『メディスン・アット・ミッドナイト』はバンドの10枚目のアルバムです。2020年が25周年ということも含めて、制作前に特別な気持ちはありましたか?
もちろんあったね。何かを今までとは少し違うものにして、自分たちの羽根をさらに広げてみたいと思っていたよ。実はデヴィッド・ボウイのアルバム『レッツ・ダンス』をテンプレートとして参考にしていてさ。それは、あのアルバムって彼にとって最もポップなことにトライした作品だったからなんだ。サウンドもかなりダイレクトで、彼が実験的なものをたくさん行なったあとの時期でもあった。それまでのボウイとは大きく異なっていて、冒険的でさらに実験的でもあったよね。また、ダンサブルで軽めなところもあって、“これってかなりクールじゃないか! 俺らはロック・バンドだけど、もう少し自分たちのやれることを発展させてグルーヴ・オリエンテッドなものをやってみようよ”という感じだった。25周年として、何か新しいことをしてみたいということにもつながっていったんだ。
━━前作に引き続き、プロデューサーにグレッグ・カースティンを迎えていますが、前作の手ごたえが大きかったということですか?
そのとおりだよ。初めて彼と仕事をしたとき、その素晴らしい知識量に本当に驚かされた。彼自身ジャズのミュージシャンだし、俺らにはわかり得ない深いところまでを理解している。彼は細かいところまでしっかりと考えることができるし、戦略的に考えることにも長けている。それでいてロックのファンだし、スポンテニアスに考えることもできるからね。だから彼と仕事をするのが大好きだし、一緒に取りかかるときはいつもフレッシュな感覚でいられるんだ。
━━「メイキング・ア・ファイア」ではイントロからAメロにかけての16分の連打によるリフがピックの擦れる音も聴こえる生々しさですね。そして、1番はストレートに弾いていて、2番は拍のアタマにスライドを入れてフレーズに変化を出しています。この変化にはどういった狙いがありましたか?
あれはパット(スメア/g)のアイディアでね。アイツはけっこう、そういったグルーヴとかに関するアイディアをちょくちょく持ってくるんだ。俺は音をひたすら詰め込んでプレイするのが好きで、若い頃なんて特にそれが顕著だった。バンドに入って長くミュージシャンとしてやってきて、プロフェッショナルらしくプレイするっていうことを少しずつだけど身につけてはきたよ。まだ自分では充分にそれが身についたとは思っていないけどね(笑)。ただ常に考えているのはリズミカルでタイトにプレイするということで、それによって曲に一体感をもたらせられたらいいなってこと。ただそれだと、ときにはガチガチにプレイしてしまっていて、ナチュラルに感じられないこともある。パットはそういったところに対してオフ・ビートにプレイしてみたりと、ベーシストとして注目すべき点を指摘してくれる。だからアイツが同じ空間にいてくれることはすごくいいことなんだ。この曲だって“スペースがあるんだからスライドしてみたらいいじゃないか”という感じで、リフに合わせてガツガツとプレイするばかりがすべてじゃないと教えてくれたんだ。
━━また、「メイキング・ア・ファイア」のBメロでは歪みエフェクターを足してサウンドを変えていますね。
グレッグはこういうディストーションの効いたベースが好きでね。俺はそういったことに常にオープンにトライしているよ。
━━ちなみにどんな機材を使ったかは覚えていますか?
そういった細かいところまでは覚えてないなぁ。ただ、いつもいろんなものを使って実験をするのは好きだし、楽しんでやっている。フルトーンのベース・ドライブ・ペダルは昔からずっと使っていて、これは手に入れたときからベストなペダルだよ。こいつを超えるものに出会ったことがないんだ。
━━歪みサウンドといえば、「クラウドスポッター」は曲冒頭から激しいディストーション・ベースが聴けます。これはエフェクターを使った歪みですか?
これもまったく記憶がないんだな。ただハッキリと言えることは、この曲も含めて今回のアルバムではけっこう多くの曲でフラット・ワウンドの弦を張って、指弾きでプレイしたんだ。これっていつもやっていることではないんだよ。この曲ではプレシジョン・ベースにフラット・ワウンドを張り、フルトーンのペダルを使って指でプレイしていたんじゃないかな。あと、俺らのギター・テックのひとりが個人的に所有しているヴィンテージのヴォックス・アンプを使ったのは覚えているよ。
━━「ホールディング・ポイズン」もサビはディストーション・ベースですが、これもひょっとしたらその組み合わせが活躍したのでしょうか?
そうかもしれない。残念ながら俺はそういった細かい機材に関して、写真で撮ったように記憶に残らないタイプでね。だいたい俺は3、4本くらいのベースを弾いてみてアンプも数台トライし、ペダルもいくつか踏んでみたら大まかなサウンドが決まってきて、それで録音していくんだ。“これだ!”と思うサウンドになったらもうそれ以上追求することはなくて、何を使ったかっていうのはあまり記憶に残らない。こんな感じでやっているから毎回サウンドは更新されていて、常に使い続けているテンプレートみたいなものは基本的にないんだ。
━━「ホールディング・ポイズン」はメイン・リフを始め、休符がポイントになる曲だと思います。特にBメロの8分音符での“ッドゥッドゥッドゥッドゥ”というウラ打ちはベースがリズムを作り出すという意味で音の長さが重要になりますよね。
俺を含めて多くの叩き上げのプレイヤーがそうだと思うけれど、基礎を徹底的に学んできたわけじゃないから、楽器をプレイしていると学びや発見が今でもそこかしこに見られる。実は最近になって、音の長さっていうのが実は重要だってことを再認識しているんだ。俺は素晴らしいタイム感を持ったプレイヤーではないことを自覚している。だからこそ、そこらへんはかなり意識しなくちゃいけないなと思っていて、一発目の音の鳴らし方っていうのは大切にしている。“ここはきちっとドラムと合わせよう”とか、どことなく意識しているものさ。突き詰めていくとベースに限ったことじゃないけれど、音の長さっていうのは楽器をプレイするうえでかなり重要なポイントなんだ。そこをしっかりやらないと次の音を適切なところに置くことなんてできないからね。これってここ数年で再発見した重要なポイントなんだよ。
━━「ホールディング・ポイズン」は途中で3連符のリフが挟まったりシャッフルになったり、リズムの展開がおもしろい曲です。こういうリズム変化にはどのように対応していますか?
それってやっぱり曲によりけりってところがあってさ。どの楽器が何をフォローするかといったところや、自分対ほかの楽器っていう構図を際立たせたいとか、曲によってそういうところは変わってくるよね。スローダウンするのか、それとも少しずつリズムに揺らぎを持たせるのか。曲のメインのリズムを揺らしていくと曲にパワーを与えられる場合もあるし、それはシチュエーション次第さ。ムーディーにさせたいのか? 特定の誰かを目立たせたいのか? 曲をまた次のレベルに持っていきたいのか? 新しくておもしろい何かをそこに投げ込みたいのか? そこまで曲が持っていた流れを一度取り払いたいのか? そういうのってやっぱりケースバイケースなんだよ。
━━リズムのおもしろさでは、「ノー・サン・オブ・マイン」でのベースとバス・ドラムが入る瞬間にリズムが裏返るようなトリック感のあるフレーズが、イントロから続くのがおもしろいです。リスナーとしてはビートルズの「ドライヴ・マイ・カー」のイントロのギターを聴いているような“あれ?”という驚きがありました。
それは光栄な例えだね(笑)。あれは確かデイヴ(グロール/vo,g)のアイディアだったと思うね。1拍目を予期しないところに置くっていうのは明確に最初からアイディアとしてあったはず。テイラー(ホーキンス/d)とあれこれ言いながらバス・ドラムの入れ方を詰めていて、俺とパットはふたりに混ざり込む感じでプレイしている。もはや世の中がライヴをプレイできるような状況じゃないから、俺らも1、2回ぐらいしかプレイしていないんだけど、俺個人としては1拍目と捉えている場所がまだ定まっていないところもある。しっかりと足でカウントを取りながら模索しているところだよ。基本的にはあのリフを頭のなかで聴きながらプレイしているという感じなんだ。俺はプレイヤーとして鍛錬を積んだ優等生じゃないから、このやり方が一番シックリくるね。