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    INTERVIEW – 市川仁也 [D.A.N.]

    • Interview:Shutaro Tsujimoto

    変幻自在のプレイで拡張する
    ディストピアで鳴る低音

    前作『Sonatine』から3年。D.A.N.がデビュー当時から掲げてきた“ミニマル・メロウ”に、クラブ・ミュージックやヒップホップまでを飲み込みながら昇華させた、待望の3rdアルバム『NO MOON』がドロップされた。アダモビッチのハイC仕様の5弦ベースを駆使し、低音奏者の在り方を自由に解釈し独自のサウンドを奏でてきた市川仁也は、今作でエレキ・チェロの導入に果敢に挑み、ベーシストとしての可能性をさらに拡張させている。ディストピアを思わせるSF的想像力で一篇のストーリーを展開する『NO MOON』の低音世界を、彼はどのように作り上げたのか。チェロ導入の経緯や、今作で用いた奏法、制作にあたって影響を受けた音楽の話題については発売中のベース・マガジン2021年11月号に譲って、ここでは今作の制作プロセスや、ミックスや機材におけるこだわりについて、市川のベーシストとしてのルーツにも触れながら話を聞いた。

    発売中のベース・マガジン2021年11月号にも市川仁也のインタビューを掲載!『NO MOON』のベース・プレイについて、BM webとは別内容でお送りします。

    今の気持ちを反対のもので表わすっていう方向に行っていた。

    ━━今作の制作はどういったプロセスで進みましたか?

     最初に「Bend」、そのあとに「Aechmea」をシングルとして2019年の冬に作って。そのあとアルバムを新しく作ろうっていう流れで、去年いっぱいで新曲を作り、レコーディングをしていった感じですね。

    ━━アルバム冒頭の歌詞が“月”で始まって、アルバムのラスト曲も「No Moon」と、月をテーマにした曲になっています。今作はコンセプトやストーリーをかなり意識しているのですか?

     「月」っていうテーマについては、「No Moon」がアルバムのなかでも最初のほうにできて。そのタイミングでアルバムのストーリーを考えるときに、「月」が曲としてもワードとしても大事になりましたね。

    ━━今作はほとんどの曲がBPM120以上で、過去のD.A.N.の作品と比べて全体的にテンポが速い曲が多い点も特徴だと思います。

     「Overthinker」「Encounter」「Fallen Angle」とかは、作ったのが同時期だったこともあるんですけど、そのときに聴いていたのがダンス・ミュージックとかヒップホップだったっていうのもあるし、自分たちも家にこもっていた時期なので、そういう時期に音楽を作るってなると、どうしてもテンポ速めのものがしっくりくるというのがあった気がします。

    ━━家だから落ち着いた音楽を、という方向ではなく?

     なにかを作るっていうのは非日常的な行為だと思うんですけど、自分の今のテンションと同じものを作ると客観的な判断もつかないし、作っている感覚にもなれないというか。“遊んでみたい”っていうのもあったと思いますけど、今の気持ちを反対のもので表わすっていう方向に行っていたというのはありますね。

    ━━冒頭に「月」の話がありましたが、家にこもりながらSF的な想像力で宇宙を歌うというのも、そこにつながりますか?

     そうですね。コロナのことをみんなで話し合って、それに対してどうみたいなメッセージ性はないんですけど、それぞれ生活も変わって少なからず影響を受けながら曲を作っていたと思います。そういう意味でも、今のこの瞬間から脱したいみたいな気持ちでアルバムも作っていて、そういうのがテンポの速さだったり、今までで一番外に出ていないのに宇宙のことを思ったりとか、SF的なイメージに出てるのかもしれないですね。

    『NO MOON』
    SSWB/XQNM-1001
    (通常盤)
    左から市川仁也、櫻木大悟(vo,g)、川上輝(d)

    ━━今作は、制作プロセス的な意味で前作からの変化はありましたか?

     以前はドラムが最初ってことはあんまりなくて、歌のメロディやコードから始まることが多かったんですけど、今作はどちらかというとビートがメインで、ダンス・ミュージックとしての作り方に近かったのかなと思います。土台としてのビートがあるうえで、ベースの差し引きだったり、チェロなどのウワモノでモチーフやメイン・テーマを作ってそれを登場させたり抜いたりことで展開をつけるというやり方が多かったです。歌ものとしての作り方から、よりダンス・ミュージックやIDM的な作り方の要素が強くなり、より自由になった感じです。

    「No Moon」MV

    ━━今作でのベース・プレイの特徴として、1曲のなかでシンセ・ベースとエレキ・ベースが切り替わる場面が多いことや、ベースが鳴っていない時間があって、代わりにチェロを入れる試みなどもあったと思います。シンべとエレキの切り替えや、ベースを弾かないという判断って、メンバー間のコミュニケーションが緊密に取れていないと難しいと思うのですが、どのような進め方をしましたか?

     僕らはけっこう特殊な作り方をしてると思いますね(笑)。役割分担というか、(櫻木)大悟(g,v,syn)からも“この部分のコード考えといて”とか言われますし。僕からも“ここにキレイなメロが入ってきたらいいんじゃない?”とか提案もします。お互いにそういう感じですね。だから、プレイヤーとして曲のなかでいっぱい活躍したいみたいなエゴがなくなったのかもしれません。あとシンベに関しては、最初のデモの段階で大悟が入れていたものをそのまま使うこともありますし、自分で弾いてみてそれを採用することもあって、そこは臨機応変にという感じでしたね。

    ━━シンセ・ベースとエレキ・ベースの切り替えが多い分、録音やミックスに関しても、シンセの低音に負けないベースをどう聴かせるかという工夫があったのでは?

     僕のイメージではロー・ミッドよりもローで鳴らして重くしたいというのがあって、そこは意識しましたね。いわゆるロック・ベース的なアプローチでロー・ミッドを強調すると押し出し感は出ると思うので、シンセ・ベースから切り替わったときに音量感的にはエレキ・ベースでもしっかり鳴っている感じが出せると思うんです。でもやっぱり、帯域が違うとどうしてもノリが軽くなっちゃったり、結局シンベのパートのほうがテンション上がるってなることがあって。だからと言ってエレキで鳴ってない帯域は出せないので、スーパー・ローみたいな音は出していないですけど、聴感上シンベから切り替わったときにスムーズにつながるような帯域の音になるといいなっていうのは考えながらエンジニアさんに音を作ってもらいましたね。

    「The Encounters [feat. Takumi (MIRRROR) / tamanaramen] 」MV

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