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    INTERVIEW – 長谷川カオナシ[クリープハイプ]

    • Interview:Kengo Nakamura

    バンド・サウンドを超える表現に踏み込んだ新機軸

    個性的なハイトーン・ヴォイス、耳に残るメロディと生々しい言葉、そしてそれらをさらに高める衝動的なサウンドで人気を集める4人組ロック・バンドのクリープハイプが、約3年3ヵ月ぶりのアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリースした。これまでのむき出しのバンド・サウンドを飛び越え、現代的な音像にも取り組んだ全15曲は、彼らが新たなフェーズに進んだことを感じさせる。ベースに関しても、エレキ・ベースでのシンセ・ベース的表現のほか、シンセ・ベース、打ち込みでの表現など、さまざまな手法での低音を提示。昨今の音楽を取り巻く環境からも影響を受けたという本作でのサウンド・アプローチについて、ベーシストの長谷川カオナシに聞いた。なお、2022年1月19日発売のベース・マガジン2022年2月号にも長谷川のインタビューを掲載。本作でのベース・プレイについて、よりディープな内容でお送りする。

    みんなでコードをバッと鳴らして、ドラムが大きな音で叩いて、
    帯域が全部埋まっているような音像ではないもの。

    ━━『夜にしがみついて、朝で溶かして』は約3年3ヵ月ぶりのアルバムとなりますが、この間、特にコロナ禍という期間は、長谷川さんにとってどういうものでしたか?

     コロナ禍になって直後、私たちのツアーがなくなってしまったんです。2020年の春はそのツアーのセットリストと向き合って、自宅でひたすら練習していましたね。それが結局、春に留まらずにずっと続いて、今でもコロナ禍というのは続いていますから、けっこう地道な期間でした。ほかのベーシストの方もそうだと思うんですけど、ただ自分とパソコンとクリックと向き合うような日々というか。

    ━━ベースを練習したという実感があると。

     とはいっても、一番練習したのは、2020年の春と、今年に入ってライヴへと動き出してからって感じですけれど。私は、自分対パソコンだけで楽しく生きていけるベーシストじゃないんだなっていうのがわかりました(笑)。

    ━━『夜にしがみついて、朝で溶かして』は全15曲という過去最大のヴォリューム感です。これは既発曲が多いというのもあるんですか?

     一番早いのは一昨年に録ったものからあると思うんですけど、アルバムに収録されている楽曲が半分くらいできあがったあたりで、アルバムに向けて新しい曲を録っていったりしましたね。最初からアルバムに向かっていたわけではなかったです。配信リリースしているものだったり、1コーラスをタイアップで聴いていただいていたりする曲が多かったので、アルバムにはもっと曲を入れようかっていう話もあったんですけれども、そうなってくると、ひと息で聴きづらくなるので、15曲に留めようということになりました。

    ━━今作では、長谷川さんは「しらす」を作詞作曲しています。これはどういったイメージで作った曲ですか?

     個人的には童謡っていうものが好きなんです。歌詞カードを見ずとも人の脳に言語が届いて、口ずさめるようなものに憧れがあるので、そういうものを作りたいということから始まりました。

    ━━途中までピアノ中心の、まさに童謡という感じで、その後はバンドも入って祭り囃子のような雰囲気もあります。こういったイメージも最初からあったんですか?

     一番最初にメロディが思い浮かんだときは、声だけっていうものを作ろうかなと思ったんです。2021年の4月に尾崎世界観(vo,g)が弾き語りのツアーをやって、そのオープニングアクトとして私も呼んでいただいて弾き語りをやったんですけども、その際にこの「しらす」っていう曲も持っていきまして。私の弾き語りはエレクトリック・ピアノでやったんですけども、アルバムでもピアノ・サウンドから入っているのは、その名残ですね。アルバムに収録するくらいの尺にするにあたって、途中からバンド・サウンドになるっていうドラマをつけたほうが、1曲を通して聴きやすいかなと思って、こういう楽曲アレンジにしました。

    ━━ベースは意外に細かい装飾音符が入っていたり、歌メロとリンクする部分があったりしますが、自身が歌うことも考慮しているんですか?

     特にライヴは想定せずに、私が歌っていて、もうひとりベーシストがいるようなイメージで好きに弾きました。普段クリープハイプ向けのベース・ラインを弾くにあたっても、“もっと引っ込んでくれ”みたいなリクエストは特にないんですけれども、やっぱり自分が歌うこともあって、人に弾くベースじゃなくて自分に弾くベースだったので、普段より遠慮なくはやっていますね。

    左から、小泉 拓(d)、尾崎世界観(vo,g)、長谷川カオナシ、小川幸慈(g)。
    『夜にしがみついて、朝で溶かして』
    ユニバーサル・シグマ
    PROS-1920(特装盤:完全受注生産限定/CD+歌詞集『ことばのおべんきょう』)
    UMCK-7147(初回限定盤/CD+Blu-ray)
    UMCK-1705(通常盤/CD のみ)

    ━━アルバム制作にあたり、バンド内で共有していた意識はありますか?

     今の世の中の雰囲気的に、部屋で大きいスピーカーの良い音でCDと向き合って聴くというのが、あんまりないと思うんですよ。私もそうだし、サブスクとかで携帯のイヤフォンなりスピーカーで聴くということが増えていると思っていて、そうなると、どういうサウンドがいいんだろうっていうディスカッションはしました。その結果、今までのような、みんなでコードをバッと鳴らして、ドラムが大きな音で叩いて、帯域が全部埋まっているような音像ではないもの、そういう共通認識はありましたね。

    ━━今作では、シンベ的なサウンドのイメージも多いですよね。「モノマネ」はミュートをしたピック弾きでシンベ感がありますし、「愛す」はイントロ、Aメロでフィルター系のエフェクトをかけてスタッカートで弾いているのも、そのニュアンスだと思います。

     「キケンナアソビ」という楽曲を録音しているときからバンド内で、バンドっぽいサウンドじゃなくてもっと打ち込みっぽい音でっていうムードが高くあったんです。「愛す」の際は、自分のなかでシンセ・ベースを弾くっていう発想はなかったので、エレキ・ベースの範囲でシンセ・ベースっぽいフレージングをというのを思っていました。今作では、「こんなに悲しいのに腹が鳴る」はmicroKORGのアルペジエイターを使ったシンベの音ですし、「一生に一度愛してるよ」はシンベとエレキ・ベースをところどころ同時に鳴らしたりしています。「二人の間」はスラップはエレキ・ベースで、2拍3連に関してはMIDIで鳴らしているんですよ。

    ━━今までとは低域の音の作り方が違っている部分が結構あるアルバムなんですね。

     そうですね。今までどおりと言ったら、「料理」とか「ポリコ」とか、せいぜい半分くらいですね。

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