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    【第70回】勢いあるベース・ラインの秘訣/石村順の低音よろず相談所 〜Jun’s Bass Clinic〜

    • Text:Jun Ishimura

    ベースには、アンサンブルのなかでの役割がいくつかあります。

    それは、ベースという楽器固有の役割というよりは、その曲の低音パートに共通の役割です。ピアノの左手とか、指弾きギターの親指とか、バリトン・サックスとか、いろんな楽器が当てはまります。

    その役割のひとつが、曲を前進させる役割です。音楽が先へ先へと進んでいく感じ、これをフォワード・モーションと言います。どんな楽器でも(歌でも)フォワード・モーションを表現するのは大事なんですが、特にベースは責任重大です。なぜかというと、低音はリズム面でも音の響きの面でも音楽の土台なので、そういう土台であるベースが、例えばモタっていたり、音使いがおかしかったりすると、曲全体が“前進する感じがしない”結果になってしまいます。

    “いや、でも「タメ」とか「どっしり重いビート」とか「レイドバック」とか、そういう演奏もあるけど、それはどうなの?”と思う人もいるかもしれないけど、そういうのも、あくまでも“前進する勢いの範囲内”での表現です。ドラッグ・ビートとかも、モタりそうでいて本当にはモタらない、モタってるように聴こえて実は前進している、っていうギリギリのラインを狙っている、そのギャップというかギリギリ感がおもしろ味なんですよね。そのギリギリのラインを超えちゃうと、ただモタってるだけの気持ち悪い演奏になっちゃうので。

    では、フォワード・モーションって具体的に何かっていうと、大きく分けてふたつの側面があります。リズムと、音づかいです。

    リズム面でいうと、基本は“次の1拍目に向かっていく”感じを出すのが大事ですね。フレーズを、1拍目から始まって小節の最後でひと区切り、という風に“小節線で区切ってしまう”んじゃなくて、“小節線をまたいで次の1拍目に着地する”イメージで演奏しましょう。これにはいろんなバリエーションがあって、例えば2拍目から始まって3拍目に着地する/4拍目から1拍目に着地する、っていうバック・ビートを意識した流れもありだし、拍のウラから始まってオモテに着地する流れもありだし、組み合わせでいろいろ発展させられるんですが、とにかく小節線とか拍の区切りを乗り越えて次へつなげていくのが大事です。

    音づかいの面でいうと、ベースの場合、まずは“次のコードのルートに向かっていく” 音づかいが基本です。例えばCからFにコードが変わる場合、ex.1のように唐突にFに変わるより、ex.2、ex.3、ex.4のようにFの手前でFに向かう感じを出す方がコード進行がなめらかに聴こえます。

    次のルートのひとつ手前の音は、その着地する音の半音隣か全音隣の音を使うことが多いです(ex.5、6、7)。

    そういう音使いではない場合も、コードが変わる直前にスライドとかグリスとかを使って“次に向かう”感じを出したりします(ex.8、ex.9)。

    こういう風に、既存のベース・ラインを演奏するときもフォワード・モーションをしっかり表現するのが大事なんですが、オリジナルのベース・ラインを作る場合もフォワード・モーションを意識して組み立てるといいです。まあ、頭で組み立てたフレーズよりもフッと降りてきたフレーズのほうがいい感じだったりすることが多いんですが、そういうインスピレーションってそうそう頻繁に降りてくるものでもないので、頭を使ってフレーズを作るケースも多いと思います。そういうときに、闇雲に音を組み合わせるんじゃなくて、次に向かうリズム/次に向かう音の並びを意識して組み立てると、形になりやすいです。この“形になる”っていうのが大事で、それが最高のベース・ラインじゃないとしてもベース・ラインが果たすべき役割は果たす、そういうフレーズが基本です。基本を押さえてさえいれば、そこから逸脱したり、フェイントをかけたり、驚かしたり、っていうのが音楽に変化とかおもしろさを持ち込むので、大いにやるといいです。

    どんな曲調でもフォワード・モーションの勉強はできますが、特にジャズのウォーキング・ベースを研究/練習すると、リズム面でも音使いの面でも発見がたくさんあるし、そこで得たものはほかの曲調にも応用できるのでオススメです!
     
    フォワード・モーションを効かせた演奏を身につけてバンドをグルーヴさせていきましょう!

    石村順でした。

    石村順
    ◎Profile
    いしむらじゅん●元LOVE CIRCUS、元NEW PONTA BOX。日食なつこ、ポルノグラフィティ、東京エスムジカ、K、JUJU、すみれ、大江千里、松山千春、宇崎竜童、石川ひとみ、種ともこ、近藤房之助、豊永利行、Machico、紘毅、城南海、西田あい、つるの剛士、SUIKA、Le Velvets、葡萄畑など、多数のライブや録音に参加している。ロングセラー『ベーシストのリズム感向上メカニズム グルーヴを鍛える10のコンセプトとトレーニング』の著者。Aloha Bass Coachingではベース・レッスンのほか全楽器対象のリズム・レッスンを行なっている。

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