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【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第14回 – スラップ奏法にトライしよう

  • Text:Makoto Kawabe

ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回はスラップ奏法について学びましょう!

はじめに

ベースのおもな奏法には指弾き、ピック弾き、スラップ奏法の3種類があるわけですが、スラップ奏法については当連載ではまだ触れていませんでしたね。というわけで、今回はスラップ奏法にチャレンジしてみましょう。

スラップ奏法とは?

スラップ奏法とは親指で弦を叩いたり(サムピング)、人差指や中指などで弦を引っ張ったり(プル)することで弦を指板上のフレットに打ち付けて音を出す奏法です。冒頭にとても重要なことをサラリと書きましたが、スラップは弦を叩いたり引っ張ったりすること自体で音を出す奏法ではありません。“スラップ奏法ができない”と悩む初心者さんの多くはココを誤解しているかもしれません。サムピング/プルのいかんを問わず、“弦をフレットに打ち付けることで弦振動をスタートさせる”という発音メカニズムを理解しておくと、力づくで弦を叩いたり引っ張ったりせず、ラクなフォームで演奏できるようになると思います。

チョッパー奏法とスラップ奏法

あらゆるところで書かれていることですが一応……チョッパー奏法とスラップ奏法はまったく同じ奏法です。“チョッパー奏法”は日本固有の呼称で、1990年代前半頃までのベース・マガジンでもチョッパー奏法という呼称が一般的でしたが、後述の親指下向きフォームでキッズたちの度肝を抜いたレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー出現以降、“スラップ奏法”という呼称が浸透し始め、今では“スラップ奏法”と呼ぶのが主流になりました。また、“親指上向きフォーム”や“振り返し型”など、スラップ奏法の各フォームは絶対的な呼称ではなく、ベーシストによって呼称はさまざまですので(笑)、画像も含めて理解を深めてください。

スラップの基本フォーム

スラップ奏法は親指で弦を叩く動作の“サムピング”と、人差指や中指で弦を引っ張り上げる動作の“プル”を組み合わせてフレーズを組み立てていくわけですが、基本フォームとしては弦に対して親指を上に向けてサムピングする“親指上向きフォーム”と、親指を下に向けてサムピングする“親指下向きフォーム”の2種類があります。必ずしも両方のフォームを習得する必要はないと思いますが、フォーム上の制約からそれぞれのフォーム特有のフレーズがあるほか、以下のような特徴があります。

親指上向きフォーム

・サムピングの応用であるダウン・アップ奏法がしやすい。
・高速なフレージングを可能にするロータリー奏法などに発展させやすい。
・ストラップを短くして高めに構えたほうが演奏しやすい。 

※ダウン・アップ奏法、ロータリー奏法は比較的高難度で初心者向きではないため、別の機会に解説します。

親指下向きフォーム

・ストラップを長くして低く構えても演奏しやすい。
・指弾きからのフォーム・チェンジがスムーズ。
・プルを多用したフレーズを作りやすい。
・サムピングは振り戻し型(後述)のみ。
・プルは直前に休符かゴーストノートがないとやりにくい。

弾きたいフレーズが決まっていないのであれば、まずは直感的に気に入ったフォームを練習してみましょう!

サムピング

サムピングは親指の側面で弦を叩いて弦がフレットにぶつかる衝撃音(打撃音)とともに弦振動を発生させる奏法です。サムピングの具体的な手法としては、弦を叩いたあとの親指を振り抜かない“振り戻し型(振り返し型)”と、親指を振り抜く“振り抜き型”があります。親指上向きフォームの場合は振り戻し型と振り抜き型を使い分けますが、親指下向きフォームの場合は振り戻し型だけしか使いません。

サムピングは低音弦が鳴らしやすいので、まずは3弦3フレットのC音、4弦5フレットのA音などで練習し、慣れてきたら高音弦やハイ・ポジションでも鳴らせるようにさまざまな音域で練習してみましょう。

親指上向きフォームの振り戻し型

右手は脱力しつつ軽く握った“サム・アップ”状態にし、手首の前後の動き、手首の回転、ヒジを支点にした腕の振りなどを同時に稼働させ、スナップを生かして親指を素早くコンパクトに振り弦を叩きます。弦をヒットする位置は最終フレット付近(ネックの付け根)の指板上がいいでしょう。弦を叩いたあとに親指が弦に触れたままだと弦振動を止めてしまい音程感のある持続音が出せません。瞬発的な動作で、弦を叩くことよりもむしろ弦を叩いた直後の親指を弦から素早く離すことを意識して、親指を弦に当たる5mmくらい手前で止めるような気持ち、鞭を打つような感覚で弦を叩き、弦を叩いたあとの親指は弦の手前5mmくらいで静止させます。狙った弦を的確にヒットするためにフォームを安定させるべくヒジをボディに密着させたり、マーカス・ミラーのようにピックアップ・フェンスに手首を乗せたりするのもいいでしょう。 

親指上向きフォームの振り戻し型
手首の前後の動き
手首の回転
肘を軸にした腕の振り

親指上向きフォームの振り抜き型

振り戻し型と基本フォームは同じですが、狙った弦をヒットしたあと、そのまま親指を振り抜き、指板上で親指を静止させます。力任せに親指を振り抜く必要はありませんが、瞬発力で親指を振り抜かないと親指で弦を弾くだけの“親指弾き”になってしまいます。サムピングと親指弾きの違いは弦とフレットがぶつかる衝撃音の有無です。むしろ狙った弦の(高音側の)隣の弦上で親指を静止させるかのように思い切りよく親指を振り抜きましょう。

親指上向きフォームの振り抜き型
3弦をヒットしたあとは2弦上まで振り抜く。

振り戻し型と振り抜き型の使い分け

すべてのサムピングを振り抜き型で演奏するベーシストもいますが、サムピングが連続する場合は振り戻し型のほうが有利です。サムピング後にプルがある場合は振り抜き型のほうが断然有利(サムピング後の親指静止時に指先を弦の下に潜り込ませるプルの予備動作ができるため)です。

親指下向きフォームのサムピング

右手は脱力して軽く開いた状態にし、手首の回転運動をメインとしつつ、手首の前後の動きやヒジを支点にした腕の振りなどを連動させ、スナップを生かして親指を素早くコンパクトに振ります。弦をヒットする位置は最終フレットとピックアップの中間くらいがいいでしょう。親指上向きフォームと同様に親指を弦に当たる5mmくらい手前で止めるような気持ちで弦を叩き、実際に弦を振り終えた親指は弦の手前5mmくらいで静止させましょう。狙った弦だけを叩くのは親指上向きフォームよりも難しいので、左手による余弦のミュートを併用しつつ、親指の向きや角度を工夫しましょう。弦をヒットした瞬間に手首の付け根をボディに当ててフォームを安定させてもいいと思います。

親指下向きフォームのサムピング
手首の付け根をボディに当てるとフォームが安定する。

プル

プルは弦を引っ張り、弦自体の反発力によってスラップ特有の音色を出す奏法です。手順は簡単で、人差指や中指の指先を弦の下に潜りこませて引っかけ、ボディと垂直方向に引っ張り上げ、適当なところで弦を離すだけです。アタックが明瞭なスラップらしい音色、つまり弦とフレットがぶつかった衝撃音と持続音が鳴ったら成功です。弦を持ち上げる高さが低すぎたり、弦を離す瞬間に躊躇したりすると弦の反発力が生かされず、中途半端な弱い指弾きのような音色になります。弦を引っ張る強さや高さの目安は、弦を指先でつまんで離してみるとよくわかるかと思います。プルは指先を弦の下に潜らせる事前動作をスムーズに行なうことがポイントです。

親指上向きフォームでは振り抜き型サムピングを終えて静止した状態と同時に指を潜らせるのがベストですが、親指下向きフォームでは振り抜き型サムピングができないので、右手の手のひら全体を弦に押し当てて休符に近いゴーストノート(バズ音。次回以降に詳しく解説します)とすることで、プルの事前動作がしやすくなります。親指下向きフォームではプルの直前の大半をゴーストノートにしているベーシストも少なくありません。

ボディと垂直方向に引っ張り上げよう。

親指下向きフォームの場合ではサムピングと真逆の動作でプルを連続的に行なっても問題ありませんが、親指上向きフォームでサムピングと真逆の動作でプルをしようとすると(特に手首の回転運動を中心に考えるならば)、弦を引っかけた指先で弦を巻き込んでしまう形になり、指先が余計に抜けづらくなってしまうと思います。筆者的にはプルは指板上の親指を支点に弦を垂直に引き上げるようなフォームが演奏しやすいです。

親指上向きフォームでのプル。
親指下向きフォームでのプル。

スラップの基礎フレーズ

サムピングとプルの動作を理解し、上手に鳴らせるようになったら以下のフレーズを練習してみましょう。スラップはサムピングで低音域を鳴らし、プルでアクセントを付けるのが基本であり、そのなかでも使用頻度が高いのがオクターヴ・フレーズです。親指上向きフォームで練習する場合は振り戻し型と振り抜き型を使い分けましょう。

スラップ奏法に適した楽器のセッティング

冒頭で記述したとおり、スラップ奏法は弦をフレットに打ち付けて音を出す奏法なので、フレットと弦の距離が遠いセッティング、つまり楽器の弦高が高いと音を出しにくくなります。また、プルでは弦の下に指先を入れて引っ張り上げるので、弦とボディ表面との隙間が狭いとプルがやりづらくなります。このことからスラップ奏法がやりやすい楽器は“弦高は低め、かつ弦とボディ表面との間に適度な隙間がある”状態と言えるでしょう。弦とボディ表面との適切な距離については個人差があり、特にピックガードの有無は好みが分かれるところです。

また、スラップ奏法特有のアタック音は金属同士(弦とフレット)がぶつかり合うパルス性の衝撃音なので瞬間的な信号レベルはかなり高くなり、実音成分(持続音)とのレベル差も大きくなりがちです。このことからスラップ奏法にはこれらのレベル差を抑え込む効果があるコンプレッサーやリミッターなどのエフェクターを使うのが(必須ではありませんが)効果的ではあります。指弾きやピック弾きに比べて高音域の成分が多いので、(レンジの広い)アクティヴ・ベースのほうがスラップらしい音色をコントロールしやすい側面はあるかもしれません。

弦とフレットがぶつかる衝撃音さえあればそれほど力を入れずに弾いてもスラップらしい音色になりますが、弦を強く叩いたり引っ張ったりすればルイス・ジョンソンのようなアタッキーでパワフルな音色も出せます。ただし弦が切れやすくなりフレットの減りも早まるなど、楽器や弦に多大な負担がかかるので、あまりオススメはしません(笑)。また、フレットのないフレットレス・ベースでスラップ奏法を行なう場合は弦と指板がぶつかる衝撃音と持続音の組み合わせになるので、フレット付きのベースとはやや異なる柔らかなアタックの音色になります。当然のことながら削れや打痕による指板の消耗は早くなるので要注意です。

スラップの源流

諸説ありますが、エレクトリック・ベースにおけるスラップ奏法を最初に始めた人物はスライ&ザ・ファミリー・ストーン(以下スライ)のベーシスト、ラリー・グラハムという説が有力です。過去のベース・マガジンのインタビューでも“オルガン奏者である母親とのドラム不在のアンサンブルでキックとスネアの役割をベースで表現したのが始まり(要約)”と語っていました。とはいえスライ在籍時は昨今のような明確なスラップ奏法ではなく、大半の楽曲で親指弾きに近いサムピングで弾いており、プルがハッキリと認識できるのは、筆者の知る限りではアルバム未収録の楽曲「Thank You」だけです。それも指先で弦を引っかける“プル”というよりは弦をつまんで引っ張り上げる奏法だったのではないかと推測されます。ラリー・グラハムが自己の音楽スタイルを確立し、スラップ奏法を存分に発揮するのはスライ脱退後に結成したバンド、グラハム・セントラル・ステーション以降ですね。

一方で“スラップ(スラッピング)”と呼ばれる奏法はエレクトリック・ベースが登場する以前からウッド・ベース(コントラバス)でも取り入れられており、特にロカビリーなどの音楽スタイルではスタンダードな演奏方法だったようです。ただしウッド・ベースにおけるスラップ奏法はエレクトリック・ベースのようなサムピング&プルというような概念ではなく、基本的にはプルに近い動作で弦を弾くことで低音を出し、指先全体で弦を叩く動作でバズ音(ゴーストノート)を出しており、奏法の手順と発音方法がエレクトリック・ベースのスラップ奏法とはまったく異なります。

最後に

スラップはプロ・ベーシストでも独自フォームの人が多く、“こうでなければいけない!”というようなフォームはありません。いずれにしても弦がフレットに当たった衝撃音が鳴りつつ持続音があればスラップらしい音色でフレーズが組み立てられるはずなので、うまく鳴らないなぁという人は、自分のフォームを(録画するなど)客観的に確認しつつ、あれこれと試行錯誤してみてくださいね。

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