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    『チャレンジャー』冗談のようで核心的なベース・ライン【クリープハイプ長谷川カオナシのレトロゲーム喫音堂】– 第6回

    • バナードット絵:石田芙月(株式会社.AC)
    • 挿絵:長谷川カオナシ

    2022年にメジャー・デビュー10周年を迎えたクリープハイプ。それを記念して始まった長谷川カオナシによる本連載コラムでは、多彩な趣味を持つ長谷川が特にハマっているという、“レトロゲームのベースの世界を案内します。

    あなたは何にチャレンジしていますか!?

    1本で4倍楽しめるハラハラドキドキゲーム!

    ひとりで4本の命綱を手繰るエレキ・ベース・プレイヤーは皆チャレンジャーだ!……かもしれない。

    どうも、レトロゲーム喫音堂です。

    皆さんはチャレンジしていますか?

    私は、そうだなぁ。

    『ラーメン二郎』も麺半分でオーダーするようになったし、『蒙古タンメン中本』もせいぜい北極2倍までしか。

    いつかまた、チャレンジしてみたいものですね。

    本日はファミコンの名作アクション・ゲーム、『チャレンジャー』のお話をしたいと思います。

    『チャレンジャー』(1985年/ハドソン)(※1)

    私とチャレンジャーの出会いは確か幼稚園児の頃。

    家族でレンタル・ビデオショップに行きました。

    普段ゲームをしない父が珍しく任天堂のファミコン・ソフト『ベースボール』を購入。

    野球に興味のなかった私は、“父さんばかりずるい!”と駄々をこねました。

    恥ずかしいものです……。

    そして買い与えられたのが、この『チャレンジャー』でした。

    ゲームを開始するとびっくり。

    一見インディ・ジョーンズのような主人公(※2)が、一見白チェブラーシカのようなヒロインを救いに、一見ダース・ベイダーのような男に挑むという情報ハレーションがプレイヤーに襲いかかってきます。

    しかもステージは……新幹線の上!?

    そしてBGMは「軍隊行進曲」!?

    もしかしたらハドソン社は、ファミコンの限られた色数と和音数のなかにどれだけの情報を詰められるかのチャレンジをしていたのかもしれません。

    視覚的情報過多!!

    さて今回はそのSCENE1のステージBGMを喫音していきましょう!

    先述のように、こちらはシューベルトの名曲「軍隊行進曲」の第1番のアレンジとなっております。

    ゲーム画面にも負けず劣らず、こちらの聴覚的情報量もすごいことになっています。

    喫音堂第2回で解説したように、

    ファミコンが同時に出せる和音数は3和音+ノイズが1音。

    上から順に、
    ①メロディ・トラック
    ②ハモりトラック
    ③ベース・トラック
    ④リズム・トラック
    となっております。

    本楽曲での④は後半、踏切の音が“カンカン!”(※3)と鳴るシーンで電車の走行音をイメージしたと思われるノイズが鳴りますが、それ以外の場面では登場しません。

    その分、②と③のトラックが譜面上をところ狭しと駆け回ります!

    メロディに沿ってハモっていると思いきや、細かい符割りで合いの手を打っていたり、メロディがお休みするタイミングで次のフレーズへの布石を打っていたりと、とにかく巧妙な動き。

    フルタイムでいかに働けるかのチャレンジをしているのかもしれません。

    ベース・ラインにも注目してみましょう!

    ハモりのトラック②に負けず劣らず、かなりエキセントリックな動きをしています。

    一般的にベースとは、その名のとおり、楽曲の下半身となり全体を支える役割が大きいです。

    が、『チャレンジャー』SCENE1のBGMを聴いてまず驚くのが“そんなに高いポジションで歌う!?”という点。

    なぜそんなことが可能なのでしょうか?

    ベース・ラインで使用する高い音域

    写真の赤く囲った鍵盤とフレットは、高くて聴き取りやすく、目立つ音です(※4)

    反面、ベースがそこに長く滞在すると楽曲が腰高な印象になり、聴いていて不安になってしまいます。

    『チャレンジャー』のベース・ラインは、この赤いラインを多用して歌いつつ、4拍に1度は必ず低い音に帰って来ます。

    この絶妙なバランス感覚が、楽曲の“支え”と“彩り”を両立しているのですね。

    例えるなら、“冗談ばかり言っているようで進行の手綱を握っているMC”みたいな感じかなぁ。

    惚れる!

    さて今回はファミコンの『チャレンジャー』を喫音してみました。

    私事ですが筆者ももうすぐアラフォー。

    いくつになってもチャレンジャーでいたいものですね!

    それではまた来月までご機嫌よう。

    (※1)
    ^  音楽は国本剛章先生。本作『チャレンジャー』を皮切りに、『忍者ハットリくん』『ミッキーマウス 不思議の国の大冒険』など、ファミコン・PCエンジンのハドソンのゲームを多数手がけます。先生の楽曲はハモりのトラックの動き方がおもしろく、3度かと思いきやポイントで5度になったり、ステイしてみたりオクターヴになっていたりと、聴いていて飽きません。

    (※2)
    ^  実際のところ主人公である“チャレンジャー”は考古学者という設定があり、これはジョーンズ博士のオマージュだそうです。

    (※3)
    ^  “カンカン!”の音はG♯とAの半音同士で隣り合う音。一般的には和音としては際どい音づかいですが、このぶつかり合った音が、踏切の遮断機のなんともいえない雰囲気を見事に演出しており実に見事です。ちなみに“カンカン!”の音に合わせてナイフを投げると、くじらが現われて主人公が無敵になるという裏技があります。どうプログラミングしてあるんだろう??

    (※4)
    ^ 大体C3から上(エレキ・ベースだとC2から上)が続くと腰高に聴こえるなぁ、という印象でした。『チャレンジャー』の「軍隊行進曲」がへ長調であることや、ほかの楽器の兼ね合いもあるので、一概にどの楽曲でも“この赤いラインが続くとまずい”ということではありません。

    ◎Profile
    はせがわ・かおなし●1987年9月23日生まれ。小学生でピアノとヴァイオリンを手にし、高校1年でベースを始める。クリープハイプは2001年に尾崎世界観(vo,g)を中心に結成。2009年に長谷川、小川幸慈(g)、小泉拓(d)を擁した現編成となる。2012年にメジャー・デビューし、2014年には日本武道館にてライヴを行なう。2021年11月に6thアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリースした。長谷川はティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズのグッズ収集家でもある。

    ◎Information
    長谷川カオナシ
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    クリープハイプ
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