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    【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第8回 – ベース・アンプの使い方

    • Text:Makoto Kawabe

    ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。第8回目のテーマは、“ベース・アンプの基礎知識”。ベース・アンプの役割や使い方、種類について学んでいきましょう。

    ベースを家で弾くときは小さな音やヘッドフォンでも問題ないですが、バンドで大きな音を出すにはベース専用のアンプ、“ベース・アンプ”が不可欠です。バンドを組んで、いよいよリハーサル・スタジオに入ることになったときに、“どれがベース・アンプ? どうやって使うの……?”などと迷わないようにベース・アンプに関する知識を予習しておきましょう。

    ここではリハーサル・スタジオのベース・アンプを大きな音で使うことを前提にレクチャーしていきますね。

    ベース・アンプとは?

    “ベース・アンプ”は、ベースの特性に合わせて音色や音量を調整する機能を集約した“ベース用プリアンプ”と、スピーカーを鳴らすための“パワー・アンプ”を一体化させた機器で、これらをひとつの筐体に収めたものを“ベース・アンプ・ヘッド(通称、ヘッド)”と言います。

    一方、スピーカー・ユニット(電気信号を機械の振動に変換し、音を発生させる装置)を収めた箱状の“スピーカー・キャビネット(通称、キャビ)”は、単にそれを固定するだけでなく、再生効率を高め、低音域を増強するなどといった音響効果が得られる構造になっており、これらが構築する“ベース用のスピーカー・システム”は、ベースならではの低音域の音圧感が得やすく、鋭いアタック音に対する耐久性も高められています。このため、ベース用スピーカー・システムと同じ感覚でギター用キャビネットや家庭用のオーディオ・スピーカーを使ってベースを鳴らすと、低音域がもの足りないばかりか、故障の原因にもなるので避けたほうが無難です。

    また、キャビネットにヘッドが収められた一体型のベース・アンプは“コンボ型”、ヘッドとキャビネットが分かれているタイプを“セパレート型”と言います。コンボ型は家庭用のベース・アンプをはじめ小型のものが多く、セパレート型はヘッドとキャビネットの組み合わせを自由に選べるのがメリットです。

    ちなみに近年はベース・アンプ・ヘッドの進化が著しく、D級パワー・アンプとスイッチング電源(※1)の採用により、大出力ながらも従来よりも圧倒的に小型軽量なベース・アンプ・ヘッドが急速に普及しています。

    またベース用のスピーカー・システムも小型で高性能なモデルが多数ラインナップされていますが、やはりロック・バンドの生ドラムに負けない音量や音圧感を得るにはそれなりの大きさがあったほうが有利で、バンド用リハーサル・スタジオのほとんどは比較的大型のベース用スピーカー・システムを常設しています。

    ※1:回路方式の一種。D級パワー・アンプやスイッチング電源をはじめ、ベース・アンプに関しては、ベース・マガジン2022年8月号、スピーカー・ユニットやキャビネットに関しては2022年5月号の筆者連載“Bass Basic Knowledge”にて詳しく解説していますのでぜひ御一読ください。

    セパレート型の例:上からAmpeg製PF-500(ベース・アンプ・ヘッド)、Ampeg製PF-115HE(スピーカー・キャビネット)
    コンボ型の例:Ampeg製BA-115

    ベース・アンプの機能

    ベース・アンプのコントロールは各モデルによって細かな違いはありますが、役割としては“音量”と“音色”を調整することに集約されます。おおよそどの機種も正面パネルの左端に入力ジャックがあり、各コントロールは信号の流れに沿って左から右へと配置されています(※2)。

    ※2:電子回路は信号が左から右に流れるように配置するのがセオリーで、ほとんどの機器がこれを踏襲しています。右端に入力ジャックがある機種(Marshallなど)はシャーシ全体をひっくり返した構造、もしくはその名残です。

    コントロールの例

    Input(インプット)

    入力端子。楽器からのケーブルを差し込みます。

    HighとLow、1と2、PassiveとActiveなど、ふたつの入力がある場合は、基本的にはパッシヴ・ベースはHigh(上、または左についているほう)、アクティヴ・ベースはLowに接続するのがセオリーですが、両者の音を聴き比べて、好みの音が出せるほうにつなげば良いと思います。出力の大きいアクティヴ・ベースなど、後述のGainを下げても意図せず音が歪む場合は、LowにつなぐかPad(パッド)スイッチ(※3)を入れましょう。

    ※3:入力信号の大きさを制限するスイッチ。入力端子がひとつのモデルに装備され、High→Lowに差し替えるのと同等の機能を果たす。

    Gain(ゲイン)、Input Volume(インプット・ヴォリューム)

    回路の入り口で取り込む信号の量を決める、入力側のヴォリュームです。

    ギター・アンプの場合はゲインで歪みの量(歪み具合)を決めますが、ベース・アンプの場合は歪み量というよりは回路全体が健全に機能するための調整という意味合いが強いです。ゲインが小さすぎるとノイズに埋もれやすく、ゲインが大きすぎるとアタックだけがクリップ(信号のピークが飽和すること)して不快な歪みが生じるので、基本的には(ベース・アンプで意図的に歪ませる音作りでなければ)ゲインはアタックが歪まない(クリップ・ランプが点灯しない)程度に高めに設定するのがセオリーで、どのモデルでも時計方向で10~14時くらいが目安です。

    トーン・コントロール、EQ(イーキュー、イコライザー)

    ベース・アンプの個性が顕著に表われる音色調整機能です。

    最もスタンダードなのは“Bass(ベース)”、“Middle(ミドル)”、“Treble(トレブル)”の3バンドEQで、低音域、中音域、高音域の各帯域をそれぞれ増減します。ミドルについてはハイ・ミッド、ロー・ミッドに分割した4バンドEQや、一部の周波数帯域を可変できるセミ・パラメトリックEQとしたモデルも多いです。

    各コントロールの機能や効果はモデルごとに異なるので、例えば気に入った音色が出せたときの設定数値を他モデルにコピペしても意味がありません。各コントロールの周波数帯域や増減量はカタログ・スペックなどでも確認できますが、実際に実機で各コントロールを増減して音を聴きながら音色変化を体感するのが一番です。

    また、トレブルよりも高い音域に機能する(もしくは高音域の増減ではあるがトレブルとは回路的に動作が異なる)“PRESENCE(プレゼンス)”、あらかじめ設定したプリセットEQなど、各モデルが独自に搭載する機能もありますが、名称もさまざまでその効果もここでは紹介しきれません。初めて触れるベース・アンプや、わからない機能があれば、事前に取扱説明書を読んでおきましょう。昨今は型番でネット検索すればすぐに見つかりますよ。

    Master(マスター)、Output Volume(アウトプット・ヴォリューム)

    出力側のヴォリュームで、最終的な音量を決めます。

    セッティングの基本

    大まかなセッティングの手順としては以下となります。

    ベースとベース・アンプをシールド・ケーブルで接続する

    ゲインとマスターをゼロ、トーン・コントロールをセンターに設定する(上記イラストのノブ位置)

    ベース・アンプの電源を入れる

    ゲインを設定する

    マスターで音量を調整する

    トーン・コントロールの効果を確認する

    トーン・コントロールで音色を調整する(ベース→トレブルミドルの順)

    ベース・アンプの独自機能、付加機能などを設定する

    マスターで音量を再調整する

    トーン・コントロールのコツ

    ここでは、悩みがちなトーン・コントロールのコツについて解説しましょう。

    トーン・コントロールは各モデルで特色がありますし、必ずしもトーン・コントロールをすべて真ん中に設定したときが音色的なフラットとは限りませんが、0〜10表記のものは5、±表記やセンター・クリックのあるものはセンターに設定して音作りを開始するのが良いでしょう

    次に音を出しながら各コントロールを増減して音色が変化する帯域と増減量など、実際の効き具合を確認します。各コントロールの視覚情報に惑わされず、耳で判断することが重要です。

    3バンドEQはそれぞれの帯域を、“ベース”は低音域の充実感“ミドル”は音の抜け感やフレーズの見え方“トレブル”は高域の張りやきらびやかさ、といった具合に役割分担して考えると設定しやすいかと思います。

    そのうえで“ベース”は一旦絞り切り(反時計回りに回しきった最小値)にし、音を出しながら低音域がしっかりと感じられつつ、ほかの楽器をマスキングするほどブーミーにならない程度で止めます。低音楽器だからといって“ベース”を上げ目に設定しなければいけないわけではありません。10時くらいでも充分な量の低音域が出せるベース・アンプも多いです。

    “トレブル”は弦の鮮度と密接な関係があるので、きらびやかさが足りなければ耳に痛くない程度に補うという感じで良いと思います。とはいえ各モデルで効果は異なるので、あらかじめどのような効果が得られるのか確認することが重要です。

    “ミドル”は好みが分かれるところですが、“カットしたいミドル”と“ブーストしたいミドル”の帯域があるかと思います。4バンドEQの場合は、ハイ・ミッドはブースト方向、ロー・ミッドはカット方向で音抜けが良くなる傾向にありますが、3バンドEQの“ミドル”はどちらの方向で使うべきなのか、実際の効果を確認してみないとわからないので、やはり音を出しながらどの帯域で効くのか確認することが重要なわけです。もちろん、ブーストもカットもしないという方向性もアリです。

    トーン・コントロールとは別に音色設定に関する付加機能があるモデルは、トーン・コントロールを設定したあとに足りない音色変化を補うように付加機能を活用するのが良いと思います。どちらも同じ方向性で設定すると“やりすぎ”な音色になりがちなので注意しましょう。選択式で大きな音色変化がある機能はトーン・コントロールを設定する前にオン/オフを決めたほうが良いでしょう。

    トーン・コントロールを設定することで最終的な音量感や音圧感が変わりますので、マスターを再調整して設定完了です。

    トーン・コントロールは基本的には好みの音色になるように設定すれば良いかと思いますが、アンサンブル全体の音色を考えた場合、“ベースは音色設定の自由度が低いパートではある”と筆者は思います。例えば低音が好きだからと低域を最大までブーストするとアンサンブルは崩壊してしまいます。あくまでアンサンブル全体のバランスを考慮しつつ音色設定すべきでしょう。

    ベース・アンプの使い方のマナー

    ベース・アンプを使ううえで一番やってはいけないことは、“音が出る状態でベースをつないであるシールドを抜き差しすること”です。音が出る状態でベースを抜き差しすると大きなポップ・ノイズが出てスピーカー・ユニットを傷めてしまうからです。

    “電源がオンの状態”や“ヴォリュームが上がった状態”でもミュート・スイッチがオンになっているなど、どこからも音が出ない状態であればベースを抜き差ししても問題ありません。

    ミュート機能がない場合はMasterをゼロにしてからベースを抜き差しするのが無難です。電源をオフにした直後は内部に溜まった電気の余力でポップ・ノイズが出る可能性があります。また、すべてのコントロールをゼロにして抜き差しすると再設定する際に面倒です。

    また、ベースとベース・アンプの接続はベース・アンプの電源を入れる前に行ないましょう。ACケーブル(電源コード)が壁コンセントにしっかり差し込まれていること、(セパレート型の場合は)ヘッドとキャビネットがスピーカー・ケーブルで接続されていることも電源を入れる前に確認しましょう。

    電源スイッチとは別にスタンバイ・スイッチなどがあるモデルの多くは、アイドリング運転(真空管の予熱)が必要なアンプです。電源スイッチを入れて1分ほど待ってからスタンバイ・スイッチをオンにしましょう。

    ベース・アンプの上に飲み物を置くのはやめましょう。振動などで液体がこぼれ機材が壊れるという悲壮な結果になります。

    リハーサル・スタジオの定番ベース・アンプ

    Ampeg(アンペグ)SVTシリーズ

    リハーサル・スタジオだけでなくライヴハウスでも常設されることの多いモデルです。ヘッドは“SVT-3PRO”を筆頭にいくつかのラインナップがありますが、共通してAmpeg特有の骨太な音色が特徴です。また、10インチ・スピーカー・ユニットを8基搭載する“SVT-810”は、小口径ユニットを多数配置するキャビネットの元祖でもあり、音圧感は圧倒的で、ロック系はもちろん幅広いジャンルにも対応できる主張の強い音色が特徴です。

    SVT-3PRO

    Markbass(マークベース)Little Markシリーズ

    小型軽量なヘッドで急速にシェアを拡大したブランドの代表的なモデルで、素直な音色や扱いやすい4バンドEQなどが特徴です。独自機能であるVPFとVFEも特徴的でしたが、最新モデルの“Little MarkⅣ”ではこれらが刷新され、さらに扱いやすくなった印象があります。とはいえリハーサル・スタジオなどでは旧機種もまだまだ健在です。

    Little Mark IV

    Aguilar(アギュラー)Tone Hammerシリーズ

    オール真空管駆動のベース・アンプからスタートし、エフェクターやピックアップなど、今やベース関連機材の総合ブランドとなったAguilar。“Tone Hammer”は同ブランドの代表的なオンボード・プリアンプ“OBP-3”のDNAを引き継いだ小型ヘッド・シリーズで、ブランド共通のレンジの広さとクリアな音色が特徴です。ベースらしい音色と聴きやすさにフォーカスしたキャビネット・シリーズも定評があります。

    TONE HAMMER 700

    上記のほかAcoustic(アコースティック)、Ashdown(アッシュダウン)、Darkglass Electoronics(ダークグラス・エレクトロニクス)、Gallien-Krueger(ギャリエン・クルーガー)、Hartke(ハートキー)、Trace Elliot(トレース・エリオット)、Phil Jones Bass(フィル・ジョーンズ・ベース)などといったブランドのベース・アンプも定番です。このうちいくつかは現存しないブランドですが、丁寧に扱われた古いモデルが現役として活躍するリハーサル・スタジオも多いです。

    自宅とリハーサル・スタジオでは音作りも変わる

    自宅での個人練習と、リハーサル・スタジオでのバンド練習、両者の大きな違いのひとつは“音量”です。大出力の大型ベース・アンプを使ってヴォリュームを上げれば確かに音量は上がりますが、それだけではバンド練習はうまくいかないでしょう。さまざまな要因が考えられますが、ひとつは“音量が変わると音の聴こえ方が変わる”からです。例えば低音域は小さい音量ほど聴こえにくいので、小音量でバランス良く作ったベースの音色は、大音量にすると低音過多でブーミーになりがちです。音量が変わればトーン・コントロールなどを少なからず再設定する必要があるし、音量に合わせた音色作りが重要なのです。

    また、バンド演奏の場合は“他パートの人も自分の音を聴いている”ことを意識しないといけません。ベースの音量を上げることでほかのパートの音を埋もれさせ聴こえづらくする可能性もあるわけです。音の聴きやすさは音量だけでなく音色にも影響されることを意識し、自分本位ではなくバンド・メンバー全員が心地よく演奏できる音色設定をすることが重要です……。とはいえバンドでの音色作りは一朝一夕で身につくことほど簡単ではなく、ある程度の演奏力や経験も必要かと思います。

    まとめ

    リハーサル・スタジオの定番ベース・アンプとその使い方については筆者が執筆を担当した書籍『リハスタ定番 100%使いこなしガイド』にも詳しく書いているのでぜひ参考になさってください。いざ、リハーサル・スタジオに到着して、やっぱりベース・アンプの使い方がわからなかったら、素直に店員さんに尋ねましょう!

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