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【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第7回 – ベースの弦交換と弦の種類
- Text:Makoto Kawabe
ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。第7回目のテーマは、“ベースの弦交換”。交換方法のイロハとあわせて、弦を選ぶ際に役立つ弦の基礎知識についても学んでいきましょう。
皆さんのベースにはどんな弦が張ってありますか? え? 購入したときのまま交換してない? もしかしたら交換時期かもしれませんね。今回は交換方法のレクチャーとあわせて弦の種類も紹介しますので、ぜひ自分で弦交換にチャレンジしてみましょう。
弦交換の準備 ~必要な工具や便利アイテム~
弦交換を始める前に楽器を寝かせられるだけのスペースを用意しましょう。作業が楽に進められますし不注意で楽器を傷つけるリスクも低減します。弦交換自体は特殊な工具がなくても不可能ではないですが、あると便利なアイテムをいくつか紹介します。
ペグへの巻き付け数を整え、美しい仕上がりを目指すなら欠かせないアイテムです。弦は電気配線用コードなどに比べてかなり太く硬いので、上手に切らないと専用品ですら刃が欠けてしまいます(刃先ではなく刃の根元で切るのが鉄則!)。一般のニッパーを使用する場合でもほかの用途と併用せず弦切り専用で用意するといいでしょう。
高速でペグを回せるので便利です。大型ペグに対応するベース用のものを用意しましょう。
楽器が安定するので格段に作業が楽になります。使うとわかりますが、適当なモノをネックにかますよりも専用品が圧倒的に便利です。カマボコ板などでも簡単に自作できます。
精度の高いチューニングができればどのようなチューナーでも良いが据え置き型がベター。
楽器用クロスが多めにあると下敷きに使うなどして楽器を保護できます。弦をはずすと普段クリーニングできない箇所も手が届きやすいので、弦交換と同時に細部のクリーニングや指板メインテナンスするのがオススメです。
弦交換の手順
それでは実際の作業に入りましょう。
①:弦をはずす
ペグをゆるめて古い弦をすべてはずします。弦を切る際も必ずペグをゆるめてから。張った状態の弦をいきなり切ると弦が飛んで怪我をする恐れがあります! ブリッジから30㎝くらいのところで切るとまとめやすく捨てる際に便利です(自治体にもよりますが大抵は不燃ゴミです)。応急処置用などに古い弦を残すなら、ブリッジ側の弦の通し穴が拡がったり楽器が傷ついたりしないように弦の曲がりグセを直しつつ注意深く引き抜きましょう。
②:指板のメインテナンス&掃除
全部の弦をはずしたところで指板やフレットのメインテナンスをしましょう。フレットは専用品で磨くと気持ちいいです。塗装されていない指板は(季節や保管状況次第ですが)適度な保湿が必要です。筆者はクリーニングも兼ねて弦交換のタイミングで指板の保湿作業をすることが多いです。
③:弦を通す
楽器をキレイにしたところで、新しい弦をパッケージから取り出し、巻きグセをほどいて真っすぐにしてから、すべての弦を各ブリッジ穴に通しておきます。すべての弦がしかるべきブリッジ穴に通っているかもう一度確認してください。こうすることで“2弦と3弦を間違えて張って短く切ってしまい買い直し”といったありがちなミスを避けられます。ブリッジが“通し穴”ではなく“弦を引っ掛けるだけのタイプ”は、張るべき弦をよく確認して1本ずつ作業を進めてください。
以降、④~⑦の作業は各弦ごとに行ないます。どの弦から作業してもかまいませんが、弦のテンション・バランスを気にするなら外側の弦から張るのが良いかもしれません。筆者は細かいことは気にしないので、慣例的に低音弦側から作業しています。
④:弦の長さを調整する
ペグのポストには弦を2~3回巻き付けるのがベターです。巻き付ける数が少ないと弦がはずれてしまうし、多すぎるとチューニングが安定しないばかりか仕上がりも美しくありません。新品のセット弦は巻き付け部分が長めなので(※1)、まずは自分の楽器に合わせて弦の長さを調整する必要があります。
弦をヘッド側に引き寄せ、弦のボール・エンドがブリッジ穴で固定されるのを確認しつつ、弦を指板上にザックリと這わせることで、弦がペグに巻かれる位置を把握します。写真のようなヴィンテージ・タイプのベースの場合は、ポストの縦穴に差し込む分も考慮して、そこからペグ3つ分の長さ(1~4弦のポスト間の長さ)を足したところで弦を切るとちょうどいい巻き数に仕上がると思います。縦穴の浅いポストや(根元が細い)テーパーの付いたポスト、小型で細いポストの場合はもっと短くてもいいはずです。極少数派とは思いますが、ペグ・ポストに横穴が空いているだけのギター・タイプのペグは弦を張ってから弦を切るほうがキレイに仕上がるでしょう。
※1:各スケールに対応するセット弦とはいえ、楽器のスケールはあくまでナット~ブリッジ間の距離であり、その外側の距離(ペグの巻き付け分、ペグ~ナット、サドル~ボール・エンドの固定位置)は楽器によってさまざまなので、裏通しやリバース・ヘッドなどの楽器にも対応できるよう余裕を持った長さで市販されているのが一般的です。
⑤:弦をポストに巻き付ける
弦の長さが決まったら、まずは弦の先をポストの縦穴に差し込み、奥まで当たったところで弦を90度に折り曲げます。ペンチで折りグセをしっかり付けてもいいでしょう。ポストに弦を引っかけたらゆるまないように軽く弦を引っ張りながら1~2周分ポストに巻き付けます。このとき、弦を隙間なく巻き付けることと、弦がポストの先端から根元方向へと巻き付けられていることが重要です。逆方向に巻き付けるとナット部分の角度が浅くなってしまうし、ストリング・ガイド(テンション・ピン)がある弦でもこの方向に巻き付けるのが鉄則です。この作業はワインダーを使ってもいいですが、筆者は弦のゆるみを制御しやすいので手で巻き付けてしまいます。
⑥:弦のねじれを整える
ある程度、弦をポストに巻き付けたら、ゆるまないように注意しつつ左手で弦をナット部分で押さえ、右手の指先で弦をつまんで弦のねじれがなくなるように数回、ナット側からブリッジ方向に力を加えながら弦をこじります。このとき、ボール・エンドはブリッジ穴から離れてブリッジ穴の後方に弦が余る状態にあるはずで、この状態であれば弦を軽くよじることでねじれの有無も確認しやすいかと思います。
⑦:巻き上げる
弦のねじれがないことを確認したら、ナット部分の弦を押さえている指先を右手に持ち替えて、左手でペグを回して弦を巻き上げます。ボール・エンドがブリッジの固定端に到達し、弦にある程度のテンションがかかったら巻き上げは一旦終了です。この時点で各弦が正確にチューニングされている必要はありませんが、おおむねレギュラー・チューニング程度のテンションで弦が張られているのが理想です。弦がポストに隙間なく巻き付けられていること、ストリングス・ガイドの下を通っていること、正しいサドル位置にあることを確認し、必要に応じて適時修正してください。
⑧:まずは粗めにチューニング
すべての弦を張り終えたら、チューナーを使って粗めにチューニングします。正しいチューニング方法は過去の連載記事(第3回)を参考にしてください。ネックがネック・レストに載ったまま(作業台に載せたまま)の状態ではネックに余分な力がかかって正確なチューニングができないので、チューニングする際は必ず演奏状態で楽器を持ちましょう。各弦を粗めにチューニングし終えたら、写真のように手で力を加えて弦をネックに対して垂直方向に引っ張ります。弦をポスト部分に密着させるなど、弦を馴染ませるのが狙いです。不良弦はこの作業で切れることが多いです。もちろん、弦の引っ張りすぎは禁物です。
⑨:チューニング
上記作業(弦を引っ張る)をすると、おそらくかなりピッチが下がるので、さらにチューニングします。弦を引っ張る→チューニングする、これを2~3回繰り返すとチューニングが安定します。チューニングが安定したら弦の交換作業は終了です。張りたての弦はチューニングが安定しないという人がいますが、正規に販売されている弦を上記の手順どおりに張り、きちんとチューニングすれば、そのような問題は起きません。
⑩:オクターヴ・チューニング
新しい弦を張り終えたらオクターヴ・ピッチを確認しましょう。前回とまったく同じセット弦を張った場合はオクターヴ・ピッチが動くことはあまりないですが、ゲージ、ブランド、材質、構造などが異なる弦を張った場合はオクターヴ・チューニングが必須です。オクターヴ・ピッチの調整方法についても過去の連載記事(第3回)を参照してください。
弦交換の作業工程は長年筆者が行なっているものですが、プロのベーシストやリペアマンでもそれぞれの手法や流儀があるので、経験がある人にとっては異論がある箇所もあるかもしれません。できるだけ迷うことがないように細かく書きましたが、実際の作業はそれほど難しくはありませんので、あれこれ試行錯誤しつつ、ぜひ自分でトライしてみてくださいね。
弦の交換タイミングについては次ページでも書いていますが、指板やフレットのクリーニングができますし、普段は見れない愛器の状態を細かくチェックできるので、基本的には時間のあるときにゆっくりと、弦交換そのものを楽しみながら行なうのがオススメです。楽器に対する愛情も深まりますよ。