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【ベーシストのライフワーク】第三回 − 田中貴(サニーデイ・サービス)

華やかな舞台で活躍するプロ・ベーシストたちは、普段私生活ではどういった“趣味=ライフワーク”をして過ごしているのだろうか。連載企画『ベーシストのライフワーク』では、普段は覗くことのできないプライベートな一面を、ベーシスト本人自らの言葉で語ってもらう。第三回目に登場するのは、1992年の結成以降、フォーク、ネオアコからヒップホップまでを内包した新しい日本語ロックで国内外問わず幅広い層から支持を集め続けるサニーデイ・サービスより田中貴が登場! 貴重な幼少期の話のほか、こだわりに溢れた愛車への思いを語ってもらった。

40年以上変わらない趣味。成長しない男の愛し続けるもの。

 思えば僕の趣味は子どもの頃から変わっていない。そして、増えてない。幼稚園の頃からアニメやヒーローモノには興味がなく、誕生日に何か買ってもらえるとなるとレコードをお願いしていた。覚えていないが、秀樹の「薔薇の鎖」なんかを熱唱していたそうだ。食べることが大好きで、“こないだの晩御飯の〇〇が美味しかったからまた作ってほしい”、“外食するなら〇〇に行きたい”とリクエストしていた。そして、車。1976年頃、スーパーカー・ブームというものがあった。五歳の頃だ。その当時カッチョいいと憧れた車がいまだに欲しくてたまらない。1960年代に主流だった丸みを帯びた流線型のシルエットから、直線を取り入れエッジを持たせたデザインへと移行した時代。わかりやすくいうとカウンタック。ライトがパカッと開くあの車の形。デザインはイタリアに限る。ピニンファリーナ、ベルトーネ(ガンディーニ)、イタルデザイン(ジウジアーロ)。当時から日本人がデザインする車にはピンとこなかった。発売はされなかったが日本初のスーパーカーといわれた童夢-零の写真を見たとき、日本人にはデザインというセンスがまったくないんだと子どもながらに実感したものだ。

 さて、そこから話は飛んで、実際に自分で車を持つ頃の話である。僕が今まで所有した車は四台。見事にすべて1975年製。1980年代の車なら信頼性もあるが、バンパーを始めとしたメッキのパーツがある時代のデザインじゃなきゃ嫌なのだ。購入の条件としては、まず“安さ”。こりゃー仕方ない。そして積載性。そりゃそうだ。四人乗れて楽器やアンプを運べなけりゃ意味がない。あと、クーラー。これ大事。飲みに行くとき以外、すべて車で移動する僕にとっては無くてはならないもの。それらを踏まえて選んだのはVWシロッコ。二年がかりで探した一台。高いバイクも買えないぐらいの値段だった。もう15年乗っているが、一日乗らなかっただけでも寂しく、駐車場に行ってしばらく眺めたりする。ああ、もう文字数が尽きた。続きはまたどこかで。街で黄色くて平べったい古い車を見つけたら、近くのライヴハウスかラーメン屋に俺がいると思ってくれ。

VWシロッコ

【Profile】
たなか・たかし●1971年生まれ、愛媛県今治市出身。1992年にサニーデイ・サービスを結成。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。フォーク、ネオアコからヒップホップまでを内包した新しい日本語のロックは、シーンに衝撃を与えた。2020年までに13枚のアルバムをリリースしている。加えてサポートとして、Hitoshi Arai Acoustic Band Set、スネオヘアーなどでも活躍。またラーメン好きが高じて2冊目となる書籍『ラーメン狂走曲』を上梓。ラーメン愛好家としてのメディア露出も多い。

◎Information
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田中貴:Twitter Instagram