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追悼 – ロビー・シェイクスピア

  • Text/Interview:Daisuke Ito

ブラック・ウフルのプロデュースを起点に
世界的リズム・セクションへ成長

 彼らの功績を振り返るうえで欠かせないのがブラック・ウフルだ。ボブ・マーリーを世界に広めた英国のアイランド・レコードが新たに注目したのがこの男女トリオだった。スライ&ロビーは彼らの全盛期時代のプロデュースを務めている。ルーツ色の強い初期作『Guess Who’s Coming To Dinner』(1979年)や『Red』(1981年)、当時流行っていたニューウェイヴとスラロビの先鋭的なセンスが合わさった『Anthem』(1983年)、『Brutal』(1986年)などが代表的だが、ここで聴けるロビーの演奏は、オーセンティックなレゲエのみならず、クロマチックなフレーズだったり、『Red』収録の「Sistren」ではスラップを披露したりもしている。ブラック・ウフルはレゲエにとどまらず、クロスオーバーなサウンドを追求したが、ロビーの奔放な演奏に加えてスライの実験的な姿勢が、その土台にあったことに異論の余地はないだろう。先述作『Antem』がグラミー賞の第1回レゲエ部門を受賞し、スライ&ロビーはレゲエ界にとどまらず、ボブ・ディラン、ストーンズをはじめ、セルジュ・ゲンズブールやハービー・ハンコックといったトップ・ミュージシャンたちの楽曲に参加するようになった。

 1990年代に入りデジタル化が進んだレゲエ・シーンとともに、スライ&ロビーも打ち込みの機材を用いたプロダクションへ傾倒する。だが2000年代に入り、再びバンド・サウンドが主流になると、ドラムとベースのクレジットで彼らの名前を見かける機会が増え、ジャズ・ピアニストのモンティ・アレキサンダーの作品『Monty Meets Sly & Robbie』(2000年)などに参加した。また、2005年には先述したアイニ・カモーゼ「World a Music」を引用したダミアン・マーリーの「Welcome to Jamrock」の収録アルバムが大ヒットを記録。レゲエ・アーティストとしては初のグラミー賞の2部門同時受賞者となった。このリディムはロビーのタフなベースが主役だが、改めて彼が生み出したレゲエのベース・フレーズが普遍的な魅力を持っていることを、世に知らしめた出来事だった。

晩年に見せた新しい“スラロビ・スタイル”
シーンに刻み続けた普遍的ベース・プレイ

 近年だとノルウェーのジャズ・トランペッター、ニルス・ペッター・モルヴェル『NORDUB』(2018年)、音響派の電子音楽家であるヴラディスラブ・ディレイとの『500-Push -Up』(2020年)にスラロビ名義で参加し、“レゲエ+レフト・フィールド”という異種格闘技的で新しいサウンドを創作してみせた。彼らが演奏する作品は聴くたびに発見があり、いつも僕たちの耳を楽しませてくれる存在だった。ロビーはライヴの終盤でステージにひとりで立ち、彼がクリエイトしてきた名ベース・ラインに合わせて優しいファルセットな歌を聴かせてくれる。シャイだがユーモアに溢れる、ロビーの愛くるしい姿がもう観られないと思うと本当に寂しい。彼が亡くなってから、改めて彼のベースにフォーカスして一連の音源を聴くと、そのサウンドは時代を超えた魅力があることに改めて気づかされた。移り変わりの激しい音楽シーンのなかで、ロビーが50年以上にわたって第一線で活躍できたのは、ドラム&ベースというシンプルな形態のもと、彼らが表現するものが“グルーヴ”であるからなのだろう。シンプルでユーモアがあり、心地の良いリズムは、時代に左右されず、いつでも人の心を捉える力がある。ロビーのベースは常に自由で心地よく、力強い。ベースに必要なものを本能で察知し本質を捉え続けたからこそ、ロビーが奏でる音楽は“普遍性”を体現しているのだ。

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