プランのご案内
  • NOTES

    UP

    追悼 – ポール・ジャクソン

    • Text:Eisuke Sato
    • Interview:Fumi Koyasu(Bass Magazine 1998 JUL)

    最後に『ベース・マガジン 1998年7月号』から、20年の時を経てザ・ヘッドハンターズが復活した際のインタビューの一部を抜粋してお届けしよう。使用機材や録音方法、そしてメンバーとのケンカ(!?)について、楽しげに語った。

    ベースの点では妥協しない。
    俺のなかにはイメージがあったんだ。

    ――ポールさん、お久しぶりです。

     やあ、久しぶり! 元気にしてた? こっちは家を改造してたよ。俺の新しいマイ・ホーム、まだ見てないよね。マックを最新のG3に買い替えて、モニター5個にして、40MBのサンプラーも備えたんだ。あらゆる機材で部屋はいっぱいだよ。

    ――そうなんですね。今日、持ってきてくれたESPのベースはどんなモデルなんですか?

     このベースはちょっと特殊なんだ。ESPのカスタムなんだけど、エレクトロニクス関係はいたってシンプル。バッテリーはないし、コントロールはヴォリュームのみだ。でも、4弦がヘッド側の方向に2フレット延長されていてね。普段は短いカポをつけて<E/A/D/G>のチューニングで使うけど、時にはカポをハズしてDまで使ったりする。弦の張りが変わらないから、ヒップショットを使うより全然いいね。

    ――では、20年の時を経て復活したザ・ヘッドハンターズによる新作『Return Of The Headhunters』でも、このベースを使用したのでしょうか?

     ベースはこれだけを使って、3種類のベースを重ねるためにオーバー・ダブもした。アンプは相変わらず気に入っているEBSの600Wのものを使ったよ。

    ――アルバムの収録曲は、新作用に書かれたものですか?

     新しいものも、昔書いた曲もあるね。ほかのプロジェクト用に書いたものもあるし。

    ――あなたが作曲したのは?

     「Funk Hunter」「Shank It」「Watch Your Back」「Tip Toe」「PP Head」の5曲。こいつが“ザ・ドライヴィング・ジャクソンズ・コンポジションズ”なのさ(笑)。

    ――ところで、ヘッドハンターズの再結成の経緯は?

     いつものとおり、ケンカしてたんだ(笑)!

    ――それが再結成に?

     そうさ。俺たちが一緒になると、たちまちエゴがぶつかり合って、いつも大ゲンカになる。それがノーマルな状態なんだ。去年の6月、ある大きな家のなかで4人のデカいエゴの、例によってうるさい言い合いが始まった。そして“まあ、このへんで音を出してみようか”ということになり、その結果、昔のままの密度の高いヘッドハンターズ・サウンドが生まれたというわけ。俺たちはひどい頑固の塊だけど、ひとつ共通なのは音楽をシリアスにとっているということ。それぞれがいろんなアイディアを持っているわけだけど、それをこのグループに持ち込むと、そこから生まれるのはヘッドハンターズならではのサウンドだ。どんな曲でも……たとえよそで使われた曲であっても、俺たちが演奏すると必ずヘッドハンターズの曲になってしまう。そして、俺自身のね。

    ――再結成を言い出したのは誰なんですか?

     これは時間の問題だと誰もが考えていたけど、強いて言えば、ハービー(ハンコック)がこれを実現してくれたんだろう。たまたま彼も同時期に近くでアルバムを作っていてね。そのため、5人が集まれたんだ。それに彼のレコード会社からリリースされることも大きな助けになっている。

    ――20年前からどの点が変わったと思いますか?

     それぞれがさまざまな活動をした結果、音楽的な経験がより豊富になったことだね。俺たちの音楽は昔から強力だったけど、今や自分たちの経験に基づく知識、知恵も深くなったぶん、昔以上に自分の発言を主張したがる。でも、それぞれの意見には説得力があるんだ。

    ――意見が合わない場合は、どうやって解決するんですか?

     投票するんだ。

    ――本当?

     うん。それぞれに意見を言わせる。それから誰の意見が一番ふさわしいかを話し合うんだ。ほかの誰かが見たら異常な関係かもしれないけど、俺たちはお互いの鼻を5センチにも近づけて怒鳴っていることがノーマルでね。とはいえ、たいていマイク(クラーク/d)と俺は同意見だから、問題は残りの2、3人なんだけど。

    ――それはリズム体だから?

     それもあるし、マイクと俺は若い頃から一緒に暮らしてバンドを組み、一緒に仕事を探したりしていたからね。朝食を食べてジャムり、それから夜は仕事に出た。いろんなジャンルの仕事をこなしたよ。お互いのグルーヴは完全に固まったとも言える。

    ――今作ではマイクと何か打ち合わせをしましたか?

     演奏する前に口でコンセプトを話し、そのあと好きなように叩いてもらった。理由は、曲のコンセプトを俺が考えていてもドラムは“マイク・クラークな”サウンドをイメージしているからね。それに、たいてい彼はベース・ラインを聴けば自分のパートはわかってしまう。だから、“どんな風に弾こうか”っていう相談もなしに最も合ったパターンをやれるよ。

    ――先ほどの話しにもありましたが、それでもベースをオーバー・ダブするんですね。

     ベースの点では妥協しない。これは前からのアイディアだったからね。俺のなかには“このベースでないといけない”というイメージがあって、それはほかのメンバーにも伝えた。基本的にはベースを出発点としてアンサンブルを作り上げたからね。“ギターで何かやりたいならどうぞ。でも、俺の音の範囲に入ったり、フィーリングをぶっ壊さない限りでね”と、そういった感じさ。ベースでグループの方向を作っているつもりなんだ。

    ――年を取ったことは、ヘッドハンターズにとって良かったと思いますか?

     良し悪しだね。年を取ったことによるデメリットは、より頑固になったことだろう。メリットは、音楽的に協力し合おうというグループ意識ができたことだ。自分の意見を主張すると同時に、相手にも気持ちよく弾いてもらいたいという願いも強くなったからね。それが一番顕著に表われているのは「Two But Not Two」。マイクが最初“俺のアイディアを聞いてくれ”と言い出して、自分の頭のなかにあるイメージを説明し、みんなで30分ほど話し合った。そして、とりあえず弾いてみようということになり、マイクが叩き出したんだ。そこで俺はビール缶で下の弦を“ワオーン!”とボトル・ネックみたいに鳴らした。そうして、この曲はワン・テイクでできたんだ。つまり、ジャム・セッションをレコーディングしたわけさ。お互いが協力的だからなせる技だね。

    『ベース・マガジン 1998年7月号』