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    ベーシストとライヴハウスPAが考える、“ライヴ配信時代のベース・サウンド”

    • Interview & Photo:Zine Hagihara

    “ライン音”を認識するということ。そのための演奏力

    ━━一方で、ベーシストとしては配信ライヴを行なう際に音作りの面で考え方を改める必要もあったのでは? 200人以下の規模のライヴハウスでは、アンプの生音もお客さんは体感しながら聴いていて、ホールクラスとはまた違った考え方がありますよね。そして、配信ライヴではよりライン音の作り方が重要になると聞きます。

    井上 そうなんですよね。ただ、僕に関しては実はそこまでは大きく変えていなくて。というのも、これまでも自分はずっとライン音に対してこだわりを持ってサウンドメイクしていたタイプだったからです。それは会場に関わらず一貫していたやり方でした。僕の場合はですけど、プリアンプなりで作り込み過ぎず、会場のPAさんとディスカッションできるようなギリギリのラインを模索していたんです。やはり会場やPAさんによっていろんなことが変わると思うので、その日のPAさんと作っていくことが重要だと思います。

    ━━なるほど。

    井上 コミュニケーションが大事なわけです。そのなかで、アイディアに対応できるように機材類を用意しておくべきだとは思いますね。この考え方が、配信ライヴに切り替わったあとでかなり際立って生きたと思うんですよ。とはいえ、配信ライヴに際してよりサウンド面の向上を考えてはいきましたけどね。

    ━━具体的に、どのような考え方で配信ライヴのサウンドのクオリティの向上を図ったのでしょうか?

    井上 まず、一番気になるのは中音のモニタリングですね。配信ライヴでは中音に対して、外音スピーカーは鳴らさない、もしくはちょっとだけ鳴らすっていう状況じゃないですか。今までは、外音がどれくらい中の環境に回り込んでくるのかっていう感じも想定して作っていったんですけど、これくらい(下北沢BASEMENT BARや下北沢THREE)の200人以下のキャパのライヴハウスだとそれはさらに重要で、でもそれがないので中音のモニタリング環境に対してより集中して音が作り込めるし、さらにアンプのマイキングとライン音をどれだけ混ぜるかというところにより時間を注げるわけです。場合によってはライン音のみでいこうっていうこともあるんですよ。そこは思い切ってアンプをなしにして、コロガシ(足下のモニター・スピーカー)からちょっと音を返してもらって。外音も混ざった大きい音が鳴らないからこそ、しっかりとしたモニタリングができる。

    ━━確かに。モニター環境によって演奏のクオリティが上がってくることもありますしね。

    神谷 これはめちゃくちゃありがたい話ですね。個人のプレイヤーがちゃんと自分の音に責任を持って中音やライン音へのこだわりを追求してくれるっていうのは、全体をミックスするときに結果が如実に表われるんです。これは配信であってもなくても同じですが、このような事態になってより明るみになったっていうところだと思います。それと、外音の音も含めてベースのサウンドを考える方は、配信ライヴでライン音がどれだけ重要かが浮き彫りになったことに対して、より追い込みができると思うんです。

    兼岡 ベーシストにとってラインの音をしっかりと考えるのはすごく大事なことなのかなと、配信ライヴをやるようになって特に思うようになりましたね。これぐらいのキャパだと、アンプからいい音が出ているとわりと成立する部分もあるんですよね、アンプからの音が聴いている人の体に響くので。そのなかで、ライン音とアンプで作っている音のギャップがあまりにも激しいと、ベーシストが配信のアーカイブを観たときに、“自分の音ってこんな感じだったっけ?”っていうことに陥ることがけっこうあると思います。

    ━━これぐらいのキャパのライヴハウスだと、ライン音についてしっかりと考えるベーシストはあまりいなかったんですか?

    神谷 ときどき出会います。

    兼岡 多くはないっていう感じですかね。ラインとアンプとで音が明らかに違うことがけっこうあります。でも、いただいたラインの音だけをそのまま鳴らしてもいいっていうぐらいの人もいますね。

    神谷 足下でわりと音を作り込んだ音をラインで聴くとエッジが効いたサウンドだったのに、アンプの音はめちゃくちゃローが出ているっていう人は、どういう意図で足下の音を作っているのかなって考えてしまいます。そういうときは一度アンプを切っていただいて、ライン音のみを聴いてもらったあとに、ライン音をカットしてアンプのみで聴いてもらうんです。それでアンプとラインをどのような意図でつなげようとしているのかを確認して、配信に乗せる際のラインとマイクの混ぜ具合をジャッジしますね。

    井上 けっこうキャビネットの種類も関係してくると思うんです。例えばツイーターのついたキャビネットとかだったら、わりとラインで作った音もモニタリングしやすいけど、10インチ8発とか、15インチにツイーター1発とかのトラディショナルなアンプがあるところはライン音とのギャップが生まれやすいのかなと思いますね。ベーシストがレコーディングの経験を重ねていくとラインの音に対する知識も備わっていくと思うんですけど、これぐらいのキャパのハコだとまだライン音やDIについてちゃんと把握できていない人もいると思うので、それについてライヴハウスのスタッフから説明してもらって理解することはかなり大事だと思いますよ。

    下北沢THREEのステージに備え付けてあるベース・アンプ。アンプ・ヘッドはGALLIEN-KRUEGER/800RBで、トレブル、ハイ・ミッド、ロー・ミッド、ベースの4バンドEQを搭載。フット・スイッチで操作可能なブースト・ツマミ、[ロー・カット]・[ミッド・コンツァー]・[ハイ・ブースト]という3種類のプリセットが用意されたヴォイシング・フィルターなど、パワフルかつモダンなサウンド・キャラクターをサポートしてくれる機能も充実している。キャビネットはオリジナル品で、10インチ4発と15インチ1発の2機を組み合わせているので、しっかりとした低音感を再生することができる。

    兼岡 ここぐらいのライヴハウスだとアンプで成り立つ場面が多いので、ライン音について意識を持っていくのも意外と機会がなかなかないわけですよ。

    井上 そうなんですよね。僕としては、この配信ライヴ時代の今に薦めたいのが、家での練習はインターフェイスにシールドを突っ込んだのみの音でやってみることですね。プレイのニュアンスもわかりやすいし粗も目立つわけで、それをコントロールするようにプレイを磨いていったら、サウンドメイクのときに必然的にライン音に意識がいくと思います。ライン音をインターフェイスに突っ込んだだけの音で聴くと、たぶんあまり馴染みのない人は“スッカスカだな〜”って思うと思うんですけど、でも実はその状態でも低音はちゃんと鳴らすことができるんです。その状態でしっかりとピッキングをコントロールしていい感じに鳴らすことができるようになれば、配信ライヴでのサウンドメイクの考え方も絶対に変わってくると思いますよ。

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