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【Ruokangas Guitars】Steam Deluxe

  • Equipments Explanation:Akira Sakamoto
  • Photo:Takashi Hoshino

フィンランド発、ベース界に新たな“黒船到来”

 昨今のベース・シーンにおいて、新たな“海外工房系”ブランドの国内進出には著しいものがあるが、2021年、ベース界に旋風を巻き起こす可能性を大いに感じさせる新鋭ベース・ブランド、Ruokangas Guitars(ルオカンガス・ギターズ)がフィンランドより上陸した。

 フィンランドの首都ヘルシンキの約80km北方に位置する街ハルヴィアラに本拠を置くルオカンガス・ギターズは、1980年代からリペアマンとしての経験を積んだユハ・ルオカンガスが1995年に設立した工房だ。最初はエレクトリック・ギター専門だったが、ドイツ人のベーシスト、マークス・ゼッツァーの助言を得て、Steam(蒸気)というシリーズのエレクトリック・ベースも製作するようになった。ユハによれば、蒸気機関車のように力強い低音を生み出すのを理想として、この名を付けたという。

 今回紹介するのは、4弦の最上位モデルとなるSteam Deluxeで、ボディにはスパニッシュ・シダー、ネックにはメイプル、ボディのトップと指板には、美しい杢の出たアークティック・バーチにサーモ処理を施した材がそれぞれ使用されている。スパニッシュ・シダーは“セドロ”とも呼ばれ、クラシック・ギターやフラメンコ・ギターのネックに多く使用される材で、マホガニーよりも硬質で乾いた響きを持っているのが特徴だ。

 Steamのデザインは、もっともポピュラーな34インチ・スケール、ボルトオン・ネックのヴィンテージ楽器の流れを汲むもので、ボディの幅はわずかに広めだが、抱えたときの違和感はほぼ皆無。全体的には軽量で、構えたときのバランスも良好だ。ネックはJBタイプに近いグリップ感で、クラシック・ギター的な押さえ方でも、握り込んだ押さえ方でも自然な弾き心地が得られる。

 ピックアップはオリジナルで、構成はP、JJ、PJの選択が可能。今回のモデルはPJで、楽器の生音とも相まって、どの組み合わせでも芯と艶のあるクリーンなサウンドが得られる。回路はパッシヴでコントロールも2ヴォリューム、1トーンとシンプルだが、トーンのチューニングが絶妙で、PJをミックスしたときにありがちな耳につく倍音も、トーンを4割程度絞れば気にならなくなる。この設定でもこもったサウンドにならないのがありがたい。トーン・ノブを引っ張るとふたつのピックアップがシリーズ接続になり、パワフルで図太いサウンドが得られる。このときトーンを目一杯絞るとレゲエや今どきのヒップホップに合いそうな、重量感のあるサウンドになるのがおもしろい。

 ほかにも、細い輪郭線を掘って生成したスクエアのポジション・マークや、ボディや指板と同様に美しいアークティック・バーチのピックガードなど、デザイン面からサウンド面まで、満足度の高い1本だと言えるだろう。

Details

ピックアップはオリジナル製のものをPJレイアウトでマウント。丸みをおびた肉厚のピックアップ・カバーはフィンガー・レストとしても効果的だ。
コントロールはフロント/リア・ヴォリューム、トーンというレイアウト。左端のトーンをプルすることで、シリーズ(直列)接続への切り替えも可能。
ブリッジにはブラス・タイプのゴトーWB2Pを採用。2駒ならではのダイレクトな弦の鳴りを助長し力強いサウンドを演出する。

Maker’s Comment

ルオカンガス・ギターズ代表 ユハ・ルオカンガス

ヴィンテージ楽器と現代的な知識・技術が融合した逸品です。

 Ruokangas Guitarsはエレクトリック・ギターを作っている印象が強いブランドですが、ベーシストのユーザーも数多くいます。プロフェッショナルなギター・テックであるルシアーたちの視点から、ベースにとって必要なモノを追求してできたSteam Bassはその発表初期から多くのベースシストに支持され、ベーシストからのフィードバックを得てその品質を磨き上げてきました。工作精度はギターのそれとなんら変わりありません。私たちは早く効率的にたくさん作るという考え方とは対局的に、“幸せな製作家が良いギターを作る”というポリシーでプレイヤーが求める1本と真摯に向きあい、アナログな方法で楽器製作に励んでいます。

 Steam Bassはボルトオン・ネックのクラシカルなエレクトリック・ベースに、ユハ・ルオカンガスの持つトーン・ウッドについての知識やデザイン言語、そしてベースの世界では見ることの少ないひと工夫を加えつつ、できるだけシンプルなツールとして設計されています。

 このSteam Deluxeは、ルオカンガス・ギターズの定番木材である、アークティック・バーチとスパニッシュ・シダーのコンビネーションを採用しており、この2種類のトーン・ウッドの組み合わせにより広いダイナミック・レンジとハーモニック・レンジを持ち、サステインの減衰の仕方もなめらかに再現します。私たちが世界に先駆けて使い始めたサーモ処理した木材はフィンランド発の技術であり、ヘラジカの脛骨のナットもフィンランド産のものです。本個体ではそのアコースティックな部分の違いがわかるようパッシヴ・サーキットを採用していますが、それゆえに可変帯域の広いアクティヴ・サーキットとの相性も良いです。私たちは古い技術を使い、新しいサウンドを作ってきました。このSteam Bassもヴィンテージ楽器の良さと、現代的な知識・技術が高次元で融合した逸品です。ぜひ日本のベーシストの皆さんに楽しんでいただきたいです。

  • Ruokangas Guitars/Steam Deluxe

Specifications

Ruokangas Guitars /Steam Deluxe
●ボディ:スパニッシュ・シダー(バック)、アークティック・バーチ(トップ) ●ネック:メイプル ●指板:フィギュアード・アークティック・バーチ ●スケール:34インチ ●フレット数:20 ●ピックアップ:オリジナル製スチーム・カスタムPJ ●コントロール:フロント・ヴォリューム、リア・ヴォリューム、トーン(プッシュ:パラレル/プル:シリーズ) ●ペグ:ゴトーGB11 ●ブリッジ:ゴトーWB2P ●カラー:シースルー・オールド・レッド

【価格】850,000円(税込)

お問い合わせ:ノイベラックス TEL:0586-76-7787 メーカー・サイト

本記事は 『ベース・マガジン 2021年8月号』の特集記事を転載したものです。同号の表紙は、新作『東京』をリリースした東京事変の亀田誠治と刄田綴色。特集『最強のリズム・セクション』では、古今東西さまざまな名リズム体を紹介し、ベースとドラムのコンビネーションについて掘り下げています。ぜひチェックしてみてください!