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Genzler KINETIX 800 feat. 河西ゆりか(羊文学)
- Interview & Text:Makoto Kawabe
- Photo:Takashi Yashima
ゲンツラーの最新アンプ・ヘッドの実力を
羊文学の河西ゆりかが検証!
現場主義の先見性と高い技術力を持つ米国産ブランドであり、革新的なベース・アンプを数多く送り出してきたGenzler (ゲンツラー)。同ブランドから新たに登場したアンプ・ヘッドのフラッグシップ・モデルが‘‘KINETIX 800″ である。
ここでは、軽量かつ小型でありながら800W の高出力を誇り、プリアンプに真空管を使用する本ベース・アンプの実力を、羊文学の河西ゆりかに検証してもらった。
本記事は7月19日発売のベース・マガジン2024年8月号(Summer)の特集記事をもとに再構成したものです。
同号の表紙巻頭企画は『亀田誠治・亀の60年』。
今年還暦を迎える亀田誠治を、ロング・インタビュー、愛聴盤や愛器の紹介、King Gnuの新井和輝との対談など、50ページ超の大ボリュームで深堀りします。亀田誠治の珠玉のベース・プレイが6曲収録されたベース・スコア小冊子も付属!
そのほか、奏法企画や注目のベーシストのインタビューなど、さまざまな記事を掲載しています。ぜひチェックしてみてください!
Genzler KINETIX 800とは
真空管プリアンプ × クラスD 8OOW
ハイパワーでハイブリッドな最新アンプ・ヘッド
革新性に冨んだ製品が好評なゲンツラーは、前身のGENZ-BENZ から続く長年のキャリアもあって真空管回路設計にも長けており、最新型ベース・アンプ・ヘッドKINETIX 800 では小型軽量ながら3本の真空管によるフル・チューブ・プリアンプを採用。800W の大出力を誇るクラスD パワー・アンプを組み合わせたハイブリッドな製品に仕上げている。
インプット側にはGAIN 、VOLUMEに加えMUTE機能も兼ねる+8dBのBOOSTスイッチを備えており、真空管特有の倍音や歪みを柔軟に付加できる。LEAN/FAT/THICKスイッチはそれぞれ異なる帯域設定のハイパス・フィルターと超低音域のブーストによりプリセットされたトーン・シェイプで、キャビネットのサイズや音量、演奏ジャンルなどに応じて低音域の質感を切り替えられるユニークな機能だ。5 バンドEQは、TREBLE/BASS が5kHz/70Hz を基準に±13dBのシェルビング、LO-MID/MID/HI-MIDが250Hz/575Hz/2.3kHz のピーキングで、ブースト/カット量はそれぞれの帯域で異なり、実用的かつ音作りしやすい仕様となっている。
Specifications
●出力:400W/8Ω、800W/4Ωおよび800W/2.67Ω●コントロール:MUTE/ON/BOOSTスイッチ、ゲイン、ヴォリューム、LEAN/FAT/THICKスイッチ、ベース、ロー・ミッド、ミッド、ハイ・ミッド、トレブル、マスター、ライン・ヴォルテージ切替スイッチ、インピーダンス切替スイッチ、ダイレクト・アウトプット切替スイッチ ●入出力端子:インプット、スピーカー・アウトプット×2、AUXイン、ヘッドフォン・アウト、センド・エフェクト、リターン・エフェクト、チューナー・アウト、バランスド・アウトプット●外形寸法:82.55(H)×285.75(W)×(D)288.9mm●重量: 3.27kg ●価格:オープンプライス(市場実勢価格228,800円前後)
◎製品に関するお問い合わせは、イースペック(06-6636-0372)まで。◎ https://genzler.jpn.org/
Sound Check by 河西ゆりか(羊文学)
キャンキャン言わないというか。
むしろ大音量にすると、ちゃんと音が太くなっていく。
──羊文学のライヴでのメイン・アンプはアンペグ製SVTとのことで、河西さんは普段から真空管アンプを使っていますよね。
はい。KINETIX 800は小さいのに真空管が入っているということで、今日は楽しみにしていました。
──KINETIX 800のサウンドの第一印象はいかがですか?
小型のベース・アンプって、弦の鳴りとはまた別の“バチッ”ていう不快な金属的な鳴りが乗ってしまうモデルも多いですけど、そういう音がかなり抑えられてますよね。
──小型D級アンプのなかには、大音量にするとヒステリックな音色になって低音域が不足する機種もありますからね。
はい。でもこれはキャンキャン言わないというか。むしろ大音量にすると、ちゃんと音が太くなっていく。12インチ一発のキャビネット(※ゲンツラー製BA2-112-3STR)で、これほどローが出るのはすごいと思いました。音量を変えると音の質感はけっこう変わる印象です。
──音量によって5バンドEQも適宜調整していたようですが、EQに関してはLO-MIDとMIDを下げめで設定するのが好みですか?
普段のライヴでの音色に近づけようとしたら、こういう設定になるのかなと。KINETIX 800にはミドルのツマミが3つあるのが嬉しいですね。
──普段SVTでは、ミドルに関してはどのようなセッティングにしていますか?
SVTはミドルのツマミがひとつなので、この帯域はエフェクターを使って細かい調整をしています。あと、海外ツアーとかだと会場のアンプを使うこともあるんですけど、ミドルを細かく調整できるアンプの場合は200Hz付近を下げることが多いですね。
──LO-MIDやHI-MIDのツマミによって、音の印象はけっこう変わりますか?
LO-MIDを変えると“音色”自体が変わりますね。周波数帯域の設定がちょうど良くて使いやすいです。HI-MIDでは“響き”が変わる印象を受けました。
── “響き”が変わる、とはどういうことでしょう?
HI-MIDを下げるとカラカラした響きになりますけど、上げると、空洞から音を鳴らしているような……空間が広がるような感覚になりました。ほかの小型アンプだと単に中高音域を上げるだけだと耳に痛い感じになることがあるけど、KINETIX 800はHI-MIDを上げてもうるさくなくて、でも抜け感はちゃんと出てくれるというか。これまで弾いたことのあるD級アンプのなかでは一番マイルドな音色だと感じました。デジタル臭くないというか。やっぱり、真空管が入っているのが大きいんでしょうね。
──LEAN / FAT / THICKスイッチの使用感はいかがですか?
ナチュラルにブースト感が変化して、音の重心が変わるような印象です。音色が大胆に変わるプリセットよりは、こうやって“気持ち”変化するくらいのほうが私としては使いやすいですね。個人的には、THICKで下の帯域をブーストして、かつGAINも持ち上げたときの音色が好みでした。
──けっこうバキッとしていますね。ちなみに普段の音作りではどんなことを意識していますか? 羊文学は3ピース・バンドなので、ベースがどの帯域にいるかでバンドの音像に大きく影響しますよね。
そうですね。普段は、ベースはバス・ドラムの少し上でギターとカブらない帯域を埋められるようにして、なるべく太い音で、しっかりとローを出すようにしています。そういう意味でもTHICKがいちばん重心が低くて気に入りました。このスイッチは、ベースの個性やキャビネットとの相性で使い分けることになりそうですね。
──普段アンペグのSVTを使う際、アンプ側は歪ませているんですか?
アンプの歪みも少し足したいので、GAINは気持ち上げてますね。KINETIX 800でも、GAINを上げて少し歪ませるくらいが好きな音色です。GAINを上げめにしたほうが真空管っぽい音色になるし、音が太くなる感じがします。
─BOOSTのスイッチも使ってみましょうか。
BOOSTはバキバキになりますね(笑)。私がBOOSTを使うとしたら、GAINを下げて音圧を上げるためにオンにするっていう感じになりそうです。単に歪みが増えるというよりも、音色自体が変わる印象があるので。BOOST を使うと、GAINを上げたときよりも“綺麗めに”音圧が上がるように感じました。
──KINETIX 800はプリアンプを通した音色をLINE OUTから出力できて、宅録に活用しやすいのも特徴です。
宅録ではデモに仮のベースを当ててみるくらいしかやらないですけど、真空管の質感が取り込めるのは魅力的ですね。このサイズなら気軽に家にも持ち込めますし。
──ゲンツラーのキャビネット(BA2-112-3STR)の印象はいかがですか? 高音域を受け持つのが一般的なホーンやツィーターではなく、コーン型ドライバー4基が縦に配列された“ラインアレイ・システム”になっていて、耳当たりが自然で指向性が横方向に広いのでモニタリングしやすいのが特徴のキャビネットです。
確かに、音が見えやすい感じがすごくします。
──持ってみると軽さにもビックリしますよ。
本当だ(笑)。ただの空き箱みたい。これなら自分でも運べますね。
──12インチ4発のアンペグ製キャビネットも用意したので、弾き比べてみましょうか。
やっぱり違いますね。(アンペグ製キャビネットは)音に包み込まれる感じがして、ある意味ベースらしい雰囲気は出しやすいかな。アンプ・ヘッド側の設定もガラッと変わりますね。比べてみるとゲンツラーのキャビネットはモコモコせずに全部の音が聴こえているというか、すっきりしていてモニタリングしやすくて、でもローもしっかり出ているのがわかりました。音量を上げるほどローが出るのにボケないのも良い感じです。
──最後に、河西さんが“ベース・アンプに求めるもの” を言葉にするとしたら、どうなるでしょうか?
根本的にベースの音作りは楽器だけじゃなくてアンプありきで考えているほうなので、ベース自体には木の鳴りを、アンプにはアンプなりの空気感とか響きとかを出してほしいと思っています。そういう意味でSVTを気に入っているんですけど、KINETIX 800もそういう面がちゃんと出せるアンプだと思いました。
──ご自身のセットにKINETIX 800を組み込むとしたら、どのように使いますか?
やっぱりローの聴こえ方が良いので、GAINを上げてVOLUMEも上げめで使うと思います。低音が充分に出るし、その上の鳴ってほしい帯域もしっかり出してくれるので。5バンドEQで細かいセッティングができて音作りがしやすくて、細かいところまで手が届く感じもすごく使いやすいと思いました。
Genzler/BA2-112-3STRとは?
今回の試奏で使用したキャビネットは、ゲンツラー製BA2-112-3STR(写真、下段)。ラインアレイの特性を取り入れた独創的なバスレフ型キャビネットに新設計のイタリア製ネオジム・スピーカー・ユニットを採用した新シリーズで、低音域用ウーファーの同軸上に、中高音域用3インチ・コーン型ドライバー4基を線状に並べ、水平方向のみに広い拡散性と、位相特性に優れたモニタリングしやすい音質を実現している。12インチ・ウーファー1基でバッフル面が垂直なストレート型(本機)や傾斜したスラント型のほか、15インチ・ウーファー1基、10インチ・ウーファー1基、2基、4基のモデルもラインナップしている。
◎Profile
かさい・ゆりか●高校生の頃にギターを弾き始め、のちにベースに転向。2017年に羊文学に加入した。マニ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジャック・ブルース、田村明浩などをフェイバリット・ベーシストとして挙げている。2022年にリリースした『our hope』がCDショップ大賞<青>大賞を受賞。2023年12月には最新アルバム『12 hugs (like butterflies)』をリリースした。今年4月開催の横浜アリーナ単独公演のチケットは発売開始直後3分で即完。今年3月に開催された、ソウル、中国大陸、台北、バンコクを周る全7公演のバンド初のアジア・ツアーは全公演ソールドアウトとなり、7月には追加公演を開催するなど、国内外で高い支持を集めている。
◎Information
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