プランのご案内
  • UP

    新生Sadowskyの実力 feat. 松本駿介(Cö shu Nie)

    • Photo:Eiji Kikuchi
    • Translation:Tommy Morley

    2020年に生産拠点をドイツへと移し、名門ベース・ブランドでもあるワーウィック・ファクトリーを中心とした製造ラインナップとなったサドウスキー 。もともとコアなファンが多いブランドなだけに、この生産体制の変化が製品にどのように反映されるか気になっていたという人も多いだろう。満を持して、いよいよ新たなサドウスキーが国内上陸。メイド・イン・ジャーマニーによるNYサウンド、その実力を検証していこう。

    新生サドウスキーに至る道のり

    生産工場の変更という大きなターニング・ポイントを迎えたサドウスキー。まずはこれまでの歩みを振り返る。

    脈々と息づく“プロのための道具を作る”という哲学

     1979年にニューヨークで創業し、名だたるトップ・セッションマンたちから絶大な信頼を集めるカリスマ・ビルダー、ロジャー・サドウスキー。彼の手がけた楽器をプレイするベーシストたちの活躍によって確立された“ニューヨーク・サウンド”は、海を越えたここ日本でも大きな注目を集め、その洗練されたアクティヴ・サウンドは、多くのベーシストの憧れとなった。まずは、これまでのサドウスキー の歴史を振り返ろう。

     ロジャーは1949年5月31日、米国ニューヨーク州ブロンクス生まれ。大学3年でギターを始め、その後、1972年にアウグスティーノ(オーギー)・ロプリンジにアコースティック・ギター製作を師事する。1974年からはフィラデルフィアの楽器店でリペアの仕事を担当し、エレクトリックのギターやベースはもちろん、ヴァイオリンやアップライト・ベースの修理も学び、楽器に対する見識を深めていく。また、その頃にスタジオ・ミュージシャンのクレイグ・シュナイダーに出会い、クレイグとの関わりのなかでニューヨークのセッション・ミュージシャンと交流。そこでの仕事ぶりの評価に自信を深めたロジャーは、1979年にニューヨークのマンハッタンにリペア・ショップとして自身の工房を設立した。

     当初はアコースティック・ギターの製作をしたかったというロジャーだが、当時は手工アコースティック・ギターの市場がなかったこともあり、1980年にオリジナルのエレクトリック・ギターを、1982年にエレクトリック・ベースを製作する。また、1980年には、若き日のマーカス・ミラーと出会い、マーカスの1977年製ジャズ・ベースにカスタマイズを施す。そのカスタマイズは、フレットを抜いて指板を修正し、フレットを打ち直し、ナットを新しいものと交換し、ブリッジを重量のあるバダスIIと交換し、そしてプリアンプを組み込むことだった。ベースに内蔵のアクティヴ回路を採用した最初期のひとりでもあったロジャーによるこのカスタマイズは、マーカスの活躍とともに大きな話題となり、ロジャーのベース・ビルダーとしての認知を広めるきっかけとなった。

     “いい楽器が欲しい”とロジャーのもとを訪れるミュージシャンたちに対してロジャーは、1960年代製のフェンダー・ベースを手に入れ、それを改造することを提案していたが、1980年代初頭からヴィンテージ楽器の市場が形成されると、1960年代製フェンダーを入手することも難しくなっていき、ロジャーは自身の経験を投入した自身のオリジナル楽器を作ることを真剣に考えるようになっていった。アコースティック・ギター作りを学んでいた経験から、改造して良い音がするのは、生音が良く、しかも軽量の個体らしいということに気がついたロジャーは、ソリッド・ボディの楽器も軽量で鳴りの良いものであるべきだということを提唱。同時に、ライヴ、スタジオを問わず、ミックス中で“聴こえるサウンド”を実現するためのエレクトロニクスやノイズレス化に注力した。その製品の品質の高さは多くのベーシストを引きつけ、ウィル・リーやニール・ジェイソンといったセッションマンのほか、元メタリカのジェイソン・ニューステッド、エアロスミスのトム・ハミルトン、アース・ウインド&ファイアーのヴァーダイン・ホワイト、タル・ウィルケンフェルドなど、ジャンルを超えた実力派がサドウスキーのベースを愛用している。

    ウィル・リー
    ヴァーダイン・ホワイト
    タル・ウィルケンフェルド

     日本におけるサドウスキー・ユーザーの拡大に寄与したのが、2003年に生産が開始されたMetrolineシリーズだ。“世界戦略モデル”という位置づけで、ニューヨーク製モデルのクオリティを維持しながら、より入手しやすい価格を実現。ニューヨークのサドウスキー工房で修行を積んだ菊地嘉幸氏が責任者を務め、日本にて製作を行なった。また、2018年にはさらなるコスト・ダウンを実現した日本製Metro Expressシリーズが登場し、話題となった。

     ベース業界に大きな衝撃が走ったのは2019年末のこと。サドウスキーはドイツの大手ベース・メーカーであるワーウィックとの提携を発表。これまでの日本製MetrolineやMetro Expressは生産が中止となり、ロジャー監修のもとワーウィックが生産と流通を行なうこととなった(なお、ロジャーは健在で、規模は縮小するもののニューヨーク工房での楽器作りは行なうとのこと)。現在のラインナップは、ニューヨーク製モデルを限りなく踏襲した“Custom Shop”、ワーウィックが誇る世界有数の木材在庫から厳選された素材を使用する“MasterBuilt”、ワーウィックの最新鋭の設備で製作される“MetroLine”、RSD(Roger Sadowsky Design)の名のもとにワーウィックが管轄する中国工場で製作される“MetroExpress”という4シリーズ。いずれも、これまでロジャーが掲げてきた“プロのための道具を作る”という哲学を丁寧に実践している。

    ワーウィック工場で技術指導するロジャー。
    Custom Shopでの製作の様子。

    ▼ 次ページは新生サドウスキーの試奏チェック! ▼