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    フリーを惹きつけたプレイはどこから生まれたのか?——アンナ・バターズが語る愛器、ルーツ、これまでの参加作

    • 取材:辻本秀太郎(ベース・マガジンWEB)
    • 通訳:トミー・モーリー
    • Photo:Josh Weichman

    フリーのソロ・アルバム『Honora』への参加で注目を集める、オーストラリア出身、LA拠点のベーシスト、アンナ・バターズ。前回の記事ではフリーとの出会いやレコーディングの舞台裏を語ってもらったが、本記事では彼女自身の音楽的なルーツに焦点を当てる。

    13歳から弾き続けてきたコントラバスと、LA移住後に本格的に取り組み始めたエレキ・ベース。それぞれの愛用楽器や影響を受けたベーシスト、ソロ・ワーク、そして自身が誇る参加作品について語ってもらった。ジャンルを自在に横断し、フリーをも惹きつけたアンナの音楽性は、いかにして形作られたのか。

    私は“100年くらい前のドイツ製のベースが欲しい”と伝えたの

    私がコントラバスを始めたのは13歳くらいの頃。ジャズとクラシックを勉強していて、オーケストラでもプレイしていた。エレキ・ベースを本格的にプレイし始めたのはLAに引っ越してからで、8〜10年くらい前になってからなの。ジャズ以外の音楽にも幅を広げたいと思うようになって、それでエレキ・ベースに興味を持ち始めた。だからルーツとしては、基本的にコントラバスなの。

    最初の頃に大きな影響を受けたのは、レイ・ブラウン、ロン・カーター、ポール・チェンバース、ジミー・ギャリソン、ラリー・グレナディアね。そういう人たちが最初のインスピレーションで、そこから少しずつ広げていく感じだった。誰かひとりが飛び抜けて大きな存在というより、いろいろなベーシストを聴いて、それぞれから少しずつ学んでいくのが好きだったんだと思うわ。

    私にとって大きな存在はミシェル・ンデゲオチェロ。エレキ・ベースに関しては彼女が今もずっと最大のインスピレーションだと思うわ。プレイの仕方だけじゃなくて、作曲の仕方にもとても影響を受けている。それからウィリー・ウィークスやジェームス・ジェマーソンも外せない。エレキに関しても、やはりさまざまな人から少しずつ影響を受けている感じなの。

    私がプレイしたコントラバスは1930年代製のドイツ製で、GとDの弦はOlivで、EとAはEvah Pirazzi Slapという合成ガットの弦を使っているわ。ライヴではRealistのピックアップを使うけど、スタジオでは使わなかったと思う。マイクで録っただけで、私はアイソレーション・ブースにいたからドラムのサウンドがマイクに入る心配もなかったの。

     ええ、そうよ。これが私の唯一のベースなの(笑)。

    Photo by David Haskell

    2013年に手に入れて、私のプロのキャリアを通じてずっと共に歩んできた。Los Angeles Bass Worksというお店で手に入れたもので、そこを経営している女性がたくさんのベースを持っていて、私は“100年くらい前のドイツ製のベースが欲しい”と伝えたの。彼女は私のリクエストに合うベースをたくさん見せてくれて、そのなかで私が本当にグッときたものがこれだった。

    サウンドがかなりダークで、何か特別なフィーリングがあるところ。それと、小さめでネックもかなり細いのでプレイしやすいわ。取り回しやすいし、レンジ全体に渡ってサウンドも均一。プレイしたときに、自分の声が楽器から出ているように感じられたの。何かを聴いた瞬間にビビッときてつながる感じ、あのフィーリングね。

    メインのエレキ・ベースは、改造したプレシジョン・ベース。ネック側のピックアップはHarmony H22に付いているやつをコピーしたもの、ブリッジ側のピックアップはStarfireのコピーでね。LAでUniform Musicというお店をやっている、友人のエリックが改造して作ってくれたものなのよ。

    基本的には新しいフェンダーのプレシジョン・ベースに、違うピックアップを付けた感じね。これにLa Bellaのフラット・ワウンド弦を使っている。私はいつもフラット・ワウンドよ。

    そう思うわ。それこそ、私がLAに惹かれた大きな理由のひとつでもあるの。ここでは誰もひとつのジャンルに固執せず、さまざまな現場で得た経験を自然に自分の音楽へ取り入れている。ロック・バンドで学んだこともあれば、ブラジルのミュージシャンと演奏して得たものもある。そうした影響が少しずつ混ざり合いながら、自分の音楽性を形作っていくのよ。

    「この曲はこのスタイル、次の曲は別のスタイル」と意識的に切り替えているわけではなくて、いろいろな音楽を演奏してきた経験が自然に表われてくる。LAには複数のシーンを行き来している人が多いから、結果として生まれる音楽も、ジャンルやスタイルを横断するものになりやすいんだと思う。

    ワォ、いい質問ね。まずは、ジェフ・パーカーのカルテットによる1stアルバム『Mondays at The Enfield Tennis Academy』(2019年)。私が参加した作品のなかでも、特に誇りに思っている一枚よ。次は、もうひとつのバンド、SMLのセカンド・アルバム『How You Been』(2025年)。数ヵ月前にリリースされたばかりの作品ね。

    3枚目は、エイミー・マンの『Queens of the Summer Hotel』(2021年)。リリース当時はそれほど大きな話題にならなかったけれど、私はこの作品でベースを弾いているの。楽曲が本当に美しく、作曲も完璧で、アレンジやオーケストレーションも素晴らしい。これも、とても誇りに思っている作品よ。

    SMLの『How You Been』では、エレキ・ベースだけを弾いているわ。ほかの2作品では、コントラバスをプレイしている。

    このアルバムは、ジョシュ・ジョンソン(sax)、グレゴリー・ウルマン(g)、ベン・ラムズデイン(d,per,g,prog)とのバンドを念頭に置いて作曲したの。私たちはこれまでにも何度も一緒に演奏してきたから、互いの反応や音のぶつかり合いから生まれる、独自のサウンドがある。それを曲に反映することが、制作の大きな軸になったわ。

    多くの曲はドラムマシンから作り始めたの。Behringer製のTR-808タイプのドラムマシンの使い方を覚えながら、まずはメロディックなベース・ラインを作り、その上にさらにメロディを重ねていった。

    レコーディングはほとんどをライヴで行ない、その後、ベンと一緒にギターやパーカッションなどをダビングしたわ。作曲から完成までは約1年半。ツアーで家を空けることが多かったから、帰ってきたときに少しずつ作業を進め、またツアーに出ては戻ってくる、というペースで作っていったのよ。

    これまでにフィービー・ブリジャーズやジェニー・ルイス、アンドリュー・バードといったインディ・ロックのアーティストとツアーをしてきたから、その経験は大きな影響になっていると思う。

    私はロックやインディ・ロックを聴いて育ったわけではなく、あとになって出会った音楽なの。だからこそ、新鮮で興味深く感じるのかもしれない。彼らと演奏するなかで、メロディや曲の構成について多くのことを学んだし、その影響はこのアルバムにも表れていると思うわ。

    正直なところ、今の活動にはとても満足しているの。これからもジェフやSMLとレコードを作り続けながら、数年ごとに自分のソロ・アルバムを発表し、さまざまなアーティストのツアーやレコーディングにも参加していきたい。今の私は、かなり理想的な環境にいると思うわ。

    これまで一緒にやってきたバンドやメンバーとの関係を大切にしながら、自分の音楽も作り続けたいし、新しい人たちとも出会っていきたい。特定の人や方向性だけに限定せず、これからもあらゆる可能性にオープンでいたいと思っているわ。

    PROFILE
    アンナ・バターズ●1991年生まれ、オーストラリア・アデレード出身。幼少期よりクラシック音楽などに触れ、フルートなどを演奏。その後、コントラバスに転向する。2012年にアデレード大学のエルダー音楽院を卒業後、2014年よりLAに渡る。マカヤ・マクレイヴンやジェフ・パーカーといった多くのアーティストの作品に参加し注目を集め、ETA IVtetやSMLといったバンドでも活躍。現代ジャズ・シーンで、最注目のひとりと言えるベーシストだ。また、ソロ・アーティストとしての顔も持っており、2024年には2枚目となるソロ作『Mighty Vertebrate』をリリースした。