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ベーシストのコンプレッサー論 – 第3回:千ヶ崎学「ピッキングがしっかりしているからこそコンプが映える」
- Text : Shutaro Tsujimoto
- Design : Marina Ino
コンプレッサーは、音量のバランスを整え、演奏全体のまとまりを生み出すために便利なエフェクターである。その一方で、設定の意図や音への影響が見えづらく、使いこなすのが難しいと感じるプレイヤーも少なくない。
本連載では、プロ・ベーシストたちがコンプレッサーとどう向き合い、どのように活用しているのかを掘り下げていく。選び方、使い方、そして求める音像──それぞれのスタイルがそこに表われるはずだ。
今回登場するのは、KIRINJI、堀込泰行、玉置浩二、大森靖子をはじめ、数々の現場でグルーヴを担ってきた千ヶ崎学。これまでさまざまなコンプレッサーを試してきたという彼は、現在「コンプを使わないことが多い」と語る。では、なぜ使わないのか。ミックスツールとしての成り立ち、ピッキングやグルーヴへの影響、レコーディングにおけるローエンド作りまで、千ヶ崎の言葉からコンプレッサーの本質を探る。

◎Profile
ちがさき・まなぶ●1971年4月25日生まれ、神奈川県横浜市出身。吹奏楽でトロンボーンに親しんでいたため、同じへ音記号楽器のベースを12歳で始める。ソウルやR&Bに根ざしたプレイに定評があり、スムーズかつパーカッシブなプレイが持ち味。NONA REEVES、坂本真綾、青山陽一、KIRINJI、玉置浩二、堀込泰行、大森靖子など、数多くのアーティストのレコーディングやライヴ・サポートを務める。
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Part 1:コンプレッサーとの出会い
“答えの出ない”エフェクター
最初にコンプレッサーを使ったのは高校生の頃ですね。BOSSのCS-2でした。当時はコンプが何なのかもよくわかっていなくて、“これは必要なのかな”と思って買った感じです。今思うと、CS-2はコンプレッサーというよりサステイナー寄りの機種ですよね。僕は1971年生まれなので、高校生の頃というと80年代末なんですけど、その頃はエフェクター全般がよくわかっていなかったし、特にコンプは分かりづらかった。好きなベーシストが使っていたから、というわけでもなく、本当に目について買ってしまったという感じでした。
その感覚って、実は今も続いているんです。いろいろな機種を試してきたし、考え方は少しずつまとまってきたけれど、“使いこなしている”という感覚はあまりない。絶対に必要なものだとも思っていないし、実際ボードに入れていないことのほうが多いくらいです。でも、コンプが音楽のなかでどういう役割を果たしているのかを知りたくて、ずっとトライし続けている。使わない時期があっても、また気になって買ってしまう。僕にとっては、そういう不思議なエフェクターなんですよね。
「コンプの本質はミックスツールにある」
コンプレッサーって、どこまでいってもスタートはミックスツールだと思うんです。元々はエンジニアの道具ですよね。それがいつの間にか、たぶん80年代くらいからプレイヤーのツールとしても普及していった。ミックスのなかで音を整理するためのもので、いわば幕の内弁当に詰め込んでいくときに、形を整えて食べやすくするための道具だったと思うんです。
昔ながらのスキルを持っているエンジニアの人たちは、“かけ録り”と言って、録音の段階ですでにコンプを入れていました。歌いやすいように、演奏しやすいように、あるいはピークを抑えるために使っていたんですよね。一方で、若い世代のエンジニアだと、とりあえずクリップしないように録っておいて、“コンプはあとでプラグインでかける”という考え方も多い。そういう意味でも、コンプはかなりミックスツールとしての性格が強いものだと思います。
ただ、僕らはそうやってコンプがかかった音源を聴いて育ってきたわけじゃないですか。だからコンプがかかっているサウンドって、すごく自然に聴こえるんですよ。その“音源で聴いてきた感じ”を演奏している段階から出したいと思うプレイヤーが増えたことで、コンプはプレイヤーツールにもなっていったんだと思います。そこを考えないと、道具の使い方が少しズレてしまう気がするんです。
Part 2:コンプで“整える”のか、“アクを足す”のか
たとえば、MXRのDyna Compや、ギタリストがよく使うRossみたいなものは、本当にエフェクトだと思うんですよ。Dyna Compって、使いづらいくらい個性的じゃないですか。あれは整えるためのものというより、アクを足す調味料としてのコンプだと思うんです。だから、積極的なエフェクトとしてキャラクターを足したいのか、音源で聴いてきたような自然なコンプ感が欲しいのかで、選ぶコンプも変わってくると思います。
最近気に入っているものだと、Origin EffectsのCali76 Bass Compressorがあります。1176(※1967年に発表されたUniversal Audio製の伝説的なFETコンプレッサー/リミッター)をモチーフにしているけど、結構アクが強い。ロックっぽい雰囲気を出したいとか、そういうキャラクターを足す系のコンプだと思います。同じコンプレッサーでも、実際には働きや役目がかなり違う。だから理屈だけではなく、聴いたときのサウンドの感じで判断しないといけないなと思います。
ペダルのコンプとして“いい”と思うのは、個性がはっきりしているものが多いですね。ロックっぽい雰囲気が出るとか、感覚的にサウンドがカッコいいと思えるかどうか。もし自分のボードに入れるなら、踏みっぱなしというより、この曲だけ極端な感じにしたいとか、60年代のロックっぽくしたいとか、そういうエフェクトとして入れたいです。ものすごく深くかけて、弱く弾いてブーミーにするような、ダブっぽい使い方をすることもあります。
今回持ってきたInner BambooのU-IIは、ほとんど使っていなかったんですけど、いいコンプだと思いました。すごくよくできているし、プレイヤーツールとして使いやすいようにアレンジされている印象があります。つなぐと弾きやすくなる感じがある。本当にきれいなんですよね。今の僕はオープンな音がマイブームなので、普段使うかと言われると使わないかもしれないけど、かけっぱなしにしたい人にはすごくいいと思います。
設定としては、曲にもよりますけどアタックは早すぎず、レシオはそこまで圧縮しすぎず、スレッショルドも少し引っかかるくらい。ピークを抑えてくれる程度が好みです。リリースも早めに離してくれるほうが、自分が弾いているニュアンスから離れすぎない。極端にエフェクティブに使うか、本当に必要最低限にするか。そのどちらかという付き合い方ですね。
Part 4:コンプを生かすために考えるべきこと
「ピッキングがしっかりしているからこそ映える」
コンプを使ううえで大事なのは、まず元のピッキングだと思います。コンプは音のピークに反応するものなので、出したいタイミングでちゃんとアタックのピークが出るようなピッキングができていなければ、かける意味がないんです。波形を見ても、ピークがしっかりある音ならいい。でも、ふにゃふにゃしたピッキングだと、どこにコンプを当てたらいいのかわからない。コンプでピッキングをしっかりさせるのではなく、元のピッキングがしっかりしているからこそコンプが映えるんですよね。
ピッキングに関しては、弱い音であってもアタックは出すということを意識しています。ソフトであっても、音のスタートはしっかり出す。昔は指の筋力で強く弾いてアタックを出していたんですけど、40代の頃にピッキングを変えました。脱力しているけれどアタックははっきり出るように、指の当て方や弾き方で音のスタートを出す。脱力したほうが速いフレーズも弾けるとわかって、積極的にそういうスタイルに変えた時期があります。
一時期はスラップのときにコンプを踏んでいたこともありました。でも、スラップでコンプを踏む理由って、要するに“整えたい”ということなんですよね。整えたい人にとってはそれでいいと思います。でも、暴れてほしい人にとっては、コンプが逆に足かせになるのは当然なんです。
「コンプによってドラムとの関係性が変わる」
それに、アタックやリリースを調整するということは、ほんの微妙ではあるけれど、タイム感やグルーヴも変わるということなんです。ベース単体だと気づかないかもしれない。でもベーシストは、ドラムとの関係性のなかでグルーヴを作っている。だからコンプによってその関係性が変わってしまうと、まったく違う話になってくるんです。
実際、ミックスが終わった音源を聴いて、“なんか俺、このタイミングで弾いてないんだけどな”と思ったことがありました。ドラムに対するコンプとベースに対するコンプのかかり方が違うと、その関係性の差が変わってしまうんですよ。そういう経験もあって、コンプはやっぱりミックスツールとしての要素が強いものだと感じています。
Part 5:ライヴにおけるコンプの考え方
「ロー感が一定の範囲に収まっていることが大事」
ライヴでも、卓でコンプをかけることは理解できます。お客さんに聴きやすく届けるために、ドラムやベースを整える必要がある。ライヴ会場でも、結局は幕の内弁当のように音を配置して聴かせるわけですから。ただ、ステージ上で隣で鳴っているドラムには、基本的にコンプはかかっていないじゃないですか。オープンな音で鳴っているわけですよね。そこに対して、自分のベースだけがコンプで閉じた感じになることに、今は少し違和感があるんです。
だからステージ上でコンプを使うことには何度もトライしているんですけど、結局ハズしてしまうことが多いですね。外の音に関しては、エンジニアを信頼して任せるしかないと思っています。
スラップに関しても、今はオープンな音のほうが好みです。コンプを外して、一時期はEQで補正していました。最近はDarkglassのHarmonic Boosterを踏んでいます。コンプというより、EQ的な感覚です。指弾きとスラップのバランスを取るために、ブースターのヴォリュームを調整しているという感じですね。
ライヴで僕が重要視しているのは、ロー感がある程度一定の範囲に収まっていることなんです。ライヴで20曲やるとなると、キックとベースのローエンドがどれだけ安定しているかが大事になる。その下の土台が安定しているから、上のアレンジを華やかに聴かせることができる。昔はそれをコンプでやろうとしていたんですけど、最近はオープンな感じを維持したまま整えたいというモードになっています。
Part 6:レコーディングでのローエンド作り
「“空気感”の正体は、サチュレーションとコンプ感」
「レコーディングに関しては、“ローエンドは歪みで作る”という考え方があります。僕はここ10年くらい、混ぜることを前提にもう1本の音を作るようにしています。1本目は、できるだけハイファイで色づけがなく、フルレンジできれいな音を録る。ここでいう“きれい”というのは、ローファイなサウンドであっても、上から下までフラットに録るということです。そして2本目もアンプではなくラインで録って、その2本目をどう汚すかを考えるんです。
歪みの成分って、1本目で録った実音の外側に“のりしろ”のようにつくものだと思うんですよ。本来、アンプを使っていた時代に“空気感”と言われていたものも、実はアンプのサチュレーションだったんじゃないかと思うんです。あるいは、スピーカーのコーンが駆動することで自然にかかるコンプ感。昔はそこにテープコンプもあった。つまり、各段階でコンプレッションされていたわけです。でも今はPro Toolsなので、そういうことが自然には起きにくい。だから、昔アンプで録っていた音の正体は、サチュレーションとコーンのコンプ感だったんじゃないかと考えています。
今はそれをライン2本で再現している感覚です。2本目に歪みやサチュレーションを加えて、ビチビチした成分を足すこともあれば、アンペグSVTのように“モフッ”とした音を作ることもあります。かなり歪ませた音でも、クリーンなラインと混ぜてオケのなかで聴くと、歪みとしては感じられず、ほかの音との“のりづけ”になってくれる。ポップな曲でも成立するくらい、歪みは音をつなぐ要素になるんです。
Origin EffectsのBassRIG Super Vintage(プリアンプ)も素晴らしいですね。ライヴではブレンドして使いますが、録音ではブレンドせずに、完全にアンプシミュレート側だけで使うこともあります。1本目はPueblo AudioのOLLAで録ることが多いので、それと混ぜる前提で2本目をかなり汚すんです。ものすごく歪ませた音をほんの少し混ぜるだけでも、サチュレーションっぽくなるんですよ。
「ミックスでそのすごさがわかるDI」
最近はレコーディングでアンプを使わない代わりに、DIはかなり試行錯誤してきました。いろいろ使ってきましたけど、今はOLLAで落ち着いています。スーパーローエンドがすごく安定しているんですよ。録っているときの興奮みたいなものはあまりないんですけど、エンジニアが言うには、下の帯域のメーターが全然動かないらしいんです。つまり、それくらい安定している。だから録音中に派手な気持ちよさがあるというより、ミックスし始めてから効果が表われるDIという感じですね。最終的に楽曲全体がすごく安定するんです。
これは5弦ベースの低い帯域という話ではなくて、音に含まれている倍音の下のほうの成分の話なんです。ちゃんとサブウーファーがある環境で聴くと、そこが出ているのがわかる。最終的にTD(トラックダウン)されて、ミックスされた楽曲になったときの安定感が全然違うんですよね。
もちろん、昔からの定番であるCountrymanのようなDIにも良さがあります。ああいうDIはレンジが少し狭くてミッドに寄っているから、ベースが行ってほしい場所にすぽっと入ってくれる。だからみんな使っていたんだと思います。ただ、最近は音楽自体のレンジもどんどん広がっているし、聴く環境もスピーカーだけではなくイヤホンが中心になってきているじゃないですか。楽曲のなかで低音が占めるエネルギーって、かなり大きいと思うんです。その上にギターや鍵盤、歌といった華やかな帯域のものが乗っている。だから下が安定していると、上はいくらでも華やかにできるし、下が伸びれば上も伸ばせる。逆に下がないのに上だけ伸ばしても、バランスが悪くなるんですよ。低域を伸ばして、しかもそこを安定させることの重要性は、すごく痛感しています。
ライヴでは、録音とはまた違って、チューブDIのような個性が強いものを使うことも多いです。SongBird DIT-1というDIがあって、ライヴでよく使っています。80年代に生産されてすぐに終わってしまったもので、今はデッドストックか中古でしか手に入らないんですけど、レンジが広くて、ムチッとした感じもあって好きですね。ライヴだと極端に低い帯域はカットされることも多いし、場合によっては『そこは要らない』と言われることもある。だからライヴでは、そこまで超低域にこだわるというより、中域の充実度を大事にしたいという感覚があります。
▼千ヶ崎の最新ライヴ機材はサンレコ5月号にも掲載▼
楽器によっては、スラップしても指弾きのときとロー感がまったく損なわれないものもあります。基本的に使用楽器はほぼヤマハかフェンダーなのですが、最近使い始めたShiorというベースがそうで、指弾きからスラップに変わっても音量感とロー感が減らないんです。そういう楽器だと、そもそもコンプがいらないということもあるんだなと思いました。アクティヴの楽器はずっと苦手だったんですけど、初めて気に入ったアクティヴ・ベースかもしれません。録ったあとの全体の安定感も全然違っていて、最近すごく驚いた楽器です。
今の自分にとって大事なのは、オープンな状態で、必要最小限にすることです。コンプは本当にエフェクティブなときだけ使いたい。クローズな感じになってしまうのが、今は少し違うんですよね。
コントラバスを弾くようになったことも関係しているかもしれません。今はエレキ・ベースも、ベースとアンプのセットでアコースティックな楽器として捉えているところがあります。アコースティックな楽器って、演奏するときにコンプをかけないじゃないですか。だから、できるだけオープンな状態で鳴らしたいんです。
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