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MUCCの最新アルバム『1997』は“90年代”というコンセプトのもと、メンバーそれぞれが影響を受けたさまざまなアーティストのオマージュを詰め込んだ一作となった。90年代初頭のヴィジュアル系や00年代初頭にシーンを席巻した洋楽のミクスチャー、90年代のJ-POPなどからの影響は“さもありなん”という印象だが、ザ・スミスやレディオヘッド、さらにキング・クリムゾンといった意外なアーティストのオマージュも披露していることは注目といえる。
また、オマージュといってもオリジナルを模倣するのではなく、現在のトレンドや自分達らしさを注入してMUCCの音楽に昇華していることも見逃せない。そして、今まで以上に表情を広げた楽曲に寄り添った、多彩かつハイ・クオリティなベースも本作の大きな聴きどころになっている。MUCCのベーシスト、YUKKEをキャッチして、『1997』の曲作りやベース・アプローチなどについて、じっくりと話を聞いた。
90’sは自分達が1番多感というか、音楽を聴き始めた中高生の頃にリアルタイムで聴いていたものなので、もう血肉になっている。
――『1997』はMUCCのメンバー皆さんが影響を受けた、さまざまなアーティストのオマージュを詰め込んだアルバムです。こういうアルバムを作ろうという話が出たときは、どんなことを思いましたか?
MUUCは、アルバム制作の前にテーマやコンセプトをメンバーで共有することは、あまりないんです。今回が初めてくらいだったんじゃないかな。だから、新鮮だったし、今回の“90年代”というコンセプトはすごくいいなと思いました。自分は70’sとか80’sとかはリアルに聴いていた世代ではないので、MUCCでそういう曲をやろうということになって、ちょっと聴いてみるという感じなんです。90’sは自分達が1番多感というか、音楽を聴き始めた中高生の頃にリアルタイムで聴いていたものなので、もう血肉になっている。だから、今回はイメージしやすかったです。
――『1997』はYUKKEさんが原曲を書かれた曲が2曲収録されていて、まず、「△(トライアングル)」はプログレッシブ・ロックの匂いがあって、なおかつYUKKEさんが作られた曲だということに驚きました。
みんな俺の曲だとは思わないですよね(笑)。これまでプログレの曲を書いてみようと思ったことは、なかったので。でも、この曲は、実は今回のコンセプトが決まってから書いた曲ではなくて、2年以上前に作った曲なんです。MUCCは2022年に『新世界』というアルバムを出したんですけど、そのときに自分なりに新世界な感じを出したくて作ったんだと思います。
俺はプログレとかはちゃんと聴いたことがなくて、キング・クリムゾンとか、ピンクフロイドの『狂気』(1973年)のアルバム・ジャケットとかを思い浮かべながら作業していました。そのときはバンドでやってみようということにはならなかったけど、今回過去のデモも掘り起こしてみたら合いそうだったので、改めてやってみようということになったんです。

――「△(トライアングル)」は変拍子が使われていたり、間奏がどんどん展開したりしますが、デモはどの程度まで作り込んだのでしょう?
一応、仮歌までは入れた状態でした。変拍子は、最初からありましたね。8分の10とか9が入り乱れる感じというか。難しい場所がアンサンブルとして“ビシッ”と合うのがすごく気持ちよくて、気に入っています。間奏はプログレらしいユニゾンから入ってギター・ソロがあって、その後ファンキーになって、ダンサブルになって……という構成になっていて、それは今回新たに足されたアレンジです。みんなで音を合わせながら、“ここはレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)で”とか言いながら作っていきました(笑)。だから、いきなりレッチリが出てくるという(笑)。
――ファンキーなセクションですね?
そう。そこはイントロ辺りとはテンポが違っていて、間奏はスラップしやすいテンポだけど、前半のテンポは“MUCCで、このテンポはやったことがないよね”と言いながら作っていて、すごく難しかった。あと、この曲は歌詞も自分で書いたんですけど、“全然プログレの歌詞じゃなくて、いいね”と言われました(笑)。自分のなかではサイケデリックだったり、あとはすごくカラフルなイメージがあって、そういう雰囲気で書いてみました。俺が曲と歌詞を両方書いたというのはMUCCではあまりないパターンで、今回はこういうものになりましたね。
「Round & Round」は90年代初頭のヴィジュアル系のオマージュで、“ザ・MUCC”だと思うし、今こういう曲ができるのはうちら世代ではMUCCかなというのがある。
――「△(トライアングル)」は、独自の魅力を備えたハイブリッド・ミュージックに仕上がっています。では、続いてもう1曲の「空っぽの未来」にいきましょう。こちらは煌びやかで、かつせつなさも香るナンバー。
これは今回書き下ろした曲ですが、もともとはバラードで作っていたんです。デモをみんなに聴かせたら、今回はバラードよりもポップなテイストの曲にしたほうがいいんじゃないかという話になり。そこで、サビは残させてもらって、リーダー(ミヤ/g)がサビを良く聴かせるようなAメロ、Bメロを考えて、今の形になりました。
――最初とは違うものになったようですが、“煌びやかかつせつない”というテイストはサビが最も色濃くて、元になったものが良質だったことが分かります。
ありがとうございます。自分でもバラードのときからサビはすごく気に入っていたし、けっこう自信があったので、そこを残して“サビありき”でアレンジしてもらえたので良かったです。そこに逹瑯の歌詞が乗ったことで、より印象が強くなったというのもあると思いますね。
――「△(トライアングル)」と「空っぽの未来」はまったくテイストが異なっていながら、どちらも良質というのはさすがです。では、本作の自作曲以外で、特に印象の強い曲をあげるとしたら?
どれも印象は強いけど、1曲挙げるなら「Round & Round」になりますね。この曲は90年代初頭のヴィジュアル系のオマージュで、“ザ・MUCC”だと思うし、今こういう曲ができるのはうちら世代ではMUCCかなというのがあるので。そういう意味で、特に印象が強いです。
――ミヤさんが「Round & Round」をライヴで演奏すると、お客さんがものすごく盛り上がるとおっしゃっていました。
盛り上がります。多分お客さんも俺らと同じ血が流れていて、世代が近いお客さんだと血が騒ぐんでしょうね(笑)。だって、まだ1回しかやっていないんですよ、ライヴで。しかも初出しで演奏して、だいぶ盛り上がったという(笑)。
「Round & Round」はベース・ソロがあるんですけど、ベース・ソロもめっちゃ盛り上がるんですよ。みんな曲を聴いたことがない状態なのに(笑)。この瞬発力は凄いなと思いました。あとは、この曲はできたのがけっこう早くて、今回のアルバムに入っていく導入として作業したので、オマージュというものに対して入りやすかった曲だったという印象もありますね。
――皆さんが楽しみながらアルバムを作られたことは、音から伝わってきます。それに、『1997』は90年代がコンセプトといっても昔の音楽を模倣するのではなく、MUCCの音楽で、なおかつ今の時代を感じさせるものに昇華していることが印象的です。
オマージュとしてその匂いのするフレーズとかを入れていたりするけど、全篇でそういうことをしているわけではなくて。当時の要素をどの程度出すのか、出さないのかということは1曲ごとに考えながら作業を進めていきました。なので、そのバランスは曲によって違っています。それに、今のトレンドだったり、MUCCがやってきたことのエッセンスを混ぜて曲にすることがおもしろいなと思ってやっているので、過去のものをそのまま再現するというのは違うんです。
――そのあたりはMUCCの真骨頂といえます。では、続いて『1997』のベース周りについて話しましょう。本作のベースを録るにあたって一貫して大事にしことや、こだわったことなどはありましたか?
今回はオマージュする曲だったり、フレーズだったりを、ベースでも匂わせたいなというのがあって。俺は、“自分は、このスタイルだ!”というのがちゃんと確立されていないというか、譲れないものがあるようなベーシストではないので、その曲が呼んでいるスタイルをいかに表現するかというのはありましたね。
“俺はピック弾きオンリーで、4弦で、パンクしかやらねぇぜ!”だったら、多分MUCCはできていないと思う。
――今作を聴いて、YUKKEさんのベーシストとしての幅広さを、改めて感じました。そういう意味では、“自分のスタイルがない”というとネガティブに感じるかもしれませんが、決してそんなことはなくて。むしろ、そうでなければMUCCはやれないのではと思います。
そうですよね。“俺はピック弾きオンリーで、4弦で、パンクしかやらねぇぜ!”だったら、多分MUCCはできていないと思う。今回もいろんなプレイだったり、楽器選びだったりをして、アルバムを作っているなという実感がありました。

――今作は、楽曲の振り幅が今まで以上に広がっていますからね。ベースに関しては、まずはそれぞれの楽曲のリズムの心地よさを増幅させるグルーブ・マイスターぶりが注目で、たとえば「蜻蛉と時計」や「Guilty Man」「愛の唄(2025 Remaster)」といった曲の16ノリのベースは絶妙です。
「Guilty Man」のサビとかは、すごく気持ちよく弾けましたね。「Guilty Man」はわりとMUCCでやってきたタイプの曲なので、得意かなと思います。
――YUKKEさんは8分ノリの曲などでも、常に16分音符を感じながら弾いている印象があります。
弾けているかどうかはわからないけど、そういう意識は持つようにしてます。それによって、グルーヴは変わってくるから。あと、「B&W」とか「△(トライアングル)」はダンス・ビートの上でオクターブ・フレーズを弾いている場所があるんですけど、今回はそういうプレイをしているのはそこだけで、意外と少なくて。なので、ちゃんと躍らせてあげるビートを出すということを意識しました。
――まさに、そういうリズムになっています。そして、16ノリ以外にも「B&W」や「Round & Round」のグルーヴィなプレイも心地いいです。
「B&W」とかは隙間がすごく多いので、隙間を気持ちよく聴かせられるようなベースにしたいなと思って。それで、音を止めた休符をどこまで伸ばすかを、気持ちよさでジャッジしたりしました。俺は、休符こそが気持ちよさのポイントだと思うんですよ。
――YUKKEさんは休符の長さが正確で、それが心地よさやラウンド感のあるグルーヴにつながっています。
休符を入れつつラウンドしていくというのは理想ですよね。でも、大変だなと思いながら弾いている部分もある。休符の間のちょっとしたノイズ……弦に触れてしまってノイズとかを出さないようにということを、去年あたりからすごく気にするようになったんです。
そこに雑音が混ざってしまうだけでグルーヴは大きく変わってしまって、そうすると冷めてしまうんですよ。しっかり休符を感じながら音を止めてあげると、次に音を鳴らしたときの爆発力みたいなものが大きくなるし。そんなふうに、最近は休符に対してよりシビアになっているというのはありますね。
――ベースを始めたばかりの方などは、ぜひ参考にしていただきたいです。さらに、グルーヴ面に加えて、「桜」や「invader(2025 Remaster)」、「Round & Round」などでは、フレージングで持っていくベースを聴くことができます。
「桜」は、俺はシンコペーションのサビが好きなので、それをどう気持ちよく弾けるかなと考えました。この曲を作っているときはアルバムの実質的な1曲目になると思っていなかったんですよ。それが1曲目で、しかもサビから始める曲なので、サビで動くベースを弾いてよかったなという気が、個人的にしています(笑)。
アルバムの1曲目のアタマからベースがグイグイ動くことは、あまりないじゃないですか。だから、その切り口が自分的にすごく新鮮で、気持ちが上がりました。この曲のサビをピック弾きのルートで“ダーダダダ・ダダダ・ダーダダッ”とやっていたら、このアルバムはそういうアルバムなのかなという印象を持つ人は多いと思うんですよ。『1997』の多彩さを予感させるという意味でも、気持ちいいベースを弾けたなと思ってます。
サンダーバードは昔から形が好きで気になってて、今回「空っぽの未来」をアレンジしていく辺りで昔のhideさんだったり、THE YELLOW MONKEYのイメージもあったんです。
――そう言われると、確かにそうですね。動くベースを作るときは、どんな風に構築していくのでしょう?
最近はスタジオで、なんとなく動きのドラマみたいなものを考えるところから入ることが多いですね。ここは4小節の折り返しでこう動いて、8小節目でこうだろう……みたいなものは作っておいて、あとは家で詰めるという感じです。
フレージングに関しては、歌が抜ける隙間ということを意識しています。歌が抜けたところでスッと出てきて、次の歌をよりおいしくしてあげたり、歌の抜け際を良く聴かせるとか。そういうことは、考えるようにしています。
俺の場合、歌のことを考えずにアプローチすると大事故ばかり起こすんですよ(笑)。どれだけカッコいいフレーズを弾いていても歌とぶつかったり、歌の邪魔をしてしまったら意味がないですよね。何度かそういう経験をして、いけるところで自然といくように育ちました。

――歌を生かすことを考えると、いい形で存在感を出すことができますよね。そして、「October(2025 Remaster)」の2番で聴けるハイ・ポジションを使ったメロウなフレージングなども魅力的です。
「October(2025 Remaster)」は完全に歌に寄り添ったベースですね。歌に寄り添うとローが薄くなってしまうので、そのパートのなかでも後半でちょっと支えつつ低音弦にいくという。そんなに音数も多くないので、歌が生きればいいなと思って、ああいうアプローチを採りました。あとは、サビだったりで低音弦にいくときまでの布石になればいいかなというのもありましたね。
――セクション単体ではなく、楽曲全体の流れを俯瞰で見ていることがわかります。続いて、今作で新たに導入された機材などはありましたか?
今回からギブソンのサンダーバードを使い始めました。「空っぽの未来」とか「△(トライアングル)」「October(2025 Remaster)」「蒼」で使って。すでにライヴでも「October」を演奏するときに使っています。
サンダーバードは昔から形が好きで気になっていて、今回「空っぽの未来」をアレンジしていく辺りで昔のhideさんだったり、THE YELLOW MONKEYのイメージもあったんです。それに、今回のアルバムを録るにあたって自分が気になっているベースをなにか1本買いたいなと思って、サンダーバードを弾いてみたら、すごく良かった。
プレベのときもそうだったけど、自分のスタンダードとしてサドウスキーとかワーウィックの音が耳にこびりついているので、ミックスした音源を聴いたときにそうじゃない音がバンドのアンサンブルのなかで聴こえてくるとすごく楽しいんです。“これ弾いてるの、俺!”っていう(笑)。楽器が変わるたびにそれがあって、そこで今回1番楽しませてもらったのがサンダーバードでした。
――その新鮮な感覚はよくわかりますし、「△(トライアングル)」をサンダーバードで弾くというのは超絶カッコいいです。
「△(トライアングル)」で使ったのはおもしろくて、曲中でスラップをしているんですけど、恐らくサンダーバードでスラップはしないですよね。
――しません(笑)。
ですよね(笑)。正直ちょっとスラップしづらかったりするんですけど、サンダーバードでスラップをすると“バキッ!”と出過ぎないんですよ。ちょうどいいところに収まってくれて、それがこの曲にすごく合う。それに、サンダーバードでスラップするというのがおもしろみだろうと思ったんですよね。

――サンダーバード様は、まさか自分がスラップで使われるとは夢にも思っていなかったと思います(笑)。さて、『1997』は非常に楽しめる一作に仕上がりました。リリースが待ち遠しいですし、同作を携えたツアーも必見といえます。
去年とかはずっと過去の作品を主体にしたツアーをしていて、アルバム・ツアーは久しぶりなんです。アルバム曲だけでセットリストを組めるくらい曲数もあるので、今度のツアーはガラッと変わるんじゃないかな。それに、ちょうど数日前からリハに入って、初めてみんなでアルバムの曲を合わせたんですけど、すごく感触がいいんですよ。
新しいMUCCを披露することになるので、去年までずっと観ていたお客さんにも楽しんでもらえると思うし、新しい人達にもすごく観てほしい。音楽に詳しい人にも観てもらって、楽しんでほしいですね。世代とかジャンルとかを超えて幅広い層の人が楽しめたら、それがいいアルバムだということだと思うので、それを証明するツアーにしたいと思っています。
▼機材紹介記事に続く▼

徳間ジャパン/TKCA-75271
通常盤

徳間ジャパン/TKCA-75270
初回限定盤(CD+Blu-ray)
◎Profile
YUKKE●11月5日生まれ、茨城県出身。高校1年でベースを始め、1997年から活動していたMUCCへ、幼馴染であるミヤ(g)の誘いで1999年に加入する。ヘヴィロックと歌謡曲の匂いをミックスした独特のサウンドでインディーズ・シーンにおいて確固たる地位を築き、2003年にメジャーへ進出。作品ごとにさまざまな音楽性を取り込みながら、国内はもとより海外でも人気を博す。2021年10月にSATOち(d)が脱退して3人体制となり、サポート・ドラマーを迎えた新体制で2022年6月9日にアルバム『新世界』を、結成25周年を迎えた2023年には『Timeless』を発表。2025年4月2日、バンド結成の年号をアルバム・タイトルに冠した通算17枚目のフル・アルバム『1997』をリリースした。
◎Information
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