NOTES
UP
ハーモニクスを使ってみよう(ハーモニクス 実践篇)【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第23回
- Text:Makoto Kawabe
ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は“ハーモニクス”について学びましょう!
はじめに
ベースは低音が魅力の楽器ではありますが、ときには高い音が出したくなることもあるでしょう。
標準的な20フレット仕様の4弦ベースであれば最低音はE1音、最高音はD♯4音(レギュラー・チューニング時)と約3オクターヴの音域を出すことができるわけですが、“ハーモニクス”を使えばフレット数や弦の本数に縛られることなくさらに高い音を出せますよ。
ハーモニクスについては当連載の第3回(チューニングを理解しよう)でも軽く触れましたが、ここで改めて、知っていると何かと役に立つハーモニクスを解説します。
ハーモニクスが鳴る原理については次回の後篇で詳しく解説するとして、今回の前篇ではハーモニクスを使った奏法をしっかりマスターしておきましょう。
ハーモニクスを鳴らしてみよう
まずはハーモニクスを鳴らしてみましょう。
1弦12フレットの真上で弦に触れ、ピッキングします。12フレットを押さえて弾いたときと同じ音程(開放弦の1オクターヴ上のG音)が出たら成功で、これが12フレットのハーモニクス音です。
12フレットを押弦した音(実音)はピッキング後に指を離すと音が途切れてしまいますが、ハーモニクスは弦に触れた左手の指先を離しても離さなくても音が鳴り続けます。弦に触れたままでなくても音が鳴り続けるのはハーモニクスのメリットのひとつです。
ハーモニクスがうまく鳴らない人は、弦を押さえていないか(“触れるだけ”が正解)、複数の指で触れていないか(触れる指先は“1本”で、“一ヵ所だけ”触れるのが正解)、正確に12フレットの真上で触れているか、確認しましょう。
パッシヴ・トーンは全開にし、ピッキング位置をブリッジ寄りにするとハーモニクス音が出しやすいです。また、複数のピックアップが搭載されている楽器の場合はブリッジ側のピックアップだけにするとハーモニクス音が聴こえやすくなります。
ハーモニクス・ポイントとピッチ
開放弦のハーモニクスは弦上のどこでも鳴るわけではなく弦長の整数分の一の位置のみであり、これをハーモニクス・ポイントと言います。
具体的には12フレット(弦長の半分)、7フレットと19フレット(弦長の1/3)、5フレットと24フレット(弦長の1/4)などとなります。
7フレットや5フレットのハーモニクスを鳴らすと、12フレットよりも高い音が鳴りますね。さらには4フレット近辺、3フレット近辺……などと弦端に近いハーモニクス・ポイントほど高い音が出せますが、音量が小さくハーモニクスを鳴らしにくい傾向があります。
後篇(次回)で詳しく解説しますが、ハーモニクスの正体は実音に含まれる倍音成分であり、ハーモニクス奏法は弦楽器の持続音のうち基音や低次の倍音を消し、高次倍音だけを残す奏法です。
ハーモニクス音は、弦長の1/2で2倍音、1/3で3倍音……などと、弦長に対して弦端からハーモニクス・ポイントまでの長さに反比例する倍音と、その倍数の倍音が残ります。
例えば弦長の1/2の位置は偶数倍音すべてのハーモニクス・ポイントを兼ねるので、2倍音の音量がいちばん大きいものの、すべての偶数倍音が残ります。高次倍音のハーモニクス・ポイントほど残留する倍音が少ないため音量が小さいとも言えますね。
また2、4、8倍音、つまり2のべき乗となるハーモニクス音は原音と同じ音名でオクターヴ関係にありますが、それ以外のハーモニクス音は実音とは異なる音名となり、平均律による正確なピッチともズレが生じます。特に5倍音と7倍音のハーモニクスはズレが大きく、ハーモニクス特有の憂いやニュアンスが出せる反面、メロディに活用する際などには注意が必要です。
ハーモニクスを活用しよう
理論上は高次倍音のハーモニクス・ポイントが無限にあるはずですが、実際にハーモニクス奏法で認識できるのはせいぜい15倍音くらい、音程として活用できるのは7倍音のハーモニクス・ポイントくらいまででしょう。
開放弦で鳴らすハーモニクスをナチュラル・ハーモニクスと言いますが、実音と同じ音程の12フレット、24フレットのハーモニクス・ポイントはともかく、それ以外のハーモニクス・ポイントは音程とフレットの位置関係がまったく異なるので覚えるのは大変ですよね。
音程とハーモニクス・ポイントの関係をいくつか整理しておきましょう。
- ・開放弦の音程に対して3倍音である7フレットのハーモニクス・ポイントは、1オクターヴ上の完全5度とほぼ同じであり、同じ3倍音の19フレット(7フレットの1オクターヴ上)のハーモニクス・ポイントは19フレットの実音とほぼ一致します。
- ・フレットレス・ベースやコントラバスではハイ・ポジションのフレット間隔が狭く音程が取りにくいため、ピッチの確認も兼ねて12、19、24フレットの音程を実音ではなくハーモニクスで演奏することも多いです。また、7フレットのハーモニクス・ポイントは一本下の弦の5フレットのハーモニクス・ポイント(完全4度下の2オクターヴ上)のピッチとかなり近いため、チューニングの目安として活用できることは以前にも書いたとおりです。
- ・5倍音は2オクターヴ上の長三度、4フレットの実音の2オクターヴ上に近い音程でピッチが危ういですが、その分だけハーモニクスらしさが強調されることもあり演奏に活用されることも多いです。5倍音は4フレット近辺だけでなく9、16、28フレット近辺でも同じハーモニクスが出せます。9フレット近辺だけ実音とオクターヴ関係にないのがおもしろいですね。
4弦ベースのナチュラル・ハーモニクスだけで音階を作るならば、Bマイナーであれば1オクターヴ分を並べることができるので、覚えておくと何かと便利かと思います。
これを使ってキーがDメジャーの「きらきら星」のメロディを弾いてみましょう。ハーモニクス特有の危うい音程感で儚い雰囲気が演出できますね。
ちなみにナチュラル・ハーモニクスは五線譜ではひし形の音符で表わされますが、タブ譜での表記はあまり統一されておらず、ひし形やカッコ書きのほか“harm.”と併記されることもあります。
まとめ
3フレットから5フレット近辺にあるナチュラル・ハーモニクスはとても綺麗な音色ですよね。この音色を最大限に引き出したベーシストのひとりとしてジャコ・パストリアスの名を挙げないわけにはいきません。「Portrait of Tracy(邦題:トレイシーの肖像)」は左手の大きなストレッチが必要で比較的難易度の高い楽曲ですが、イントロで聴けるナチュラル・ハーモニクスだけは難易度もそれほど高くないのでぜひ弾いてみてください。
●関連記事
■連載一覧はこちらから。
◎講師:河辺真
かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
Official HP